兵藤物語   作:クロカタ

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あけましておめでとうございます。



テスト前に加えて、年末なので少し更新が遅れてしまいました。
感想も変身できずに申し訳ないです。

そして待たせいたしました。
外伝1、2の続きです。






外伝 兵藤物語【悪】 3

 自身の存在を抹消された一誠は、数週間の間。

 まともに生活できる場所を探していた。

 

 基本的に野宿だが、金に関しては財布の中に何時の間に数えきれないほどの一万円札が挟んであったことから、食費の問題は当面は心配ないと言えたのだが―――。

 

「公園って、こんなに肩身が狭いものだったのか……」

 

 とりあえずはありきたりに公園で夜を過ごしてみたが、正直寒い、そして昼間は子供たちの無邪気な視線に晒されるので、色々と気まずいものがあった。

 最初の一週間は、初めての野宿ともありキャンプ気分で感覚がマヒしていたが、次第に野宿の不便さに気付くと他の良い場所を探しに行くようになった。でも、夜中にうろついていたら職質が待っていた。最初捕まった時はなんとか注意だけで済んだが、今度からは注意して行動しなくちゃいけない。

 

「はぁ……」

 

 銭湯は見つけた、コインランドリーも見つけた、寝る場所といってもホテルじゃすぐにお金が尽きてしまう。

 バイト見つけなきゃ復讐どころじゃねぇ……。

 

 とりあえずは、デパートでリュックと帽子、そして着替えを買ったものの、まだ一樹を邪魔する時間はまだまだ先。

 正直に言うと苦しい、暖かい家に戻りたい。でも……もう『あそこ』は自分の居る居場所じゃない。

 

「……それでも……」

 

 ―――どんなに惨めな思いをしても耐えられると一誠は思っていた。

 例えこれから先―――血反吐を吐くほど苦しい目に会っても、心が引き裂かれそうなほどのつらい子よが会っても―――。

 人から忘れ去られるよりは、ずっと楽だ。ただ体が苦しいだけじゃ、全然苦もない。

 

「……ここ、か」

 

 夕方、一誠は町はずれの古びた教会の前へと訪れていた。

 ここがレイナーレ達とアーシアがいた場所。恐らく、彼女はもうここにいるだろう。………今の一誠の記憶ではあった事はない少女だが、与えられた記憶の中では、とても大切な人―――だったらしい。

 

「……俺の記憶は俺のものだ……俺はイッセーじゃねえ……」

 

 頭の中で繰り返し映し出される、幸せな日々。

 それが、一誠の心の安定と、その幸せを奪った一樹という『異物』への怒りを忘れないようにしている。彼は、無言で拳を震わせ、手に出現させたバックルを見る。

 

「もう、戻ってこないんだよ……」

 

 苦しそうに俯いた後に、また無表情になる。

 

「良いよな、ホント……我が物顔で俺の場所に居座っている奴はなぁ……」

 

 バックルを消し、くるりと方向転換して今夜、野宿する場所を探しに行く。流石に公園は寝心地が悪い、せめてもっといい場所を―――

 

 

 

「あうっ!」

「っと……」

 

 ドンッと勢いよく背中に誰かが当たる。

 誰だ?と思って振り返ると、そこには金髪の綺麗な髪の美少女シスター。

 その姿を視界に移した一誠は、心臓が止まりそうになるような錯覚に陥る。

 

「す、すいません!い、急いでいたので―――」

 

 優しげな双眸を真っ直ぐ一誠に向けた少女。

 ―――アーシア・アルジェント、イッセーの大事な仲間だった人達の一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一成(かずなり)さんは、各地を回って旅をしていているんですかー」

 

 場所はハンバーガーショップ、何故か今、彼女と相席する形でハンバーガーを注文した一誠はとりあえず彼女に一成(かずなり)という偽名を名乗った。

 アーシアが悪魔に転生した時、自分の名前が一樹に伝わらないようにする為である。

 それに、『誠』という文字から『言』を抜き『成』――――誠の意味を失った自分には丁度良いと自嘲しながら一誠は思案気にハンバーガーの包みを開けようと四苦八苦するアーシアを眺める。

 

「アーシア、だっけ?それは包みごと手で持ち上げて食べるんだよ、こうやって―――」

 

 ハンバーガーを手に取り口に運ぶ所を見せる。

 すると彼女も一誠を真似て、同じようにハンバーガーを食むとパァっと表情を明るくさせる。

 

「美味しいです!」

「それはよかった」

 

 彼女と会うのはこれで初対面だ。だが、初めて会った気がしない、元の記憶と管理者と名乗る男から与えられたイッセーの記憶が、自分の中でハチャメチャになっているのだ。

 ただ一つ言えるのは、自分は彼女は傷つけたくない事、そして自分は『イッセー』ではなくこの世界で育った『イッセー』だということ。

 優しく頼もしいおっぱいドラゴンに、なることは決してない。

 自分に残されたのは、溢れ出す憎悪と破壊衝動。

 

「一成さん?」

「……あ、ああ、なんでもないよ」

 

 心配そうにこちらの顔を覗き込んだアーシアに、作り笑いを向ける。

 だが、アーシアはジーッと一誠を見ると―――

 

「嘘、ですよね」

「…………ははは、何でそう思うんだ?」

「だって、一成さん……とても苦しそうな目をしているんですから」

 

 アーシアから見て、終始一誠は全く笑っていなかった。一誠は笑っているつもりでもそれは笑みになっておらず、口角を無理やり歪めたような異様な貌になっていた。

 

 笑みが笑みになっていない。

 

 アーシアがぶつかってしまった時も、ハンバーガーを食べている時も、今この時も、彼はピクリとも表情を動かさなかった。―――まるで、表情から感情が削ぎ落されてしまったかのように。

 

「あの、初対面の私が言うのも、とても不躾だとは思うのですが……あのっ、力になれませんか!!」

 

 店内に響くアーシアの大声。店内にいる客全員が一斉にこちらに視線を向ける。当のアーシアは周りの視線に気付くと顔を真赤にして俯いてしまうアーシア。

 一誠は、自分の顔に右手を添える。

 自分は笑えていなかったのか、不思議と悲しくないのは頭がおかしくなったからなのだろうか。だが……胸に何かがぽっかりと消えてしまった感覚はある。

 

「ありがとう、アーシア。でも俺は大丈夫だ」

「でも……」

「初対面の俺にこんな事言ってくれるのは本当に嬉しい。……でもさ、俺は、もう駄目なんだ。これからも皆が楽しいと思える事も楽しいとも思えないし、二度と笑えなくなるかもしれない。でもオレはそれで納得しちゃっているんだ」

 

 自分は目的さえ果たせば良い、ましてや先の事なんか考えていないのだから。

 

「そんなの……悲しいじゃないですか」

「君は優しい女の子だ。そんな君だからこそ、俺みたいな目に合っちゃいけないんだ……お金はもう払ってあるから、大丈夫だよね?じゃあ、また機会があったら」

「一成さん!!」

 

 トレーを手に持ち、席から立つ。

 後ろから彼女の呼ぶ声が聞こえるが、構わず前に進む。

 

 話して分かった。彼女は、イッセーの記憶の通りにどこまでも優しい子だ。こんな自分でも受け入れてくれるだろう。――――だが、それ以上に―――

 

「あいつの思い通りにさせる訳にはいかねぇんだよ……」

 

 一樹はこの後、起こる事を全て理解している。

 フリードやレイナーレに怖い目に合わされることも、アーシアが神器を抜かれて苦しんで、一度死んでしまう事も―――知ってて何もしていない事を。

 ヒロインだから、イッセーがやった事と同じように助けようとしているのか?ちっぽけなヒロイズムと欲望で一人の少女の人生を操作しようというのか?

 許せる訳ないだろ。

 赦していい訳ない。

 

 全部、オレが変えてやる。

 例え、イッセーの作り上げた物語が壊されたとしても―――

 

「正しく回らなくていい、オレは皆が、リアスが生きてくれている世界なら……」

 

 顔を隠すように帽子を深く被りった一誠は、道を往く人の間を歩きながら、バックルを腰に巻き『黄色い携帯電話』を掌に出現させ、力強く握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一成と名乗った少年は、アーシアが追いかけようと外に飛び出した頃には消えてしまった。

 ―――とても、とても儚い人だった。

 教会へ訪れてくる人にも、あのような危うい人はいなかった。

 

「……っ」

 

 先日、フリード・セルゼンに連れてかれ訪れた民家であった、少年がいた。

 名を一樹と言っただろうか、彼は先ほど会った一成と瓜二つだった。―――でも、全然違う。見た目ではなく雰囲気もなにもかも。

 

「何を考えているんでしょうか……私」

 

 昨日、どんな形だろうと助けてくれた人と、似てる人を比べるなんて……。

 ブンブンと頭を振り、先程の考えを捨てようとしていると―――

 

「アーシア、探したわ」

「……っ!」

 

 見つかってしまった。

 気付けば周りに沢山いた人がいなくなっていた。そして、目の前には黒髪を翻した少女―――堕天使レイナーレ。

 

「レイナーレ、さま」

「アーシア帰りましょう?」

「嫌、です。私、あの教会に戻りたくないです。人を殺すところになんかに、戻りたくありません」

「……チッ……あの神父に任せたのは失敗だったわね」

 

 怯えるアーシアの言葉に、舌打ちをするレイナーレは、一転してニコリと笑みを浮かべ、じりじりとアーシアに近づく。

 

「まあいいわ、別に貴方が嫌って言っても私には関係ないから」

 

 翼を出現させ、自分を取り押さえようとするべく、手を伸ばしてくるレイナーレ。

 後ずさりながら、嫌々と首を横に振るアーシア。だが、どんなに祈ろうとも誰も来ない。思わず目をつぶってしまった彼女、レイナーレはそんな彼女を見て嗤う。

 

「……貴方は素晴らしい贈り物だわアーシア。ええ、ホントに、貴方の神器があれば―――」

 

 レイナーレの手がアーシアに触れようとした瞬間、路地から彼女に向かって勢いよく黒い影が跳び出してくる。飛び出してきた黒い影に、気付くのが遅れたレイナーレは、咄嗟にアーシアに伸ばした手で黒い影が放った蹴りらしき攻撃を防御し、後ろに後ずさる。

 

「チィッ!……誰!!」

「よぉ、レイナーレ……っといっても忘れてるか……」

 

 黒い帽子とフードを被り、緑色の大振りなリュックサックを背負った、いかにも旅人然とした少年がレイナーレからアーシアを守る様に立ち塞がっていた。

 

「かず、なりさん」

「アーシア、ちょっとこっから離れろ……いや、駒王学園って所に行け。場所は分かるか?」

「……え?ば、場所は分かりますが……一成さんは……」

「俺は大丈夫だ。君は、そこでリアス・グレモリーと言う女生徒に会え。彼女なら君を優しく迎えてくれるはずだ」

「で、でも―――」

「早く行け!!」

 

 性分上、未だに一誠を心配するアーシアに、一括する。

 すると、彼女はコクンと何かを決意したように頷き、レイナーレの居る方向とは逆の方向に走り出す。

 

「待ちなさい!!」

「おっと……」

「くっ、退け!人間風情が!!」

「彼女には手を出させないし、ましてや神器を抜き取らせもしない」

「……ッ!?何故、お前が―――」

「お前に言う道理はねえ……」

 

 驚愕するレイナーレを前にして、一誠は懐から折り畳み式の携帯電話を取り出す。何処かに連絡でもするのかと、勘繰るレイナーレだが、所詮はすぐに殺してしまえば援軍も何も関係ないと思い、余裕を取り戻しながらその手に光の槍を生成する。

 

「貴方を殺してすぐにアーシアを―――」

「うるせえよ、間違えるなよ堕天使レイナーレ。この場で消されるのは俺じゃなく―――」

 

 右手に持った携帯【カイザフォン】を開き、9・1・3と、ボタンを押し頬の横に添えるように構える。

 レイナーレは気付く、目の前の男の腰に銀色の何かが巻かれているのを―――

 

【Standing by】

「お前だけだ、天野夕麻――――変身」

 

 顔の横に持ってきたそれをバックル部分のコネクター部分に突き立て、左に倒す。

 

【Complete】

 

 目の前の男の身体を二つの黄色いラインが走り、身体全体を片付くる様に覆うと、次第に彼の身体から眩い光が漏れる。

 

 光が収まると、そこには黒と黄が綺麗に混ざり合った仮面の戦士がそこに佇んでいた。

 変身を終えた戦士が喉元の襟を崩すような動作と共にレイナーレの方に顔を向ける。

 

「……っ!」

 

 Xを模したような仮面。

 それに睨まれただけで、レイナーレは正体不明の悪寒に襲われる。

 

 一誠は無言でベルトに付けられた銃に似た形状の武装【カイザブレイガン】を右手に持ち、変身に用いた携帯から長方形の小さな板のようなものを取り出し、銃の持ち手の下から挿入する。

 

【Ready】

 

「邪魔なんだよ、お前等みたいな奴らは……」

 

 シュンッ、とグリップ部分から黄色く光る刃が出現する。

 同時、一誠は武器を構えレイナーレへと走り出す。一誠の変身に面を食らっていたレイナーレだが、すぐさま自身に迫る一誠に対し光の槍を複数投擲し牽制する。

 

「死ね!!」

「この程度で倒せると思っているのか?」

 

 槍をカイザブレイガンで砕きながら、一気にレイナーレに肉薄し下から斜めに切り上げる。咄嗟に後ろに退がるレイナーレだが、腹部と腕に浅いながらも傷を負ってしまう。

 だが、この程度じゃ戦闘不能には程遠い―――しかし相手の実力は図れず、加えてこちらからの攻撃は効かない。

 

「ッ……ここは退いた方が得策ね」

 

 レイナーレの決断は早かった。

 アーシアは後で探し出せばいいし、コイツに関しては集団で攻めれば勝てる。それに見た所こいつには空を飛べるような機能はないはず。

 

「次はないわよ!貴方は絶対殺す!!」

「そうか……じゃあ無理だな」

 

 ガクンッと翼を広げたレイナーレが膝をつく。

 一誠が変身した仮面ライダー【カイザ】。体に流れる黄色いフォトンブラッドは人体に対して非情に有毒。超人であるオルフェノクにすら効く毒なのだ、たかが中級堕天使程度、一度の接触で動けなくなる。現にレイナーレはいまは、四肢を動かす事すらできないほどに毒に侵されてしまった。

 動かない自分の体に焦燥する彼女に、一誠は淡々とカイザフォンの【ENTER】ボタンを押す。

 

「お前は終わりだ。だから、次はない」

 

【Exceed Charge】

 

 バックルから、身体を通るラインを流れるように、エネルギーが伝っていく。そのエネルギーは右腕のカイザブレイガンに伝わり、充填される。

 

「う、嘘よ。私がこんなところで、ね、ねえ貴方!私を助けてくれたら―――」

「言っておくけど、オレはお前の事―――」

 

 エネルギーが充填されたカイザブレイガンのレバーを引きガンモードに移行し、レイナーレ目掛けて放つ。放たれた三角錐上のエネルギー弾は、レイナーレを傷つけずに彼女の体を縛り付けるように展開される。

 叫び声を上げるレイナーレ。

 だが一誠にはその声は聞こえない。―――否、聞く気もない。自分を殺した奴の懺悔など聞く気も起こらない。

 

 カイザブレイガンを後ろに引き絞る様に構え、左足を回すように後ろに退げる。そして一気に力を籠めるように拘束されたレイナーレ目掛けて跳び出す。

 瞬間、彼の身体が三角錐上のエネルギーに包まれ、レイナーレの身体に吸い込まれるように消え、途端に苦しみだした彼女の背後に瞬間移動の如く出現する。

 

「―――大嫌いなんだよ……」

「きゃ……ぁ……ぁ」

 

 【X】の文字が浮き上がった彼女は、一瞬で灰となって消滅した。

 後に残った灰の山を一瞥した一誠は変身を解き、ふぅ、と息を吐く。

 

「……中級堕天使はコレでも倒せるな……」

 

 レイナーレの残骸に見向きもせず、カイザフォンを見つめボソリとそう呟く一誠。

 彼が管理者を自称する男から与えられた能力は、一度変身できた仮面ライダーならば任意で選べるようになるといったものだった。

 現在変身できるのはリュウガとカイザともう一つだけ。強さで言えばリュウガがダントツに強力だが、危険さで言うならフォトンブラッドという危険なエネルギーを扱うカイザだ。

 残りの一つは―――広い意味で万能で、尚且つ能力の多様さで一番。

 

「………残りも片づけてくるか」

 

 カイザフォンでサイドカーが搭載された大型のバイク『サイドバッシャー』を召喚し、フルフェイスのヘルメットを被り走り出す。向かう先は教会。恐らくアーシアから事情を聞いた彼女らは、教会へとやってくるだろう。

 あくまで憶測だが、確信はある。

 

「そこにいかなきゃならない理由があるよな……。ドライグ……『赤龍帝の籠手』を覚醒させるには……」

 

 

 

 ヤツがここに来させるように説得するに決まっている。

 

 

 

 

 

 




カイザは……人間的には悪ライダーとは言い難いですが……平成ライダーVS昭和ライダーの草加さんを思い出して悪ライダーとして一誠に変身させました。






 前回の更新で一樹が改心する事に対しての感想がありました。
 あの場面では一樹は自信の間違いに気付いただけなので、本当の意味での改心とは違いますね。
 実際、一誠に倍加の力を譲渡をしたのもドライグであって、一樹の意思でやった訳ではありません。
 切っ掛けのようなものと思っていただければ幸いです。

 今章は自分の間違いに気付きましたので、次章は様々な登場人物に自分の罪を突きつけられる展開にする予定です。

 次話もすぐさま更新いたします。

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