SIRENE:Neue Übersetzung   作:チルド葱

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『ふむ、そろそろ時間切れというわけだ。いやなに、この歌劇が終わるというわけではない。
 始まりが終わり、終わりが始まる。まるで陳腐で稚拙な言葉遊びのようだがそこはどうぞご容赦を、往々にして神話の筋などというものは陳腐でない方が珍しい。

 さぁもうじきに、虫と番った悪趣味な"蛇"が目を覚ます』


すないぱぁ│2006.8.4.

「畜生がッ、どうなってんだよこの村は……!」

 

 それは、ハワードと美耶古が初めて聞いた、ヴィルヘルム・エーレンブルグの弱音風の言葉であった。

 鬼のように強いこの男でも、さすがにこんな奇怪な状況下で動く死体を相手取り続けていては気も滅入るのが道理だ。ここまで年少者の自分達には弱みのひとつも見せなかった彼も、実は無理やストレスを重ねていたのかもしれない――と。健気な少年少女は各々心の内でそんなことを考えた。

 快活でヒーロー気質なハワードはすぐに『僕がもっとベイのサポートをしないと』と思い、美耶古は素直にはくちに出せないものの『外のあなたたちを巻き込んでごめんなさい』と心中で呟いて痛ましく表情を曇らせる。

 そんなふたりの様子にはまったく気付かないヴィルヘルム・エーレンブルグは、適当に拾ったその辺の小石を浜辺で遊ぶ子供のように遠投して、数十メートル先で頭に生えた羽根を羽ばたかせて空中散歩を楽しんでいた羽根屍人をあやまたず撃墜してから、スンと白い鼻を鳴らした。

 

「今のババアでここらの死体連中は全滅ときたもんだ。ちっとばかし機敏なジジイかババアばっかでまともに戦争できるとでも思ってンのか劣等の腑抜け共はよおッ! 云億総火の玉はいいが搾りカスみてぇな雑魚ばっか集めてもどうしようもねぇだろうがっ、舐めくさりやがって!」

「エッ」

「エッ」

 

『そこ!? お前の問題意識まだそこだったの!?』と信じがたいものを見たような顔になった美耶古。

『ベイ、僕たちを不安がらせまいと強がって、持参の軍人コスプレに合うウィットの効いたセリフで和ませてくれてるんだね……! So cool! 僕もがんばらないと! I wanna be a man!!』と相変わらずの精悍な表情で拳を握ったハワード。

 そして、歯軋りでもしそうなくらい苛立った様子で猫背を丸めて大股に歩き始めるヴィルヘルム。

 3人の絆は部分的には深まったり深まらなかったりしていたが、道中自体は危なげなく進んでいる。

 2006年8月4日、夕方。田堀から再び刈割に属する山道に入って歩を進めた彼らは、合石岳の見晴らしの良い山道に差し掛かっていた。

 

 

 

 ● ◎ ●

 

 

 

『歯ごたえの無い化け物を嬲ることに飽きてきた』という屈託がないんだか邪気の塊なんだかよくわからない理由で機嫌が悪いヴィルヘルムは、相変わらず屍人の襲撃を荒々しく軽快に捌きながら、ハワードと美耶古が彼と合流する前のいきさつを聞いてみることにした。

 ここまでこの弱者ふたりの情報については『どうせ聞いても滾る要素も面白い要素もまったく無さそうだしなァ』と欠片の興味も抱いていなかったわけだが、ここに至って、そろそろこの奇妙な異界の化け物を誘き寄せる餌としての少年少女の肉質を再確認する必要があるように思われてきていた。カラリとしたこの戦闘狂は、元々他人との会話は嫌いではない方でもある。

 極端な暴論ばかり弾き出すヴィルヘルムは、しかしけっして愚鈍なわけではなく、むしろ頭の回転ははやいし思考力もあった。羽生蛇村脱出を目指すふたりへの同行が無駄足となればさっさと別離してもっと効率よくこの戦場を廻ってみた方が合理的であると、(思考の方向性の如何はともかく)冴えた頭はそう判断したのだ。

 そんな人間離れした動機から交流を図ってきたこの白い男に、しかし少年少女は素直に事情を話した。

 

 というか、ここまで彼ら3人は――ヴィルヘルムは先述した理由によるが、ハワードと美耶古も――合流前についての情報交換をほとんど行っていなかったらしいのだ。報告・連絡・相談がなっていない。

 ハワードに至っては、この山道で初めてフルネームを美耶古に名乗ったときた。別にマジメぶって仕切るつもりなんてさらさら無かったヴィルヘルムだが、これにはさすがに呆れて「バッカじゃねえの」とせせら笑った。

 

「そこはてめえ、最初に会ったときにでも済ましとけよ要領の悪ィクソガキだな! 俺ァ餌の名乗りなんざどうでもイイから改めて訊かなかったがよ、テメェはどうせはじめて会った時からそのメスガキに惚れてたとかだろ?」

「? ……なっ、ばっ、……はあああ!? ベイお前何言いだッ……ィひゃッ!」

「ミ、Miyakooooooo!! Noooooooo!!」

 

 一拍遅れでぼふっと赤面した美耶古が怒鳴ろうとして舌を噛みぷるぷる俯いた隣で、ヴィルヘルムの流暢な日本語をいまいち把握できていなかったハワードは口元を押さえた美耶古にわたわたと慌てるばかりである。

 真っ直ぐ切り揃えられた前髪の下からチロリとハワードを睨み上げた美耶古は、なかなか治まらないらしい舌の痛みを必死にこらえて「お、おまえぇ、かんひぁいひゅるなよッ……!」とろれつの回らないツンを吐く。ハワードはその艶っぽく半泣きになった黒い瞳を見詰め返して赤面しながら「Sorry, pardon? ミヤコ、もういっかいいって」と朴念仁と日本語未熟ぶりを発揮。乙女心の機微なんてわかるはずもない黒円卓髄一の非モテ中尉は、普段はツンと取り澄ました少女の弱った姿を見て空気を読まずにゲラゲラ笑っていた。これはさすがにハワードにたしなめられたが、「俺よりそこの姫さんに気ィ遣ってろや、色男」と軽くあしらう。『姫』や『色男』という単語は知っていたらしいハワードは照れくさそうにはにかんで、なんだかんだこの一連の会話はぬるったい微妙な空気のまま終わったわけだが。

 

 ともあれ、どうやらここまでのハワードと美耶古の情報交換不足は、言語の壁によるところが大きかったらしい。

 美耶古はこれまで半ば軟禁されたような状態で、神に捧げる贄として育てられてきた。その来歴ゆえに戸籍等、俗世と関わるあらゆる要素をそもそも与えられておらず、従って義務教育も受けていないのだ。英語など知るよしも無い。

 一方のハワードは、日本のインターナショナルスクールに通っているとはいえ、未だ日本語を不自由なく使いこなせるレベルには達していない。普通に話していても、スポーツマンらしく短く清潔にカットされた赤っぽい茶髪を掻いて「Well……」と言いよどむことがままあるのだ。こんな常軌を逸した状況をうまく説明できるようなボキャブラリーとなると、少々無理がある。

 しかし今そこには、ヴィルヘルム・エーレンブルグがいた――母語であるドイツ語は勿論の事北米に潜伏していたこともあるため英語も話せて、更にきたるシャンバラでの大儀式時の訪日に備えて日本語もスラングから敬語表現までばっちり身に付けている、この黒円卓の騎士が。今まで戦闘にしか興味をひけらかさなかったヴィルヘルムだが、いざコミュニケーションをとるとなると、絶好の通訳係になり得る人材だったのだ。

 ただちょっとした弊害といえば、ヴィルヘルム通訳を介すとハワードの快活で若者らしいセリフもなんかえらい口汚く下衆な放送禁止ワード入りでアレンジされてしまうことであったが(美耶古はその日『ハワードお前笑顔でなんてこと言ってるんだよ外国人スゴイコワイ』という拭いがたい印象を、これまで狭い村のなかで純粋培養されてきた心に深く刻み込まれた)、それでもまあ、互いが持っていた情報はおおむね共有されたと言える。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

~ハワード・ライトの羽生蛇村紀行~

 

・2006年8月2日 深夜

『永遠の夏がそこにある!』『超かわいい乙女もいる!』とかいう謎のメールで呼び出され、ひと夏のアドベンチャーを楽しむべく羽生蛇村に向かう途中道に迷っていたところ、謎の殺人儀式に遭遇。飛び込んで美耶古を逃がし、自らも逃げ出す。

 ↓

県道に出て停めていたバイクを探そうとしたが、不気味な駐在警官に出会ってしまい、更に出会って1分足らずで『了解。射殺します』とか言われる。日本の警察が予想以上にワイルドで驚きつつ逃げるが、近隣の民家の住人はなんか全員殺害されていた。

なんとか警官をぶちのめしてはみた(民家で入手したハンマー使用)ものの、なんか、警官、復活した。

発砲され、腹に被弾。

その直前か直後にサイレンが鳴り響いたのを遠く聞きながら、土手から転落。気を失う。

 

・2006年8月2日 早朝

気がついたらとりあえず被弾した腹は完治していたので、行動開始。

なんなんだこの村は、と歩いていたところで『アマナ』という外国人女性に出会う。金髪に赤い服。成人はしていそうだが年齢不詳。

どうやら彼女も村の化け物――屍人というらしいと教わる――から逃げ隠れしつつどこかを目指していたので、途中まで同行させてもらう。

 ↓

アマナと別れた後、しばらく山道を歩いていたところで運命の再会。昨夜の儀式時もいた猟銃装備の男に美耶古が絡まれているのを発見する。迷わず助ける。

美耶古は『わたしは生贄なんかじゃない、村から出たい』と主張。猟銃装備の男は『運命に抗ってみますか』とか言ってさっさと去って行く。正義は勝つんだね!(ハワード主観)

男が去った後『……はやくつれていけ』と言いながら美耶古がハワードの手をとって、ふたりは羽生蛇村脱出を目指すことに。

 ↓

その後、田堀方面に向かっていた道中でヴィルヘルムに出会った。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「……ヘェ? ンだよ、案外といろいろやってやがったんだなガキ。つかこんな頭の悪ィ呼び出しにわざわざ乗ってくるたァ笑かすじゃねえか。ふうん……『アマナ』、ねえ。ハ! この辺鄙な極東の人里にわざわざ海越えて来てる外様が、これでざっと8人もいんのかよ! こいつぁいよいよくせぇな、臭いやがる」

「Oh yes. ベイがみたテレビクルー4にん、ぼく、アマナ、ベイ、and ベイのつれ。……Hmmm」

「胡散臭ェ怪文書につられてのこのこやって来たアメリカンチェリー野郎はともかくとして、他の外人連中も見ときてぇもんだな。そんであの猟銃持った奴ぁ、やっぱりこのメスガキ狙いか」

「Yes! まもる、ミヤコ、いっしょ! むらでる、いっしょ!」

 

「――……いやいやいやバカじゃないのかお前ら!?」

 

 地べたに車座に座って所見を話していた男ふたりに、美耶古はすっかり調子を取り戻して怒鳴った。ハワードはぎょっと大げさに淡い茶色の目を見開いて「What!?」と驚き、ヴィルヘルムは片眉を上げて「ああ?」と呻りながらサングラス越しの赤い目をしれっと美耶古に向ける。対照的な反応に、少女はひるまずに更に声を荒げた。

 

「ハワードお前、腹を銃で撃たれて翌日完治ってなんだそれ!? 受け入れていいことじゃないだろ愚図ッ!!」

「おう、そういやそんなくだりもあったか。ガキにしちゃあ丈夫だなテメェ」

「エヘヘ!」

「えへへじゃないよ!? ……本当に、もうなんともないんだろうな」

 

 ジロリ、とハワードのTシャツの腹あたりを睨む美耶古は、少女にしては意志の強い険のある目つきで怒っているふりこそしているが、すっかり眉尻が下がってしまって表情に迫力が無い。

 ハワードはHAHAHAと白い歯を見せて笑うと、「Oh yah! なんともない、ほんとう!」と自分の腹を叩いて見せた。

 初心なふたりのやりとりの隣で、ヴィルヘルムは後ろ手をついてだらりと上を向き、弛緩した姿勢で思考する。

 

「しかし実際、視界ジャックとかいうのといい自然治癒力の上昇といい、この村に来てからなんかしら体イジられてんだろォ、そいつ。あのサイレンのせいか赤い雨のせいか、他の要因があンのかは知らねぇが」

 

 赤く澱んだ空を見上げながら呟かれた言葉に、反応したのは美耶古だった。

 

「……多分、赤い水のせいだ」

 

 目を伏せてそっと発せられた推測に、ヴィルヘルムはぱちりと目を瞬かせた。それから姿勢を猫背気味の前傾に戻し、白い頭をゆるりともたげて「どういうことだ」と短く問う。口辺にはニィと、隠す気も無い笑みが乗り始めていた。

 

「何か知ってんのかよ、生贄の巫女さんとやらはよお」

「わ、私は生贄なんかじゃないっ!」

 

 その一言に過剰な様子で言い返して、不安定な少女はきゅっとくちびるを噛む。そうして赤くなったくちびるの隙間から深く細いため息を吐くと、気遣わしげに自分を見詰めるハワードを見遣って、どこか自嘲気味に微笑んだ。

 

「この村の秘教である眞魚教の聖典『天地救之伝』に、似たような文があったんだ。『赤イ水 死シャ オキアガル』って。私も詳しくは知らないけど、もし仮に、あれが予言書みたいなものだったとすれば……――」

「――あの屍人っつうのが動いてやがる要因があの晩降った赤い水。そんで、こいつも一遍死んでやがるってか? く、ははは! 面白ぇ設定じゃねえかよ、悪くねぇ」

「もしくは、死んではないにしても、屍人に近付いた存在になってるのかもしれない。赤い水を取り込んでるのはどうせ私だっておんなじだ。だから視界ジャックでつながれたりもするのかも」

「そういや奴ら、いっつも目から赤い水だか薄汚ぇ血だかわかんねえ汁垂らしてやがったわな。理屈は知らんが、マレウスあたりに言わせりゃあ魔道の媒体ってことにでもなんのかね」

 

 そこまで会話してから、手短に要約した今の会話内容をヴィルヘルムが面倒くさそうにハワードに通訳してやる。「Oh」と声をもらしながら耳を傾けるハワードを、美耶古はおずおずと横目に窺っていた。

 

「……怒ったか」

 

 ひとしきり説明を聞き終えたハワードは、額に手を当てて首を振った。それをジッと見ながら、美耶古は抑えた声で尋ねる。

 推測の内容のあまりの奇怪さにさすがにうろたえていたハワードは、それでも美耶古の声を聞くと「なに?」と、ぶつ切りの日本語で問いを返して笑顔を作った。「涙ぐましいこった」と嘆息したヴィルヘルムはそこでさっさと立ち上がり、数歩進んで気だるげに首を揉んだ。青臭い色事にいちいち付き合う気はさらさら無い。有益で面白い仮説が見付かった今は、安いラブコメなんかよりも屍人の身体のほうがよっぽど欲しい。

 背中で少年少女の会話を聞きながら、ヴィルヘルムは赤い目をすがめてめぼしい屍人を探し始めた。

 

「変なことに巻き込まれて、人間じゃない体になったかも、しれなくて。怒ったか」

「! No! えと、ちがう、おこってないよ」

「うそつけ」

「うそじゃない」

「だって、おまえ……!」

 

 赤い空の向こうで、何か光った。

 

「No, ah, well……しびとは、こわい。しびとには、おこる。けどミヤコにはおこってない。ほんとう。ちょうまじ。がち」

「ば、ばか、バカっ……ちょうまじって、なんだよぉ……何語だよ……」

「こんなへんなむらは、ちっともすきじゃないけど。ミヤコにあえたから、いいんだ」

 

 夕焼けが白い火柱をあげるような光景に、サングラス越しにでも赤い眼は眩む。

 

「ミヤコ、がんばる! いっしょ、にげる! OK?」

「…………」

 

『何だあの光』と目をしばたかせたヴィルヘルムのよく利く鼻に、不意に、いつか嗅ぎなれたにおいが微かに届いた気がした。

 

「……うん。がんばる」

「ミヤコ!」

「ありが」

 

 

 

 ――銃声。

 

 

 

 ◎

 

 そこでの判断自体は、ひとつも間違えていなかったと断言できる。

 

 不意打ちだろうが奇襲だろうが遠距離狙撃だろうが、そんなものはヴィルヘルム・エーレンブルグがこの場にいた時点で意味の半分を失っていると言えた。飛来する銃弾くらい、この男は当然素で見切れるのだ。仮にサイレンサーをつけていたとしても対処できただろうが、わざわざご丁寧に音まで鳴らした日にはその襲撃の失敗は確定したも同然だった。

 3人がいた場所は山道の半ば。道の片方は切り立った土手、もう片方は茂みと雑木林で鬱蒼としている。ヴィルヘルムは土手の側におり、美耶古とハワードは雑木林に寄った方に居た。

 銃声は、山の間で反響してはいたものの、どちらかというと雑木林の方から響いた。

 常人離れした速さで振り向いたヴィルヘルムは、そのまま一目で銃の軌道を読んだ。それからグンと大股に踏み込んで、その軌道上に手を伸ばす。

 

 ――メス狙いか、まぁ順当だろうよ

 

 そこまで察した上で、下手に被弾すれば殺されそうな少女を放置するのも危なっかしい。ゆえにまぁ守ってやる、と。即決した歴戦のSS中尉が選んだ回避手段は至極単純、『飛来する銃弾を手で受け止める』というものだった。

 黒円卓の騎士特有の恐怖も警戒もトんだ感覚に裏打ちされたそんな選択は、たとえばあの病的に慎重なロート・シュピーネであれば絶対にしないものであっただろう。しかし別にそこでのヴィルヘルムの判断は間違ってなどいなかった。純然たる事実として、魂の総量が違うのだ。たかだか銃弾一発で有効打になんかなるわけがない。

 そう、それが何の細工もされていないただの銃弾でさえあればの話。

 そしてそれ以外の仮定など、ここまでの屍人達の戦闘手段を見ていればいちいち想定するのも馬鹿らしい。

 

 

 しかし実際、その銃弾はヴィルヘルムの掌に穴を開け美耶古の足の肉を削いだのである。

 

 

「――あァ?」

「いッ、ぐ……!!」

 

 悲鳴をあげる美耶古の傷を確認するのも忘れて、ヴィルヘルムは目を瞠った。

 痛みがある。それも懐かしい類の。軍服規定の手袋ごと打ちぬかれて赤黒い穴の半ば焼け焦げた断面からじくじくと血をにじませる傷口を、赤い眼はどこか物珍しげにまじまじと見詰める。

 見詰めて――銃弾に絡んでいた覚えのある魔力痕を確認したとき、その白貌には熱を孕んだような獣じみた笑みが広がった。

 ――おいおいこいつは、どういう風の吹き回しかは知らねぇが

 

「――……ふ、くははっ、ぎゃははははッ、アーッハッハッハァ!」

 

 ――やっと面白くなってきやがった!

 予想外の展開、降って湧いた異常事態に、黒円卓第四位《串刺し公》は腹を抱えて思い切り哄笑した。

 

 

 

「やってくれンじゃねえかよ、マぁレウス!!!」

 

 

 

 蠢く影を纏った銃弾は、その後数発、立て続けに飛来した。

 

 




ベイ中尉のテンションのアップダウンのツボはSIREN世界の人からすると明確におかしいなと、書いててしみじみ思いました。
美耶古「ううっ、足、痛ぁ……ってベイはなんで撃たれて爆笑してるんだ……!? 頭!? 頭やられたのかお前!?」

燃えるものを書きたいものだなぁと憧れつつもやっぱりマイペースなシリアスギャグ進行になるんだと思いますが、もし気が向かれましたら、次回もお付き合い頂けますとうれしいです。

【追記】
『SIREN:NT』ってわくわく小説検索してみたら拙作しかHITしなかった今日この頃。
「もしかするとハーメルンさんのなかではNTはマニアックなのかな…!?」と不安に思い、ビジュアルイメージを描いてみました。
そんなわけで改めて、羽生蛇村脱出チーム。

【挿絵表示】

左から、ベイ中尉・美耶古様・ハワードくん です。
いっしょうけんめいかきました。少しでもお話のイメージの参考にして楽しんでいただければと思います。

(2014.10.13. こねぎ)

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