本日5話目の更新です。
飛来してきたのは、銀色の鎧を纏った男だった……。翼からはキラキラとした粒子が霰のように放出され、鎧の男の周囲を白く照らし、幻想的な光景を作り出していた。―――だが、今のリアス達にはやってきた鎧の男は、脅威以外の何物でもなかった。コカビエルを上回るほどの圧力に、緊張感―――。
その場にいる全員が硬直してしまった、その時、コカビエルが焦燥したように鎧の男を見て叫ぶ。
「『白い龍』……ッ!?何故ここに!!」
「黙れ」
「ガァッ!?」
白い鎧の男の姿が一瞬の内に消え失せると同時にコカビエルが悲鳴を上げた。あまりの出来事に思わず、コカビエルのいた場所に視線を移すと―――そこには、コカビエルの代わりに、拳を突き出した鎧姿の男がいた。鎧の男の拳がコカビエルの腹部に突き刺さっていたのだ。
あまりの速度に絶句する面々を余所に鎧の男はそのまま拳を掲げながら、呆れた様にコカビエルを見た。
「……あんたは少しばかり勝手が過ぎた。だから無理やりにでも連れて行く……というのがアザゼルからの命令だったんだがな、その必要がないほど弱り切っているとは……」
「グッ……貴様ァ……ッ」
「……フッ……」
銀色の鎧に嵌め込まれている宝玉から『Divide!』という音声が鳴ると、コカビエルは身体から力が抜けたように、力なく沈黙した。
男は乱暴にコカビエルを片手で持ち、ついでに近くで転がっているフリードの襟を掴み上げる。そしてそのまま翼を広げ浮かび上がり、警戒しているリアス達を見回す。
「我が名はアルビオン」
「………白い龍ッ!一樹の『赤龍帝の籠手』と同じ神滅具『白龍皇の翼』……ッ!」
「そうだ」
翼を広げ、こちらに話しかける『白い龍』の声音はどこか楽しげだった。
「正直意外だった。まさかコカビエルを倒すとはな。ふふ……ある意味でコカビエルには感謝しなければならないな、面白い力を見れた事をな」
鎧の男の視線を、アーシアの背を支える一誠へと向けられていた。周囲の助けを得たとしても、普通は生半可な実力じゃコカビエルは倒す事すら不可能なのだ。
それを、悪魔ではなく、ましてや聖剣使いではなく、神器も持っていない人間が倒したのだ、『白い龍』が興味を抱くのも当然の事だろう。
「ふふふ、近いうちにまた会うことになるだろう」
それだけ一誠に向かって言い放ち、光の翼を展開しそのまま空高く飛び上がろうとした―――が。
『無視か白いの』
この場で誰のものにも当てはまらない声。
声の発生源は、一樹からだった。―――否、正確に言うならば、一樹の左腕の神器からその声が発せられていた。
『起きていたのか、赤いの』
『ああ、つい最近目覚めてな』
「な……ッ!?」
白い龍の鎧の宝玉からも声が発せられるが、当の一樹は、自身の左手から聞こえるその声の主が、既に目覚めていた事だった。思わず、左手を右手で押さえつけようとする一樹だが―――。
『少し、静かにしていろ。お前との話は後だ』
「………ぅッ」
ピシャリと冷たくそう言われ、思わずたじろいでしまう。そんな一樹を無視した、一樹の神器の中の存在『赤い龍』は、若干の敵意を含みながら『白い龍』へ意識を向ける。
『随分と仲が悪いようだな』
『ああ、さっき初めて喋ったからな。しかし白いの……お前から敵意が伝わってこないが?』
『お前もそうじゃないか、赤いの』
『今代の保持者が興味深い事を知っていてな、それをこの後聞きだしてみようと思ってな』
『ふっ……こちらも別に興味対象があるからな』
『お互い、戦い以外の対象があるという事か』
『そういうことだ、こちらもしばらく独自でやらせてもらうことにするよ。たまには悪くないだろう?また会おう、ドライグ』
『ああ、アルビオン』
『赤龍帝』と『白龍皇』の会話、その会話の中に何処かで聞いた名前があったな、と一誠は首を傾げる。『白い龍』は数秒ほど一樹を見た後、若干の落胆のため息を吐きながら、徐々に高度を上げていく。
「まだ成長途中―――とでも願っておくか」
そう言い放った瞬間、『白い龍』は白い閃光と化して上空へと昇り、夜空へと消えて行った。
コカビエルの襲撃は終わった。――――――だがコカビエルが最後に残した言葉は、アーシアやゼノヴィア……そして聖剣計画の被害にあった木場の心に大きな傷を与えた。加えて、破壊された校舎や体育館も無事とは言えず、少しの間は学園を休校にせざる終えなかった。
―――コカビエルとの戦いで一誠は、無理やり肉体を限界以上にまで酷使し疲労が蓄積していた。そのせいか『白い龍』が去ると同時に気絶し、そのまま丸一日寝たきりだった。
二日目に目を覚ましたのは良いものの、動くのが困難な程の筋肉痛に襲われ結局二日目もベッドの上から動くことすらできなかった。まあ、一誠としてアーシアやリアスに看病されて役得だったという思いもあった訳なのだが………。
そして三日目、早くも学園が再開し、体も自由に動かせるようになった一誠が学園へ行く準備をしようとするも―――
「貴方はもう少し休みなさい!どれだけ体がボロボロになっていたかを自覚しなさい!」
と、リアスにもう一日休むように念を押されるように言われ、家で暇持て余しながら体を休めていた。
しかし―――
ピンポーン
「ん?誰だ?こんな時間に……」
インターフォンが、家の中に響いた。
平日の昼間にも関わらず、来客が来た事に若干の戸惑いを抱きながらも、扉を開けると―――。
「こんにちは、イッセー君」
幼少期の一誠の唯一の親友であり、幼馴染の紫藤イリナがそこに居た。コカビエルの事件以来、彼女の身の安否を心配していた一誠は安堵の息を漏らしたが、一方の彼女は、一誠の背後で覗き見している彼の両親を見て、何とも言えない微妙な表情を浮かべ苦笑いすると、一誠の方に向き直り、外を指さす。
「外で話さない?」
「え?別に構わないけど?」
彼女に促された通りに、靴を履き外に出る。
外は快晴、平日だけども人の通りは多い―――たまには散歩もいいかなぁ、と思いながらもイリナと共に道を歩いていると、ある事に気付く。
良く見れば、イリナは私服姿だった。加えてやや大きめの旅行鞄を引いている。
「帰るのか?」
「あ、うん。聖剣の欠片を本部に届けなくちゃいけないからね。だからその前にイッセーくんに会っておこうかなって」
そう言ったイリナの表情は何処か苦しげなものだった。
「ごめんね」
「うん?」
「前、何も言わずに引っ越しちゃって……」
イリナは引っ越す際、一誠になんて言ったらいいか分からなかった。
再開した時は、元気な姿が見えて嬉しくはなったが、彼のこれまでの事を思うと、自分が一誠を見捨ててしまったのだと否応なく考えされる。
心の片隅でずっと後悔していたのだ。あんな環境に何も言わずに一人にしてしまったことを―――。
「ははは、俺は気にしてないよ」
「嘘でしょ!だって―――」
「だって、今度はちゃんと話してくれただろ?それで十分だよ」
「っ……」
ニカッと笑う一誠の笑顔を見て、イリナは少しびっくりしたように目を見開いたが、程なくしてから朗らかな笑みを浮かべた。
今になっても変わらない、元気な笑顔―――。
「やっぱりイッセー君は変わってないよ」
「少しくらい大人にはなったぞ」
「ううん、イッセー君は、昔と変わらないイッセー君!」
「訳が分からねぇ!?」
懐かしさのあまり、浮かべてしまった涙を気付かれないように拭いながらも一誠との会話に花を咲かせる。
そして―――。
「ここまで、だね」
やや古びたバス停に到着したイリナは、数十メートル先から目的のバスが近づいてくるのを見ながら残念そうに呟く。
「何時でも遊びに来いよ。……といっても、悪魔のいる所には来にくいよな……」
「ううん、また会いに行くよ」
休暇ぐらいは別にいいよね……?と内心教会に対する言い訳を考えながらも、到着したバスに足を運ぶ。
ふと、後ろを見ると一誠がそこにいる。引っ越しの際、見送りの人なんていなかった自分にとっては不思議な気分だった。
「じゃあ、イッセーくん。元気でね」
「またな、イリナ!」
手を振った一誠に見送られながらバスに乗り込む。その際にバスの運転手さんが『青春だな~』と小さく呟いていたのが聞こえて、少しばかり顔を赤くさせながら、後方の席の窓側に座る。
「またな……ね……」
絶対もう一度会いに行こう。
何も言わずに引っ越してしまったあの時とは違う、今度はちゃんともう一度会う約束をしたのだ。それだけで嬉しくなってくる。
「………うん……」
――――ゼノヴィアとも喧嘩別れしてしまったが、次会った時はちゃんと謝って仲直りしよう。
発進したバスに揺られながらも、心の中でそう決心したイリナだった。
~第三章【終】~
第三章が終わりました。
カチドキアームズが出ると予想した方もいるかもしれませんが、今回はジンバーだけで戦わせました。
チェリー?つ、使います……多分(震え声)
一樹もようやくドライグとのコンタクトに成功しましたが、ドライグはライザー戦後からは既に喋れるようにはなっていたので、今まで一樹の声に答えなかったのは、怪しげな言動をしていた一樹を観察していたからです。
次話は外伝を更新したいと思います。
もしかしたら、二つほど更新するかもしれません。
今日の更新はこれで終わりです。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。