ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は完全に一夏に注目したストーリーです。




第101話 白雪姫の世界Ⅱ

とある世界の、とある街にて、一人の少年がその街を歩いて、いろいろと探っていた。

この世界のどこかにいるであろう、自分の恋人を救うために、少年、一夏は、この世界のことについての情報を集め回っていたのだ。

 

 

 

 

「すみませーん。ちょっと聞きたいことがあるんですけどぉ」

 

「はあーい!」

 

 

 

 

一夏は先ほど、八百屋の少女ユコからこの世界のことについての情報を少しばかり入手してきた。

この世界は、白雪姫の物語を基盤にして構築された世界であり、そこの女王は、なんとIS学園で一夏が所属している一年一組の副担任である山田 真耶である事が判明。

そして、物語のストーリー通りに、女王は美に対して異様なほどの執着を見せており、娘の白雪姫を殺そうとした。

しかし、白雪姫は脱走し、城から姿を消したとの事……。しかしそれが、ごく最近のことではなく、二年前の出来事であると言うのだ。

そして、この世界には、原作の白雪姫の物語には存在しない国家に対して強く反発している反政府勢力があるようだ。

名前は《ダイヤモンドダスト・リベレーター》と言うらしい……。

なんとも厨二くさい名前だが、物語としてはアリなのではないかと、ここは大目に見ておこう……。

しかし、それだけではまだ情報不足な為、容易に動くことは出来ないだろう。

ならばと、一夏はまた別のお店に行った。

そこはどうやら花屋のようで、店の外には色とりどりの様々な花が飾ってある。

そして、一夏の呼び出しに、店主が出てきた。

またしても、声の主は女の人。

そしてまたしても声が若い上に、どこかで聞いたような声……。

 

 

 

(この声……どこかで……いやいや、まさか……)

 

「いらっしゃませ♪」

 

(あっはぁーー……。やっぱりぃ〜〜……)

 

 

 

青みがかった短髪の少女。

左側の前髪にピンクのヘヤピンをした、真面目そうな雰囲気の女の子だ。

その少女の顔も、一夏はよく知っている。

クラスの中でも真面目な生徒であり、もっぱら一夏よりも、クラス代表……クラス委員長としての資格を持っているのではないかと思うほどだ。

戦闘能力の話ではなく、学校のクラス委員長って、こんな子がやってるよなぁ〜と感じる雰囲気。

そんな雰囲気を持つ少女が、白いワイシャツに青いジーンズというオーソドックスな服装に付け加え、Flower Shopというロゴの入った茶色のエプロンを着けて現れた。

 

 

 

 

「えっと、鷹月さん? 何やってるの、こんなところで……?」

 

「タ、カツキ? すみません、私の名前はシズネなんですが……」

 

「あぁ、こっちも名前はそのまんまなのね……」

 

「は、はい?」

 

「あぁ、気にしないでくれ、こっちの話だ」

 

 

 

 

なんだか、このやり取りをさっきもやったような……。

しかし、やはり名前は現実世界と同じだ。

だが、名字はなく、ただ名前があるだけ……。これではまるで、RPGのキャラクターネームのようでは……?

 

 

 

「何かお探しですか?」

 

「あぁ、いや……その買いに来たんじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあってさ」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

 

やはり仮想世界でも、鷹月さんは鷹月さんだった。

真面目にこちらの話を聞き、自分に答えられるものはないかと、真剣に考えてくれている。

やはり一番聞きたいのは、反政府勢力となっている集団のことだ。

 

 

「確かに、そんな名前のレジスタンスがあるのは聞いたことがありますね……」

 

「その集団が、どの辺りに潜伏しているとか、わからないか?」

 

「さ、流石にそこまではわかりませんよっ……! だって私、花屋ですもん」

 

 

 

確かにその通りではあるな。

両手と首を横に振って否定するシズネ。

やはり真面目で頑張り屋さんだ……。

 

 

 

「わかった。ありがとな……その、機会があれば、ここの花を買っていくよ」

 

「本当ですかっ!? その時は、とっておきのをご用意しておきますね♪」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

 

 

満面の笑みを浮かべてくるシズネ。

うん……いつもは刀奈や明日奈という完璧超人な感じの二人や、箒や鈴、セシリア、シャル、ラウラ……それに簪も含めて、個性豊かな代表候補生たちに囲まれているから分かりづらいが、鷹月さんの様な優しくて真面目なタイプの女の子が、学校ではモテまくるんだろうなぁと、一夏はふと思い起こした。

 

 

 

「さて……他に誰か情報を持ってないものか…………」

 

 

 

流石にこのままというわけには行かない。

ここは王城に最も近い街であるため、兵士たちの行き来は多い。

ましてや砦まで建造されている場所であるため、最悪の場合この場で囲まれる可能性がある。

主に女王に無礼を働いたという嫌疑で……。

そんなことをすれば、最悪打ち首決定だろう。

 

 

 

「やっぱ……普通の一般市民にはわからない事だよなぁ……」

 

 

となれば、この手の政治的な物は、国の物に関わっている人物たちから聞くしかないだろう。

それは無論、兵士たちの事だが、そう簡単には教えてはくれないだろう。

「うーん」と一夏が唸っていると、またしても大きな女の子の声が聞こえて来た。

 

 

 

「はいはーいっ! 騎士団のみなさーん! 武器の手入れはお済みですか〜?

今なら金貨三枚でっ! お手入れ致しまーすッ!!!!」

 

「このハツラツとした元気な声は……」

 

 

 

もうここまでくると、流石に驚きもしなくなる。

この声を、一夏はおそらく一番よく耳にしていると思うからだ。

 

 

 

「あっ! そこの旅のお方っ! 武器のお手入れはどうですか〜〜??!」

 

「相川さん……あぁ、いや……ここだとキヨカさんで良いのかな?」

 

「ふえっ?! なんで私の名前をっ……!!?」

 

 

 

だろうな……。

一夏は「はぁ……」とため息を一回。

どうやらここには、普通に存在するNPCの様な者たちも居れば、現実世界で一組のクラスメイトとして一緒に過ごしている面々も居るようだ。

これが一体どういう仕組みなのかはわからないが、囚われている刀奈の深層意識から呼び出して作ったものなのか、それとも、一夏自身の深層意識からも抽出しているのか……。

こんなことが出来るとなると、それが出来る者というのは、相当な科学力を持った人物か、超能力者に限られてくるだろう。

 

 

 

「あ、あのぉ〜?」

 

「あぁ、ごめん。えっと、君が俺の知り合いに似ていたからさ……まさか、名前も同じだったとは、ビックリしたよ」

 

「あぁ、そうなんですねぇ〜♪ いやぁ〜、ビックリしたぁ〜! それで、旅のお方旅のお方! 武器のお手入れはよろしかったですか?」

 

「あぁ、いやその……そのまで使い込んではないし、俺、今お金がないんだ……」

 

「なぁーんだ。文無しかぁ〜」

 

 

 

わかりやすいくらいに落ち込むキヨカ。

まぁ、現実の相川さんも似たようなもんだったか……。

 

 

 

「てっきりお金持ってる方だと思ったのにぃ〜」

 

「それはすまんな。でも、なんでそんな風に思ったんだ?」

 

「だって、そんな珍しい武器をもっているんだもん! 武器屋の人からしたら、絶対にそう思うってっ!」

 

「珍しい武器?」

 

 

一夏自身が持っている武器といえば、腰に差している直刀くらいのものだが……。

 

 

「この刀が、そんなに珍しいのか?」

 

「うん。だって、基本的に騎士や兵士の人たちが持ってる武器よりは細いじゃん?

それなのに細剣ってわけじゃないしぃ〜、こんな剣を見たことないし……。

この辺りでも見たことないってことは、他国から持って来たものなんじゃないかなぁ〜って!」

 

 

 

確かに、刀は中国、日本で発展している武器だ。

ここが中世ヨーロッパ調の国であるならば、基本的な武器は両刃の剣がメインだ。

それをわざわざ異国の剣を差して歩いている人物がいるなら、商人たちは黙って見過ごすわけもないか……。

 

 

 

「あぁ……まぁ、これはなんていうか、貰いもんだからさ。こいつの価値がどこまであるかは、俺にもわからない」

 

 

 

嘘だ。

これはついさっきいた王城で、武器庫に勝手に入って、勝手に拝借して来たものだ。

王城にあったと言うことは、それなりの価値があるものだろう。

あるいは、骨董品扱いでついでに買われた可能性もあるが、まぁ、王城に勤めている兵士たちが使うものなのだから、鈍な物とは思えないだろう。

 

 

 

「そうなんだぁー」

 

「ところでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

「なになに〜?」

 

「この辺りって、反政府勢力からの攻撃とか受けないのか? なんか、ここに来る間に、そう言う勢力がいるって聞いたんだけど」

 

「ああ〜、その話ね。まぁ、確かに話には聞くけど、流石にここを落とそうって考えるほど、馬鹿じゃないんじゃない?

だって、ほとんど城の目の前って言っても、ここには国の戦力が固まってるわけだしさぁ」

 

「まぁ、それもそうだな……」

 

 

 

しかし、ここにいるのは何も兵士だけではない。

なんの変哲も無い一般人だっているんだ。その気になれば、一般人に扮して、情報を引き出そうとしている輩だっていないわけでは無いだろう。

ましてやこうやって、一夏も情報を集めているわけで……。

 

 

 

「でも、どうしてそんなことを聞いて来るの?」

 

「えっ? いやまぁ、その……しばらくはここに滞在しようかなぁ〜って考えてたときに、その話を聞いちゃってさ……。

大丈夫かなぁ〜なんて、思っちゃたんだよ……」

 

「まぁ、そうだよねぇ〜。にしても珍しい武器だよねぇ〜〜♪」

 

 

話が終わると、今度は一夏が腰に差している刀が気になるのか、キヨカは興味津々と言った顔でこちらを見て来る。

 

 

「………」

 

「〜〜〜〜♪♪♪」

 

「少しだけなら……」

 

「イッエェーーイッ!!!」

 

 

 

ほんと、いつ何時でも元気だ。

キヨカは一夏から武器を受け取ると、鞘から抜いて、その刀身をまじまじと見つめた。

 

 

 

「ほおぉぉ〜〜!! 凄いっ! 剣とはまた違う美しさがある!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うんうん! 私の目に狂いはないよ!」

 

 

一体どれほどの審美眼を持っているのかは、本人のみぞ知る事なので、あまり追求はしないでおこう。

 

 

「ホンネェ〜! 見て見てぇ! この剣凄くないっ!?」

 

「ホンネ?」

 

「ああ〜。このお店、私以外に、鍛冶師のおっちゃんと、私の友達のホンネかいるんだよ!」

 

「ホンネ……ねぇ……」

 

 

 

もう驚かない。

ここまで来たのなら、もうここで出て来る人物はわかってしまった。

 

 

 

「ほお〜!? これは見た事ないねぇ〜……!」

 

「のほほんさんまで……」

 

 

 

のほほんさん。

無論、これが名前ではない。

本名を布仏 本音という。

縮めて読めば、本当に『のほほん』になるから驚きだ。

 

 

 

「おぉ〜? なんで私の愛称知ってるのぉ〜?」

 

「ここでも愛称は『のほほんさん』なのかよっ!?」

 

「うん〜。いっつものんびりしてるねぇ〜って言われるからぁ〜」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 

ここでものほほんさんはのほほんさんらしい。

なんか、これもさっき言ったような……こんなすぐに来るデジャブはあるのだろうか……。

 

 

 

「でもでもぉ〜、本当に珍しいねぇ〜この剣。多分、東方の異国の武器だと思うよぉ〜?」

 

「やっぱりっ!? 凄くないっ!?」

 

「うんうん〜! 初めて見たよぉ〜!」

 

 

 

 

何やら大興奮の二人。

まぁ、現実世界でも仲良しな二人だから、見ていて和むものはあるな。

 

 

 

「あ、そういえば、お兄さんってレジスタンスのこと知りたがってたっけ?」

 

「え? あ、あぁ……」

 

「ホンネ、あんたそう言えば、レジスタンスのメンバーらしき人物を見たって言ってなかったけ?」

 

「おう?」

 

「本当かっ、それっ!?」

 

「えぇ〜とぉ〜……うん、多分ねぇ〜」

 

「た、多分?」

 

「遠目からだったからわかんなかったけど〜、でも、多分そうなんじゃないかなぁ〜って」

 

 

 

ホンネは「う〜ん」と考え込むように頭を捻る。

その者たちがどのような格好で何を企んでその場にいたのかはわからないが、まぁ、国に対抗しようと言うのなら、きっとそれなりの準備などをしていたに違いない。

この国の重要人物である白雪姫がどこかへと消え、代わりに国家に対抗する組織が現れたのは、なんらかの力が作用していると思う。

もしも……仮に、刀奈が白雪姫だと断定したとして、あの刀奈が、素直に母親に殺されるようなひ弱なお姫様に見えるだろうか?

いや、それはないと断言したい。

ならば、その組織が白雪姫の消失と関係があるのなら、この上ない手がかりになるはず……。

 

 

 

「なぁ、のほほんさん。その連中を見たって場所はどこなんだ?」

 

「ほえっ? えっとぉ〜……確か、西の森に入って言った辺りだったかな?」

 

「西か……」

 

「もしかして行くのぉ〜? やめておいた方がいいんじゃなぁ〜い?」

 

「いや、ちょっと会って確かめたいことがあるだ。忠告はしっかり受け取っておくよ」

 

「う〜ん、だといいけど……」

 

「よし……と言うわけで、その武器を返してもらえるかな、キヨカさん?」

 

「えっ?! あぁ、ごめんなさい♪」

 

 

 

笑顔で謝るキヨカ。

なんとも爽やかな笑顔だ。

一夏はキヨカから刀を受け取り、それを腰に差して、急いで西の森の方面へと走って行った。

 

 

 

(もしも、その反政府勢力のリーダーが白雪姫で、その正体が刀奈だったとしたら、刀奈を救出するチャンスが一気に大きくなる……っ!)

 

 

 

逸る気持ちが抑えられない……と言った感じだった。

頭では冷静にならなければと思っちゃいるが、どうにも体は言うことを聞かない。

それだけ刀奈が、愛する恋人が心配でならなかった。

一夏は森に入り、街道を走り抜けた。

途中で砦に戻って行く兵士たちに出会いそうになり、森に入って身を潜めたりなどをして、さらに奥深くに入って行く。

 

 

 

(だいぶ奥には入ってきたが……やはり早々に会えるわけないか……?)

 

 

 

途中で見つけた月明かりがさす場所で一旦休憩し、装備品の確認をする。

と言っても、刀一本に、薄汚れたローブが一枚だけなのだが……。

確かにキヨカとホンネが言っていた通り、この刀は良いものであるのは間違いないと、一夏は感じていた。

手に馴染む感覚と、使いやすさが一番の利点だ。

鍔が無いことを考えるとそもそも受け太刀をあまりしないように設計された刀なのかもしれない。

だがまぁ、そんな刀ならば、一夏には好都合ではある。

直刀であるため、本領発揮とまではいかなくとも、抜刀術は可能だ。

 

 

 

 

「っ………?」

 

 

 

何かの気配を感じた。

初めは野生の動物なのかとも思ったが、ここまできて、一度も動物に見てない。

まぁ、人が多く住み着いている場所の近くであるため、いないのはわかるが、だが、あまりにも少な過ぎる。

それに、どこからか感じる殺気にも似た気配……。まだこちらに仕掛けてくる様子はないが、それも時間の問題だろう。

辺りは日が少し傾いてきていて、今いる森も緑が生い茂っているため、日当たりが悪いところはたくさんある。

もしもこのまま夜になれば……。

 

 

 

「久しぶりに、本気にならなきゃいけないかな……」

 

 

 

鋭い目つきに変わった一夏。

かつての感覚が体中を稲妻のように走る。

闇の中での剣戟は、過去には何度も経験した事だったが、それももう忘れていた。

表舞台に立つようになって、そして現実世界に帰還してからは、ISという最強の剣と盾を得た。

それに、システムによるアシストが多彩であり、何度となく助けられているため、かつての自分からすれば、あらゆる技術が錆びついて来ていたはず……。

だからこそ、今戻した昔の感覚は、ある意味では自分への戒めになったのかもしれない。

 

 

 

(さて、どうするかな……。とりあえず、こっちから動かないことには……!)

 

 

 

 

一夏はとっさに走り出した。

森の奥へと何の躊躇もなく入っていく。

そして、そんな一夏を逃すまいと、後ろから追いかけてくる気配が……。

 

 

 

(一、二………三人? いや、四人か……それにしても、俺の速度について来られるとはな……)

 

 

 

感じ取れる気配は四つ。

三人は一夏との距離を等間隔で開けているが、最後の四人目は大きく離れている。

そして、四人目からは殺気の様なものは感じない。

一体何者なのかが気になるところだが、今はそれよりも、この追跡を振り切るか、あるいは迎え撃つのか……それについて考えなければならない。

 

 

 

(この森の中で、開けた場所に行ければっ……!)

 

 

 

もうどれくらい走っただろうか。

街道を抜けて、森の中に入ったりしながら走っているため、もう500メートル以上は走っているはずだ。

だが、相手からは一向に攻撃が来ない。

何かを狙っているのか、それとも………。

 

 

 

「っ! あれは……」

 

 

 

目の前に現れた月明かりが照らされている地点……それにわかりやすく大きな一本の巨木がある。

 

 

 

「やべぇ……誘われたかな?」

 

 

 

誘導されているつもりはなかったのだが、ここまでくると出来過ぎな感じがしてならない。

おそらく、この西の森に行くこと自体が、罠だった可能がある。

 

 

 

「ちっ、やられちゃったなぁ〜。だがまぁ、相手がその気なら、こっちだって正当防衛を取らせてもらうだけだがな……!」

 

 

 

一夏は刀を抜き、巨木の元へと駆けていった。

そして、月明かりが一夏の体を照らしたのとほぼ同時に、一夏の背中に向けて、何かが飛んで来た。

 

 

 

「っ!」

 

 

一夏は咄嗟に振り向き、飛来してくる物を全て刀で弾き飛ばした。

そのうちの一本が、月明かりに照らされた地面に突き刺さる。

再来して来たもの……それは『苦無』だった。

 

 

 

「頭と心臓を狙ってきてたな……中々にいい狙いしてる。単なる素人って言うわけでもなさそうだな」

 

 

 

闇討ちは日常の様なものだった。

だから別に卑怯だとは思はないが、何もしてないのに一方的に襲われるのは、あまり気分がいいとは言えない。

次が来るのでは? と警戒していると、今度は大きな影が飛来してきた。

さっさに視線をそちらに向けると、そこに居たのは、全身を覆い隠す様に着込んだ服装をした暗殺者だった。

 

 

 

「はあっ!!」

 

「っ!」

 

 

 

一夏はその暗殺者の斬撃を躱し、ガラ空きになっていた背中に向けて一太刀入れようとした。

が、それを阻む様に、左から矢が飛んできた。

 

 

 

(こうなる流れを読んでいた……? 連携も中々だな)

 

 

 

常に攻撃するのは、相手の死角から。

そして、同時に射線上には絶対に入らない。

徹底的に訓練を受けている熟練者と大差ない動きをしている。

後からやってきていた四人目の存在が気になるが、今はそれに構っている余裕はなさそうだ。

 

 

 

「おおっ!!」

 

「ちっ!」

 

 

 

逆手に持っている少し短めの剣を振るう暗殺者。

長過ぎず、短過ぎない程度の剣だ。

それを逆手に持って、一夏の急所を容赦無く狙って来る。

が、それをやすやすと受ける一夏でもない。

躱せるものは躱して、受けるのではなく受け流す。

相手からすれば、攻撃しているのに、一向に攻撃が当たらないように感じているはずだ。

 

 

 

「くっ!?」

 

「お前らは、一体何者だっ!!」

 

 

 

銀閃が一筋入る。

カウンターの要領で入れた一撃が、暗殺者の顔下半分を覆っていた覆面を斬り裂いた。

突如として露出する素顔。

それを見た瞬間、一夏はさらなる驚きを覚えた。

 

 

 

「なっ!? き、君はっ……!」

 

「くっ、バレたっ!?」

 

 

 

一夏の表情と声に、我に帰った暗殺者。

ようやく自分の素顔が晒されていることに気がついたようだ。

 

 

 

「そんなっ……だって、さっきっ……!?」

 

 

 

信じられない……そう言う言葉しか、今は出てこなかった。

 

 

 

「……なるほど。やっぱり、あの時すでに俺を罠に嵌めていたのか……相川さん、いや、キヨカさん」

 

「っ…………!」

 

 

 

その顔はよく知っていた。

なんせ、つい先ほど会ったばかりなのだから。

ならば、今襲いかかってきている人物たちも、遅れてやってきた人物も……。

 

 

 

 

「ほわぁ〜〜! キヨちゃん達走るの速いよぉ〜〜!」

 

「ホンネが遅いだけでしょう?」

 

「むぅ〜! ひどいよユっちゃん……」

 

「まぁまぁ、ここまで走って来られただけでも、成長はしているんじゃないかな?」

 

「はあ〜〜……シズちゃんは優しいなぁ〜♪」

 

 

 

遅れてやってきたのがホンネ。

そして、弓で狙ってきていたのがシズネで、苦無を投げてきたのがユコということになる。

三人とも服装はそれなりに違いはあるが、やはり顔は隠している。

まるで時代劇に出て来る忍ような姿を彷彿とさせる。

 

 

 

 

「さて、襲いかかってきたのはやっぱり、俺がレジスタンスの事を聞いて回っていたからなんだろ?」

 

「そうだよ。君は、強い……っ! あの街で話していた時から感じてたし、今こうして戦っていても感じてる……あなたは、他の騎士の連中なんかと比べ物にならないくらいに強いってことが……っ!」

 

「買いかぶりすぎだよ……。俺はそんな大層なもんじゃない……ただの流浪人だからな」

 

「ただの旅人が、私たちの猛攻を受けて無事でいられるわけないじゃない!!」

 

「確かに……私の攻撃なんて、全部弾かれてたし」

 

「私のも、矢を避けてた。完璧に死角から突いたと思ってたんだけどなぁ」

 

 

 

キヨカの意見に同調するようにして、ユコ、シズネまでも参戦して来る。

一方、走ってきたばかりのホンネは、まだ荒い息を整えるのに苦労していた。

 

 

 

「どこの誰だかはわからないけど、顔を見られたからには、生かして返すわけにもいかなくなったわ!」

 

「申し訳ないけど、ここでおとなしく倒れてください!」

 

「是非は問わないわっ! あなたの答えは、『はい』か『YES』かのどっちかよ!」

 

「もうどっちも『はい』じゃん……」

 

「そう言ってるんだよっ!」

 

 

 

キヨカが再び斬り込んで来る。

一夏はそれを受けて、鍔迫り合いに持ち込むが、キヨカは即座に自分から距離をとった。

そしてその瞬間を、シズネは逃さない。

十分に引き絞っていた弓の弦を話した。

接近してからの矢の射出の為、思った以上に矢の到達が速い。

一夏はギリギリでそれを躱し、真横に飛び退く。

体を側転させて体勢を立て直すが、それを黙って見ているユコではない。

 

 

 

「もらったあっ!!」

 

「くっ!」

 

 

 

どこから取り出したのか、細い剣を六本。

それぞれ両手に三本ずつ、指と指の間に挟んで扱っている。

刃渡りおよそ80センチほど。

十字架を模したような作りの細剣のような武器だ。

それを持ってして、一夏に勢いよく斬り込んで来る。

 

 

 

「くううっ!!」

 

「チィッ……!」

 

「シズちゃんっ!」

 

「っ!?」

 

「そこですっ!」

 

 

 

突如ユコが飛び退いたと思いきや、その背後から矢が飛んできた。

ユコが一夏の注意を引きつけている間に、シズネがユコの背後に回っていたのだ。

このような対人連携を、ここまでつつがなくやってのけるのは、相当な訓練と状況判断能力の高さがなければ、まず難しいだろう。

一夏はその矢を体を放って避ける。

そして、着地したと思いきや、今度はキヨカが剣をまっすぐ一夏に向けた状態で、思いっきり突っ込んできた。

 

 

 

「覚悟おおおおっ!!」

 

 

 

切っ先を一夏の胸部に向かって突き放った。

だが、キヨカの視界から、一瞬にして一夏の姿が消えた。

 

 

 

「あれっ?!」

 

 

 

あり得るはずはなかった。

一夏とキヨカ距離は、そう離れてはいなかったはずだ。

なのに、目の前だけではなく、自分の確認できる視界全てからいなくなっている。

一瞬のことで驚きを隠せないキヨカ。

しかしそんな彼女に、ユコの言葉が響く。

 

 

 

「キヨカっ、後ろっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

いつの間にか、背後へと回っていた一夏。

体勢は悪いが、今ならば体を捻って一撃を入れられる……。

そう思い、キヨカは前に倒れようとする体を無理やり踏ん張って留まり、腰の回転を使って、渾身の一撃を放った。

 

 

 

「悪いな……ちょっと我慢してくれよっ……!」

 

「っ!!?」

 

 

 

放った一撃は、パカァーン! という音を立てて止められていた。

しかし、一夏は刀を使ったわけではなく、その刀を納めていた鞘で受け止めていたのだ。

咄嗟に腰に差していた鞘を左手で掴んで、キヨカの斬撃に合わせたのだ。

そして、そのままキヨカの斬撃を払いのけ、隙の生じたキヨカの左肩めがけて、刀を一閃した。

 

 

 

「《双龍閃・雷》ッ!」

 

「ぐはぁっ!!?」

 

 

 

肩から全身にかけて、重い一撃を食らってしまったキヨカは、その場に倒れこむ。

気絶しない程度に力を抑えたし、峰打ちのため、死ぬようなことはないのだが、やはりクラスメイトを刀で叩くのは、気が引けてしまう。

 

 

 

「キヨカっ!? このぉっ!」

 

「待ってユコちゃんっ!?」

 

「だあああっ!!!」

 

 

 

シズネの制止も聞かずに、ユコは一撃に斬りかかった。

しかし、連携をとって、背後からの襲撃ならばいざ知らず、真っ正面から一夏とやりあって、勝てるわけもなかった。

 

 

 

「《龍巣閃》ッ!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 

ユコに対しては乱撃技で対抗する。

ユコの持っていた六剣を弾き飛ばして、そのままユコ自身も弾き飛ばした。

これもまた峰打ちのため、死んではいないが、仰向けに倒れたユコは起き上がろうとしようにも一夏からもらった打撃に苦痛の表情を浮かべ、まともに起き上がれない。

そんなユコを尻目に、今度は怯えているホンネと、そのホンネを守ろうと、ホンネを背にして、弓に矢をつがえて構えているシズネに視線を向ける。

 

 

「っ〜〜〜!!!」

 

「はわわわ……っ!」

 

「………待ってくれよ。俺は、ここに戦うために来たんじゃないんだ」

 

「っ……その言葉を信じろって言うの? キヨカちゃんとユコちゃんを痛めつけておいて……っ!」

 

「そうしないと、話を聞いてくれないだろう? 大丈夫だよ……峰打ちだから斬ってはいないし、手加減もしたから、打撲程度には済んでいるはずだ」

 

「だ、だからってっ!!」

 

「そっちが何もしなければ、俺だって何もしないってっ!」

 

 

 

 

一夏はなんとかシズネたちを落ち着かせようと説得を試みるが、完全に警戒されてしまっているため、話を聞いてくれそうにない。

どう来たものかと悩んでいると、再び、一夏の背後から気配を感じた。

 

 

 

 

「なるほど、キヨカたちの帰りが遅いと思ったら……」

 

 

 

 

月明かり差すその場所に、凛とした引き締まった声が響いた。

その声は、敵意を表しているような感じを含んでおり、おそらくキヨカたちを打ちのめした事を不快に思っているのだろうとわかる。

しかし、問題はそこではない。

またしても、その場に響いた声は、一夏のよく知る人物の物だったのだ。

 

 

 

「おいおいっ……マジかよ、なんでお前まで……っ!?」

 

 

 

後ろを振り向いて、一夏は息を飲んだ。

その場にゆっくりと現れた人物。

艶やかな黒い長い髪を、白いリボンでポニーテールに結って、武士さながらな佇まいを持ち合わせている少女。

その他には、流麗な刃紋が浮かぶ見事な業物の日本刀。

黒いズボンに白いコートと、明治維新以前の侍たちの様な装いをした武士が、ゆっくりと月明かりに照らされて、現れたのだ。

 

 

 

「キヨカ、ユコ、シズネ……お前たちは下がっていろ。この男は、私が相手する……っ!!!」

 

 

 

ゆっくりと刀を構える少女。

その構えはいつもの様な剣道の時の様な正眼の構えではなく、実戦的な剣術の型を取り入れた八相の構え。

切っ先が空に向かって伸ばされる……その美しい刀身に、月明かりの綺麗な光が反射して、その光景は、絵画にもできそうなほど美しい光景だった。

 

 

 

「箒っ……!!!」

 

「行くぞ、不逞の輩っ……私の仲間を傷つけた事に対する報いは、私が倍返しにしてやろうッーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

大地を蹴り、一気に一夏へと接近していく箒。

一夏の意識は一気に戦闘モードへと戻り、刀を正眼に構えた。

 

 

 

 

「おおおおおっ!!!」

 

「っーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




この話は、予想だとあと二、三話くらいは続くかもです。
もしかしたら、それ以上になるかもですが……(´;ω;`)

ぼちぼちキリトたちの戦闘も終わらせて、ワールドパージ編の完結に向かいたいところです。


感想よろしくお願いします^_^


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