ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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今回は鈴ちゃんと一悶着あります!




第9話 逆鱗

一組のクラス内は、異様な空気に包まれていた。

棒立ちになっているその元凶を作り出している少年。織斑 一夏と、その一夏に抱きつき、泣きじゃくる転校生。凰 鈴音。

そして、それを見るクラスのみんな。

特に和人と明日奈は目を見開き、呆然としていて、箒とセシリアは驚愕の目で一夏を見て、刀奈は笑顔のまま固まってしまった。

 

 

 

「お、おい! 鈴! そ、そろそろ離れてくれッ!」

 

「うるさいッ! 人にこんだけ心配させといて、言うことがそれかッ!」

 

「あぁ…えっと、その……悪かったな……心配かけて……その、弾から聞いた。毎日俺の病室に来てくれてたって…」

 

「そうよッ! 毎日あんたが死んじゃうんじゃないかって……ぐすっ、うぅ……」

 

 

 

また感極まって涙目になる鈴に、慌てながらもなだめる一夏。

 

 

 

「悪かったな鈴……心配かけて…。でも、この通り俺は、もう大丈夫だから、もう泣くなって…」

 

「うん……」

 

 

 

そう言って鈴は一夏から離れると、涙をぬぐい、まじまじと一夏の顔を見る。

 

 

 

「本当に帰ってきたのね……よかったぁ〜」

 

「鈴……」

 

 

安堵の表情を浮かべる鈴。そして、あの事件以降謝罪も感謝の言葉も言えずに、中国に帰ってしまった幼馴染を見て安心する一夏。

凄く甘い雰囲気を醸し出していたが、それも長くは続かない。

 

 

 

スパァーーン!!!

 

 

 

「いッ!!?」

 

「ほほう〜、教師の前で淫行及び浮気とは、どこまでも見下げた行為だな……なぁ、織斑?」

 

 

 

いきなり一夏の頭から煙が噴いていると思っていると、鈴の後方から、見知った声が聞こえてくる。

一夏の唯一の家族にして世界最強の女。織斑 千冬…

 

 

 

「ち、千冬さん……!」

 

「織斑先生と呼べ。早く自分の教室に戻れ、もうすぐSHRの時間だ…」

 

「いや、でも……」

 

「……早くしろ……ッ」

 

「ヒィッ!? は、はいッ! すみませんでしたぁぁぁッ!!!!」

 

 

千冬の鋭い眼光で睨まれた鈴は、急いでその場を退散する。そして、千冬はその場で今もなおうずくまり頭を抑えている一夏の襟首を掴み、刀奈に投げ渡す。

 

 

「更識、後はお前に任せる……」

 

「仰せのままに……じゃあ、チナツ? 少しお話ししていこうか?」

 

「へっ?! い、いやッ、もうすぐSHRだし、席に着かないと……」

 

「あら? さっき織斑先生が言ったじゃない。 “後はお前に任せる” って……ね? うーん、ここじゃあ話せないわね……一旦教室を出ましょうか…ッ!」

 

「いや、ちょっと待ってくれ! なぁ、カタナ!? カタナさん!?」

 

 

 

 

ズルズルと引きずられて、廊下に出て行った二人を見送る一同。

そして、二人が完全に姿を見せなくなった時……。

 

 

 

「この、浮気者ォォォォッ!!!!」

 

「いや、待って!! 違うって‼ 話せばわかる!」

 

「問答無用ッ!! 龍牙(りゅうが)ッ!」

 

「ちょッ!、槍はダメだろッ! う、うわあぁぁぁぁッ!」

 

「この、逃げるなッ!!!」

 

「逃げなきゃ死ぬだろうがッ!?」

 

「だから一度死ねって言ってるのよッ!」

 

「ちょ、待っ‼ 危ないってカタナッ!?」

 

 

 

 

(((( “話し合い” をしてるんだよね………???))))

 

 

 

 

クラスの一同は誰もがそう思った。

その中で明日奈は苦笑いを浮かべ、和人は顔の前で手を合わせ、合掌。誰に対して念仏を唱えているのやら……。

まぁ、実際 “槍” だの “死ね” だの言ってる時点でもう話し合いにはなっていないであろうが……。

 

 

 

「はあ〜……あのバカどもは……。誰か後で話の内容を聞かせてやれ。

それでは、SHRを始めるぞ、席に着け!」

 

 

 

 

 

「待ってカタナ‼ その関節はそっちには曲がらなーー!」

 

「死・に・な・さいッ!!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 

 

 

今日のIS学園もまた、賑やかな一日を始めるようだ…。

 

 

 

 

 

 

 

午前中の授業。今日は千冬が教壇に立っており、みんな集中している。

相当重要なのか、山田先生までタブレット端末を起動させ、キーボードで打ち込んでいく。

その中で、刀奈は先ほどの説教を終えてスッキリした様な表情で授業に入り、逆に一夏はぐったりとしているのは言うまでもない……。

その事を除けば、授業は順調に進んでいるかに思えた……が……。

 

 

 

(あの女は一体、一夏の何なのだッ!?)

(あの人は一体、一夏さんの何なのでしょう……?)

 

 

 

ここにまだ割り切れてない者たちが二人……。

言うまでもなく、箒とセシリアだ。

 

 

 

(一夏とだいぶ親しそうではあったが……)

(一夏さんとは、どういうご関係なのでしょうか…)

 

(しかも、あんなに抱きついて……ッ! 一夏も一夏で嫌そうではなかった…ッ!)

(いきなり抱きついていましたし、一夏さんも…確か “鈴” と呼んでましたわね……ニックネームで呼び合えるほどの仲なのでしょうか?)

 

 

 

などと長い思案の海を漂っていた。

……そこに鬼が現れてるとも知らずに……。

 

 

 

「篠ノ之、オルコット……私の授業はそれ程までにつまらないか……?」

 

「「はっ!?」」

 

 

スパァン‼ スパァン‼

 

 

 

今日も千冬の出席簿アタックが炸裂したのであった。

 

 

その後は、出席簿アタックが炸裂する事なく、無事午前中の授業を終え、今は昼休み。これから食堂に向かう生徒達でごった返す時間だ。

 

 

 

「お前の所為だぞ一夏ッ!!」

「一夏さん、あなたの所為ですわッ!!」

 

「いや、何が??」

 

 

 

とんだ濡れ衣だった。

 

 

「二人とも、授業はちゃんと集中して受けなきゃダメだよ?」

 

「って言うか、織斑先生のアレは何で頭から煙が出るんだ

?」

 

「キリトさん……それは俺が聞きたいですよ……」

 

 

自分の姉のスーパーアタックに疑問を抱く和人と一夏。

一体どうすればあんな芸当が出来るのか……。

 

 

 

「まぁ、その事は気にしない気にしない! ほら、早く食堂にいきましょう?」

 

「うん、そうだね。ほら、キリトくん、チナツくん、行こう! 箒ちゃんとセシリアちゃんも!」

 

「えぇ、そうですね……。おい、一夏! あの女の事はしっかりと聞かせてもらうからなッ!」

 

「そうですわね。時間もたっぷりある事ですし…」

 

「そうね。チナツ? 洗いざらい吐いてもらうから、覚悟しておいてね?」

 

「………ぁぁ……了解…しました……」

 

 

 

みんな揃って一夏を食堂に連行…もとい、誘う。

食堂に向かう道中、箒とセシリアはずっと不貞腐れて、刀奈は意外にニコニコ顏だった。

“あんな事” があったのに、もう仲直りしたのか? っという感じだ。

和人と明日奈に至っては、言うまでもなく手を握り、ラブラブモード全開で歩く。

 

そして、やっと食堂に着き、食券を買おうと思ったその時。

 

 

 

「遅いッ!」

 

「ん?」

 

「いつまでも待たせんじゃないわよ! ラーメン伸びちゃうじゃない!」

 

 

そこには、ラーメンが乗せられたお盆を手に、仁王立ちして入り口に佇んでいるツインテール少女が……。

 

 

 

「いや、待ち合わせとかしてなかったろ? とりあえず俺たちも食券買うから、そこを退いてくれ…」

 

「う、うっさいわねッ! ほら、席は取っとくから、早く来なさいよ?!」

 

「はいはい」

 

 

 

そう言って鈴は一番奥の広いスペースを確保に行き、一夏達は食券を買う。

その間も一夏は箒とセシリア、そして刀奈に睨まれた続けていたが……。

 

 

 

「ほら、一夏ッ! こっちこっち!」

 

 

食券を買い、鈴を探す。そして、一番奥のいい席を取っていた鈴が手を振っていた。

そこに全員が座り、一夏と鈴を囲む形で座る。

 

 

「それにしても、お前いつ代表候補生になったんだよ? 弾から聞いたら中二の時に中国に帰ったって……」

 

「あんたこそ、帰って来たと思ったら何でいきなりISなんか動かしてんのよ?」

 

「何でって言われると……」

 

 

一夏は鈴にあの日の詳細を教えた。

SAOから帰って来て、リハビリの毎日を送っていた時の事。そして、件のIS起動事件の事を。

 

 

 

「ふぅーん…、とんだ災難ね。SAO事件にIS起動って、あんたどんだけ厄介ごとに巻き込まれてんのよ……」

 

「あはは……何とも言い難いな……」

 

 

 

二人はまるで昔に帰ったかの様に話し込んだ。

出会ったばかりの時は、お互い気にも留めず、一夏は一度鈴に殴られた事もある。……経緯は忘れたが……。

そんな二人に、痺れを切らせた二つの影が動く。

 

 

 

「あーう、うん! 一夏、そろそろ説明して欲しいのだが?」

 

「そうですわ。せめて自己紹介だけでも……」

 

 

言うまでもなく箒とセシリアだ。

そんな二人の勢いに負け、一夏は会話を中断する。

 

 

「あ、あぁ、そうだったな。鈴、改めて紹介するよ。俺の幼馴染の篠ノ之 箒。前に話したろ? 俺が通ってた道場の娘の……」

 

「あぁ、そういえば言ってたわね。

凰 鈴音よ。鈴でいいわ、よろしくね」

 

「篠ノ之 箒だ。私の事も箒でいいぞ」

 

 

同じ幼馴染と言うポジションにいる者同士。

通ずるものがあったのか、やけに行進的な挨拶を交わす。

 

 

「次は、セシリアだな。彼女はイギリスの代表候補生で……」

 

「セシリア・オルコットですわ! わたくしの事はセシリアとお呼び下さいな、鈴さん」

 

「よろしくねセシリア。代表候補生同士、仲良くしましょう?」

 

 

こちらもこちらで、同じ代表候補生同士。固い握手を交わす。

 

 

 

「チナツくん、私たちの事も紹介してよ」

 

「はい、もちろんですよ」

 

「チナツ?」

 

 

明日奈の呼びかけに反応した一夏に対して、疑問に思う鈴。その反応に一夏が「あぁ」と言って説明する。

 

 

「チナツって言うのは、俺がSAO時代に名乗ってた名前……って言うかキャラネームだな。

それで鈴。この人たちは、俺と同じSAO生還者で、向こうではいろいろと世話になった人達なんだ」

 

「へぇー、そうなんだ……。あっ! そう言えばもう一人男がいるって……」

 

「あぁ、それは俺だ」

 

 

 

鈴の発言に答える形で、和人が手を小さくあげる。

 

 

 

「俺は桐ヶ谷 和人。チナツとは、SAOが始まった時からの付き合いで、こいつと一緒にISを動かしちゃったんで、この学園に入学した。俺の事は好きに呼んでくれ……和人でも、桐ヶ谷でも、何でも」

 

「そっか……じゃあ和人で! それと、一夏の事、ありがとう。いろいろとお世話になったみたいで…」

 

「いやいや! むしろ俺の方こそこいつには助けてもらったし、お互い様って言うか、そんな大それた事は何も……」

 

 

頭を下げる鈴に慌てる和人。

SAOでソロとして活動していた二人。互いに情報を交換しあったり、ボス攻略でもパーティーを組んだりと、お互いを助け合っていった仲だ。

 

 

 

「それで、キリトさんの隣にいるのが……」

 

「結城 明日奈です! えっと、さっき言った通りチナツくんとはSAO時代からの知り合いで、いろいろと助けてもらったりしました。

鈴ちゃんって呼ばせてね? 私の事も明日奈でいいよ?」

 

「あっ、はい! 一夏がどうもお世話になりました! ええっと、その前に聞いていいですか?」

 

「ん? 何?」

 

「二人はおいくつ何ですか?」

 

 

明日奈の圧倒的なオーラに、鈴は思わず一時怯んでしまった。

そして、何だか歳上の姉さん気質な雰囲気に当てられ、思わず年齢を聞いた。そしたら……。

 

 

 

「私は、今年で18になるよ? キリトくんは17歳。鈴ちゃんよりも歳上だけど気にしないで?」

 

「あっ、はい。でも、そのぉ、何だか呼び捨てにはちょっとできないので、明日奈さんと和人さんって呼んでもいいですか?」

 

「うん! いいよ。好きに呼んで!」

 

「別に俺は和人でもいいぞ? まぁ、無理強いはしないけど……」

 

「そ、そうですか? なら、もう少し気楽に行きますね?

二人とも、よろしく」

 

 

 

無事に紹介を終えていくが、残る最後の一人の紹介で、小規模の勃発が起きてしまった。

 

 

 

「えっと、鈴。それで、最後なんだけど、彼女は俺の……」

 

「チナツ、私に言わせて」

 

「カタナ…」

 

「ん?」

 

「初めまして、鈴ちゃん。私の名前は更識 楯無。ここの生徒会長をしているわ」

 

「生徒会長ッ!? 一年で?!」

 

「えぇ、元々私もキリト達と同い年。つまり、チナツの一個上なの」

 

「あっ、そうなんだ……それで、SAO生還者なのよね?」

 

「えぇ、チナツには、私もいろんな時に助けてもらったわ……そしてーー」

 

 

 

刀奈は一度深呼吸をし、改めて鈴の目を見て発言する。

 

 

「彼、チナツと……織斑 一夏くんと、正式にお付き合いをさせていただいてるわ」

 

「…………………えっ?」

 

 

 

時が止まった様だった。

冗談無しに、鈴は固まり、さっきまでの雰囲気は何処へやら……。

 

 

 

「えっと、えっ? お付き合いって……それって…」

 

「あぁ、俺とカタナは恋人同士……なんだ…」

 

「ッ!」

 

 

 

改めて一夏の口から発せられた恋人宣言。

鈴は驚き、徐々にその体は震え始め、そして…

 

 

 

「い、一夏ッ、どういう事よッ!?」

 

「いや、どういう事って……だから、俺とカタナはSAO内で知り合って、それから交際し始めたんだ」

 

「………ッ……何よ、それ…」

 

「り、鈴?」

 

「何よそれッ! つ、つつ付き合ってるって、何言ってんのよあんたはッ!」

 

 

 

突然立ち上がり、激昂する鈴。

いきなりの事に一夏達も驚き、周りの生徒たちも同様、何事なのかと視線をこちらに向ける。

 

 

 

「鈴、落ち着けって!」

 

「これが落ち着いていられるわけないでしょうッ!! いきなり帰って来て、久しぶりに会ったと思ったら、彼女がいるって……。

しかも、よりにもよってあの世界で出会った奴とーーッ! 何でよ……ちゃんと答えなさいよ‼」

 

「…………分かった。話すから一旦ここを出よう。周りのみんなに迷惑をかけたくない…」

 

「…………いいわ……なら、屋上でいい?」

 

「あぁ、それで」

 

 

 

 

その言葉を最後に、鈴と一夏は席を立ち、食堂から出て行った。

そして、残されたメンバーは……。

 

 

 

「鈴ちゃん…凄く怒ってたね……」

 

「あぁ、鬼気迫る感じだったな……」

 

「はぁ……分かってはいたけど……それでも…」

 

「楯無さんが悔やんでも仕方ありませんわ。これは一夏さんと鈴さんが片付けなくてはならない問題ですもの……」

 

「そう、だけど……」

 

「………………」

 

 

 

鈴と一夏の事を心配する明日奈と和人。そして、その不安が的中し、落ち込む刀奈。

セシリアはそんな刀奈をフォローするも、そう簡単には行かず、箒に至ってはずっと黙ったままだった。

 

 

 

一方、屋上に出た一夏と鈴は……。

 

 

 

「さぁ、どういう事なのか…洗いざらいしゃべってもらうわよ!」

 

「あぁ、分かっている……。俺とカタナが出会ったのはーー」

 

 

 

それから、一夏はSAOでの事を話してくれた。

そこまで詳しくではないが、刀奈との出会いやあの世界の中で起きていた事件や、自分の事を。

鈴はそれを黙って聞いていたが、それと同時に激しい怒りがこみ上げている様な感じに思えた。

 

 

 

 

 

「そう、あんたは……あの楯無さんの事が……」

 

「あぁ、好きだ。愛してると言ってもいい……」

 

「くッ……!」

 

 

 

一夏の言葉に奥歯を噛み、怒りを抑える鈴。

 

 

 

「それに俺には、俺たちにとってはあの世界の出会いも大切な思い出であり、現実なんだ……。

だから、その思いを断ち切る事は出来ないよ……」

 

「何でよ…! あんたはあの世界のせいで二年間を浪費してしまったのよ?! なのに、何でそんな事言えんのよ‼」

 

「……あの世界で過ごした時間は、確かに俺たちの人生に狂わせたかもしれない……それでも、この二年間の事を、無かった事には出来ないし、したくないんだ」

 

 

 

一夏の確固たる決意に、鈴は何も言えなかった。

 

 

 

「それに、俺はVRMMOだってやめるつもりはないぜ? たぶん、キリトさんもアスナさんもカタナも……」

 

「えっ?!」

 

 

 

だが、再び一夏の口にした言葉に鈴は驚愕した。

 

 

 

「はぁッ? あんた、何言ってんの? ゲームを続けるって……」

 

「あぁ、VRMMOを続けていく。今更やめる理由がないしな…」

 

 

空を見上げながら眈々と話す一夏。

その顔は本気だった。

 

 

 

(それに、アレが今度アップデートされる……あの世界が…)

 

 

 

そんな事を思っていると、鈴がいきなり胸ぐらを掴み、無理やり自分の方へと体を向かせた。

 

 

 

「あんた、バカじゃないの……ッ」

 

「は、はぁッ?」

 

「ふざけんじゃないわよッ‼」

 

「ぐほッ!?」

 

 

 

いきなり右ストレートを顔面に食らい、尻餅を付く。

 

 

 

「いってぇ〜〜〜! 何すんだよッ?!」

 

「言わなきゃわかんないわけ? あんたって本っ当おぉぉぉにッ! 唐変木よねッ‼

そのゲームに殺されそうになったっていくのに……何で、何でそれを続けようとするのか、私にはわかんないわよ……」

 

「待て、鈴。アミュスフィアは、ナーヴギアとは違うッ‼ アミュスフィアは、ナーヴギアの様な殺しが出来る様なものじゃないッ‼

それにALOだって、ちゃんとした運営会社が維持してるし、今でも何万人ものプレイヤーがプレイしているんだ……SAO事件のような事は、もう絶対に起きないッ!」

 

 

 

明らかに泣いていた。鈴は俯き、拳を握って怒りを露わにしていた。

だが、その目からは涙が見えていた。

一夏も心配させまいと、アミュスフィアとALOの事を説明するも、鈴はそれすらも拒む。

 

 

 

「もういいわよ……あんたなんか…あんたなんかッ! 戻って来なくたって良かったのよッ‼」

 

「お、おい! 鈴ッ‼」

 

 

 

その言葉を最後に、鈴は走り去ってしまった。

後に残ったのは、虚しさと顔に残る痛みだけだった……。

 

 

 

その後、食堂に戻ってきた一夏の顔を見て、全員が驚き、「大丈夫か?」と心配していたが、一夏は「えぇ…」と返すだけ。

午後の授業は問題なく終わり、放課後。

和人達はISの訓練をすると言って、アリーナの使用許可を取りに行き、一夏は刀奈のいる生徒会室で話し合っていた。

生徒会室には今は誰もおらず、一夏と刀奈の二人だけ。

二人で生徒会室のソファーに横に並んで座っている。

 

 

 

「そう、鈴ちゃんがそんな事を……」

 

「あぁ、あいつの気持ちが分からないでもないけどさ……俺とカタナが出会ったあの世界の事を忘れるなんて出来ない。

だから、無かった事にするつもりは無いって言って、これからも仮想世界での活動を続けていくって言ったら、ぶん殴られたよ」

 

「なるほど。それでそんな顔になっちゃったのね…」

 

 

 

俯く一夏の左頬に、刀奈の右手が当てられる。

さっき鈴に殴られた頬は少し腫れて、今は湿布をしている。

それでも刀奈の手の暖かさや心配な気持ちが直に伝わってくる。

 

 

 

「それで? どうするの? 鈴ちゃんは二組のクラス代表だって言ってたし……。

まず間違いなく、チナツとは対戦するわ」

 

「あぁ、分かっている……。

だったら、今度こそちゃんと向き合わなきゃいけない。口で言ってもダメなら、剣で語るのみだ……ッ‼」

 

「ふふっ♪ チナツならそう言うと思ってたわ……。でも、無茶だけはダメだからね?」

 

「分かってる。もう心配はかけたくないからな……」

 

「なら、良し‼ じゃあ少しお茶しましょう?」

 

「あぁ、そうだな。俺が淹れるから、カタナは座っててくれ」

 

「ありがとー♪」

 

 

 

 

その後、二人は甘々の放課後ティータイムを過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏のバカ……何で分かってくれないのよ……)

 

 

 

 

鈴は一人、部屋のベットに身を投げ出し、うつ伏せのまま動かない。

やっと会えた愛しの一夏には彼女が存在し、そしてVRMMOを続けていくと宣言された……。

中国に帰ってからも、友人である弾とメールのやり取りをし、一夏の安否を気にかけていた。

テレビのニュースで、SAOによる被害者の報道が流れる度に、一夏の事なのではないかと心配し、不安に駆られていた。

そして、ようやく事件が解決した後、ISを動かした男性操縦者として、全世界から注目される存在になってからは、上層部の人間を脅す形で、一度断ったIS学園行きを決めた。一夏と再会し、出来る事ならば、またあの頃のようにか過ごせたら……。そんな事を思っていた。

 

だが、現実は……。

 

 

 

(美人で歳上の彼女が出来てたって……ッ‼ 何よそれ! 意味わかんないじゃないッ‼)

 

 

しかも、VRMMOを続けると宣言してしまう始末だ。

 

 

 

(はぁ〜……。もういいわよ……昔っからあんたは口で言ってもダメな奴だったわね。なら、今度の試合で決着を付けてやるわよーーーッ‼)

 

 

 

涙を流した目からは、強い意志と覚悟が感じられていた。

その姿はまるで、獲物を狙う猛獣の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、月日は流れてクラス代表対抗戦当日。

対戦相手の発表が行われており、なんと言うか、これは神の悪戯とも言うべきなのか、一夏の最初の対戦相手はーーーー。

 

 

 

 

「初戦から鈴かよ……」

 

「うーん……これは何とも言えないねぇ〜」

 

「チナツ、大丈夫なのか?」

 

 

 

対戦表はランダム生成されるから、まぁ、偶然って可能性も無くは無い。しかし、ここまで来ると誰かの悪意を感じる。

明日奈も和人もいきなりの鈴との戦いになるとは思っておらず、弟分の心配でいっぱいの様だ。

 

 

「大丈夫です……。ここまで来て、逃げる事はしませんよ。

それに、あいつだからこそ、おれが行かなきゃいけない……そんな気がするんです」

 

 

 

確固たる決意を胸に、一夏はカタパルトデッキに向かう。

正直、鈴の気持ちが分からないわけではない。

しかし、自分が見てきた世界。そして、そこで得たものや失ったものを否定する気は無いし、してはならないと思っている。

迷いはあるが、それでも答えを出すために戦う。

鈴と分かり合えるその日を取り戻すために……。

 

 

 

 

 

「行くぞ…。白式ッ‼」

 

 

 

キィーーンッ! と甲高い音と光を放ち、一夏の体に白い装甲が現れる。

 

 

 

「雪華楼……」

 

 

 

そして、左の腰に納められた愛刀を握る。

 

 

 

「白式 織斑 一夏 参るッ‼」

 

 

 

 

 

アリーナ内に勢いよく射出された白式。

そして、それを待ち構える鈴と、その専用機 甲龍。

 

 

 

 

「あら、逃げずに来たのね」

 

「逃げる理由が無いからな……」

 

「どうする? 今謝るなら手加減してやってもいいわよ?」

 

「雀の涙程度だろ? いらねぇよ、そんなの……。全力でこいッ‼」

 

「へぇー、言うじゃない。言っとくけど、絶対防御だって完全じゃないないのよ? それ以上の攻撃を与えれば、死なない程度に痛めつけるのは簡単なの…」

 

「そうかよ。だが、俺がそう簡単に食らうとでも?」

 

 

 

 

一夏の不敵な笑みに、鈴が激昂する。

 

 

 

「いいわ、あんたが二年間寝込んで間に、私がどんだけ強くなったか、思い知らせてやるわよッ‼」

 

「アインクラッド攻略組。白の抜刀斎 チナツの剣技、その身に味合わせてやるよ……ッ‼」

 

 

 

 

 

 

カウントダウンが始まり、臨戦態勢に入る。

巨大な青龍刀《双天牙月》と純白の日本刀《雪華楼》を互いに抜く。

 

そして、やがてカウントはゼロになり……。

 

 

 

 

「行くわよッ‼ 一夏ッ‼‼」

 

「来いッ! 鈴ッ‼」

 

 

 

 

 

イグニッション・ブーストで一気に肉薄する。

そして、互いの刀がぶつかり合い、激しい火花が空にちった。

 

 

 

「はああああああぁぁぁッ‼」

 

「うおおおおおおぉぉぉッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はバトルです!


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