ようやく更新できたぁ〜( ̄▽ ̄)
みなさん、新年明けましておめでとうおめでとうございます!(もう明けてからだいぶ経ちますが……)
新年明けてからの初更新。
実は数日前まで風邪で寝込んでました( ̄▽ ̄)
年男なのに、厄年。
そして、新年明けてからの風邪ということで、なんだかマジで厄年を感じる日を味わいました。
みなさんも体には十分気をつけてくださいね?
それでは、今年もよろしくお願いします!!
新雪……というには、すこし濁りがある雪。
その白く冷たい結晶の塊が、空からどんどん降ってくる。
まぁ、空といっても、現実世界のように広大に広がる空があるわけでは無い。
この上には、今自分たちが立っている地面と同じ鋼鉄の層があるだけ……。
雪がどのようにして降っているのかは、その世界そのものを構築した者にしか仕組みはわからない。
街の温かな灯りだけが、灯っている中で、無骨な音が響き渡る。
鋼と鋼……鉄よりもなおも硬く、鋭く尖った刃を持った武器同士がぶつかり合っているのだ。
「アハハッ!」
「シッーーーー!!!!」
閃く双剣と妖刀。
力一杯に振るうキリト……しかし、斬り合うサチの腕力と強さに違和感を覚える。
「くっ……!?」
「軽いっ、軽いヨォーーキリトォォォッ!」
「チイッ!」
上段から振り下ろされた一撃。
ただそれだけで、地面が割れる。
しかも、妖刀の属性なのか斬りつけた箇所から冷気が溢れる。
キリトは一旦距離をとって、再び構え直した。
「はぁ……はぁ……」
「ウフフフッ……アッハハァ〜……!」
地面を割った刀を振り回す鬼……。
キリトは右手に握っている《アニール・ブレード》の切っ先を向けたまま、息を整えていた。
(なんなんだ……この力……? あの妖刀の副次効果なのか?)
本来ならばありえない膂力。
しかも過去のサチを知っているキリトからしてみれば、今目の前にいるサチの亡霊のパワーバランスはチグハグだ。
肉体の構造からして、あり得ない動き……しかもかつてのサチが使っていた武器は両手用の長槍だった。
キリトが月夜の黒猫団に加入した時には、パーティーのバランスを重視するために、一度盾持ちの片手剣を練習していたが、それでも最後は長槍に戻した。
ならば、そこで考えられる疑問……片手剣もわずかしか練習しておらず、長年槍のスキルだけで戦ってきたサチが、どうやって刀での戦い方を身につけたのか……?
それでこそ、チートを使って無理やり覚えさせたような感じだ……。
ならば、今のキリトを圧倒するほどの膂力にも納得がいく。
(完全な外部からの力提供…………チートやツールアシストをつかっているのか……)
そもそもどうやってサチのアバターのデータを読み取って、再現しているのかがわからない上に、こんな無茶な改変ができるとしたら、なんらかのチートが使われていると思っていい筈だ……。
これが誰の仕業で、なんの目的があってこういうことをするのかは知らないが、ただ一つ言えることは、この事件を引き起こしたのが、とある人物ではないと確信したということだけだ。
「ならこれは、ヒースクリフが起こしたものじゃないってことだな…………」
初めは、その可能性も疑ってはいた。
いくら生身の体がなく、仮想世界に自分の意識を移行したとは言え、そこから何もできないというわけではないのではないかと考えていた。
むしろ、仮想世界の中で生きているということは、その中から電子系統のものに侵入することだって難しくはない。
だからこそ、初めはヒースクリフ………いや、その本体である茅場 晶彦の仕業ではないかと思った……。
しかし、それは無いと、今なら確信を持って言える……。
何故なら……
(この世界は、フェアじゃない…………ッ!!!!)
そう、あの世界……アインクラッドの世界での生活において感じていたこと……それは、あの世界はどういうわけか、フェアネスを貫いていた……。
突然始まったデスゲームの事で、最初は意識なんてしたことはなかったのだが、改めて感じてみると、実に公平な世界観だったと思う。
それ故に、武器や防具、アイテムも然り、ダンジョンなどのステージに関することに至るまで公平を貫いていたかに思える。
しかし、目の前にいる存在は、明らかに『公平』という言葉から度が過ぎている。
「こんなやつ相手に、どうやって勝てっていうのかなぁ……」
装備レベルは中層域のプレイヤー並、相手は最高級のレジェンダリー級の装備。
戦闘熟練度はキリトの方が上回っているが、それも驚異的な身体能力を誇る異形の前には、ないに等しい。
ましてや、キリトはサチの持っている武器の詳細なデータを知らない。
わかっているのは、《氷刀・魔鉄》という妖刀の名前と、確認できるだけの能力。
名前の通り、氷を操る能力があるということと、使用者をなんらかの
バーサークモードへと変貌させるという能力。
考えれば考えるほどSAOでは存在してなかった武器……。
今や《ザ・シード》を用いたことにより、仮想世界は無限に広がり続けている。
さらには、かつてできなかったコンバートシステムも適用されている……ならば、ステータスだけを維持したプレイヤーデータではなく、別の仮想世界にあるゲームの武器を持ってくる事も可能なのではないだろうか……?
「別の世界の武器なのかっ、それは……っ?!」
「エヘヘッ……!」
今や何を話しかけても無駄のように思える相手に対して問いかけるキリト。
しかし当のサチは、ただ不気味な笑みを浮かべているだけだ。
「ねぇ〜え〜、キリトォ〜」
「…………」
「今の世界は楽しイ?」
「っ…………」
「私ノいなイ世界……存在シナイ世界で、キリトは楽しイィ〜? エヘヘ……!」
「…………正直、楽しいよ」
「………………」
「でも、時々辛くなってくる時がある……。みんなの顔を思い出すんだ……ケイタ、テツオ、ササマル、ダッカー……そしてサチ……君のことを思い出すたびに、楽しい時間から、一気に現実に戻ってしまう」
「エヘヘェ〜……そっかぁ〜、キリトの中には、まだ私がいるんダネェ〜」
「あぁ……でも、それはお前じゃない」
「…………?」
「お前のように、奇怪で、おぞましい姿をした奴なんて、あの中にはいなかった……お前はただの、俺の深層意識の中から出てきた偽物でしかないっ……!」
「アッハハッ……! ニセモノ? そんなの当然だヨォ〜……誰も本当の私なんて知らないんだモン……じゃあ、本物のワタシってなぁ〜にぃ?」
「っ…………!!」
「ホラァ〜。キリトも知らないでしょうぉ〜? 本当のワタシわねぇ〜、えっとねぇ〜…………アレ? なんだっけ??」
その姿に、キリトは恐怖さえ感じた。
まだ先ほど斬りむすんでいた時の姿の方が、しっくり来ていた。
だが今の姿は、何者でもないが故に、おぞましく感じてしまうのだ。
サチであって、サチではない何か……では、その何かとはなんなのか……? それすらもわからない。
「ワタシは……サチ……あれ? 《シュタイナー》? 誰だっけそれ? アレ? どっちだっけぇ〜?
ねぇ、キリトォ〜……ワタシって、なんだっけぇ??」
「っ……もういい! やめろっ……! それ以上っ、その顔で、その声で喋るなっ!」
「えぇ〜?」
「ッーーーー!!!!!!」
キリトは地面を蹴り、一気にサチへと肉薄した。
そこから最短距離で剣先を放つ刺突を繰り出す。
だが、サチはこれを半身を引いて躱す。
「アッハハハっ! せっかちだなぁ〜キリトは〜♪」
「チイッ!」
右手の《アニール・ブレード》で放った刺突。
これを躱されたので、左手に持つ《クイーンズナイト・ソード》で下段から切り上げる。
しかし、これは妖刀によって阻まれた。
だが、キリトの攻撃はまだまだ終わらない。
今度はアニールで袈裟斬り、その次はクイーンズを横薙ぎに一閃し、返す刃で切り上げ、最後に再びアニールで袈裟斬りを繰り出す。
「アハハハッ!!? 凄いっ、早くて全部は見えないヨォ〜!」
そう言いながら驚嘆しているサチだが、よくよく見れば、斬撃の一つ一つを妖刀で防ぎ、あるいは身につけている鎧で受け流している。
たしかに目では追い切れていないのだろうが、体がキリトの剣速に反応しているのは確かだ。
「ならっ、これでっーーーー!!!」
「エェエエイッ!」
「フッ!」
全力でサチに向かって駆け出すキリト。
サチはそれを迎撃しようと、力一杯に刀を横薙ぎに振り切った。
しかし、その刀がキリトを捉えることはなく、咄嗟にキリトは、自身の右脚を曲げ、野球のスライディングの要領で斬撃を躱し、ガラ空きになった背中に、ソードスキル無しで《エンド・リボルバー》を叩き込んだ。
鋭い剣閃二閃が決まった。
ここに来て、初めてまともな斬撃が入った……。サチの身につけている武者鎧が傷つき、斬撃のエフェクトが表示される。
「っ……!!!」
「はぁ……はぁ……!」
キリトは距離を取って構えた。
しかしサチは、その場に立ち止まったままで、微動だにしない。
「……………………痛いなぁ……キリト」
「ッーーーー!!!??」
たった一言……。
その一言で、キリトの全身から鳥肌が立ち、冷や汗が吹き出た。
心なしか、周りの景色が、さらに薄暗くなったようにも感じた。
(なんだっ……この違和感っ……?!)
急激に辺りが寒くなった。
雪が降っているせいではない……これは、サチから放たれた殺気だ。
「痛イナァ〜、キリト……ヒドイヨ……ドウシテコンナコトスルノォ……??」
「な、なんなんだ……っ、おまえは……っ?!」
こちらに視線を向けたサチ。
しかし、そこにはもう、サチの形すらなかった。
「ヒッーーーー!!!!!????」
全身が竦みあがるような恐怖。
虚ろな瞳……それが血の赤に染まっていき、やがて血の涙が頬を伝ってこぼれ落ちていく。
もはや視線はキリトを捉えておらず、夢遊病のような足取りでキリトに近づいてくる。
「くっーーーー」
「ッーーーー!!!」
「っ、なっ?!」
警戒は最大限に行なっていた……。
一部の隙も見せず、いつでも迎撃できる体勢も整えていた。
なのに……。
(いつの間にっ…………!!!!???)
2メートル以上は離れていた間合いを、いつの間にか縮めて肉薄していたのだ。
屈めた体。
腰だめに構えている刀。
キリトは咄嗟に双剣をクロスさせて構えた。
その瞬間、とてつもない衝撃が襲った。
「シャアァァァァーーーー!!!!!!!」
「ぐおっ!!!??」
たった一刀。
振り切った一閃だけで、キリトの体はいとも簡単に簡単に吹き飛んだ。
冷たく雪が降り注いだ路上を転がり、最後には建物に衝突した。
「がはぁっ!!?」
あまりの衝撃に、体が追いつかなかった。
背中を強打し、肺の中の空気が全て、一気に吐き出されるような感覚。
キリトはなんとか息を整え、その場に立つが、次の瞬間……再び目の前にサチの姿があった。
「なっーーーーごおっ!!!?」
異常な身体能力。
また一瞬のうちに間合いを詰められ、今度は腹部に右脚で蹴りを入れられた。
街角にある雑貨の路上販売店に吹き飛ばされる。
屋台は木っ端微塵に破壊され、飾ってあった雑貨の類は衝撃で散乱する。
「ぐっ……ぁあっ…………!!」
悶絶するキリト。
なんとか意識を保っているだけでも奇跡だ。
未だも飛びそうな意識をしっかりと持ったまま、キリトはこちらを見ているサチに視線をつけた。
(なんだよ……っ、あの異常な身体能力はっ……!!?)
チートなんてレベルで片付けていいものではない。
戦闘レベルでは、キリトを遥かに凌いでいると思える。
それに、サチの見た目そのものが変化している事にも気づいた。
幻覚のように見えていた二本の鬼の角だが、それが本当に頭頂部から生えていた。
そして、黒く艶やかだった髪色も、今は見る影もなく真っ白になり、本来ショートカットだった長さも、背中に届きつつある長さに変わっていた。
その姿はまるで、般若のような姿だった。
「ぐうぅっ……ぉぉおおっ……!!!」
両手に握る双剣を強く握りしめて、キリトはようやく立ち上がった。
荒く呼吸をしているが、それをどうにか整えて、サチと再び対峙する。
サチは先ほどまでとは打って変わり、何も喋らなくなった。
ただ、虚無の瞳で、キリトを見つめてくるだけ……。
「ッーーーー!!!」
「くっーーーー!!!」
再び、サチはキリトに向かって肉薄する。
正直三度目となると、流石に捉えることはできるが、問題はその後から来る斬撃。
上段から振り下ろした一刀。
キリトはそれを受け切ろうと考えていた。
しかし、いきなりそれをやめて、右に跳ぶようにして躱した。
が、それでよかったのだ……。
サチが振り切った刀……その衝撃で、キリトが立っていた場所から後ろ一直線の場所を、凄まじい冷気と巨大な氷柱が発生し、後方にあった建物をいとも簡単に破壊した。
「なんっーーーー!!?」
「シッっ!!」
「ぐおっ!?」
横に跳んでいたお陰で直撃は避けたが、その威力に度肝を抜かれるキリト。
しかし、サチはそんなリアクションすらさせる気は無いらしい。
横薙ぎに一閃し、キリトは再び双剣をクロスさせて受ける。
先ほどの氷柱を発生させはしなかったものの、腕力は健在だ。
キリトは先の事を考えて、十分な姿勢で受けていたため、吹き飛ばされることはなかったものの、あまりの衝撃に両手が痺れるような感覚に陥った。
「くそっ、なんなんだよこいつはっ!!」
「シャアァァッ!!」
「セェアァァァっ!!!!」
再び斬りかかろうとするサチに対して、キリトも反撃する。
刀一本で戦う相手と剣を交えるのは、これが初めてではないが、それでも、クラインとも、チナツとも違う剣技に、キリトも中々攻めきれない。
力ずくで振り切るサチの剣、反応速度と怒涛の剣技を繰り出すキリトの剣。
その無骨なる鉄の響きが、一層強くなっていく。
「チッ……アアアアッーーーー!!!」
「キィエエアアアアーーーーッ!!!!」
まるで奇声のような声を上げる両者。
銀色に輝く双剣と、禍々しいオーラを纏う妖刀……双方が素早く空を斬り、激しい火花と体の奥底に響くような重厚な音を掻き鳴らす。
「セヤァァァァーーーーッ!!!!」
全身を使っての回転斬り。
それも両方の剣で行う。
キリトの剣は、速いだけではなく、重さもある。
武器は中層域の物と、下層の物を使ってはいるものの、そのどちらもかつてはキリトの愛剣だった武器だ。
それを巧みに扱い、レジェンダリー級の武具にも対応し始めた。
(行けるッーーーー!!!!)
手数とスピードならばこちらに軍配があがる。
キリトは好機と見て、サチに果敢に攻めていく。
突如豹変した時のサチの動きには驚かされたが、慣れてしまえばこちらが優位だ。
無数に駆り出される剣撃。
もはや防戦一方になりかけていたサチ……だが、一瞬だけ……サチの目がキリトを捉えた。
「ーーーーーーーーウザイ」
「っーーーー!!!???」
銀氷一閃。
鋭く、そして素早く放たれたサチの一撃。
キリトは咄嗟に剣をクロスさせて防いだ……だが、それだけでは不十分だと言わんばかりに、強烈な吹雪がキリトを直撃した。
「くうっ?!」
斬撃と共に吹雪が吹き荒れる。
攻撃自体は防ぐことには成功したが、猛烈な吹雪に、キリトの体はまたしてもサチから離されてしまった。
「チィッ、なんだっ……!?」
飛ばされながらも、体勢を整えて着地するキリト。
突然の攻撃に驚きながら、視線をサチに向けた。
するとそこには、さらに異形の姿へと変貌を遂げたサチの姿があった。
「うぅぅっ…………!!!」
「っ……!!?」
両手両脚……まるで氷の鎧を纏っているかのように、体に氷が覆っていく。
そして、今まで冷気を放っていた妖刀も、さらに妖しい雰囲気を増していく。
「オオオオオォォォォォォッーーーー!!!!!!」
「ッーーーーー!!!???」
もはや、人のものとは思えない奇声……いや、咆哮と言うべきだろうか……。
今までに人型のモンスターはSAO内にもいたし、ALOにだっていた。
しかし、それはあくまで、人の形をした何かか、モンスターが人に化けて誘き寄せたりたどがあった程度で、人そのものがモンスターになったことなんてなかった。
まして目の前にいるサチは、過去のSAOに残って、消されたはずなデータの集合体に、キリトの深層意識から読み取った感情や記憶が入っているだけに過ぎない存在だ。
それが、完全なるモンスターに変わると思うだろうか……。
「何が起きているんだ……?」
「ガルルル……っ!!」
目の前の怪物から発せられるプレッシャー……。
この感覚は、かつて感じた覚えがある。
そう、SAOの舞台であるアインクラッド内に存在していた、100体のフロアボス……階層主とも呼べる各層の最強のモンスター達と同じものだ。
「なっ……!!?」
「ヌウアアアアアーーーーッ!!!!」
こちらに向け駆け出してくる怪物。
キリトもそれを迎え撃つべく、双剣を構えて駆け出した。
「フッハアァァァッ!!!!」
「はあああッ!!!!」
上段から振り下ろされる一刀。
キリトはそれを右手の《アニール・ブレード》で弾き、左の《クイーズナイト・ソード》で斬り裂こうとした……しかし……。
ーーーーパリパリッ…………!!!
「なにっ?!!」
《アニール・ブレード》が妖刀に触れた途端、刀身全てが凍りついてしまったのだ。
妖刀は怪しげな光を放ちながら、脇構えの状態で横薙ぎに一閃。
キリトは咄嗟に双剣をクロスさせて受け止めた……。
ーーーーバッキャアアアンッ!!!!
「ぐっ……!!?」
斬撃自体は防いだ……が、しかし……凍りついていた《アニール・ブレード》は完全に粉々に砕け散ってしまった。
「ぁ…………」
柄だけとなった《アニール・ブレード》に視線を向けるキリト。
相手の力量も、能力も、侮っていたわけではない。
だがその能力が、キリトの予想をはるかに超えていたのだ……。
「なんだっ、その能力はっ!?」
「フハッハッハッハァーーーー!!!!!!」
「くっ!!?」
二度三度と妖刀が振るわれる。
だが、今度は安易に受けられない。
何故なら、またして《アニール・ブレード》のように粉々になってしまうからだ。
「くそっ!」
「シャアァァァッ!!!!」
「ッーーーーー!!!」
離したはずの間合い。
しかし、またしても一瞬にして間合いを詰めてきた。
そして、大きく振りかぶった妖刀を、サチは思いっきり振り下ろした。
「ヌアァァァッ!!!!」
「がはっ!!!??」
咄嗟に防御体勢を取ってしまったが、それすらも悪手。
手にしていた《クイーズナイト・ソード》もまた、《アニール・ブレード》同様凍りつき、粉々に消し飛んでしまった。
キリトの体は、その剣圧に吹き飛ばされ、冷たい地面に打ち付けられた。
「ぐっ……! ぁあ……っ!?」
圧倒的な戦力差……。
もう武器もない……このまま、終わってしまうのか……そんな考えがキリトの頭によぎった。
しかし……。
ーーーーキリトくん
「っ!!!!」
この場にいなくとも、彼女の声を覚えている。
最愛の人の顔……声……そして、笑っている表情まで……。
(そうだ……まだ、やられるわけには……!)
打ちのめされた体に力を振り絞って起き上がらせる。
負けてたまるか……そんな感情がひしひしと伝わってくる表情。
キリトのそんな表情に、化け物と化したサチも、少々狼狽した。
「…………シブトイナァ……キリト、ドウシテ、ソウ、マデシテ、タチアガレル?」
途切れ途切れではあるが、サチはそうキリトに問う。
そしてキリトは、ようやく立ち上がると、サチの問いに答えた。
「そんな事っ……分かりきってるだろっ……!! 俺は、負けられないんだ……こんな所でくたばるわけにはいかないっ!
俺を待っている人がいるっ……だから、こんなところで、お前みたいな奴にっ、負けるわけにはいかないだよッ!!!!」
心からの叫び。
キリトがずっと抱いてきた思い。
明日奈と出会い、心を通わせ、愛し合った。
そんな時に改めて思い知った。
失いたくない……また、離れたくはない……と。
そしてそれは、明日奈だけではない。一夏、刀奈、そのほかにもリズ、シリカ、クライン、エギル……SAOで出会った仲間たちに、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪……IS学園で出会った仲間たち。
そのほかにも、ALOで知り合った沢山の人達がいる。
そんな人達との縁……それをここで、断ち切ることなんて、絶対にできない。
「フーン……ソウナンダ……」
キリトの返答に、サチは虚無の瞳で見つめながらそう言った。
「ヤハリ、貴様タチも同類カ……」
「っ?!」
いきなり、口調が変わった。
サチ自身の言葉ではない……別の誰かの言葉だった。
「我ハ貴様タチガ憎イ……っ、ソウヤッテ綺麗事ヲ並べ直グニ裏切ル貴様タチが……!!」
「何を言って……お前は一体、誰なんだ……っ!!」
「我ガ名は《シュタイナー》……貴様ラ偽善者ヲ恨ミシ亡霊……」
「シュタイナー……だって……?」
サチではないのか……?
だが、そんなキャラクターやプレイヤーネームに心当たりはない。
ボスモンスターにも、そんな名前のモンスターはいなかったはずだ。
では、一体誰……いや、何者なのだろうか……?
「我、コノ一刀ニテ全テヲ虚空へ返サン……ッ!!!!」
「っ!!!?」
サチ……いや、シュタイナーが、こちらに向けて駆け出してきた。
躱す術は、ほぼない。
防御もできない……ましてや攻撃なんて以ての外……。
万事休す……そう思った時だった。
「フンッーーーー!!!!」
「っ!!!?」
振り下ろされた一刀を、目の前に現れた人影が遮った。
ガキィィンと、甲高い音が鳴り響き、その場にこだまする。
その人影をまた瞬間、キリトは呆然とした。
真紅に染まっている全身の騎士甲冑。
白いマントは、まるでヒーローのような感じだった。
そして、特徴的である大きな十字形の盾を左手に持ち、右手には、十字形の片手剣が握られている。
その格好、その武具を持っている人物は、キリトが知りうる中では、たった一人しかいない。
「お前は……!!」
「やぁ、キリトくん。久しぶりだ…………しかし君らしくもない。この程度で終わるような君ではないだろう……!」
灰色の髪が紳士的な具合にセットされた壮年の男性。
不敵な笑みを浮かべながら、その人物はキリトに視線を移した。
「ヒース……クリフ……?!」
「驚くのも無理はないだろうな……だが、今はそんな事に構っていられる状況ではないのでね……。
君は、そこで休んでいるといい……」
「お、おい……!!?」
「心配せずとも、このアバターは、SAO当時のものを流用して作ったものだ。
目の前の敵相手でも、十分に渡り合えるだろう」
それだけ言って、ヒースクリフはシュタイナーに向けて駆け出した。
鉄壁の防御力を誇る最硬のスキル……SAOで初めて発見されたユニークスキル《神聖剣》。
その盾が、シュタイナーの攻撃を容易く弾き、または跳ね返す。
「ふんッ!」
「ヌウッ!?」
攻撃を完全に受け切り、お返しとばかりに袈裟斬り気味に剣を振るう。
その剣を、シュタイナーは紙一重躱しきれず、鎧に受けてしまった。
「ナンダ……貴様ハ……」
「ほう? 自己紹介をしたほうが良かったのかな? ならばあえて言わせてもらおうか……」
ヒースクリフは盾を前面に構えて、戦闘態勢に入った状態で名乗った。
「私はヒースクリフと言う……かつてこの世界を作った、神さまみたいなものかな?」
「ヌウ……」
「ふふん」と笑うヒースクリフ。
おそらくは冗談のつもりで言ったのだろうが、あながち間違いではない。
ヒースクリフ……もとい、その正体である茅場 晶彦は、超がつくほどの天才プログラマーだったのだ。
かつてはキリトも、彼の技術力に魅入られ、尊敬していた。
それが二年前のあの事件をきっかけに、そんな感情すら忘れていたのだが……。
「……神……カ」
「まぁ、今はそんな奇跡みたいなことが出来るわけではないがね……だが、君のような存在に負けるほど弱ってはいないつもりだよ……!」
「ホウ? オモシロイ……っ、ナラバ貴様ノソノ盾、バラバラニシテクレヨウッ!!!」
「出来るものなら是非に……と言いたいね。キリトくんですら斬れなかったこの盾……君のその刀はどこまで傷つけられるのかな……?」
「フンッーーーー!!!!!!」
「ッーーーー!!!!!!」
二人の姿が一瞬にして見えなくなった。
しかし、その後すぐに凄まじい衝撃とともに二人の姿を確認する。
氷で覆われた妖刀を振り切るシュタイナーと、その攻撃を完璧に受け切るヒースクリフ。
その光景を、キリトはただただ見守ることしか出来ずにいた……。
(キリトくんっ、カタナちゃんっ……みんなっ、無事だよねっ……!?)
一方、海に向かって突出したように建設られているIS学園に向かって、高速で接近してくる機影が一つ……。
それも、従来のISのスピードを軽く上回るほどの速さで接近してきている。
新たに生まれ変わり、大型のイオンブースターを展開させ、戦闘機よろしく一直線に飛んでいく機影を操っている少女。
京都にて《亡国機業》のメンバーの一人であるレーナと戦ってきた明日奈の姿がそこにはあった。
京都の実家に帰って来るように親から連絡があり、その通りに帰ってきたかと思えば、無理矢理過ぎるお見合いの席を設けられて、うんざりしていた。
そんな時に、愛娘であるユイからの連絡が入り、IS学園が何者かに襲撃されていることと、最愛の人である和人と、親友の刀奈が、敵の罠にはまってしまった事を知り、急いで戻ってきた。
その最中に、先ほど述べた《亡国機業》のメンバーであるレーナと戦闘を行い、専用機《閃華》は、『形態変化』を行い《閃姫》へと生まれ変わったのだ。
「IS学園まで、残り1キロもないか……ブースターオフ」
明日奈はイオンブースターの稼働を止め、通常の飛行速度に戻した。
和歌山の海沿いから、IS学園までをただ単に一直線に飛んできたため、戻って来るのにそう時間はかからなかったが、それにしても “速すぎる” のだ。
本来ならば、もっと時間がかかってもいいのだが、倍以上のスピードで飛んできているため、思った以上に到着するのが早かった。
「IS学園は……一体どうなったんだろう……」
娘のユイの話によれば、専用機持ちたちも迎撃に出て行ったとの事……みんなが早々にやられるわけは無いと思ってはいるが、少々心配になってきた。
と、そんな時……《閃姫》宛に通信が入った。
『明日奈さんっ?! 明日奈さんなんですかっ?!』
「その声っ……シャルロットちゃん?!」
通信越しに聞こえてきた声は、先のタッグマッチトーナメントで共に戦ったシャルだった。
おそらく、彼女の乗る専用機の索敵センサーに、明日奈の《閃姫》が反応したのだろう……。
『良かったっ、戻ってきてくれたんですね! でも、その機体は……』
「あ、うん。それはまた後でちゃんと説明するよ。それで
学園の方はどうなのっ?! キリトくんはっ?! キリトくんとカタナちゃんは無事なのっ!?」
少々焦りも入っていたのか、まるで問いただしているかのような口調でシャルに迫った質問をする明日奈。
シャルはそれに圧倒されつつも、なんとか気を取り直して、今の現状を明日奈に伝えた。
『今のところ学園への被害は最小限に抑えてあります。僕たち専用機持ちも、迎撃に出た三年生、二年生のみなさんも軽いケガはしましたけど、命に別状はありません。
あと、和人さんと楯無さんの事は、まだ詳しくは分かっていませんが、さっき一夏が帰ってきて、楯無さんの救出に向かったとだけ、ユイちゃんには聞きました……!』
「っ……チナツくんも戻ってきていたのね……! わかった、私ももうすぐ戻れるから、キリトくんたちがどこにいるかはわかる?」
『えっと…………簪からの情報だと、地下区画の一つに、電脳ダイブをすることができる部屋があるみたいで、和人さんと楯無さん、それから、二人を助けるためにダイブした一夏も、そこにいるそうです……!』
「わかったわ……ありがとう、シャルロットちゃん」
『はい、じゃあ、気をつけてくださいね』
「うん、ありがとう……!」
シャルらしい優しい気遣いだ。
明日奈はIS学園に到着すると同時に、シャルから送ってもらっていた地下区画の地図を見て、ダイブルームへと目指した。
「待っててねっ、キリトくん……ッ!!」
ようやく全員の帰還が叶った今現在。
だがダイブ先では、さらなる戦場が待っている事を、この時の明日奈は、知る由もなかった。
今回は今までチナツとカタナサイドでの話を、一度キリトサイドに持ってきた話でした。
この後も、もしかしたらキリトサイドの話から始めて、それが終わったら、チナツ、カタナサイドに戻るかもしれません。
ストーリー構成をどうしようかなぁ〜と悩んでおります( ̄▽ ̄)
なるべく早く更新できるように頑張りますので、よろしくお願いします(^^)
感想よろしくでーす(^ν^)