ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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ようやく、ソードアート・ストラトス、第100話の更新です(^ ^)

いつの間にかここまで来ていたなぁ〜と実感しています^ ^




第100話 白雪姫の世界Ⅰ

「はっ……はははっ……!」

 

 

レーナの口から、不思議と笑みが溢れていた。

 

 

 

「凄いっ……! 凄いっスよ、アスナさんっ!」

 

 

 

高揚した感情を全身から溢れんばかりにあらわにするレーナ。

その視線の先には、『二次移行』を終え、新たな姿となって現れたIS《閃姫》と、それを纏う明日奈がいた。

 

 

 

「わっははっ! 凄い凄いっ! ISの形態移行をこんな時にこんな場面で見れるなんてっ……!

自分はほんと運が良かったっスよっ!!!!」

 

 

 

まるで子供のようなはしゃぎっぷりだ。

だが、そんな言葉に耳を傾けることなく、明日奈はただ、レーナを見ているだけだった。

新たな剣……《トライジェントライト》を左右に振ると、勢いそのままに斬りかかる。

 

 

 

「なんスかなんスかっ?! なんで無言で斬りつけに来るんすかっ?!」

 

「悪いけど、あなたに構うつもりはもうないわ。速攻で終わらせて、私は学園に戻る……っ!」

 

「あっははぁー!! つれないこと言わないでくださいよぉ〜! これからじゃないっスかっ!!!!」

 

 

 

レーナはビームサーベルを展開すると、明日奈に向かって真っ向勝負を挑んだ。

新調された《トライジェントライト》の刀身はとても鋭利な刃になっているみたいで、ビームサーベルの出力が少しでも落ちたのなら、たやすく斬り刻まれていることだろう。

そしてよくよく見ると、刃の表面が細かく揺れているようにも見えるのだ。

 

 

 

「この振動しているのはっ……!」

 

「この《トライジェントライト》は、エネルギーを纏って、超過振動波の刃を作れるの。

並大抵のものならあっさり斬れるわよ?」

 

「っ……!」

 

 

 

明日奈の眼を見るに、おそらく嘘は言っていないのだろう。

そう感じた瞬間に、レーナにも危機感のようなものが芽生えた。

このままでは、確実に明日奈に斬り刻まれてしまう。

今はまだ対応できるが、彼女がソードスキルを使ったのなら、連撃に優れた細剣のソードスキルは、ある意味脅威だ。

さすがのレーナでも、連撃タイプのソードスキル全てに対応するのは難しい。

 

 

 

「じゃあ、そんなおっかない武器は、使わせない方が安全んっスよねッ!!!」

 

 

 

レーナは強引に明日奈を弾き飛ばすと、マキシマムカノンの砲身を動かす。

ビームサーベルを格納し、代わりにライフルを展開すると、ライフルを連射して、明日奈との距離をさらに開けた。

 

 

 

 

「形態移行しようとも、遠距離装備がなきゃ、近づけないっしょッ!!」

 

「それはどうかしらっ!!」

 

 

 

明日奈は上空へと上がり、レーナの射撃を躱した。

 

 

 

「ブースター、オンッ!」

 

 

 

《閃姫》のアンロック・ユニット……新たに出現した可変式大型イオンブースター。

細長い長方体型のブースターが大きく開くと、横に飛行機の羽根のようなものがスライドして現れる。

そして次の瞬間、大量の炎が噴き出る。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

突如、明日奈の体を途轍もないGが襲った。

 

 

 

(これは、想像以上に来るなぁ……っ!)

 

 

ISからの情報は入って来てはいた。

しかし、情報から得た物と、実際に受けている感覚は別のものだ。

想像以上の衝撃に顔をしかめながらも、明日奈は歯を食いしばり、レーナを視界に捉えた。

 

 

 

「途轍もない速さっスねっ……! だけど、だから何だって言うんスかッ!」

 

 

 

レーナは明日奈に狙いを定めて、高速で連射していく。

放たれた粒子ビームは、多数明日奈に向かって飛んでいく。

しかも今は高速機動中のため、躱すのは容易ではないはず……だった。

 

 

 

「《閃姫》ッ!」

 

「っ………!!?」

 

 

 

飛んでくる多数の粒子ビーム。

明日奈はそれを、躱すのではなく、あえて突っ込んで行ったのだ。

レーナはその行動に驚きを隠せないでいた。

しかし、さらに驚くこととなった。

《閃姫》のイオンブースター、そして、体の各所にあるセンサーブレードが動くことで、高速機動中にも関わらず、急な方向転換を行なったのだ。

 

 

 

「なっ!? なん、スか、それっ!?」

 

 

 

レーナはマキシマムカノンも使い、明日奈を絶対に近づけさせないように発射する。

巨大な粒子ビーム砲撃が明日奈を包み込もうとするも、再びブースターが右に向くと、炎を噴かして、左へと回避する。

 

 

 

(あのブースター、左右に振れるんスかっ……!? これは、想像以上にやばいっスね……っ!)

 

 

 

砲撃に徹していたレーナは、すぐにその場を動いて、射撃ポイントを変えていく。

 

 

 

「チッ、思っていたよりもっ……やるじゃないっスかっ!」

 

「どうしたのよ、さっきまでの余裕は……?」

 

「っ……調子に乗ってんじゃねぇースっよっ!!!!」

 

 

 

明日奈の分かりやすい挑発に、レーナは乗ってきた。

よほど余裕がなくなってきているのか、あるいは、何か策があるのか……。

しかし、今まさに進化したばかりの機体のデータなんてものはないはずだ。

そして、過去、現在においても、明日奈のような装備をした機体はない。

彼女が乗っている速度重視で開発が行われているテンペスタⅡの機体でも見たことがない。

まさに、新型と呼べるものだろう。

そんな未知数の新型に、どう対応しようというのか……。

 

 

 

 

「くそっ、さすがに機動性では分が悪すぎるか……っ! だがっ!」

 

 

 

 

ライフルによる射撃から一変、マキシマムカノンによる砲撃。

しかし、またしてもブースターとセンサーブレードが稼働し、砲撃を躱す。

おそらく、センサーブレードである程度の砲撃予測を立てているのだろう。

まぁ、それは大抵の射撃武装を積んだISならば持っていても不思議ではない……だが問題は、それがただ攻撃予測しかしないのと、そうでないのとの違いだ。

明日奈の駆る《閃姫》のセンサーブレードは、わずかな動きを見せる。おそらくそれにより、センサーブレードが受けた空気抵抗を利用して、体勢を変えているのだらう。

それに付け加えての、ブースターの方向転換によって、急な姿勢変更や方向転換を可能にしているのだ。

イギリスのBT兵器や中国の空間圧縮兵器、ドイツの慣性停止結界など、特殊武装の開発は色々と進んでいるが、機動性に富んだ特殊武装というのは、本当に初めてだ。

この機体を、初見でここまで使いこなしている明日奈もまた、戦闘能力の高さを感じさせる……。

 

 

 

「チィッ……! 当たらないっ!!?」

 

「今の私はっーーーー」

 

「っ!!?」

 

「どんな敵にだって負けない自信があるわッーーーー!!!」

 

 

 

砲撃の隙を突いて、明日奈は一気に加速し、レーナの間合いに一瞬で入った。

そして、鋭く光る《トライジェントライト》の刃を、思いっきりレーナに対して振り下ろす。

レーナもとっさにビームサーベルを取り出し、明日奈の斬撃を受けた。

が……。

 

 

 

「ぬうっ?!」

 

「はあああぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

ブースターの出力が上がっていき、だんだん押され始めるレーナ。

しかし、そう思ったのもつかの間だった。

いつの間にか、明日奈の勢いに負けており、機体もろとも明日奈に押し出されていた。

 

 

 

「ぐっ……!!! 一体っ、何をするつもりっスかっ!?」

 

「ここで戦ってたら、周りに迷惑でしょうっ!?」

 

 

 

 

京都の街並みが小さくなったと思いきや、今度は違う景色が見えてきた。

京都と隣接する県……奈良県だ。

奈良の街並みが見えたと思いきや、一気にそこを通過して、今度は山々の景色に。

伯母子山、釈迦ヶ岳、大台ヶ原山の三つの山が見えて、そこも超えていく。

そして、そのまた隣接する和歌山の空を飛んでいくと、あとはもう周りは海だけになる。

ここでレーナは、ようやく明日奈を振りほどく事が出来たのだが、あまりの勢いに、体勢を立て直すのも難しかった。

 

 

 

 

(あの一瞬でここまで飛ばされたんスか……っ! どこまで規格外なんスか……)

 

 

 

錐揉み状になりながらも、ようやく体勢を立て直したレーナ。

レーダーを使って明日奈の位置を確認する。

 

 

 

「っ、上っ!?」

 

「はあああッ!!」

 

 

 

ものすごいスピードで落下してくる明日奈。

そのまま《トライジェントライト》で斬り込んでくるが、レーナはあえて受けることはせずに、僅かに体を動かして躱した。

 

 

 

「背中がガラ空きっスッ!!!!」

 

 

 

マキシマムカノンの放つ。

が、又してもブースターを左に向けて、急速に右へと方向転換する。

明日奈を通り過ぎていくビーム砲が海に着弾すると、海水が大きく跳ね上がり、大きな水柱となる。

 

 

 

「そろそろ決めないと、ここでも被害がっ……!」

 

 

 

マキシマムカノンの威力は想像を絶するものだ。

海上での戦闘とはいえ、その影響が街に及ばないと言うことはないだろう。

明日奈はそのままの勢いで旋回して、レーナに再び斬り込む。

しかし、レーナを視界に収めたとき、明日奈は驚くことになる。

 

 

 

「っ!?」

 

「そう何度も、近づけさせないっスよ……ッ!」

 

 

 

マキシマムカノンの折りたたんでいた砲身が伸びて、ライフルと砲身を連結させていた。

ハイパーバーストモードに移行していたのだ。

 

 

 

「ここなら、遠慮なく戦える……そう思ったんスよね? ならそれはっ、自分も同じ事っスよねッ!!!!」」

 

 

 

確かに周りに漁船や貨物船、客船などは見当たらないが、だからと言って、ハイパーバーストを放てば、被害は出るだろう。

だから明日奈は、迷わず突進した。

 

 

 

「撃たせないッ!」

 

「もう遅いっスよッ!!!!」

 

 

 

 

エネルギーが充填されていき、やがて超巨大なビーム砲撃が放たれた。

今度は明日奈の全てを飲み込むレベルの大きさだった。

明日奈は急いでブースターを右に向けて、左へと急速回避し、直撃は免れた。

 

 

 

「まだっ、まだあぁぁぁぁっ!!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

巨大なビームの奔流が、明日奈に近づいてきた。

これほどの強力な攻撃を繰り出すのならば、機体は当然、その衝撃に耐えるために、その場で止まっておく必要がある。

だがレーナは、多少の照準誤差を覚悟で、無理やりに砲撃を動かしたのだ。

迫り来るビームの奔流。

あともう少しで明日奈に接触する……と、思われたが、明日奈はさらにブースター出力を上げ、これを回避。

目にも留まらぬ速さで砲撃を躱し、逆に砲撃に沿う様にしてレーナの懐に飛び込んでいった。

 

 

 

「チッ!? しつこいっスね、本当にッ!!!!」

 

「やあああぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

砲撃が終わり、無防備になる瞬間を狙って、明日奈は《トライジェントライト》を構えた。

レーナもとっさに左手にビームサーベルを展開して、対応しようとしたのだが……。

 

 

「っ……!」

 

 

左腕に激痛が走った。

それもそのはずだった……なんせ左腕は、明日奈か《ランベントライト》でつけた刺し傷があるのだから。

 

 

 

(しまったっ……力が抜けてーーーー)

 

 

 

激痛で一瞬力が抜けてしまった。

そして、その瞬間を見逃す明日奈ではなかった。

《トライジェントライト》を下段から、そのまま右斬りあげの軌道で振り切り、レーナのビームサーベルを弾き飛ばした。

そしてそのまま、《トライジェントライト》の切っ先をレーナに向け、ソードスキルを発動した。

 

 

 

「っ、やあああぁぁぁぁッーーーー!!!!!」

 

 

 

黄色く染まる《トライジェントライト》。

そこから流星の如く閃く、連続十連撃。《オーバーラジェーション》だった。

最初の六連撃でマキシマムカノンの砲身自体を細切れにして、残りの四連撃……それを直接レーナにぶつけた。

 

 

 

「はああッーーーー!!!!」

 

「ぐうっーーーー!!!!???」

 

 

 

 

最後の十撃目が、レーナの腹部を突き穿つのではないかと思えるほどの威力で放たれた。

レーナは苦悶の表情を見せて、明日奈は執念の表情を浮かべる。

煌めく黄色い閃光が一瞬だけ大きく迸って、次の瞬間、大爆破を起こした。

《オーバーラジェーション》で破壊したマキシマムカノンの爆発に、ソードスキルの剣圧が掛け合わさったことで起きたのだろう。

明日奈は爆風に押し出されて、大きく後ろへと後退した。

 

 

 

 

「っ……! あの子はっ?!」

 

 

 

あの爆発で、無事でいる事は無いだろうが、それでもISの絶対防御が働いたはずだ……死んではいないだろうと願いたかった。

と、そんな時だった……爆煙が少しずつ晴れていく時、明日奈の視界に、紅い光が見えた。

あれは、レーナが乗っているIS《ラプター》が出していたブースターの明かりだ。

 

 

 

「なっ!? 逃げるつもりっ!?」

 

 

 

レーダーで追跡してみたら、《ラプター》の反応は《閃姫》から遠のいて行っていた。

つまり、あの爆発の瞬間を利用して、明日奈から離れたのだろう。

しかし、かなりの深傷を負っていたはずだが……

 

 

 

 

『ガッ、ゴホッ……! いやはや、まさかここまでしてやられるとは……』

 

「っ!? 通信?!」

 

 

 

突然聞こえてくる声。

その声の主は言わずもがな、レーナだった。

声の感じからして、出会った時の様な元気はない。

それに吐血をしたのか、喋るのも苦しそうであった。

 

 

 

『殺せないどころか、逆にこんな深傷を負わされるなんて、思ってもみなかったっスよ……。

やっぱアスナさん凄いっスね……っ!』

 

「あなたっ、一方的に襲っておいて、今度は逃げるっていうのっ!? そんな勝手な事っ……っ!」

 

『自分でも撤退は甚だ不本意ってやつっスよ。でも、さすがに引き際くらいは見定めなくっちゃねぇ〜。

それに組織だって、自分を失う訳には行かないだろうから、例え捕まったとしても、学園がまた襲撃されるかもですしねぇ〜』

 

「っ!?」

 

 

 

 

弱っていても、やはりレーナはレーナのままだった。

通信越しであり、SOUND ONLYの表示しか出てないため、顔までは見えていなかったのだが、まだ何かを企んでいる様な、あるいは、何かを秘めている様な気がしてならない。

 

 

 

 

『まぁ、今回は自分の負けって事でいいっスよ。でも、次は絶対に負けねぇっス……っ!

次戦う時には、アスナさんの絶望に満ちた泣き顔を、見させてもらうっスからねっ……!』

 

「…………私は、あなたみたいな人には屈しないわよっ……!」

 

『あっははっ! そう来なくっちゃ面白くないっスッ!!!!!』

 

 

 

その言葉を聞いた後、レーナからの通信は切られた。

どんどん小さくなっていく《ラプター》の光を見ながら、明日奈はため息を一つついた。

一気に訪れた安堵感からなのか、急に体が震え始めた。

 

 

 

「はあぁぁぁ〜〜〜〜!! 終わったよぉ〜……」

 

 

 

死ぬかと思った瞬間なんてたくさんあった。

そして、目の前で家族が殺されるのではないかという恐怖も味わった……。

そして形態移行を遂げた、自身の愛機《閃姫》を使ってみて感じた、驚異の機体性能。

それらの事が一度に起きてしまったために、今になって、明日奈の体はその出来事に対しての恐怖を思い知ったのだ。

 

 

 

「でも、こうしちゃいられないんだった……っ! 早くキリトくん達のところに行かないとっ!」

 

 

 

明日奈はIS学園のある方角をレーダーで検索して、再びブースターを点火させた。

青白い光が噴き出て、またしてもトップスピードに乗り、明日奈はIS学園に向かって行ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱蒼と生い茂る森を、一人の少年が歩いていた。

まだ太陽が天高く上り詰めているというのに、その森は大層葉が生い茂っているため、陽の光が当たらない箇所が多数ある。

昼間でこれなのだから、夜になれば、完全な暗闇となってしまうだろう。

その前に、一番近い街などに出られれば……。

いきなり王城の中に転移してしまった一夏は、城へと続く街道の位置を確認しながら、森の中を歩いていた。

城へと続く街道ならば、その逆の道を行けば、城に近い街並みが見えてくるはずだ。

中世の街並みが、どう言ったものかは一夏も知らないが、東洋だろうと西洋だろうと、大抵の国には、必ず城下町と呼ばれるものがあるはずだ。

この世界がどうしてこの様な時代背景になっていて、どの様な世界観として構成されているのか……?

何故城に住む女王が真耶だったのか?

そして、刀奈はどこにいるのか……?

集められる情報は多いに越したことはない。

 

 

 

 

「ん……?」

 

 

 

森の中を歩いていると、城に向かってやってくる騎士甲冑の面々が現れた。

その数十五人。一夏は森の中に身を潜めて、騎士達の目を誤魔化す。

 

 

 

「しかし、随分と買いこまされたなぁ〜……」

 

「仕方ない。あの女王は、美容に異常な程のこだわりがあるからな」

 

「しかし、だからと言って普通娘を手にかける様なことするか?」

 

(ん? ……なんの話だ?)

 

 

 

騎士達の話し声が聞こえてきたため、一夏はそっと聞き耳を立てた。

どうやら、この騎士達の目的は、街に行って大量の美容用品を買っていたようだ。

話の流れからすると、その命令を出したのは、間違いなくあの女王だろう……。

しかし、普通は商人達が城へと赴き、自らその商品を捧ぐものではないだろうか?

そして、自身の娘を手にかける……。そんな言葉が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

「献上するような品がないからって、なんで俺たちが一々品を探しに行かなきゃならんのだ……」

 

「女王の命だ……。仕方なかろうよ」

 

「あの女王は異常だよ……宝石よりも自分の方が美しいなんて言ってたぞ?」

 

「あれはもう、美という悪魔に取り憑かれているな……多分」

 

「確かにお美しくはあるが、些か常軌を逸しているのは間違いないか……」

 

 

 

自分の騎士達にここまで言わせる女王は、どうやらとんでもない異常者のようだった。

しかし、肝心の話をまだ聴けていない。

 

 

 

「そう言えば、女王の娘……白雪姫様は、どうなったんだろうな?」

 

(白雪姫っ?!)

 

 

 

白雪姫……。

その名前は、世界の誰もが知っている人物の名前だろう。

 

 

 

(美に執着する女王と、白雪姫……。なるほど、ここは白雪姫の物語を再現しているってわけか……!)

 

 

 

何故白雪姫なのかはわからない。

そして、騎士達の様子から察するに、白雪姫はすでに城からいなくなっているようだ。

おそらくは、女王が魔法の鏡を見て、この世で最も美しい女性の正体に気づいてしまったのだろう。

ならば、物語での女王が取るべき行動といえば、白雪姫を殺し、自分が再び世界一の美女という地位に返り咲きたい筈……。

そのために、魔女に頼んで、毒リンゴを白雪姫に食べさせる筈だ。

この世界での白雪姫が、一体どのような姿で、誰なのかはわからないが、この物語の進行自体が、刀奈を陥れているトラップだというのなら、それを妨害しないに越したことはない。

 

 

 

(この先には、大きな街があるみたいだし……そこに行ってみるしかないな……)

 

 

 

 

一夏は騎士達に気づかれない様に素早く動き、騎士達から遠く離れたところで街道に出て、まっすぐにその道を走って行った。

街に辿り着くのに、そう時間はかからなかった。

さすがは王城に近い街だけあって、敷地面積も広く、並んでいる商店の数が尋常ではなかった。

それに、ここにも王城の兵士たちが常駐しているみたいで、重装備の甲冑ではないものの、剣や鎧を身につけている兵士たちの姿がちらほら見える。

そして、中央にそびえ立つ石造りの建物が、おそらくは兵士たちの駐留している砦のようだ。

そこを中心に、いろんな店が展開している。

 

 

 

「さてと、まずは情報収集と行きますか……」

 

 

 

一夏は街の中に入り、この街の事や王城での出来事などを聞いて回ることにした。

しかし、さすがに平民の姿をした者が、刀だけをぶら下げてくるのは怪しまれるため、一夏は近くの荷台にあったボロボロの土色ローブを拝借し、その身に纏った。

 

 

 

「さてと……まずは、手取り早く商店街から回るかな……」

 

 

 

一夏は商店が立ち並ぶエリアに入り、有益な情報を持っていそうな人物を探し始めた。

しかしながら、例えここが仮想世界であったとしても、商店の賑わいはどこの世界も変わらないのか、ここの商店街もまた、大いに活気で満ちていた。

 

 

 

「いらっしゃいいらっしゃいぃ〜〜!! 今日はお野菜がお買い得だよぉ〜!」

 

「ヘェ〜……ここも普通の商店街と同じなんーーーー」

 

 

八百屋の店主は女の人のようで、珍しいなぁと思っていた。

しかも、声のトーンが若々しいため、二十代か、もしくは十代の女性なのではないか? と思ってしまうほど……。

一夏はそんな働き者の女性の方に視線を向けた。

しかしそこにいたのは、驚くべき人物だったのだ。

 

 

 

「た、た、たたっーーーー!!!!」

 

「ん? どうしたんだい、お兄さん?」

 

「谷本さんっ!!??」

 

 

 

赤みがかかった髪を、低い位置でツインテールに縛っている少女。

何を隠そう一夏のクラスメイトであり、『七月のサマーデビル』という異名を持つ谷本 癒子その人だったのだ。

 

 

 

「タニモト? 私の名前はユコよ?」

 

「あ、あぁ……そうなんだな、すまない……でも、下の名前は同じなんだな……」

 

「ん? なに?」

 

「いや、なんでもないよ……こっちの話だ」

 

「それよりもお兄さん! 買ってかない? お安くしておくよ♪」

 

「あぁ……その、すまない。今日は買い出しでここにいているわけじゃないんだ……ちょっと谷本、じゃないっ、ユコさんに聞きたいことがあるんだ」

 

「私に? なになに♪」

 

 

 

どこか上機嫌な谷本さん……もとい、ユコさん。

この世界を仕掛けた人物の趣向なのか、それとも、元々の人格を移植でもしたのか……?

現実世界の谷本 癒子の性格とほぼほぼ一致する。

 

 

 

「あの、この国の事について知りたいんだ」

 

「この国の事? なに? お兄さんって、旅の人だったの?」

 

「う、うん。まぁ、そんな感じかな……宛てのない旅をしている剣客……みたいなものかな」

 

「ヘェ〜! なにそれ、かっこいいっ!」

 

「ま、まぁ、俺の話はともかくだ。君は、ずっとここで店をやっているの?」

 

「うん。お父さんの代からだから、もう十年くらいにはなるかな」

 

「ヘェ〜……。君から見て、この国や、女王様のことをどう思ってる?」

 

「うーん……」

 

 

 

ユコは腕を組んで、おもむろに上を向いて何かを考えているようだった。

 

 

 

「そうだね。治安はいいと思うし、国政をしっかりはしてると思うよ?

ただねぇ〜、女王様がちょっと変な人かなぁ〜って言うのは、時々思うんだよねぇ〜」

 

「変……というと?」

 

「よくここら辺には、女王様お抱えの騎士の人たちが来るんだけどね?

やたらと美容用品ばっかりを買っていくのよ! それが年単位ならわかるけど月単位で買っていくの!

凄くないっ!? そりゃあ、そんだけ使い込んでたら、あんなに綺麗にはなるだろうとは思うんだけどねぇ〜。

なんか、騎士の人たちが話してたけど、どうも美容にはかなりのこだわりがあるみたいだよ?」

 

 

 

 

それもそうだろう。

この世界……白雪姫の物語に出て来る女王は、世界で最も美しいとされている女性だった。

しかし、ある時いつもの日課のように魔法の鏡に問いかけた時、真実を言う鏡は、最も美しい女性を、女王から白雪姫へと変えたのだ。

その衝撃的事実に激怒した女王は、白雪姫を殺そうとするが、白雪姫は間一髪のところで逃げのびた。

しかし、執念深い女王は魔女に頼んで、毒リンゴを白雪姫に食べさせた。

そのリンゴを食した白雪姫は、そのまま命を落とし、再び女王が世界一の座に返り咲いたのだ。

 

 

 

(でもまぁ、結局は、七人の小人達によって魔女に討たれ、迎えに来た王子様とキスをすることで、白雪姫は蘇るんだけどな)

 

 

 

 

おそらく今の現状から考えて、白雪姫はどこかに逃げのびて、七人の小人達と合流しているからだろうか……。

 

 

 

 

「なぁ、その女王の娘……白雪姫が城から居なくなったっていうのは、聞いたことないか?」

 

「えっと……ああっ! あの姫さんね? そういえば、そんな話を聞いたことがあるような……。

確か、“二年前” のことだったかな?」

 

「…………ん?」

 

 

 

今、ユコの口から不自然な言葉が聞こえて来たような……。

 

 

 

「ん? 待ってくれ」

 

「なに? どうしたの?」

 

「二年前……? 二年前って言ったよな?」

 

「うん、言ったよ?」

 

「待て待てっ、白雪姫が城から居なくなったのは、最近の話じゃないのかっ!?」

 

「なにそれ? 姫さんが居なくなったのは、二年前の話よ? なんか、女王様の逆鱗に触れたらしいっていうのが、もっぱらの噂だけどね」

 

「じゃ、じゃあ、その後の白雪姫は、どうなったんだ!?」

 

「さぁ、そこまでは……。でも、白雪姫本人じゃないんだけど、なんか最近、すっごく大きな反政府勢力が立ち上がって、城の兵士たちとやりあってるって話は聞いたけど?」

 

「反政府勢力……?」

 

 

 

いかにも物騒な話だ。

いやしかし、白雪姫の世界で反政府勢力って?

 

 

「えっと、確か名前……なんだったけ? 《ダイヤモンドダスト・リベレーター》とか言ったけ?」

 

(名前、イッテェェーーっ!?)

 

 

 

白雪姫だから冬をイメージしてのダイヤモンドダストなのだろうか……?

リベレーター……《反逆者》の意味で捉えれば、確かに反政府勢力のようだ。

 

 

 

「でぇ? そのダイヤモンドなんたらって言う奴らは、どこにいるんだ?」

 

「さぁ? 私たちが知るわけないじゃん」

 

「まぁ、そうだよなぁ……」

 

「なに? もしかして、戦いでも仕掛けるの?」

 

「いや、そこまでは……。ただ、ちょっと気になってさ……もしもそんな連中が襲って来たら、旅人である俺も、無関係じゃなくなるだろうからなぁ〜って思ってさ」

 

「そうなのよねぇ〜……ほんと、戦争なんてよそでやってほしいわよ」

 

 

 

まるで他人事のように話すユコ。

だが、ここが王城に近い街であり、その反政府勢力との間で小競り合いが続いているのであれば、間違いなくこの街は戦火に見舞われるはずだ……。

そうならないようにするにも、色々と策を講じなければならないか……。

 

 

 

「ありがとう! いろいろ話聞かせてもらって。今度来た時は、何か買っていくよ」

 

「ホントっ!? 約束だからね!」

 

 

 

ユコは元気一杯に手を振ってきた。

一夏はそれに応じるようにして手を振り返し、再び気を引き締めた。

 

 

 

「さてと……これだけじゃあ、まだ情報不足だな……」

 

 

 

体を翻して、一夏は再び情報収集に戻ったのだった……。

 

 

 

 

 





ようやく本格的に刀奈救出作戦が決行されましたので、次回もこんな感じになると思います!

また、感想書きのところで、設定集などが欲しいとのことだったので、設定集なども載せたいと思います!

感想、よろしくお願いします^_^


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