ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく更新できる( ̄▽ ̄)


おそらく白雪姫の世界での物語がこの後も四、五話ほど続くと思いますが、ご了承ください( ̄▽ ̄)




第102話 白雪姫の世界Ⅲ

「おおおおおっ!!!」

 

「っーーーー!!!!」

 

 

 

思いっきり踏み込んでからの、上段唐竹割り。

いくら箒が女の子だといっても、剣道を長年続けてきた者の一撃は、生半可な状態で受ければ、たちまち得物ごと斬られかねないだろう。

一夏は真正面から受けるのではなく、刀の刀身に多少の角度をつけたり、体を半歩分真横に動かす事で、斬撃の衝撃を軽減させていた。

だが、それしきのことで、攻撃が止む箒ではない。

上段が回避されたのならば、今度は腰だめから横薙に一閃。

一夏は軽く跳び、後ろに移動することで、斬撃を受けても早々に倒れなかった。

が、今度は刺突がきて、そのあとがまた横薙。袈裟斬り、逆袈裟と斬撃は止まない。

一夏は必要最低限の動きと受け流しで、その斬撃を躱して、一旦距離をとった。

 

 

 

「ほう? なるほど……キヨカたちが苦戦するだけのことはあるな……」

 

「っ………」

 

 

 

一夏の技量に、正直感服した箒。

だが、それは一夏も同じだった……。箒の剣技、その全てが、初めて受けた衝撃だった。

鋭く放たれる斬撃、迷いのない踏み込み、そして、何より驚きを隠せないのが、貫かれそうなほどに鋭い眼光。

 

 

 

(これが、本気を出した箒の実力ってやつなのか……っ!)

 

 

 

箒とは、過去になんどか竹刀を合わせてきた。

ISの戦闘でも競り合っていた……。しかし、それはあくまで “互いが幼馴染としての認識を持った” 上での戦いだった。

しかし、今、目の前にいる箒の目には、一夏が敵として写っているのだ。

互いを知っている者同士だからこそある二人との距離間が、今この場では一切ない。

一夏は敵と思っていなくとも、箒にとっては危険な敵として意識されている。

知己の存在である者からの敵対の視線は、想像に重く、苦しいものだ。

 

 

 

「もう少し楽しみたいところだが、ここで時間を割いていては、騎士団に気づかれかねないからな……。

早々に終わらせる事にしようっ…………!!!」

 

「っ!」

 

 

 

再び箒が飛び込んできた。

今度は速さを重視した速度のある剣戟。

しかし、速さを競うのであれば、一夏の剣だった負けていない。

いや、むしろ速さだけならば、一夏の方が上だ。

 

 

 

「ちっ! これでも通らないかっ!?」

 

「やめろ箒っ!」

 

「っ!?」

 

「俺はお前と戦いたくないっ!」

 

「貴様っ……何故私の名を知っているっ!?」

 

 

 

明らかに箒の表情に戸惑いや驚きの色が見えた。

鍔迫り合いの状態で、箒は一夏の、一夏は箒の顔をまじまじと見つめた。

しかし、箒は一夏の事を知らないような顔をしていた。

 

 

 

「お前は俺の幼馴染っ、篠ノ之 箒だろっ?!」

 

「何を言っているっ! 私はホウキだ! シノノノなどと言う変な名など無いっ!」

 

「変なって…………お前の苗字だろうが……」

 

 

 

自分の家族としての名前を覚えて無いと言うのは、明らかにおかしな反応だ。

それは今も戦いを見守っているキヨカやシズネ、ユコにホンネもそうなのだが……。

やはり、この世界で出会った人たちは、苗字の存在を知らず、名前はゲームなどで使うキャラクターネームに似た様な名前になっている。

妙なところだけ現実で、変なところはゲームの設定を使っている。

 

 

 

「私と貴様が幼馴染だと……? 寝言は寝て言うものだぞ……っ!」

 

「寝言じゃないから、今そう言ったんだけどな」

 

「減らず口をっ……!」

 

「篠ノ之 箒。7月7日生まれの16歳……」

 

「っ!?」

 

「何故生まれた日を知っているのか? そんな顔だな」

 

「貴様っ……一体どこまで知って……!」

 

「言ったろ……俺とお前は幼馴染なんだって。幼い頃に、俺はお前の実家の剣道場に通っていたんだ!

俺とお前はっ、その頃からの付き合いなんだよ!」

 

「嘘を言うなっ! 私はお前など知らないっ!」

 

 

 

拒絶の言葉だった。

箒は一夏を払いのけると、先程までと違い、今度は慎重になったのか正眼に構えたまま動かない。

一夏との距離を慎重に詰めて来ている。

対して一夏は、脇構えの状態で静かに箒を見る。

少しずつだが、両者の足がわずかに動く。

剣士同士や、武術を会得している者たちの間で起きる間合いの制圧による見えない鍔迫り合いを繰り広げていた。

 

 

 

「っ……!」

 

「っ……!!」

 

 

 

静寂というものが、ここまで恐ろしく感じることもある。

静かだが、その中にはバチバチに燃えているものもあり、また、鋭い何かが、互いを近づけさせない様にギラギラと光っている様にも見える。

 

 

 

(ええいっ、なんなんのだこいつはっ……! 私の何を知っているという……っ! 何度思い出そうとしても、こんな奴見たことないぞ? 第一に、これほどの使い手がいるのならば、忘れるはずもないっ……!)

 

(今の箒相手に、勝つことはできても、それでおしまいだ……。どうにかして穏便に済ませれないものか……)

 

 

 

 

逃すまいと一夏の行動を警戒する箒と、できるだけ戦闘を避けたいと思う一夏。

両者の度重なる牽制は、一進一退の攻防を繰り広げ、中々切り崩せない状態で硬直していたが、ようやく痺れを切らして動いたのは、箒の方からだった。

 

 

 

「はああああっ!!!」

 

「っ……!」

 

 

 

 

下段の腰だめの構えから、一気に振り抜く一刀剣技《雷鳴》だ。

篠ノ之流剣術において、相手とのすれ違いざまに斬り捨てるカウンターの要領も取り入れられている剣技。

それを初めから出してくるのは、箒が少なからず焦ってるためだろう……。

一夏は避けるそぶりは見せず、逆にあえて突っ込んでいった。

箒の間合いに入る前に、一度上に跳躍すると、その勢いのまま、箒に斬りかかる。

 

 

 

「《龍槌閃》っ!」

 

「おおおおっ!!」

 

 

 

閃光と雷がぶつかる。

しかし、地に足をつけていた箒の方が膂力で優っているため、一夏はそのままはじき返された。

しかし、それこそが一夏の狙いでもあったのだ。

あえて飛ばされることで、箒との距離が大きく開き、一夏はそのまま森の方へと走り出した。

 

 

 

「なっ!? 貴様っ!」

 

「悪いな、やっぱり、俺はお前と……お前たちとは戦いたくない!」

 

「逃すかっ!」

 

「ホウキちゃんに続けぇぇ!!」

 

「よっしゃあ〜〜!!」

 

「ホンネちゃんも!」

 

「ほわぁ〜〜、行くぞぉ〜〜!!!」

 

 

 

ホウキに続いて、ユコやキヨカたちが追いかける。

しかし、一夏は先に森に入り込んで、鬱蒼と生い茂っている道のりをアクロバットな動きで木々から木々に向かって飛んで行く。

 

 

 

「なっ、何なんだあいつはっ……!? 獣の類かっ?!」

 

「凄っ!?」

 

「私たちよりも慣れてないっ!?」

 

 

 

後ろからそんな声が聞こえる。

しかし、そんな事にも反応せず、一夏はただただその場から逃げた。

やがて、ホウキたちの姿が見えなくなると、一息つくために、ちょうど隠れられそうな流出していた太い木の根に身を隠した。

 

 

 

 

「はぁ……なんとか、逃げ切れた……かな……」

 

 

 

木の根に隠れた状態で、身を隠しながら一夏は辺りを見回した。

周りにはなんの気配も感じない。

ようやく日が沈みかけている頃合いなのか、辺りは闇に包まれかけている。

よくよく見ると、月が登って来ており、月明かりが灯り始めている。

最近ではほとんど過ごすことのなかった、暗闇の中でたった一人……。

昔はこんな生活が当たり前だった。

レッドプレイヤーたちが活動するのは、大抵人通りの少ない所……そんな場所と言えば、フィールドの薄暗い場所や、隠れられるところがある場所、ダンジョン内の脇道などに潜んでいるのがほとんどだった。

 

 

 

(全く……嫌な記憶ばかりだな……)

 

 

 

今になっても後悔はある。

やり直しを求めることだって多々あるほどに……それでも、やり直す事なんて出来ない。

できるのは、これから先の未来で、どのように改善、あるいは償いをしていけるかだ……。

 

 

 

「はぁ……とりあえず、どこかで野宿できるところを探さないとなぁ……」

 

 

 

周りがどんどん暗闇に呑まれていき、早いうちに寝床にできるような場所に目星をつけておかないと、暗闇での活動は危険が伴う。

先ほどの戦闘と逃亡で、王城と街からはだいぶ離れてしまったため、戻るのも難しいだろう。

そして、もしもホウキたちがこちらに気づいて、また襲いかかってでも来たら、今度は手加減なしに斬ってしまう恐れもある……。

 

 

 

 

「えっと……とりあえず王城から離れるとして、どこか雨風凌げる場所はっと……」

 

「あら……ホウキちゃんたちが負かされたって聞いてたから、どんな刺客が来るのかと思ったのだけれど……あまり強そうには見えないのよね」

 

「っ!?」

 

 

 

突然一夏の独り言に突然言葉を返して来た者がいる。

一夏は刀の鯉口を切り、一気に戦闘態勢へと移行した。

 

 

 

(俺が気配に気づかなかった……? こいつは、手強いかもしれんな)

 

 

 

こういう闇の中では、まず第一に気配を探れる能力に長けていないといけない。

夜目が使えなければ奇襲されるし、相手の位置も割り出せない。

あいにくと、一夏はその両方を兼ね備えているのだが、ここは相手の隠蔽術の高さを評価するべきだろう。

 

 

 

「へぇ〜……訂正するわ。あなた、只者じゃないわね」

 

「………そう言う君は、一体何者なんだ……。一体、どこにいるんだ」

 

「そっか……一方的に狙いを定めるのは、フェアではないものね? じゃあーーーー」

 

 

 

そこまで言って一夏は背後に殺気を感じた。

 

 

 

「っーーーー!!?」

 

「望み通りに出て来てあげるっ!」

 

 

 

反射的に振り向きながらの抜刀。

刃が空を斬り裂いていく中で、閃いて迫って来る物があった。

刀とその光る物体がぶつかり、小さな火花を散らす。

刀にぶつかったその物体の正体は、ダガーだった。

それも、峰の辺りにはギザギザとした棘を彷彿とさせるような刃筋が浮き出ており、かつてアインクラッドにもこのダガーを持っていた者たちがいたが、その者たちに共通するのは、全員が『暗殺者』だったということだ。

 

 

 

「くっ!」

 

「いい反応ねっ……! やっぱり只者じゃないようねっ!」

 

「いきなり襲って来ておいて、その言い草はないだろうっ!?」

 

 

 

何度かダガーを振るってくる刺客に対して、一夏は刀での応戦をとった。

相手も中々の使い手のようで、ダガー一本で一夏の反撃を凌いでいる。

月明かりが森の木々の合間を通り抜けて地上に光を当てている中で、銀閃に輝く刀とダガーだけが斬り結ぶ。

 

 

 

「「っ………」」

 

 

互いに一歩も譲らない……。

おそらく襲って来た相手も、一夏の技量の高さに感服し、認識を改めたと思う。

そして、一夏も気づいたことがあった。

今襲って来ている人物は、女であることに……。

何度か斬り合った最中に、かすかに見て取れた相手の体格……そして、何より服装が女性の物だったというのが大きい。

加えて、華奢な体型をしていて、女性の象徴たる乳房の膨らみなどがわかった。

女性でここまでやれる人物は、そうそうにいないだろう……。

しかし、斬り合っている時に気づいたが、どうも彼女はダガーが本当の得物ではないのだと思った。

無論、ダガーの扱いに対しては優れているという評価をしているが、本当は別の武器が得意なのではないかと、直感的にそう思ったのだ。

 

 

 

(なら、一気に勝負をつけるっーーーー!!!)

 

 

 

一夏は地を足で掴むように踏ん張り、そして、思いっきり刺客の間合いに肉薄した。

 

 

 

「っ!?」

 

「はああっ!!」

 

 

 

下段から斬りあげる。

そして袈裟斬り。逆袈裟からの刀を逆手に持って逆胴。

絶え間なく続く攻撃に、相手もかろうじて捌いていくのがやっとだった。

 

 

「はああっ!!」

 

「っ……ぁあっ!?」

 

 

 

最後は刺突。

一夏の攻撃を弾き返した後に、手元が緩んだ隙を突いてのラストアタックだった。

一夏の刀の切っ先がダガーに当たって、相手のダガーは後方に弾き飛ばされた。

 

 

 

「くっ……!」

 

「ここまでだ……。安心しろ……敵対しないのなら、俺は剣を引く」

 

 

 

約束は果たすと、そういう意思表示も兼ねて、一夏は刀を鞘に納めてから、襲って来た暗殺者の方に歩み寄る。

暗殺者の方も、ダガーを取りに行くような行動は取らずに、その場で尻餅をついた状態から動かない。

しかしその一瞬の事だった……。

そよ風がその場に吹き、空から降り注がれていた月明かりを遮る木々の枝や葉が揺らめき、月明かりが暗殺者の顔を映したのだ。

 

 

 

 

「っ!!!? 君はっ……!!」

 

「っ………な、なによ……!」

 

「カ、カタナ………っ!」

 

「え…………」

 

 

 

ようやく会えた。

この世界に囚われていると……そう聞いた時には、本当に生きている心地がしなかった。

そしてダイブしてみれば、まるで別世界のようになっている白雪姫の世界に降り立ち、ここから刀奈を探し出さなければならないと、不安と焦りを抱えていた。

だが、ようやく会えた……。

一夏は急いで駆け寄り、刀奈の横に座った。

 

 

 

「良かったっ……! 無事だったんだな、カタナ……っ!」

 

「え……?」

 

「良かったっ……本当に良かったっ……!」

 

 

 

心配したあまり、一夏は刀奈に抱きついた。

抱きついている間に、色々と肌で感じる。

彼女の温もりも、鼓動も、ちゃんとした人と同じものだ。

彼女は生きていた……それだけで、今は十分嬉しかった。

 

 

 

「ちょっ、ち、ちょっ、ちょっと待ってよ! いきなり何するのよっ!?」

 

「のわっ?!」

 

 

 

だが、刀奈は何やら慌てた様子で、一夏を突き放す。

そして、胸元辺りを隠すようにして一夏に警戒心剥き出しの視線を向ける。

 

 

 

「カ、カタナ? どうしたんだよ……?」

 

「どうしたんだよ……じゃないわよっ!? いきなり知らない男に抱きつかれたら、そうなるでしょうがっ!!」

 

「………は?」

 

「『は?』じゃないわよっ!? あなただって、知らない女に抱きつかれたら、戸惑うでしょうっ?!」

 

「し、知らないって……お前、何を言って……」

 

「そもそも、あなたは誰なのよっ!? 私の仲間たちと戦ってたみたいだし、そんな得物振り回して、それだけで強いなんて……只者じゃないって事くらいしかわからないわよっ……!」

 

「っ〜〜〜!!?」

 

 

 

頭が混乱している。

目の前にいる少女は、間違いなく刀奈で、しかし、当の本人は一夏の事を知らないと言う。

冗談でもなんでもない……本気で警戒心剥き出しの視線を送ってくる。

ならば、この刀奈もここにいる一組のクラスメイトや箒達のようにシステムによって生み出された存在なのか?

だが、刀奈自身がこの世界に囚われていると言うのに、代理の者を呼ぶ理由もない。

 

 

 

「な、何言ってんだよっ……! じょ、冗談……だろ?」

 

「っ………!」

 

「な、なぁ、カタナッ……! 俺だっ、一夏だっ!!」

 

「っ……………いち、か………」

 

 

 

まさかと思うが、記憶がないのか?

しかし、もはやそう思うしかなかった。

刀奈が、一夏に対してこの様な態度をとる事自体がおかしい。

そんな事を感じてしまうと、一夏の中で、悲痛な感情が流れ出てきた。

嘘だと思いたい気持ちと、しかしそうではないのだと言うことを認める認識がグルグルと混ざり合う中で出た感情。

その吐露した感情は、少なからず、刀奈の心に触れたのだろうか……。

目の前にいる刀奈は、一夏の顔を見ると、何故だか悲しい気持ちになっている事に気付いた。

 

 

 

「っ………な、なんでぇ……」

 

「っ……?!」

 

「なんで、こんなに……っ、胸がっ、締め付けられるような……っ!?」

 

「カ、カタナっ……?!」

 

 

 

急に胸が痛み始めたのだ。

その理由はわからない……だが、一夏の顔をみて、そうなったのは間違いない。

一夏の悲痛な表情、悲痛な感情を見た途端に、胸が締め付けられるような痛みを感じたのだ。

一体何故なのか……? 頭が混乱していると、いつの間にか近づいてきていた一夏の姿を凝視する。

 

 

 

「あなたは……一体……っ」

 

「俺は……俺の名前は、織斑 一夏」

 

「おりむら……いちか………」

 

「お前は、カタナ……なんだよな?」

 

「…………違うわ。私は、白雪姫」

 

「白雪……姫?」

 

「そうよっ、白雪姫よ! 知らないわけ?! 私はお姫様。元々あそこにある忌々しい王城に住んでいる女王の娘!

あんな美容に妄執しているバカ女の娘で、姫なの! わかるっ?!」

 

「あ、あぁ……まぁ、なんとなくは……」

 

「なんとなくぅっ?!!!」

 

「えっとっ、なんか……ごめん……」

 

「なんかってなによ! 全くあなたはっ……! これでもお姫様なんだから、ちょっとは敬いなさいよねっ!」

 

「あっ、ははは………」

 

 

 

本当なら、「今日はなんのキャラなの?」っと、冗談半分にセリフを言うところなのだが、今そんな時ではないと本能が悟った。

 

 

 

「全くもう……!」

 

「えっと、白雪姫……うーん、『姫さん』って呼んでいいか?」

 

「…………」

 

「えっと……ダメかな?」

 

「どーぞお好きに……」

 

 

 

ジト目で睨みながらも了承はしてくれた。

しかし、いざとなると本当に呼んでいいものかと躊躇してしまう……。

 

 

「ん、んんっ! えっと、姫さん……君は、なんでこんなところにいるだ?

確か君は、反政府勢力の頭領なんだろう? こんなところでウロウロしてて良いのか?」

 

 

現にこうして、一夏と出会い頭に戦闘になってしまっている。

もしもこれが一夏とではなく、王城の重装備騎士の小隊だったら、間違いなく刀奈は囚われの身になっていただろう。

そして、最悪の場合は極刑だ。

 

 

 

「た、たまたま、みんなの目を盗んで散歩してたら、あなたが……」

 

「あー……」

 

 

 

おそらく、頭領であるが故に周りの皆からも、心配かけないようにと、自由な行動は控えるような言われているのだろう。

現実世界の刀奈もまた、生徒会室にこもって作業を命じられているにも関わらず、虚の監視を掻い潜って生徒会室から出て行っては、学園内のカフェテラスなどでお茶を飲んでいたりしていたが……。

こう言うところは、やはり刀奈なのだなぁと感じてしまった。

 

 

 

「まぁ、そりゃみんなからしたら、姫さんがその組織の要なんだし、そうやって大事にしたがるのもわかるっちゃわかるけど……」

 

「じゃあなに? 私に一生外に出ることを許さず、ただ寝っ転がってろってこと? そんなことしてたら、体にキノコ生えちゃうわよ……」

 

「まぁ、外に出る事自体は悪くないけど、アジトからあまり離れるなって事なんじゃない?」

 

「…………それもそうね。今回はあなたみたいなのと遭遇したことだしぃ〜」

 

「うぅ……なんか妙に含みのある言い方するなぁ……」

 

「ふふっ、ごめんなさい。はぁー……まぁ、あなたが敵じゃないって事は……まぁなんて言うか、なんだかわからないけど、わかったし……」

 

「っ……ありがとう」

 

「なんの『ありがとう』なのよ……? 別に私は、あなたを許したわけじゃないんだからねっ……!や

 

「え? 俺なんかしたっけ?」

 

「お姫様の私に対して、とっても無礼な振る舞いをしたことよ。本来なら、不敬罪で死刑なんだからね」

 

「うわぁ……親子揃ってこれだよ……」

 

「ん? なんか言った?」

 

「いえいえ、なんでもないです……」

 

 

 

 

娘の方は、美に対しての執着心なんてものはないが、やはりこの親にしてこの子ありと言う言葉通りではある。

笑顔でニコニコと笑ってくる姫さんなのだが、その目元は全く笑ってない。

むしろ猫を彷彿とさせるようや鋭い眼光がこちらを捉えていた。

この後、喰われるのではないかと思ってしまうほどに……。

 

 

 

 

「それで、まだあなたの目的を聞いてなかったわね……えっと……」

 

「一夏だ……織斑 一夏。呼びにくければ、一夏だけでいいよ」

 

「わかった。じゃあ、一夏くん……あなたがここにいる目的は、一体なんなの?」

 

 

 

一瞬、刀奈から本名である『一夏』と言う名前を呼ばれたことにドキッとしてしまった。

普段はSAO時代の名前である『チナツ』としか呼んでいないため、改めて呼ばれると、なんだか照れ臭い。

 

 

 

「その、信じてもらえるか、わからないんだけど……」

 

「…………」

 

「ちょっと最初から最後まで、事細かに説明すると、とても長くなりそうだから、少し荒削りで説明させてもらうよ」

 

「まぁ、仕方ないわね」

 

「じゃあ、説明するよ。まず、俺がここにいるのはーーーー」

 

 

 

 

 

それから一夏は、刀奈に対して、ここにいる目的……そして、自分がどのような存在なのかを話した。

この世界とは違う別の世界で、一夏も刀奈も、その他に箒や癒子、静寐、本音、清香たちと一緒に、学生として過ごしていたこと。

そしてこの世界が、敵のトラップによって仕掛けられた仮想世界だと言うこと、刀奈はそこに囚われの身として存在していることを話した。

また、現実世界の情報も話し、IS……《インフィニット・ストラトス》の話や、SAO……《ソードアート・オンライン》と言うVRMMORPGというジャンルのゲームに囚われ、デスゲームと化したその死線を、共に潜り抜けてきたことも……。

当の刀奈は、あまりきも壮大な話に聞こえているのか、あまりピンと来ていないようだった。

 

 

 

 

「ふむ……その、ISっていう物を扱う学園に、私やホウキちゃんたちが通っていて、私たちは同じクラスの生徒というわけね?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「そして、その、仮想世界? っていう場所で、私とあなたは出会って、共に戦って、現実世界に帰還したと……」

 

「うん……その、覚えてないかな?」

 

「………ごめんなさい、さっぱりわからないわ」

 

「そっか……」

 

 

 

 

それはそれで悲しい。

だが今は、刀奈が無事だったことが何よりも嬉しく思う。

 

 

 

「大体の事は話したけど……どうだろう、俺と一緒に、現実世界に帰るってのは……」

 

「悪いけど、それは無理な話ね」

 

「だよな……」

 

 

 

この世界で何が起こっているのか……。

ましてや、白雪姫の物語にして、中々に過激な話になって来ている。

そりゃあ王城があるという事は、そこに王様が居て、その王様を守る騎士がいるのだが、だからと言って、それと真っ向から対峙して戦いを挑む白雪姫なんてあり得ない。

しかし、今目の前にいる刀奈が、その白雪姫であり……その服装は、物語の絵本などで見たことのある姫のドレス姿だ。

 

 

 

「この後、君たちはどうするつもりなんだ? 王様に戦争でも仕掛けるのか?」

 

「そうね……。もともと私がここにいる前に、この反政府勢力は築かれいたみたいだし、そこに私という最大の武器が入った今、彼女たちは王に反旗を翻すでしょうね」

 

「なるほど……。それでも、姫さんはわかるけど、なぜ彼女たちは、女王に反旗を翻すんだ?」

 

「あなた、私のお母様を見たことは?」

 

「あぁ、あるけど………」

 

 

 

王城に強制転移されて、初っ端から出会った人物であり、そして、いきなり死刑宣告を受けたのが自分だとは、とても言えなかった………。

 

 

 

 

「ならわかるでしょう? あの美貌に対する執念深さ……。反政府勢力に加担している子たちはね、みんなお母様によって家を焼かれたり、街から追い出されたりした子達なのよ」

 

「はあっ?! な、なんで……」

 

 

 

 

いくら国の王とはいえ、それはあまりにもやり過ぎだと思った一夏。

しかし、逆に刀奈はため息をつき、首を横に振っていた。

 

 

 

 

「そんなの分かり切ってるじゃない! あの女は、自分の美貌が世界で最も美しいと思ってる。

でもね、人間は歳をとっていく。だから、自分よりも、若くて綺麗な顔をしている子を見ると、あの女は自分の世界一の座を守るために、強制的に排除していたのよっ……!」

 

「うへぇ……」

 

「現に、娘である私だって、世界一の座を奪われたからって殺されそうになったのよ?」

 

 

 

 

そこまでして世界一の座にこだわるものなのか……。

おとぎ話として聞いていた白雪姫の世界。

しかし、もしもそれが現実の世界で、自分もその当事者だった場合、人間が取るべき行動としては、女王の行動も理解はできる。

ましてや、自分が一国の王であることも含めれば、なんの躊躇もなく行動できるだろう。

 

 

 

「だから私たちは決起したのよ……あのバカ女を打ち倒して、誰もが自由に暮らせる国を作ってみせるってね!」

 

 

 

 

確かな覚悟がそこにはあった。

しかし、その話を聞いていた一夏は、目頭を押さえて「うぅ〜ん」と唸っていた。

 

 

 

「な、なによっ!? なんか文句あるわけっ?!」

 

「いや、その……とっても立派な志しではあるんだけど……なんだかなぁ……」

 

「なによ、言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさいよ!」

 

「その、俺の知ってる白雪姫の物語と、あまりにもかけ離れてるからさ……もう、カルチャーショックを受けてる気分なんだ……」

 

「……? なにをわけのわからない事を……」

 

 

 

そりゃあそうだろう。

白雪姫の物語とは言っているが、この世界での白雪姫は刀奈本人なのだ。ならば、自分の物語が違うなどと言われても、全然ピンと来ないだろう……。

 

 

 

「まぁ、というわけで、あなたのお誘いには乗れないわ。私には、私にしかできない事……やらなきゃならないことがあるから……っ!」

 

「っ………」

 

 

 

まっすぐな瞳でこちらを見てくる刀奈。

その目は、やはりというか、なんというか……。

SAO時代からずっと見てきた目だった。

強く、しなやかに……そんな言葉が似合うような目。

攻略組として、騎士団の副団長として、隠密部隊の筆頭として、人々を導いてきた彼女だからこそできる目だった。

 

 

 

(やっぱり、世界が違っても、刀奈は刀奈なんだな……)

 

 

 

そのことが、一夏自身、とっても嬉しかった。

だからこそ、一夏もここで覚悟を決める。

 

 

 

「そっか……確かに、一国に喧嘩を売るとなっちゃ、一大事だよな」

 

「そういうこと」

 

「じゃあさ、俺もその反政府勢力に入れてくれないか?」

 

「は?」

 

 

 

一夏の言葉に、刀奈は素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

「えっと、なにを言ってるの、あなた……?」

 

「言葉通りの意味だけど? 俺も、姫さんの下に付かせて欲しいって言ってるんだよ」

 

「…………あなたが私たちの仲間になって、一体どんな得があるっていうのよ……」

 

「得とか、そんなんじゃないんだ……。ただ俺は、君を助けに来た。

この世界から君を連れ出して、現実世界に帰還することが、俺の目的であり、この世界に来た理由だ。

でも、このままでは君と一緒に帰れそうにないんだろう?」

 

「ええ……。だから悪いけど、あなたには一人で帰ってもらうわ」

 

「それはできない。君が一緒じゃなきゃ、全くもって意味がないんだ」

 

「っ…………」

 

 

 

 

どこまでが本心なのか……?

こんな言葉を、こんなに真っ直ぐに言ってくる一夏に、刀奈は疑問を抱いた。

この少年は、一体なにを企んでいるのか……と。

しかし、一夏の瞳はどこまでも澄み切っていた……淀みのない、綺麗な瞳。

そんな瞳を、ずっと刀奈に向けている。

 

 

 

「はっ……そ、そんなこと言ったって、私は簡単には信用しないわよっ!?」

 

「ええっ?!」

 

「あ、当たり前じゃない! あなたにとって、私がどういう存在なのかはわからないけど、私には、あなたが何者なのかもわかんないだし……そもそも初対面でいきなり一緒に帰ろうとか言われても……」

 

 

 

 

後半の言葉は、何故だかゴニョゴニョと口籠もったような言い方をした為、一夏には聞こえなかった。

何故だろう……一夏の瞳、一夏の声、一夏の言葉……それらを見聞きしているだけで、少し鼓動が速くなるのを感じる。

いや、鼓動だけじゃない……体が火照る様に熱くなるのだ。

 

 

 

(私ったら、一体どうしちゃったんだろう……っ?)

 

 

 

この現象がなんなのかはともかく、目の前にいる少年は、否が応でも付いてくるようだった。

 

 

 

「はぁ……わかったわ。あなたも、そこそこ腕は立つようだし、王城攻略の際には役立ってもらうからね?」

 

「うーん……まぁ、できるだけ穏便に済ませれるなら、それに越したことはないけどな」

 

「なにを甘いこと言ってんのよ! そんなんじゃ、敵を倒すどころか、味方を守れないじゃない!」

 

「まぁ、それはそうなんだけどさ……それでも、流れる血は、少ない方がいいはずだよ……それが、どんな人間の血であってもね……」

 

 

 

 

たとえどんな敵であったとしても、人の命を絶ち続けていけば、今度は自分が人の道から外れてしまう。

正義も悪もない……ただ純粋に剣をとって、刃と刃が交錯する刹那の瞬間で、命のやり取りをする。

勝者が生き、敗者が死ぬ……つまりは、強ければ生き、弱ければ死ぬ。弱肉強食の世界の体現。

同じ人でありながらも、他人から色々と奪っていく獣……いや、怪物。

その名は………『鬼』または『夜叉』だ。

 

 

 

 

「はぁ……まぁ、あなたの言葉にも、一理はあるわけだし……」

 

「っ……それじゃあ!」

 

「なるべく戦闘は避ける。確かに流れる血は、少ない方がいいものね」

 

「ああ……。えっと、改めまして、織斑 一夏だ。俺のことは、一夏って呼んでくれよ」

 

「一夏くんでいいわよね? 私は白雪姫。呼び方はご自由に」

 

「あぁ……よろしく、姫さん」

 

 

 

 

一応、仮ではあるが、刀奈には認めてもらえたようだ。

その後二人は、反政府勢力《ダイヤモンドダスト・リベレーター》のアジトへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 






次回もおそらくは白雪姫の話になると思います。

余裕があれば、キリトとサチの戦いの模様を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

感想お待ちしております(⌒▽⌒)


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