SIRENE:Neue Übersetzung   作:チルド葱

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『しばしの戯れ、絶望と引き換えの生を貪る恐怖劇の前のいっときのモラトリアムを、どうぞご観覧あれ。

 ……ふむ、何かしら内容のある前書きが必要かね? 三千世界どこもかしこも、慧眼な読者というのはえてして手のかかる要求が多いと見える。
 しかし今はまだその時ではなく、加えて私は女神の、無上の肌理細やかさに輝く絹の如く白くやわらかでありなおかつ清らなる乙女のまろみを帯びた曲線が全世界を祝福しているかのようなまさに愛と抱擁の奇跡を具現したる裸足に触れた砂を保存する作業で少々立て込んでいるのだ』


視界じゃっく│2006.8.3~4.

 夏休みに羽生蛇村にやってきた、アメリカ出身のインターナショナルスクール学生、ハワード・ライト。

 羽生蛇村に伝わる宗教儀式の生贄にされようとしていた少女、美耶古。

 そして髑髏の帝国の悪名高き第36SS所属武装擲弾兵師団中尉にして聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ。

 羽生蛇が異界の様相を呈する際にそこに居合わせ巻き込まれた人間たちの内、奇妙な偶然から彼らは巡り合い、一時的に行動を共にしていた。

 もっとも、「一時的に」とは言っても具体的な期間が定まっているわけではない。ハワードと美耶古はヴィルヘルムが合流した時点で既に『羽生蛇村からの脱出』を目標に行動しており、後から合流したヴィルヘルムはそれに便乗している状態である。ハワードはどうやら美耶古に惚れていた。

 とはいえ、少年少女の逃避行だか脱出劇だか知れない冒険を応援してやろうなどという人の良い考えはヴィルヘルムには当然ありはしない。

 

『……お前は、どうして私たちを助けてくれたの?』

 

 初めて会ったとき、ふたりが鍬を持った屍人に襲われていたところに上機嫌に爆笑しながら乱入したこの黒い軍服の白い男に、美耶古は気丈にそう尋ねた。死者が躍るこの地獄のような村に突然現れた黒円卓の騎士は、まさに不敵で得体の知れない死神のように彼女の眼に映ったことだろう。

 警戒心の滲んだ黒い瞳に睨み上げられたヴィルヘルムはしかし、特に何の駆け引きも気負いも無く、あっさりと本心を返した。

 

『ああ? ンなもん決まってんだろ、ここで遊んでくぶんにはテメェらが一番良い餌だからだ』

 

 しれっとした真顔でそう言ってから『今ンとこ、ここらで一番この死肉連中の格好の標的になってんのはテメェらだろ? ま、よろしく頼むぜ』と牙のような犬歯を晒してニヤァと笑ったヴィルヘルムに美耶古が『嬉しくないし意味がわからない!!!』と噛み付くと同時に、隣で少女とSS中尉の日本語会話を慎重に聴いて状況理解に努めていたハワードは気さくに笑って『OK, ヨロシークー!』とサムズアップして見せた。『今の聞いてなかったのか!? どこもおーけーじゃないぞ!』と色白な顔を怒りで赤くしてハワードの腕を叩いた美耶古に、ハワードは何を思ったか『Oh』とか言って照れたようにはにかむ。たぶんあんまり状況をわかっていない。

 そんなことをわいわい言い合っている間にも当然のように屍人たちは襲い掛かってくるわけだが、ヴィルヘルムはそんな攻勢をものともせずに片手間に死体の山を作っていく。そんな様子を見ていると、さすがの美耶古も、目の前で直接的な脅威を捌いていくこの異様に強い男の同行を拒否する気持ちがくじけてしまった。

 この身元不明の軍人らしい男が並外れた戦闘力を持っていることはどう見たって明らかなのだ。自分達に対する殺意も、どうやら今は無いらしい。

 藁に縋ってでもこの村を脱出したいという極限状態において、美耶古が拗ねたような顔で『……わかった』と頷くのに時間はかからなかった。

 

 

 

 ● ● ◎

 

 

 

 そんなこんなで、彼らは今、田堀地区で一休みしていた。

 住宅地跡となっているここは、昨夜のサイレンと共に空から降り注いだ赤い水の床上浸水に痛んだ木造の家々が、時間に置き去りにされたかのように立ち並んでいる。十年以上は吹きさらしにされていたようなゴーストタウンと化したそんな集落には、目や鼻から赤い水を垂らし歩く屍人たちが生前を反復するかのように居ついていた。

 そんななか、村の奥地である刈割から田堀まで出て来た3人は、比較的きれいな住居に押し入って居間で寝転んでいた屍人を始末し、運動に不慣れな美耶古を休ませることにしたのだ。

 塀の外に屍人を投げ捨てて「ちッとこの家ェ借りるぞジジイ、テメェはそこらの山へでも帰れや」と律儀なんだか外道なんだかよくわからない声をかけたヴィルヘルムがずかずか居間に帰って来ると、座布団の上に膝を抱えて座った美耶古が物言いたげに目線を上げた。

 

「その……びるへるむ」

「…………煮えきらねぇ発音のせいでよく聞き取れなかったんだが、ひょっとしてテメェ今俺のこと呼びやがったのかメスガキ」

「なっ、あっ……~~~っ、悪かったな! お前みたいなヘンな名前の奴、今まで近所にいなかったんだからしょうがないだろ!」

 

 赤い目をすがめて眉をしかめたヴィルヘルムに、美耶古は頬を赤くして怒鳴る。この村から一度も出たことが無く、生贄とされるためだけに育てられてきたというこの黒髪の少女にとって、外国語の発音なんて全くの未知だったのだろう。

 面倒くさそうに「騒ぐなうぜぇ」と言い捨てながら窓枠に腰を下ろしたヴィルヘルムは、猫背気味に背を丸めて膝に頬杖をついた。それから「ベイでいい」と短く付け加える。

 

「つうか用がねぇならいちいち呼ぶな。しゃべくる元気があんなら休憩なんぞ不要だろうが、とっとと外出て犬みてぇにそこらへん歩き回って面白ェ獲物でも誘き寄せて来いや」

「Oh, Yes!! ベイ、ミヤコ! ぼくも、犬派! いっしょ!」

「あーそうかよ。俺ァ犬は嫌いだ」

「Oh…… I see……」

「………でかいガタイの野郎がいちいちしょげてんじゃねえよ、気色悪ぃ」

 

 分かる単語が出たことで嬉々として会話に横入りしてきたハワードが、バッサリ返されたヴィルヘルムの言葉にしょんぼりと肩を落とす。良くも悪くも屈託の無い少年の反応に、さすがのヴィルヘルムも呆れ半分辟易半分、眉をしかめて閉口した。

 他者の明け透けな感情表現に不慣れであるらしい美耶古もわたわたと慌てて『おいどうしたらいいんだお前もっとなぐさめろ』とでも言いたげにヴィルヘルムを睨んだが、この戦闘狂はわざわざそんなことに助け舟を出すお人好しでもない。

 結局美耶古が小声で「おい愚図っ、その、わたしも……犬、好きだよ……」とフォローを入れたことでハワードはようやく元気を取り戻したのだった。

 ともあれ。

 

「それで、ベイ」

「何だよ」

「お前も、見たところハワードとおんなじよそ者なんだろうけど……どうしてこんな村に来たんだ」

「ハア? それ聞いて何がどうなるってんだよ」

「Bey,えと…… Before I came to this village, I was invited here by someone. I told her that. So she think you were also invited」

 

『ぼくは誰かに呼ばれてこの村に来た。だから美耶子は、君もそうだったのかと心配してるんだよ』と早口に言い添えたハワードに、ヴィルヘルムは微かに目を瞠った。

 何者かがハワード・ライトをこの村に招き、そしてここは異界と化した。――この人外魔境じみた人里の異変が人為的なものであることを匂わせる情報である。

 これはますます楽しみが増すじゃねえか、と戦意を遊ばせつつ口角を上げて「そいつァ面白ぇな」と呟いたヴィルヘルムの機嫌の良い横顔を見て、ひとり外国語がわからない美耶古は「いやなんでベイの奴はそんな嬉しそうなの? ハワードお前何話してるんだ……?」とドン引きしたりしていた。とんだ濡れ衣である。

 

「――ま、話はわかった。読みをはずしちまって悪いが、俺ァ誰にも呼ばれちゃいねえよ。ここに来たのも単なる暇つぶしだ」

「へ、へぇ……。ふんっ、こんな辺鄙な所に1人で暇つぶしだなんて、寂しい物好きもいたものだな」

 

 急に話題を戻された美耶古はとっさに意地を張ってそっけない言葉を吐くが、そんな少女の機微などまるで気にせず、ヴィルヘルムは「ハ! 余計なお世話だ」とシニカルに笑い飛ばした。

 

「つうか一応連れはいたぜ、淫売のババアがひとり。あのサイレンで気ィ失ってからはぐれっちまって、今はどこにいんのかもわかんねぇがな」

「……は!?」

「What!?」

「なんだよ」

 

 揃って声を上げた少年少女をジト目で睨むと、「いや、そんなの、心配だろ……!」ともごもごと言い返される。美耶古という少女はこれまでの人間関係の極端な狭さからかツンとした態度が目立ったが、なんだかんだで他人を思いやれる心根の持ち主だった。ハワードも眉を寄せて「しんぱい! さがさないと」と拳を握っている。

 若いふたりのなんとも青臭い反応に、しかし白い男は「気にすんな」とひらり、手を振った。

 

「そう簡単にくたばるような可愛げがあいつにあるかよ。どうせ腹ァ減るか飽きるかしたら合流して来るだろ」

「そ、そんなご近所の家出感覚でいられるもんなのか……? まぁその人もベイくらい強いなら、ちょっとは安心だけど」

「そのババア、どんな子? How old is she? How is her looks? みつけよう!」

「アー……」

 

 億劫そうに、しかし黙っていてもどうせ退屈なので無視するでもなく、ヴィルヘルムははぐれた連れ――ルサルカ・シュヴェーゲリンの姿を頭に思い描いてみた。

 それから片手を地面と水平に持ち上げ、適当な高さで軽く振る。

 

「こんくらいの背丈の女だ。赤い髪に緑の目ぇした、幼児体型のメスガキだな」

 

 ただし中身は2,3世紀生きてる魔女のババアだけどよ、と続ける前に、美耶古が「いやバカかお前!」と怒鳴った。

 

「そんな子とはぐれて何しれっとしてるんだこの愚図!!」

「ああ!? うっせぇな、だからそう簡単にゃくたばんねぇっつったろうが。アレをそこらのガキと一緒にしてんじゃねぇよ低脳劣等が」

「No, Bey. さがさなきゃ」

 

 善人丸出しのお育ちの良いふたりに詰め寄られて思わず怒鳴り散らしそうになったヴィルヘルムに、そこでハワードは、使命感に満ちた顔で張りのある声を響かせたのだ。

 

「Let's 視界じゃっく!!」

「……ハア? 何ぬかしてやがるバーガー野郎」

 

 それは、この赤い水の異界に足を踏み入れた者が何故か、いつの間にか身に付けている、特有の技能の名称であった。

 

 ◎

 

 視界ジャック。

 周囲にいる屍人や人間などの視界を文字通りジャックする――すなわち、他者の視界を遠隔的に覗き見る能力。幻視とも呼ばれるらしい。

『ぼくもこの夏ここに来るまでは、こんな刺激的な能力を身に付けるなんて思ってもみなかったよ』と深夜のテレビショッピングか洋画の変身ヒーローさながらに肩を竦めて笑ったハワードに、ヴィルヘルムは気の無い返事をしながら怪訝な顔をする。サングラス越しにジロジロとハワード・ライトを観察してみても、聖遺物や特殊な能力を持っているふうには見えない。『このガキがレアな特殊能力に目覚めたっつうんなら一戦やらかしてみるのも悪くないんだがな』、などと算段する貪欲な戦闘狂の内心には気付かず、ハワードは『ベイにもできるかも!』と言うと、拙い日本語で視界ジャックのやり方を説明し始めた。

 

「まず、目をとじて! OK?」

「ああ? おう」

「それから……Ah……well……」

「………」

「OK……Oh……oh yes……! More, more……OK……OK!!! Yeahhhhh!! Are you OK,Bey!?」

「……テメェにいっぱしの説明能力がねえっつうことはよくわかった」

 

 さっさと飽きて目を開いていたヴィルヘルムが嘆息し、美耶古も深々とため息をつく。

 

「これで伝わってたら逆に怖いから、いっそ安心した。……とはいえ確かに、目を閉じて意識を眼球の裏に集中させる、としか言いようが無いし」

 

 そう言って自らも目を閉じた美耶古は、生白いまぶたをふるりと震わせた。額に手を当てて頭痛を耐えるような仕種をした後、桜色のくちびるをちいさく開く。

 

「この辺には屍人しかいない。人数はざっと14人」

「……へぇ?」

 

 そこで開示された情報には、ヴィルヘルムも興味をそそられた。座っている窓枠に片手を置いて、上半身をぐっと窓の外に乗り出す。

 聖遺物の使徒の感覚は、人間のそれを遙かに凌ぐ。おまけにこの白い吸血鬼は鼻が利くのだ。

 間もなくして彼は、少女が『視界ジャック』とやらで得た情報が正しい事を確認した。

 

「くは、ははは! おうガキ共、便利じゃねえかよ、ソレ。索敵機能付きの餌たァ、最近の極東は気が利いてやがる!」

「お前の言葉の意味とやる気スイッチの場所は一向によくわからないな……」

「で? 他にわかることはねぇのかよ」

 

 ちょっとどころでなく引いている美耶古の呻くような呟きはあっさり無視して、ヴィルヘルムは身を乗り出した。そんな追加要求が来るとは思っていなかったのだろうハワードと美耶古は「わかること?」と揃って首を傾げる。察しの悪さに舌打ちして、歴戦のSS中尉は親指で外をぐっと指差し、呆れたように「だァから」と歯軋りした。

 

「人数以外にも、装備やら隊列の組み方やら陣形の配置やら、もうちッと使える情報ひねり出せねぇのかッつってんだよ」

「いや………考えたことも無い、かな……」

「Oh, me too」

 

 ちなみにこの『視界ジャック』、ハワード達はヴィルヘルムと合流するまで『屍人に見付かる事を避ける』為に使っていた能力であったのだが、この"戦場のオカルト"にかかると『俺より強い奴に 会いに行く』為のいち機能にすぎなかったのであった。こうなってはもう「(屍人の)逃げ道なんて、ないよ」な状態である。

『はぐれたマレウス・マレフィカムを探す』ことなんて、最早頭に浮かびすらしない。この戦場にさらに充実した暇つぶし要素にいっそう上機嫌になって、ヴィルヘルムはとりあえず、近場にいるという14人の屍人で遊ぼうと窓から飛び降りて外に出て行ってしまったのだった。

 その後、ハワードはハワードで「ミヤコ、おなかすいてない? ぼく、つくる、りょうり!」と言って台所に入って行き、何の肉かよくわからない物で何かよくわからない肉料理を作って振舞おうとし。

 

『てッめぇまだ山に帰ってなかったのかよクソジジイ!! ンな斧で俺をヤろうなんざいい度胸じゃねえか気に入ったぜぇぇえ、ひはっ、ぎゃっはははははは!!!』

『GYAAAAAAAA!!!!!』

 

 ……みたいな盛大なBGMを聞きながら、いろいろ有耶無耶のうちに、美耶古の休憩時間は終わった。

 体力回復と引き換えに、心労が少し増えた気がした。

 

 ◎

 

 結局、ヴィルヘルムは視界ジャックが出来なかった。その上、ハワードや美耶古がヴィルヘルムの視界をジャックすることも出来なかった。

 彼が余程この能力と相性が悪かったのか、それとも普通の人間にしか宿らない能力なのか。細かな点は定かでは無いが、ヴィルヘルム自身はこの技能を特に必要とはしていなかったため、あっさりと「出来ねぇもんはどうでもいい」と流してしまった。

 

「But,Bey. けっこう、おもしろいんだ。視界じゃっく」

「ああ?」

 

 大雨の後の洪水のように膝上まで赤い水が満ちている地面をざぶざぶと歩きながら、ハワードが身振りを交えて気さくに話しかけた。

 なんかもう全然隠れてもいない平和な行進と化している道中であったが、ヴィルヘルムが先ほど14人の屍人たちを駆逐してしまっていたため、なんらの支障もなく3人は田堀地区を横断する。

 

「えーと……They are looking like a play. The corpses are living」

 

『彼らはまるで劇を演じているみたいなんだ。屍人は生きている』と謎掛けじみたことを言ったハワードの精悍な笑顔を、ヴィルヘルムは鬱陶しげに横目で見遣った。それからふと思い出して、「ふうん」と軽く笑い混じりの相槌を打つ。

 

「生きる屍、ねぇ」

「……? 何が面白いんだ、ベイ」

「別に。俺にはンな趣味はねぇけどよ」

 

 眉をしかめた美耶古に問われて、何人かの同胞を思い出していたこの白貌の騎士は喉の奥でくつくつと、愉快そうに笑った。

 

「身内にそういう奴(某トバルカイン)やらそういうのが趣味の女(某大淫婦)やらがいたのを思い出しただけだ」

「変態一族だな……」

 

『やっぱり村の外にはこんな激しい仕上がりの奴ばっかりなのか……?』と仏頂面で思案する美耶古に、『そんなことないんだよ』と教えてやれる人間は、この面子には存在しなかった。

 8月3日、空は徐々に暗くなりつつある。

 今日はこの田堀地区のはずれまで出て、適当な民家で休んでいく運びとなった。

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 その日の深夜、某所。

 ルサルカ・シュヴェーゲリンは、血にぬれたメスをいい加減に床に放り棄てた。花の茎のようなしなやかな指についていた返り血は、あっというまに霧消する。

 可憐な少女には不似合いな暗い手術室の真ん中で、薄赤い照明に照らし出されるのは正しく魔女の微笑であった。困ったように眉尻を下げてはいるが、とろりと細められた翠の瞳は爛々と光っている。

 

「はーぁ。結局こうなっちゃうのねぇ。やっぱりあたし、シュピーネやバビロンほどねちねち根気よく人間パズルなんか出来ないわ」

 

 そうひとりごちて、踵を返しかけた、そのときだった。

 真っ赤に濡れた手術台の上で、蠢く何かが誰かの名前を呼んだ。

 生前の名残も執着も残していながら、しかし決定的に変質してしまったひとつの命について、彼女がどう思ったのか、知る者はいない。

 くちびるに指を添えて気まぐれな仔猫のようにまばたきをした黒円卓の《魔女の鉄槌》は、そこではたと足を止め、小首をかしげた。誰が見ているわけでなくともあざとく、可憐に。

 

「んー……カワイソウだから、もうちょっと付き合ってあげちゃおっかな」 

 

 ベイとははぐれっぱなしだけど、あいつのことだからお腹が空くか飽きるかしたら合流してくるでしょ、と。軽く思考して、ルサルカは改めて、手術台の上を検分した。

 赤い水と見分けのつかない鮮血を垂れ流して、ひとりの男だったものが、そこにごろりと物のように横たわっている。

 

 




ベイ中尉は美形キャラのはずなのに、どんな女の子と絡んでも絶対に将来性のあるフラグを立てられない感じがなんというかいっそ微笑ましいと思います。安心して絡ませられるね!

別行動中のルサルカさんのお話は、ベイ中尉サイドを一周させてから出していく予定です。

(2014.10.12. こねぎ)

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