ようやく更新できる……( ̄▽ ̄)
長らく待たせてしまいまして、申し訳ありませんでした!
「んっ……んんっ……」
ほんの数秒前……。
IS学園の地下区画の一部に設けられた一室。
ダイブルームにて、刀奈、和人の両名がシステムトラップによって、未知の仮想世界に囚われてしまった。
和人の方は、旧アインクラッドによく似た場所によって、何者かと交戦中……。
刀奈の方は、未だ状況が掴めていない状態だった。
故に、学園の外にいた一夏は、システムと装備を新調した《白式・熾天》を駆り、急いで学園に戻り、ダイブルームへと直行した。
その後、簪、ユイ、ストレアの三人の協力を経て、一夏は、刀奈が囚われているであろう世界へと、ダイブした……。
「ここに……カタナがいるのか……?」
一夏は辺りを見回してみた。
そこは、室内……というより、どこかの建物の通路だった。
「なんだ? ここ……。やけに広い建物……なのか?」
一見して、普通の廊下……とは程遠いほどに、立派に作られている廊下だった。
学園の廊下の二倍はある幅と、床の真ん中には絨毯が敷いてあり、壁には豪華絢爛という言葉を形にしたような絵画や壺などが置いてある。
「この感じ……普通の建物……じゃあ、ないのか?」
「ちょっとそこのあなた? そこを退いてくれないかしら?」
「はい?」
突然、背後から声をかけられた。
どうも、若い女性の声だった。
しかし、振り向いて一夏は、驚愕した。
「えっ?!」
「? なんですか? 私の顔を見て、いきなり」
「や、ややっ……!」
「や?」
「山田先生ぇっ?!!」
目の前にいた人物。
それは、一夏のよく知る人物……一年一組の副担任。山田 真耶その人だったからだ。
しかし、その服装はいつもの教師としての服装ではなく、華麗なドレス姿だった。
その風格は、おっとりとした教師というよりも、どこぞの貴族令嬢のような感じだ。
「や、やまだ? あなた、何を言ってるんです?」
「はい? えっと、あなたは、山田先生ですよね? えっと、山田 真耶さん……」
「…………うふふ」
真耶は本物のお嬢様のように、上品な笑顔と笑い方で一夏を見ていた。
そして、その笑顔のまま、真耶は一夏にこう宣言した。
「はい、あなたは死刑でーす☆」
「はぁっ?!」
随分と明るく、まるで冗談でも言うように言い放った。
「し、しし、死刑です、かぁ?」
「はい。死刑でーす☆」
「し、死刑……えっと、なんでですか?」
「なんでも何も、あなたはこの私に対して結構な無礼を働いているのですよ?
まず第一に、あなたは私の名前を間違えました。そして第二に、私を誰だとお思いで?」
「え、えっと……」
「私は女王なんですよ? なんですか、その顔は?」
「えっと……じょ、女王様……?」
「はい、女王です。そして、あなたは平民ですよねぇ? あなたみたいな愚民が、私のような崇高なる女王と邂逅したというのに、なんなんですか? ひれ伏す事もせず、あまつさえ無礼を働くという……ねぇ?」
「あ、え、えっと……」
「と、言うわけでぇーーーー」
真耶はまた、笑顔のまま一夏に高らかと宣言した。
「衛兵っ! この無礼者をひっ捕らえなさいっ!」
「っ!? やっべぇっ!!」
一夏は全力で走った。
その後ろからガシャガシャと金属を打ち付けるような音も聞こえてくる。
「って、衛兵って、マジで中世の騎士とかじゃんかっ!」
鎧を着た城勤の衛兵たちが、剣や槍を持って走ってくる。
その顔は、兜によって見えなくなっているのだが、図体からするとかなりの大男であることがわかる。
「あの者です! 早く首を刎ねてしまいなさい!」
「物騒なことを平気で言うなぁ、山田先生っ……!」
「待てぇっ! この無礼者がぁー!!」
「ってぇ、人増えてるしっ!?」
一夏を必死に追いかける衛兵たち。
しかし、どんなに人を呼んだとしても、一夏の脚には追いつけていなかった。
「な、なんなんだあいつの脚力はっ!?」
「本当に人間かっ?!」
「ん?」
一夏はとっさに後ろを振り向いた。
すると、あれだけ追っかけて来ていた衛兵たちとの距離がどんどん開いて行っているのだ。
距離にしてほぼ20メートルほど……。
(まさか、これって……!)
一夏は曲がり角を曲がった後、目の前に見える窓から、外の風景を確認した。
どうやら、ここは本当に一国の王城だったようだ。
外にも警備兵がいるみたいなのだが、あまり数が居ない。
(ここからなら、いけるかっ?)
一夏は窓から外に出て、城の外へと出た。
高さからして、今いる場所はビルの三階に相当する高さからのようだ。
外には若干ながら、足場があるので、そこを伝って走り抜けていく。
時折足場の無いところでは、飛び越えてみたり、下の階へと飛び移ったり……。
まるで、ストライドをしているかのように、機敏よく走り抜ける。
「やっぱり……っ! この身体能力の高さ……VRMMO内での俺のアバターと同じ能力値っ……!」
全ての筋力や敏捷力、アクロバット性能まで、現実の自分の体ではいまだできるはずもない動きができる。
それを可能とするのは、ISによるシステムアシストと、仮想世界での一夏のアバターのみだ。
一夏は一気に一回まで降りて、近くの茂みに身を伏せて隠れた。
「くそっ、なんて奴なんだ! もう姿が見えん!」
「探せっ! まだ王城の中にいるか、出たとしてもそう遠くへは行ってないはずだ!」
ぞろぞろと兵を引き連れて、城の外へと向かっていく兵団長。
そして、城の兵士たちが、ある部屋から次々に剣や槍を持って走り去っていくのを見た。
(あそこは……武器庫か何かかな?)
最後の兵が部屋から出て行った後、一夏はこそっとその部屋へと近づき、音がしないように扉を開け、中に入った。
「おお〜……。さすがは王城だな。剣や槍がたくさんある……」
ロングブレードにショートブレード。ダガー、バスターソード……。スピアにランス……。いろんな武器が勢ぞろいだ。
「うーん……これからのことを考えると、武器くらいは持っておいた方がいいかなぁ〜」
城があることから考えると、この世界の設定は、中世ヨーロッパの時代背景なのだろう。
中にある剣の置き場から、どれが使いやすいかを物色していると、これまた天の巡り合わせなのか、一夏の目に止まった一振りが……。
「これは……片刃の直剣……直刀か?」
こういう剣自体は珍しくもなんともないのだが、剣にしては刀身が細く、剣というよりは刀に近かった。
いわゆる忍刀というものに近いのだ。
「んじゃ、これを拝借しますか……」
一夏は一振りの刀を取り、その場を後にした。
再び茂みに入り、身を潜めながら、城門の方へと向かっていく。
しかし、そこにはたくさんの衛兵たちがおり、簡単には突破できそうになかった。
「強行突破……してもいいけど、できれば穏便に済ませたいしなぁ……どうしよう」
辺りを見渡しても、別の入り口などはないし、そもそも王城の敷地が広いため、無駄に散策していると、また衛兵に鉢合わせしかねない。
「はぁ……仕方ない。まだ、城門から出なきゃいけないってルールはないしな」
一夏はクルッと後ろを振り返り、目前にある城壁に視線を移した。
一夏と城壁との間にある距離は、およそ5メートルほど……城壁の高さはおよそ15メートルほどだろうか……。
まぁ、普通なら、城壁を越えてこようと思う兵士たちはいないだろう。何故なら、壁を乗り越えるよりも、城門を破壊した方が進軍はしやすい。
だが、その裏をかいてしまえば、誰も城壁を乗り越えると思う者がいないということにも繋がるわけだ……。
「すぅー……はぁー……」
深呼吸を一回。
そして、一夏は勢いよく助走して、城壁に向かってジャンプした。
「フッーーーー!!!」
スタタターーーー!!! っと、城壁を走る一夏。
その姿を見ていたものは誰一人としていないのだが、もしも目撃者がいたのなら、まさに度肝を抜く光景だったことだろう。
一夏は15メートルほどある城壁を走り登って、壁の頂上に立った。
「ふぅ〜……。《ウォール・ラン》もできるみたいだし、やっぱり、アバターの『チナツ』と同じ身体能力を持ってるみたいだな……。
さてと、まずは情報収集からだな」
一夏はその場から飛び降りて、鬱蒼と生い茂る森の中へと、姿を消したのだった。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
一方、アインクラッド第49層《ミュージエン》の市街区では、和人が荒い息を吐きながら、身を潜めていた。
「キ〜リ〜ト〜? どこぉ〜?」
「くっ……サチッ……!」
「どこかなぁ〜? 追いかけっこの次はかくれんぼぉ〜? ふっ、ふふっ、ふははっ……!」
まるで魂のない抜け殻の体が、操り人形のようにぎこちなく歩いている。
禍々しい瞳に、右手には妖刀を持つ少女。
かつて和人がまだ、キリトだった時に、救うことのできなかった少女……小規模なギルド《月夜の黒猫団》の紅一点だった、サチ。
そんな彼女が、死んだはずの彼女が、同じ空間にいて、自分を殺そうとしている。
和人自身、わかっているはずだった。
彼女は偽物なのだと……。
今回の騒動を引き起こした者が、過去のSAOのデータを読み込んで、サチを呼び起こしたのか、それとも和人の記憶の奥深くにあるサチに関する記憶情報を読み取ったのかはわからないが、
随分と悪趣味のような気もする。
「くそっ……!」
和人は駆け出した。
はじめは森の方で始まった戦闘。
しかし、視界が遮られる上に、雪が降る森の中は危険だと判断し、和人は再び町の中へと入った。
本来、街の中で戦闘はできない。
いや、できることはできるのだが、どれだけ攻撃しようが、HPゲージが減ることはない。
必ず攻撃に対するノックバックが起こるだけだ。
そこに例外があるとすれば、デュエルの申請を行った者同士が戦うという行為だけだ。
だが今は、そのようなかつての常識が通用しない……いや、機能していないと表現した方がいいのだろう。
街には誰もいない……プレイヤーはおろか、NPCすらもいない。
いるのは和人と、狂乱したサチの二人だけだ。
「はぁっ……はぁっ……このままじゃ、俺の方が先に倒れるかな……」
先程から動き回っているのだが、何せ場所が場所であるためから、寒さで動きが鈍くなる時がある。
だいたい和人の装備自体が、SAO開始初期の状態であるのが一番の原因なのだが……。
「なんか、着るものはないのか……?」
昔のようにウインドウが出せるわけでもない……だからと言って、周りに上着になるようなものが落ちているわけでもないのだが……。
「んっ……武器屋……あるかな?」
ここに来ても、ゲーム脳が変わることはないようだ。
和人はサチに見つからないように、裏道や細道を使い、街の中心地へと向かった。
今立っている場所が、旧アインクラッドを完璧に模倣しているとしたら、建物の場所もそのままのはずだ。
和人はかつて立ち寄ったことのある武器屋に向かって走った。
すると、その予想が的中したのだ……。
和人の目の前に、雪を覆い被さった武器屋の屋根が見えた。
近づいてみると、武器や防具なども色々と残された状態になっている。
「アイテム欄が出ないって事は、そのまま装備できるんだよな?」
和人は中に飛び込んで、上着が置いてある場所を片っ端から漁り始めた。
すると、待ち望んでいた一品を発見する。
「おっ、防寒仕様のコート!!」
黒い生地にファー付きのロングコートを発見した。
和人は背中に背負っていた剣帯を一度外し、その身にロングコートを羽織った。
そのコートを着ているだけで、今までの寒さが消えて無くなるような感覚を得た。
「ふぅー……あとは、武器もなんかないのか?」
せっかくの武器屋なのだから、防具もそうだが、武器も取り揃えているのなら、今の武器よりもいいものを調達したいものだ。
「《アニール・ブレード》よりは、いい奴があってくれよっ……!」
何度かサチと斬り合ってみたが、やはり武器のレベルが違いすぎた。
(サチの刀……あれはもはやエンシェント級のもんだぞっ……!)
それに対抗できる武器となると、同じエンシェント級のものか、それ以上のもの用意するしかないのだが、今現在の階層は49層。
それなりのものを用意できるとしても、何度か打ち交わせば、たちまち耐久力は削られてしまうだろう。
「っ! よし、こいつがあるなら、少しはいけるかっ……!」
和人らそこにある一本の剣をとった。
それはかつて中層域で和人が使っていた片手剣《クイーンズ・ナイトソード》だった。
第50層のボスモンスターのラストアタックボーナスで手に入れた片手剣《エリュシデータ》を入手する前まで、ずっと使っていた剣。
その剣を右手に握り、《アニール・ブレード》を左手に握りしめた。
「……。今のサチ相手に、剣一本じゃ心許ないか……」
外見はサチそのものだが、その強さは尋常じゃない。
SAOにはそもそも、遠距離攻撃用の装備はなかった。それでも遠距離攻撃ができるものがあるとすれば、それは《投剣スキル》くらいなものだった。
ましてや、氷や炎といった、属性が付く攻撃なんてものは存在しない。
しかし、サチの持っている刀は、その刀身から溢れんばかりの吹雪が出てきている。
それに、時折その刀身に氷がまとわりつき、氷刃となって斬りかかってくるのだ。
それを踏まえて改めて考える。
この世界は、SAOの世界を基盤にしているが、どうやら、別の仮想世界の技術も取り入れているのではないのか……? と。
「しかしまぁ、それも剣を合わせてみないことには、わからないよな……」
考えていたところで状況は変わらない。
どのみちサチと戦わない限り、この仮想世界からの脱出は無理なのだろうから。
和人は、新たに羽織ったコートを翻し、両手に握った双剣を構えた。
隠れていた武器屋から出て、人目につきやすい大通りに出る。
「ああ〜、キリトォ〜……! 探したよぉ〜」
ズンッ……ズンッ……と、まるで重装備兵の様な足取りでこちらに向かってくるサチ。
SAO時代の彼女をみている和人からしたら、今の彼女の姿は、まるで別人の様にも感じる。
手に持っている武器が、槍ではなく刀であるのもそうだが、その体にまとわりついている侍の鎧甲冑のような防具の所為かもしれない。
狂気的な瞳と笑みを浮かべながら近づいてくる少女は、もはや化け物の様にも見えた。
「あれぇ〜? キリト、着替えたぁ〜?」
「ああ……。サチ、お前と戦うのに、これくらいは用意しないとな」
「あっはは〜♪ そっかぁ〜……私のために、考えてくれたんだねぇ。嬉しいなぁ〜」
ニコニコと笑うサチ。
だがそんな笑い方をするサチを、和人は見たことがない。
サチはいつも、静かで優しく笑う少女だった。
仲間のケイタ達といる時は、時折声を出して笑っていただろうが、今目の前にいるサチの様に、ニコニコと……いや、外見ではそう見えるが、和人にはニヤニヤとドス黒く薄気味悪い何かが、サチの皮を被って笑っている様にしか見えないのだ。
「……お前はもう、俺の知るサチじゃないんだな………」
「えっへぇ〜? 何を言ってるのキリトォ〜? 私はーーーー」
「その顔でっ! その声でっ! その名前を呼ぶなあぁぁぁぁッ!!!!」
我慢の限界……そして、理性の限界でもあった。
誰がこんなことを企んだのか……そんなのはどうでもよくなった。
とにかく、目の前にいるサチが……いや、サチに化けている何かのことが、許せない……!
和人は両手に持った双剣を力強く握りしめて、サチに斬りかかる。
一度のステップで、大きくサチに近づいて、《クイーンズ・ナイトソード》を振りかぶる。
「はあぁぁぁぁッ!!!!」
「アッハッハッハっ!!」
騎士の剣と氷魔の妖刀がぶつかり合う。
誰もいない世界で、黒き英雄と魔の化身が殺しあう。
ただ無情に鳴り響く剣戟だけが、その場を包み込んでいった……。
「はぁっ……はぁっ……」
「はぁ……はぁ……さっすがっ、デスゲームを生き残った勇者の一員ってとこっスかねぇ〜?」
「…………」
「それに、ISに触れてまだそんなに経ってないはずなんスけどねぇ〜……アスナさんって、意外に戦いの才能あるんじゃないっスか?」
「そんなの、あったって嬉しくないわよっ……!」
場所は変わって、再び京都上空。
時間的に、一夏が学園に戻り、学園を強襲してきた無人機ISの相手をしている頃だろうか……。
実家の結城家の呼び出しによって、本家のある京都に帰省していた明日奈。
いきなりの強制お見合いの話を母から聞き、どうしたものかと思っていた矢先、学園では無人機のISが強襲をかけてきて、それと同時に学園のシステムにハッキングが仕掛けられたと、娘であるユイから聞いたのだ。
そして、システムの内と外の両方から、システム奪還のためにシステムクラックを行っていると聞いたが、その内部からのシステムクラック中に、恋人である和人と、親友の刀奈がトラップにかかり、意識を取り戻せないという状況に陥っていると……。
そのため、学園へ戻ることを強く止める母を振り切り、明日奈は自身の専用機《閃華》を纏い、急いで学園に戻ろうとした……。
が、その行く手を阻もうとする者がいた。
《亡国機業》のメンバーである少女、レーナだった。
イギリスから強奪してきた第二世代型IS《メイルシュトローム》を改造した、第三世代型IS《ラプター》を駆り、圧倒的な射撃、砲撃、狙撃で、明日奈の接近を拒み続けている。
「ここまで戦いが長引くなんて、想像もしなかったっス……いやぁ〜、本当に凄いなぁ〜!」
「そう……でも、それももう終わりよ……っ!」
「ん?」
明日奈の言葉に、レーナは頭を捻った。
すると、レーナの専用機《ラプター》から、多数の敵ISの接近を知らせる警告音がなった。
「あらら……増援が来ちゃったっスか……」
「そうね。どうする? このまま戦って捕まるのもいいし、逃げてもいいし……。
私は今、あなたの事なんかよりも、もっと大事な用があるし」
「………………」
レーナはうつむき、黙り込んでしまった。
ようやく自衛隊所属のIS部隊が到着し、明日奈は一安心だった。
いかに量産型の機体であったとしても、乗っているのは、IS操縦に長けたプロだ。
それが五機も来たのだから、レーナは撤退するはず……そう思っていた。
「仕方ない……やりたくなかったけど、やっちゃうっスね」
「え………?」
レーナはそういうと、明日奈から離れて、こちらに向かってくるIS部隊に向かって飛んだ。
そして、ある程度明日奈との距離を取ると、そこで止まり、IS部隊を真正面に見る。
(なに? まさか、本気でやり合うつもりなの……?)
ISは、たった一機だけでも、国家を転覆させられるほどの機能と武装を持っている。
それが五機集まっているとなると、その戦力は計り知れないはずだ。
だが、明日奈は目の前で稼働しているレーナの専用機の武装をみて、驚愕の表情を作った。
右のアンロック・ユニットに装備された砲身が、ガチャっと音を立てると折りたたみ式の様になっていたのか、先程までの砲身の長さの実に二倍近い長さになり、手に持っていたビームライフルと、その長くなった砲身を連結させたのだ。
「っ!? 待って、まさかっ、そこから撃てるのっ!?」
距離はゆうに100メートル以上は空いている。
そして先程、明日奈と交戦した時には、大砲とビーム攻撃の射程は、さほど長くはなかったが……もし、一番最初の超長距離狙撃による砲撃が、今目の前で露わになっている形態によるものだったら……。
「待ちなさいっ!!!」
明日奈は慌ててレーナのところへと向かった。
《閃華》のブースターを最大出力で吹かして、手に持っている《レイグレイス》の切っ先を、砲身へと向けた。
「そんじゃあ、逝っちゃいなよ……っ!」
ニヤリと笑うレーナ。
その砲口は、まっすぐIS部隊に向けられている。
「マキシマムカノン……ハイパーバーストッ!!!!」
砲口に収束する赤黒い光。
それがハンドボールくらいの大きさに収束し終えたと思ったその時、赤黒い閃光が、一気に放たれた。
「死んじまえぇぇぇぇッ!!!!」
「ダメェェェェェッ!!!!!!!」
砲口からビーム砲撃が放たれた瞬間、突如砲身の先端部分に、水色の閃光が突き刺さった。
その正体は、明日奈の放った細剣のソードスキル《リニアー》だった。
それによって、当初は五機のIS全てを飲み込むレベルの巨大なビーム砲撃が逸れて、なにもない空に向かって飛んで行った。
「チッ……! 余計な事をしてくれたっスねっ!」
「させるわけがないでしょっ!」
レーナは明日奈が今までにみた事ないくらいにキレた形相をすると、砲身を再び折りたたんで、ライフルを量子変換で格納し、ビームサーベルを取り出す。
「ほんと、アスナさんはウザいっスねっ!」
「っ!!」
赤黒いビームの刃と、白銀の剣が交錯する。
激しい閃光が迸り、地上にいる者たちも、その光に当てられて逃げ惑う。
「くっ!!」
「ところでアスナさん」
「っ……なにっ?」
「あそこでアスナさんを見ているのって、お母さんっスか?」
「っ?!」
レーナの言葉に、明日奈は戦慄した。
レーナの視線の先……戦闘中に、いつの間にか結城家本家のある場所まで戻って来てしまっていたらしい。
いや、これはレーナによって、引き戻されたと言った方がいいのだろうか……。
とにかく、レーナの視線の先には、先程まで集まっていた結城家の面々が、明日奈とレーナの戦闘をマジマジと見ていたのだ。
「いけないっ! 早く逃げてっ!!!」
「家族の前でいい格好しようとしなくてもいいっスよっ? どうせ、もうそんな事できないっスからねッ!!!」
「っ!!??」
明日奈との鍔迫り合いをやめ、レーナは結城家本家へと向かって行った。
「っ!? 待ちなさいッ!!!!」
レーナの考えていることがわかった。
そして、それを証明するかの様に、《ラプター》の砲身が、結城家本家へと向けられる。
その様子は、当然結城家の面々にも確認できている。
「お、おいっ……! あいつ、こっちを狙ってないか?!」
「や、やべぇってっ!! 早く逃げないとっ!!」
「うわあぁぁぁ!!! し、死にたくないぃぃぃっ!!!!!」
まるで鳴き叫ぶような声で走って逃げる者たち……その場で動かずに、腰を抜かして座り込む者たち……大切な家族を守らんとしているのか、自分の体で覆い隠すように抱きしめる者たちもいる。
「バイバーイ♪」
《ラプター》の砲口から、赤黒い閃光が放たれた。
威力はハイパーバーストよりも低いが、それでも、人間を消し炭にすることなんて容易なレベルの威力は持っている。
禍々しい光の奔流は、結城家の頭上へと落ちてくる。
「うわあああぁぁぁぁッ!!!!!!!」
しかし、その奔流が、結城家面々に直撃することはなかった……。
降り注ぐ禍々しい光を、たった一機のISが受け止めていたからだ。
「ぐっうううくうっ…………!!!!」
「っ!!? 明日奈ッ!」
京子が叫んだ。
そう、その砲撃を受け止めていたのは他でもない、娘の明日奈だったのだ。
しかし、明日奈の駆る専用機《閃華》は高機動近接戦闘型の機体だ。
機体性能は機動力重視になっているため、そもそも防御するための装甲が薄い上に少ない。
そのため、左右のアンロック・ユニットから、高機動パッケージ《乱舞》の小型ブースターを取り払い、元々薄い盾だったものを二つ掛け合わせ、あとは《レイグレイス》の刀身をビームに当てて受け止めていた。
しかし、そんな物……もはや紙装甲でしかない。
「あっーーーーーー」
明日奈の視界が、真っ白に包まれた。
突然爆発が起きて、明日奈はそのまま地上へと落ちる。
「あ、明日奈っ……!? 明日奈っ!!!!」
京子が走り寄ってくる。
ISは解除されていない……つまり、絶対防御が働き、明日奈の命は守られたということだ。
しかし、そんな知識が頭にはいっていようと、目の前で家族である娘が傷ついた姿を見て、京子は発狂寸前に陥っていた。
「明日奈っ!!? 明日奈っ、しっかりしなさいっ! 目をっ、目を開けてちょうだいっ!!!」
京子が必死に叫んだ。
すると、それが功を奏したのか、明日奈が薄っすらと目を開けた。
「っ………うくっ……お母、さん…?」
「っ!? 明日奈っ!?」
「ぐっ、くうっ……!」
「っ!? 何してるのっ?! 動かないでっ」
「だめっ……今、ここで止まってちゃ……!」
ボロボロになった《閃華》の装甲が痛々しく映った。
しかし、そうも言っていられない。
何故なら、頭上からは《ラプター》が再び照準を合わせて、狙いを定めているからだ。
「くっ……! やらせっ、ないっ………!!」
「おっほぉ〜♪ 頑張るっスねぇ〜……そんなにボロボロになってでも戦おうってんですからねぇ〜……」
「うる、さいっ……!」
「あ、明日奈……っ!」
「でももう、それも終わりっス……!」
《ラプター》の砲口に、再びエネルギーが収束していく。
しかし、その砲撃が発射されることはなかった。
「チッ……なんスかっ?!」
レーナが視線を移す。
するとそこには、先ほど撃ち漏らした自衛隊所属のIS部隊の面々だった。
彼女たちが、レーナに砲撃をさせまいと、銃撃を始めたのだ。
そのおかげで、レーナの注意はIS部隊の者たちに向けられた。
「そこまでだっ!」
「すぐに投降し、ISを解除しなさいっ!」
「おうおう〜、さっきはあそこで倒れてるアスナさんのおかげ助かったくせに、随分とでかい口を開くっスねぇ?」
「貴様っ……!」
「各自散開っ! なんとしても確保しろっ!」
五人が五人ともバラバラに散開し、レーナへと攻めていく。
その内の一人が、地上へと降りてきて、明日奈へと近づく。
「さっきはありがとう」
「いえ、そんな……」
「ううん……あの時、あなたが射線をずらしてくれなかったら、私たちは今頃、地に落ちていたでしょうね。
だから言わせてほしい……っ! 助かったわ、ありがとう……!」
「っ……はい…」
「それじゃあ」と言って、隊員はレーナの迎撃に加わった。
しかし、直にレーナからの砲撃を受けた事といい、直接交戦したから分かるが、レーナの《ラプター》の性能は第三世代型のISの中でも群を抜いてトップに立てるだろう。
そんな機体に、量産型である第二世代型のISが、どこまで対抗できるものなのか……。
「ん……くっ……」
「明日奈っ、大丈夫?!」
「うん……なんとか……。この子が守ってくれたから……」
明日奈は身につけていた《閃華》の装甲を撫でる。
先ほどの攻撃を受けたせいで、《閃華》のエネルギー残量は少なくなり、装甲や武器なども消耗していた。
明日奈はそのまま起き上がり、立ち上がろうとするが、体が思い通りに動かない。
「まだ、ここで終わるわけにはっ………」
「もういいからっ、そのままじっとしていなさい! あなたはもう戦わなくていいのっ!」
「お母さん……」
「明日奈っ、あなたはこんなところで死んでいい人間じゃないのよっ?! あなたには才能がある。才能ある人間が、なんで死に急ぐようなことをしなくちゃならないのっ!?」
「…………」
「だからあなたはこっちに来なさいっ……。あなたが在るべき場所は、そこじゃないんだから……っ!」
京子が手を伸ばし、明日奈の腕を掴もうとするのだが、その手は空を切った。
そう、明日奈が拒んだのだ……。
明日奈はそのまま立ち上がり、再び京子に背を向けたまま、前に進んでいく。
「明日奈っ!!」
「ごめんね、お母さん。私、ずっと考えてた事があったの……」
「な、なによ、いきなり……」
「私ね、ずっとお母さんの言うように進んで来た。中学、高校の進路も、そのために頑張って通った塾だってそう……。
お母さんの言う通りにすれば、確かにいい道は歩めたよ……でも、それが本当に、私のやりたい事だったのかって……ずっと考えてた……」
「明日奈……っ」
「そして今、私には、一番やりたい事がある……っ! 私が、私自身で決めた事……私が、成したい事が見つかったの……。
私の大好きな人が、今ピンチになっているの……その人を助けて、守りたい……その人も、私を守ってくれるし、助けてくれる。
そんな、背中を預け合えるような……信頼し合えるような人がいるの……。だから、私は助けに行くよ……っ! たとえそこが、どんな戦場だって……っ!!!!!」
「っ!? 明日奈っ、待ちなさーーーー」
「ごめんね、お母さん……っ!」
京子が慌てて伸ばした右手は、明日奈に触れる事が出来なかった。
明日奈は飛び立っていったのだ。
ボロボロの機体のまま……。
「ごめんね、《閃華》。もう少しだけ、もう少しだけでいいからっ……私に、力を貸して……っ!」
ボロボロになった《レイグレイス》を片手に、明日奈は戦場に飛び立つ。
機体の損傷は著しい。
正直、足手まといどころか、死にに行くような蛮行だろう。
それでも、かつて自身の手に握った武器を握りしめて、もっとも危険な戦いに身を投じたのは……。
「おやおや? アスナさんじゃないっスか〜? どうしたんです? そんなボロボロの機体で……。
まさかとは思いますけど、死にたいんスか?」
「残念だけど、違うわっ……!」
「じゃあ、何をしに来たんスか? 機体はボロボロ、満身創痍……武器だってそんな状態じゃあ、まともに戦えないでしょうに……」
呆れた……そんな感情をむき出しにして、レーナはため息を吐いた。
「アスナさん……確かに自分はアスナさんのことをスゲェーって尊敬するっスよ? でもね……そんな体で何ができるんスか?
そんな状態のアスナさん倒しても、自分、全然嬉しくないんスけど」
「そうよね……。でも、私にだって、意地があるの……っ!」
「…………」
「昔と何も変わらない……たった一つのことよ……」
「それは?」
「私の大切な人たちや物は、絶対に守ってみせるっ……ただ、それだけっ!!!!」
「そうっスか……なら、自分の邪魔になる存在って事で、消えてくださいっス……っ!!!!」
《ラプター》のマキシマムカノンに、エネルギーが充填していく。
対して明日奈は、剣一本で立つ向かっていく。
「《閃華》っ……!!!!」
「遅いっスよッ!!!!!」
マキシマムカノンが放たれた。
赤黒い閃光が明日奈を包み込んで行き、京都の空を駆け抜けた。
そこには何も残っておらず、誰もが明日奈の死を悟った。
「あっははははッ!! なんスかこれっ!? あんだけ息巻いておきながら、結局消し炭すら残らず死ぬなんて……っ!
あーあ……これだから偽善を平気で口走る馬鹿どもはっ……」
明日奈の姿がなくなって、レーナは内心に溜まっていたものを吐き捨てるかのように喋る。
しかしそんなお喋りは、《ラプター》から鳴らされた警告音によってかき消された。
「っ?! なんスか……? っ、敵機っ?! どこにっ……上っ?」
《ラプター》が警戒する方へと視線を向けた。
そしてそこにいたのは、膨大な光を放つ一機のISだった。
「なっ!? なんでっ……どうしてっスかっ!!?」
そしてそのISを身に纏っている人物。
まぎれもない、明日奈だった。
「これって……一体……っ?!」
全身を覆う光。
そしてその現象がなんなのかは、自身の相棒が教えてくれた。
ーーーー搭乗時間の経過、戦闘経験による必要経験値の習得を確認。《初期化》及び《最適化》を開始します
《閃華》のシステムが、自動的に更新されていく。
それに連れて、身に纏って来た機体の装甲の形が、みるみるうちに変わっていく。
この現象を、明日奈は知っている。
何せその瞬間を、夏の臨海学校の際に見ているからだ。
時間の経過とともに、独立した自己認識を持つISが行う《初期化》と《最適化》……それ即ち、『形態移行』の始まりだった。
「………《
レーナの口から、言葉が漏れた。
そう、ある一定の搭乗時間と戦闘経験を経て、ISが搭乗者に最も最適な機能や装備を生み出し、進化する。
それが『形態移行』なのだ。
そして、明日奈の専用機《閃華》は、『一次移行』を終えている……ならば、この形態移行は、第二の進化……つまり『二次移行』だ。
「《閃華》……っ!」
明日奈が驚いている間にも、愛機《閃華》はどんどん変わっていく。
アンロック・ユニットは盾が除外され、大型のブースターが二基に変化し、手脚の装甲も厚くはなったが、今までのように流麗なフォルムは保っている。
そして、背中、両脚、両腕に二枚ずつ、センサーブレードと呼ばれる白い羽根が出現した。
一番大きい背中の二枚。それよりも一回り小さな両脚の二枚。両腕のは、短剣よりも小さな羽根だった。
青色と白色のツートンカラーに染まった大型ブースター。
そのほかにも、明日奈の体を覆う装甲は、ほぼ白色を基調としているが、細部には青色が見て取れる。
「可変式大型イオンブースター……っ、対物センサーブレードが六本……腕に付いてるこれも?
これが、『二次移行』した、新しい《閃華》?」
『初期化』と『最適化』が終了し、新たな姿として降臨した明日奈とIS。
明日奈は新しくなった愛機から表示された、その名前を呼んだ。
「《閃姫(せんき)》……っ」
『華』ではなく、『姫』へと変化していた。
ならばこの姿は、ある意味では『姫騎士』と呼ばれる何かの物語の主人公の様な意味を含んでいるのかもしれない。
明日奈は自身の武器を手に取り、鞘から剣を引き抜いた。
「《トライジェントライト》……っ!》
手にした武器は、一見すると片手剣のように見える……が、その刀身の細さは、細剣を彷彿とさせるものだった。
しかし、《ランベントライト》とも、《レイグレイス》とも違う。
形は《レイグレイス》に似てはいるが、その剣から感じる威光のようなものは、二振りの剣とは似ても似つかないだろう。
《トライジェントライト》……簡単に直訳するならば、『刹那の光』。
それはまさしく『閃光』。
細剣の刺突技と、片手剣の斬撃技や打撃技にも用いれる要素が加わった新たな愛剣の姿に、明日奈は一瞬飲み込まれていた。
そして、その剣を一度左右に振り切って、改めてレーナを視界に収めた。
「ごめんね、お待たせしちゃって。じゃあ、そろそろ決着をつけましょうか……」
明日奈が《トライジェントライト》の切っ先を、レーナに向けた。
「いくよっ、《閃姫》っ……!!!」
次回は、明日奈とレーナの決着。
それから、一夏の仮想世界での行動を書いていこうと思います。
……思ったよりも、ワールドパージ編が長引きそうな予感が( ̄^ ̄)