ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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久しぶりの更新( ̄∇ ̄)

皆さんは覚えてくれてたでしょうか?
更新が遅くなって、ほんと、申し訳ありません(><)





第103話 白雪姫の世界Ⅳ

「と、言うわけで、用心棒として雇った一夏くんでーす。みんな、存分にこき使ってやってね?」

 

「自己紹介から随分と飛ばしてくれるなぁ〜………」

 

 

 

反政府勢力《ダイヤモンドダスト・リベレーター》アジト。

そこは、深い森の奥……大きな洞窟の中にあった。

中を調べて見たところ、そこは半自然的な構造になっていた。

人の手で切り拓かれた道と、自然のまま残っている壁。

人工的に作られた区画と、自然のままに再利用されている区画の二つが存在しているわけだ。

そんな洞窟内の大広間に集められた、たくさんの美少女たち。

その中には、多くの見知った顔があった。

先ほど一夏に襲いかかってきたホウキを始め、シズネ、ユコ、キヨカ、ホンネ。

その隣には………。

 

 

 

 

(やっぱりというべきか、何というか……だな)

 

 

 

 

金髪の長い髪。その毛先はクルクルとロールしている。

俗に言う縦ロールの髪。そして、貴族たらしめる気品を兼ね備えた少女。蒼穹のような蒼い瞳が特徴だ。

 

 

 

(セシリア……この世界は、やっぱりカタナの心象を形作っていると言うことなのか?)

 

 

 

続いて、そのセシリアの隣にいる少女へと目を向ける。

茶髪の髪をサイドに括っている。

コアな男子ならば喜ぶ髪型であるツインテールだ。

緑色の瞳と、野性味溢れる雰囲気、そしてそれを象徴するような八重歯。

ホウキに引き続き、彼女も登場ということになる。

 

 

 

(鈴まで……しかも、なんか箒と同じ視線を感じるんだが……)

 

 

 

昔の……まだ転校したてで、周りのクラスメイトとうまく馴染めていなかった頃のような目をして一夏を見てくる。

今の彼女とは、もうそんなことがなかったため、箒に引き続き、中々心にグサリとくる。

 

 

(箒と鈴は……まぁ、あいつらの事だから、警戒心剥き出しにくるのは当たり前か……)

 

 

そう心で思いながら、一夏はさらにその隣、金髪の髪を後ろで一本に束ねている少女。

優しげな雰囲気を纏い、紫色の瞳は、箒や鈴たちのように鋭く睨むわけではなく、ただ戸惑いの色を見せていた。

 

 

(シャルは……比較的接しやすそうだけど……。そういう内面的なのも、カタナの心象を利用しているのか?)

 

 

 

一応、カタナとは話せているし、まだ警戒はされているだろうが、無下に突っぱねられることはないだろう。

しかし一夏も忘れていたが、その隣からは、箒や鈴に負けず劣らず……というか、明らかに殺気のこもった視線を向けてくる者が……。

 

 

 

(ラウラはどの世界でもラウラのままってわけか……しかし、そんな殺気立つなよなぁ……)

 

 

 

銀髪の長い髪を、そのままストレートに伸ばしている少女。

一番の特徴は、左眼を隠すように黒い眼帯をつけている。

唯一見える右眼は、赤い色をしております。

その眼光は鋭く、触れれば切れるナイフを彷彿とさせる。

 

 

 

(うーん……俺たちと出会う前のラウラだな)

 

 

 

姉である千冬を崇拝し、尊敬し、理想としている。

それは今でも変わらないのだが、昔のラウラは側から見ると強烈な印象を得ていただろう。

そしてその隣では、怯えと忌避の視線を向けて、おどおどとする水色髪の短髪少女。

この中で唯一メガネをかけている、内気そうな少女。

 

 

 

(ううっ……何気に、簪の対応が意外と傷つくな……)

 

 

 

本来ならば、彼女は白雪姫として存在している刀奈の妹に当たるのだが、この世界ではどのような立ち位置なのだろうか?

水色の髪に、癖っ毛、真紅の瞳までは同じなのだが、メガネをかけているのと、その癖っ毛が刀奈は外側に、簪は内側に入っているのが特徴とも言える。

仲良し姉妹の関係は、このオリジナル感満載のこの世界において、どのようなものになっているのか……?

 

 

 

 

「ほら、突っ立ってないで、自己紹介くらいしたら?」

 

「あ、あぁ……」

 

「その、一夏だ。みんなと敵対する意思は、微塵もないから、その、どうか怖がらないでほしい……。よ、よろしく頼む?」

 

「なんで疑問形なのよ?」

 

「いや、なんか……すまん」

 

「はぁ……まぁいいわ」

 

 

 

一夏に向けていた視線をその場に集まる女の子たちに向け、改めて刀奈は宣言する。

 

 

「みんなっ! もう知ってるとは思うけど、そろそろあのバカ女王の政策に疑念を抱き、国民が不安になっている頃合いよ。

この機に乗じて、私たちも動くわっ……! あのバカ女王は、自分の美に対する執着が強いことで、あなたたちを阻害し、私も殺されかけた……。

この国を改変させるためにっ、みんなっ! 頼んだわよ!!」

 

「「「「「はいっ!!!!」」」」」

 

 

 

 

なんとも統率の取れた集団なのだろうか。

いや、それほどまでに、女王への怨み妬みがあるのだろう。

この白雪姫の世界で、一国の主である女王の美への執着は異常なものだ。

自分が世界一の美女の座に君臨するためには、たとえ娘である白雪姫ですら殺してしまうほどに……。

 

 

 

 

(だからまぁ、ここにいる子たちがみんな、女王に対して怨みなんかを持つのは自然の流れなんだろうけど……)

 

 

 

一夏はテキパキと作業を開始し始めた少女たちを見て、こめかみを抑えた。

 

 

 

(完全に白雪姫の話を逸脱してんだよなぁ〜………)

 

 

 

 

本来、白雪姫の話と言うのは、魔法の鏡に映し出された最も美しい女性である白雪姫を、その座から降ろされてしまった女王が、彼女を殺そうする所から物語が始まる。

そこは同じなのだが、問題はその後になる。

城から逃げ出した白雪姫は、7人の小人たちと出会い、その小人たちの棲む家に匿ってもらう。

しかし、白雪姫を殺せなかった女王は怒りをあらわにし、魔女に頼んで、毒リンゴを白雪姫に食べさせることに……。

何も知らない白雪姫は、その毒リンゴを食べてしまい、そのまま命を落とす。

白雪姫が死んでしまったことに悲しんだ小人たちは、その毒リンゴを作った魔女を倒しに行き、その目的は無事に果たされたが、白雪姫はそのまま眠った状態だった。

しかしそこに、白馬に乗った王子様が現れて、白雪姫を見つけると、奇跡的に白雪姫が目を覚まし、蘇った。

その後、白雪姫はその王子と結ばれて、幸せに暮らす。

というのが、本来の白雪姫の話。

しかし、現状はどうだろう?

剣やら槍やら弓を揃え、甲冑を布で綺麗に磨き、さらには火薬まで作っている始末だ。

白雪姫ではそんな戦争でも始めるような話はなかったはずだが……。

 

 

 

「一体、何がどうなっているのやら……」

 

「なにが?」

 

「あ、いや……」

 

 

 

隣にいる刀奈が、不思議そうにこちらを見てくるのだが、白雪姫となっている今の刀奈に、「この白雪姫の物語はおかしいぞ?」なんて言えるわけもなく……。

一夏は「なんでもない」と言って、話を逸らした。

 

 

 

「なぁ、これだけの戦力を、一体どうやって集めたんだ?」

 

「まぁ、それはさっき言ったように、あのバカ女王の愚行によって阻害されそうになった子たちを重点的に集めた結果ね。

みんなには、一般市民に紛れ込ませてゲリラになってもらって、情報収集と戦力になりそうな子たちを見つけてもらうようにしているの」

 

「なるほどねぇ……」

 

 

 

その戦術すらも、白雪姫の話にはないのだが……。

だが、事ここに至ってはそんなのどうでもいいとも思えてきた。

 

 

 

「さて、君も、しっかりと働いてもらうからね?」

 

「あぁ、そうだな。まずは、なにをすればいいんだ?」

 

「えっと、そうねぇ……あ、ホウキちゃん」

 

「………えぇ〜……」

 

 

 

右手を大きくあげて、ホウキを呼ぶ刀奈さん。いや、こっちだと、白雪姫になるんだが……。

しかし何故ホウキを呼ぶ?

ホウキとはついさっきまで真剣を交わしていた相手なのだが……。

つまりは、さっきまで殺しあっていた相手と再び鉢合わせるというのは、どうにも心臓に悪い。

 

 

 

「ハッ、お呼びでしょうか姫様」

 

「ホウキちゃん、イチカ君に仕事をさせてくれる? 雑用でもなんでもいいから」

 

「了解しました。せっかくの男手ですから、力仕事でもさせましょう」

 

「うん、それがいいわね♪ じゃ、あとはよろしくぅ〜♪」

 

「「…………」」

 

 

 

気まずい雰囲気が二人を包む。

何と言っても、先ほどまで剣を向け合っていたのだから、それは当然のことだろう。

 

 

 

「おい」

 

「は、はい……」

 

「貴様、一体なにが目的だ?」

 

「なに……とは?」

 

「惚けるなっ、我らの姫に近づいて、一体なにを企んでいるのかと聞いている!」

 

 

 

まぁ、そうなるよね。

ホウキの意見もごもっともなんだが、もう少し声のトーンを落として欲しかった。

おかげで、こちらは針のむしろ状態なわけで、周りの女の子たちからの視線が突き刺さるような感覚に陥る。

 

 

 

「目的……か。それについては、君たちと利害は一致していると思う」

 

「ほう?」

 

「まず、俺がここに来た理由、また、姫さんを探していたのは、どうしても姫さんに会いたかったから。

そして、姫さんを助けたいと思ったからだ」

 

「………何故見ず知らずの貴様が姫を助けようなどと……」

 

「えっと、その……困ってる人を、ほっとけないっていうか、彼女……姫さんの事が心配で……」

 

「そうか……理由はわかった。しかし、では何故この組織に属する? それこそ何のためだ?」

 

「俺は、姫さん連れて帰るために、ここに来た」

 

「何だとっ!? 貴様っ、やはり王国側のっ……!!」

 

 

 

ホウキは一度間合いを取って、腰に下げていた刀に手を伸ばす。

中腰に構え、刀が納められている鞘の鯉口を切る。

それに呼応するように、周りにいた女の子たちも、その手に武器を取り、一夏に敵意の視線を向ける。

 

 

「まっ、待ってくれっ! それは違う!」

 

「その言葉を信じろと? あいにくだが、貴様を信じるにたる要素がどこにもないんだが?」

 

「た、確かにそうだが……。それでも、俺は君たちに敵対する意思は全くない! むしろ俺も、あの女王に危うく殺されかけたんだし……!」

 

「っ………」

 

 

 

必死に訴えかける一夏。

ホウキや他のメンバーも、一応に警戒心を緩めはしなかったが、ホウキは刀から両手を離し、一夏に向き直る。

 

 

「その話が本当なら、貴様、相当な事をやらかしたのだな? でなければ、あの女王が男に対して死罪を告げるなど、あり得んのだがな……」

 

「えっと、その女王の名前を間違えた……とか、女王の目の前なのに不遜な態度を取ってしまったとか、まぁ、いろいろあってな……」

 

「ふむ……」

 

 

 

一応は納得してくれたようだ。

 

 

 

「目的はわかった。だがどこに連れて帰るというのだ? 姫は王国の皇女なのだぞ?

それを連れて帰るということは、姫をあの王城に連れて行くということになる」

 

「いや、そうじゃないんだ。彼女は、王国の姫でも何でもない」

 

「っ?! 何を馬鹿な事をっ……!?」

 

「あぁ……信じられないだろうけど、これは事実なんだ。彼女は一国の姫でも何でもない。普通の、君たちと同じ一人の女の子なんだ。

そして、俺は彼女と同じ場所で過ごしている……彼女がここに囚われの身になっているのを知り、俺もここに来た。

そしたら、ここで戦っているのを知って、この戦いが終わらない限り、戻ることはできないと、彼女は言ったんだ」

「っ…………」

 

 

 

まぁ、早々に信じろと言うのも無理な話ではある。

だが、刀奈がこの世界から出るには、刀奈の目的を果たさせるしかない。

あと、刀奈自身の記憶が戻ってしまえば、あとは言うことはないのだが……。

 

 

「か、仮にっ、仮に姫がお前と同じ場所に生まれ、育ち、生きて来たと言うのだとしてもだっ!

貴様一人に何ができるんだっ! 確かに貴様は腕が立つ。私やシズネたちの攻防で倒れなかった者の方が少ないからな。

だがそれで、何故一人でここに来たのだ!?」

 

 

 

確かに、取り戻すと言うのであれば、それなりの戦力を持って来てもいいだろう。

しかし、いくら腕が立つからと言って、一夏一人では、限界があるだろう。

 

 

 

「まぁ、確かにそう思うよな。でも、安心してくれ」

 

「ん?」

 

「この手に届く人たちくらいなら、俺の剣は届くよ。絶対に、姫さんも、君たちも守る………っ!」

 

「なっ……!!?」

 

 

 

 

まっすぐ見つめられて、はっきりと断言する一夏の姿に、ホウキは顔を真っ赤にし、その場で狼狽える。

 

 

 

「ば、ばば馬鹿者っ!!? お、大きなお世話だっ! 私たちは、自分の身くらい自分で守れるっ!」

「そうか? まぁ、ピンチになった時くらいは、駆けつけるさ……。それじゃあ、俺も仕事しますかねぇ〜」

 

「あ、おいっ……!」

 

「ん?」

 

「き、貴様っ、その……聞き忘れていだが、姫様とはどういう関係なのだっ……!」

 

「俺と姫さんの関係?」

 

 

 

年頃の女の子よろしく、ホウキも、その周りにいた女の子たちも聞き耳を立てている。

一夏はどう答えたらいいのだろうと悩んだが、ここは素直に、本当の事を話した。

 

 

 

「向こうでは、その……俺と姫さん……カタナとは、恋人同士だよ…………」

 

「なっ!? な、なななっ〜〜〜〜!!!!!!???」

 

 

口をパクパクとさせながら、何か言いたげだったが、一夏はそれを気にせずに、その場を後にした。

その場から退散した直後、一夏の背後から、黄色い悲鳴があがっているのは、必然だっただろう…………。

 

 

 

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

一夏が立ち去った後、一夏が去った通路とは別の場所に、カタナの姿があった。

顔を真っ赤にして俯き、目もパチパチと何度も瞬きさせ、呼吸が速くなるのを感じていた。

 

 

 

 

「ひ、姫様っ!? ほ、本当ですのっ?! あ、あああの方と、その、お、おおおお付き合いしていらっしゃると言うのはっ!?」

 

「そ、それはっ……!?」

 

「落ち着けセシリア嬢。姫様も混乱しているではないか……」

 

「ラウラさんはっ、気になりませんのっ!? わたくし達の姫様が、あんな男とつ、つつ付き合っているって言うのにっ!?」

 

「私に聞かないでもらいたい。それで、姫様としては、どうなのですか? あの男の言っていることは正しいのですか?」

 

「ええっと……」

 

 

 

カタナに詰め寄る、二人の少女。

一人は、カタナに負けないほどのプロポーションと、綺麗な金髪の縦ロールが特徴の少女。

姫となっているカタナよりは豪勢さに欠けるが、身に纏うドレスを優雅に着こなしているところを見ると、この世界では貴族令嬢にあたる役なのだろう。

興奮気味に、カタナに詰め寄る少女の名はセシリア。

一夏とクラスメイトであり、イギリスの国家代表候補生という経歴を持つ。

しかし、それは現実世界での話であり、この世界では一介の貴族令嬢だ。

そして、そんなセシリアを落ち着かせようと、宥めるのは、銀髪ストレートの少女。

左目を眼帯で隠し、ホウキ同様に、スカートではなくズボンを履き、黒いジャケットを着込んでいるその姿は、凄腕の殺し屋のような風格がある。

名前はラウラ。現実世界では、一夏のクラスメイトであり、自称弟子であり、ドイツの国家代表候補生という肩書きを持つ。

しかしこの世界では、セシリア同様に違う肩書きを持っているようだ。

彼女は代々王家に仕えてきた護衛係並びにメイドという一族の娘だ。

しかし、セシリアとラウラも、美に執着する女王によって、阻害されそうになった身だ。

そんなラウラも、先ほどの一夏の発言には気にかかることがあるようで、興奮気味のセシリアを抑えつつも、カタナに真意を問う。

 

 

 

 

「わからないのよ……私には、彼と共に過ごした記憶がない」

 

「では、あの者が言っていることは、ただの妄言……だと?」

 

「うーん……なんか、それも違うような気がして……」

 

「ん? しかし、記憶がなのでしょう?」

 

「そうなの……でも、なんていうか……記憶には無いんだけど……その……多分、知ってるんだと思う。

私の手や耳や目や……心とか、いろんなものが……」

 

「…………」

 

「そっ、それはっ……!?」

 

 

 

ラウラは何やら考え込むように俯き、セシリアに至っては、顔を青ざめていた。

何を想像したのかはわからないが、とにかく、一夏への憎悪が増したのは確実だろう……。

 

 

「まぁ、ともあれ奴の素性を、もう少し詳しく調べなければならないだろうな……」

 

 

 

ラウラは隠れていない右眼を鋭く尖らせ、一夏の消えていった廊下の方を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、この槍はここに置いて、と……」

 

 

 

ホウキからの要望で、一夏は彼女達が使う武具の点検と、それを運び出す作業をしていた。

一緒に作業を行なっている女の子達からは若干敬遠された状態で作業をせざるを得なかった。

しかし、作業をしている中で気づいたことと、作業を行なっている彼女達からは、新しい情報を得た。

まず気づいたこととしては、このレジスタンス集団の戦力について。

周りを見ても分かる通り、この場にいるのは貴族、市民問わず、綺麗な町娘やご令嬢といった子達ばかりだ。

しかし、全員が武具を用いた戦闘を行えるようで、戦闘能力では、一般兵と変わらないだろう。

そして今日、その前哨戦として、王城に軽く攻め込むらしい……。

もう攻め込むと言っている時点で、軽くも重くもないんだが……。

 

 

 

「さてと……これで一通りオッケーかな」

 

 

一夏は武器をまとめ上げ、即時出陣可能な状態へを整えた。

周りにいた女の子たちに、ほかに手伝うことはないか聞きに行き、女の子たちからは、「特にはない」と言われたので、別の場所にへと向かう。

今度は、馬防柵を作っている場所へと向かう。

おそらく騎士団の騎兵相手に使うものなのだろう。

万が一の時には、このアジトに戻らなくてはならないため、その先を狙われて全滅しないように、できるだけの対応策を練って置かなくてはならない。

 

 

 

「えっと……何か手伝おうか……?」

 

「「「あ……」」」

 

「おお〜〜?」

 

「…………」

 

 

 

 

気まずい空気がまた流れた。

それは何故か? 何故も何も、ホウキの時同様、先ほど戦った四人がいたからだ。

 

 

 

「ああ〜〜!! さっきの姫さまのストーカーっ!」

 

「違うわっ!! ストーカーなんてしてないだろっ!?」

 

「でも姫さまの事を、色々と嗅ぎ回っていたのは、事実はわけで……」

 

「卑劣なストーカーめっ! 今度は何をしに来たっ!」

 

「いや、その……手伝いに来たんだけど?」

 

 

 

 

やはりというかなんというか……シズネ達の視線もまた、かなりの警戒の色を見せている。

しかしそんな中、その雰囲気を見事にぶち壊してくれた人物が一人……。

 

 

 

「ほわぁ〜! ストーカーめぇ〜、このホンネちゃんが、成敗してくれるぅ〜!!」

 

「…………」

 

 

 

両手が見えないほどにだぼだぼとした服を着ている少女。

その姿からは、戦士や暗殺者といった雰囲気は全く感じられず、どこか愛玩用の小動物のようにも思える。

手に武器などは持っておらず、ゆっくりとした動作でまるで中国拳法のような動きを見せる。

ここにいる四人の中で、ただ一人一夏と交戦しなかった人物……のほほんさん……ここでの名前は、ホンネだ。

 

 

 

 

「心配すんなって……俺は君たちにも、姫さまにも手を出す気はないから」

 

「ほんとに本当かぁ〜?」

 

「うん……ほんとに本当だよ」

 

「ほんとにほんとに本当かぁ〜?」

 

「あぁ……ほんとにほんとに本当だよ」

 

「ほんとにほんとにほんとに本当かぁ〜?」

 

「…………えっと、これいつまで続く?」

 

「あはは〜♪ 引っかからなかったかぁ〜」

 

「…………はぁ……どの世界でも、のほほんさんはのほほんさんのままか……」

 

 

 

それがある意味、唯一の救いなのかもしれない。

しかし、そう思ったのもつかの間だった。

 

 

 

 

ジャラジャラ…………。

 

 

 

 

「…………ん?」

 

「おっとっとぉ〜……いけないいけない〜♪」

 

 

 

だぼだぼの服の上着の袖から、光り物がジャラジャラと言う音を立てて落ちて来た。

地面にドスッ、という音を立てて、鋭い刀身を持った暗器剣や苦無といったものが突き刺さる。

 

 

 

(えぇぇ〜〜〜〜…………のほほんさんも暗殺者なのぉぉぉぉ〜〜〜〜!!!!!!)

 

 

 

笑いながら武器を拾い集めるホンネ。

普通の短剣や、異様な形をした剣、カタール、釵、トンファーなどなど……武器と呼べるものがまだ突き刺さっている。

 

 

 

「もぉ〜ホンネ、散らかさないでっていってるじゃないのよぉ〜」

 

「あっはは〜……ごめん、ごめん〜」

 

 

 

一緒に鍛冶屋で働いているキヨカからの言葉に、ホンネは相変わらずの低速言葉で謝罪する。

もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ……。

 

 

 

「えっと、のほほんさんも、戦ったりするのか? その、さっきは俺に攻撃を仕掛けなかったみたいなんだけど……」

 

「あぁ……ホンネちゃんは、純粋は暗殺者タイプだから。キヨカちゃんやユコちゃんみたいな、戦闘暗殺者タイプしゃないの。

だから、あなたとの戦闘では、真正面からやり合わなかっただけ……」

 

「さ、さいですか……」

 

「まぁ、多分死角を突こうとしても、あなたには通用しなかったかもしれないけどね」

 

「まぁ……俺もそれなりには、修羅場をくぐってるんでね……」

 

 

 

 

 

この四人の戦闘力は、ホウキ達にも匹敵するのではないかと思う。

普段は部活動で、あまり戦っているイメージなどが無いが、身体能力では、キヨカとユコは学年中でも上位に入るし、シズネはその冷静さが、戦況分析に役立ってあるのではないかと思う。

ホンネだって、現実の世界では暗部の家系たる更識家の者たちに仕えている布仏家の一員なのだから、もしかしたら、あったかもしれないと思える才能なのだろう。

 

 

 

 

「そういえば、今夜軽く城に攻め入るんだろ? もしかして、四人も出るのか?」

 

「うん……でも、ホンネちゃんとユコちゃんはここで待機してもらうから、正確には、私とキヨカちゃん、あと、ホウキちゃんたちが一緒に行ってくれる」

 

「なるほど……ホウキ達も……」

 

 

 

純粋な戦闘力で言えば、ホウキとリン、ラウラあたりが先陣を切りそうだ。

その援護として、セシリア、シャルあたりをついていかせるだろう。

カンザシは、一体何をするのだろうか……?

裏方に徹して、作戦でも考えているのだろうか?

 

 

 

「あなたも行くの?」

 

「ん?」

 

 

 

シズネの問いかけに、一夏は正直に答えた。

それも、考える時間すらなく……。

 

 

 

「あぁ、行くよ。カタナを守りたいという気持ちは、俺も同じだからな……」

 

「そうですか……」

 

 

 

一夏の答えに、シズネは納得した表情で目を伏せた。

そして、今までの剣呑な表情を捨て去り、学校でいつも見たいる優しい笑顔に変わった。

 

 

 

「それじゃあ、これからよろしくお願いします。一夏さん……」

 

「あぁ、よろしく。でも、一夏 “さん” はよしてくれよ。俺も君達と同い年なんだぜ?」

 

「あぁ……それもそうだね。じゃあ、一夏 “くん” でいいかな?」

 

「あぁ、よろしく、シズネさん」

 

「えぇ〜……私には君付けで呼ばせておいて、一夏くんはさん付けなんだぁ〜」

 

「ええっ? だって、女の子を呼ぶときは、さん付けじゃないのか?」

 

「うーん……言われてみればそうだけど……。でもそれだと不公平だ思うなぁー」

 

「じゃ、じゃあ、どうすればいいんだ?」

 

「うーん……」

 

 

 

シズネは考えた後、こう言った。

 

 

 

「じゃあ、呼び捨てで。シズネでいいよ?」

 

「呼び捨て?」

 

「うん。同い年なんだし、気にすることないんじゃない? それに、仲間になるって言ってる人にさん付けされると、ちょっとだけ、まだ壁みたいなもの感じるし……ダメ、かな?」

 

「ええっと……」

 

 

 

優しい言葉に、微妙な上目遣い。

普段見られない鷹月 静寐の表情である……。

そんな表情に、一瞬ドキッとしたものの、一夏は気を取り直して、改めてシズネと向き合い、そして、握手を交わした。

 

 

 

「じゃあ、シズネ。これからよろしく頼む」

 

「うん! こちらこそ、頼りにさせてもらうよ、一夏くん」

 

「あ〜〜、シズちゃんだけずるいぃ〜! わたしも〜、わたしも〜〜♪」

 

 

バタバタと余った服の袖を揺さぶりながら、ホンネが駄々っ子のようになっている。

そんな様子に、シズネと二人で微笑みながら、一夏はホンネの元へ。

 

 

 

「もちろん……のほほんさんも、よろしくな」

 

「ウィ〜♪」

 

 

 

袖から出された手を握り、握手を交わす。

しかし、袖から出した手は意外と綺麗で、白くてすべすべした手だ。

果たして、現実世界ののほほんさんも、これくらいの手をしているのだろうか。

その後、一夏はユコ、キヨカとも握手を交わして、これから始まるであろう戦いの前に、敵意を廃したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……別の世界では、異形なる者と対峙している少年が一人。

 

 

 

 

 

「チィッ!!!」

 

「アハハハハッ!!!!」

 

 

 

 

 

雪が舞う幻想的な風景の街並みでは、それと全く似つかわしくない、闘争剣戟が繰り広げられていた。

黒いファー付きのコートを纏い、両手の剣を淀みなく振るい、異形の存在と対峙する少年。

名前は、桐ヶ谷 和人。

いや、この世界では、『キリト』という名の方があっているかもしれない。

そして、その少年の目の前にいる異形の存在……。

まるで戦国時代の武者のような格好……つまりは、侍甲冑を見にまとった少女の姿をした何か……。

 

 

 

 

「どうしたのぉ〜、キリトォ〜? キリトはこんな物じゃないよね? もっと強くて、もっとカッコよくて、もっともっともぉ〜っと優しかったはずだよねぇ〜?」

 

「っーーーー!!!」

 

 

 

もはや少女というには、無理があるようゴツい体格。

身長もキリトよりも大きく、人というよりは、鬼ような形相……。何より、頭部から生えている二本の角を見るに、やはり鬼化しているようにも思える。

 

 

 

(こんなアイテム、アインクラッドの中には無かったっ……! オリジナルの武器なのか?)

 

 

 

鬼が手にしている武器は、〈魔鉄(まがね)〉と呼ばれる妖刀の類だった。

無論、アインクラッドの中には、日本刀の武器は存在していた。

しかし、氷を操り、人を鬼化させるほどの力なんて持ち合わせてはいない。

むしろそんな武器はチート扱いとなり、あの世界から排除されていただろう。

今この世界が、アインクラッドと同じ世界を再現しているのであれば、そんなチートの存在があるはずはない。

 

 

 

(あの男の……ヒースクリフの仕業じゃないっていうのだけはわかるが…………)

 

 

 

だが、このままでは、敗北は必至だ……。

頭から頬を伝い、地面に降り積もった雪の上に、汗が流れ落ちる。

両手に握る剣を再び構え、異形と……変わり果てた姿になったサチの亡霊と向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……束くんにも、困ったものだな……」

 

 

 

 

街の外縁部付近……安全圏内エリアとフィールドエリアを隔てる街の外壁の上に、一人の人物が立っていた。

ファンタジー感満載のその世界において、ワイシャツの上に科学者や研究者たちが羽織っていそうな白衣を纏い、戦闘を眺める男性。

この世界と、眼下で戦い続けている少年を見て、憂うような視線を向けている。

 

 

 

「束くんの発想には、いつも驚かせてもらっていたが……今回ばかりは、私も出しゃばらせて貰おうかな……!」

 

 

 

 

科学者の服装をした男は、外壁から降り、街の中をゆっくりと歩き始めた。

その手に、銀色に輝く刀身を持った、白と赤の十字剣を握りしめて…………。

 

 

 

「これはゲームだが、遊びではない…………」

 

 

 

それは一体、何に対して言葉だったのだろうか……。

今この現状に対する?

それとも……彼が描いていた世界のことに対するものだったのか……?

いずれにせよ、その答えを知ってあるのは、本人のみだった……。

 

 

 

 

 

 

 






次回は、キリトの戦闘から入り、チナツの方もそろそろ終わりの方へと導いていこうと思います( ̄∇ ̄)


まぁ、ちょっと最近は、忙しくて、更新できていなかったので、またいつ更新出来るかはわからないのですが、何卒、よろしくお願いします!


感想、よろしくお願いします!



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