「思わぬ、戦力だな」
「………まさかイッセー君が……」
「私達と同じ人間にも関わらず、悪魔と一緒にいたから不思議に思っていたんだが……まさか、私達に手を貸してくれるとは思わなかったぞ」
駒王学園の入り口付近。
そこでイリナとゼノヴィアは、協力を願い出た男、一誠を待っていた。
「お前は幼馴染という奴だろう?見識ついでに彼の話を聞かせてくれ……ついでに、兵藤一誠に似た男に敵意を持っていた理由もな」
「……彼は、イッセー君の弟よ」
「というと、あの悪魔は彼の弟ということか?随分と奇妙な家族関係な事だ」
「家族……ね」
「?何かおかしい事でも言ったか?」
ゼノヴィアの言葉にどこか悪態をつくように口の端を歪めるイリナ。
イリナは知っている。理由のない悪意を、いや、理由があったとしても決して正当化されることが決してない。
「あの子が、イッセーくんの事、家族だと思っているような人格者だったなら、悪魔になってもあんなには敵意は向けないわよ」
「……というと?」
「当時の私は、ただ漠然として違和感だけしか感じとれなかったけど、今思うとかなり違ってくる……あの子は……兵藤一樹は……人を人と見ていなかった。ましてや、彼はイッセー君の事を―――」
出会いは、ただ単純だった。
幼稚園の頃だろうか、日に日に色あせていく記憶の中でも『あの思いで』だけは決して忘れる事は出来ない。
皆で遊ぶ時間、何時ものように外へ遊びに行こうとした私に、サッカーボールを持った男の子が声をかけてきた時から全てが始まった。
「一緒に遊ぼう!」
同じ幼稚園の子だ、彼とは別々の教室だった気がする。
始めはそう思った。一人で遊ぶよりみんなで遊んだ方がいい、小さい事から結構単純な思考をしていた自分は即決で彼のサッカーボールを受け取り、一緒に外へ飛び出し遊んだ。
彼とはすぐに仲良くなった。おままごととか積み木はあまり好きではなかったので、他の男の子たちと一緒に楽しく外で遊べる彼との時間はとても楽しいものだった。
特にイッセーくんとは気が合ったのだろう。偶然、家が近く同士だったので暗くなるまで遊んで怒られたりもした。
そして彼には弟がいると聞いた。
自慢げに自らの弟について語る彼に兄や弟はいない私はどこか羨ましい気持ちになった。
「イッセーと遊んで楽しい?」教室にいた時に、見知らぬ男の子から言われた言葉だった。質問の意図が分からなかったが、とりあえず当時の自分が「うん!!」と自信満々に答えていた覚えがある。
私の言葉に、男の子は「ふぅん」と言って、何処かへ行ってしまった。
顔を見たら一瞬、イッセー君と見間違えてしまったが、よく見ると別人だった。
「遊ぼーぜー!」
イッセー君に呼ばれたからか、私は先程の男の事を完全に記憶の外に追いやってしまった。
最近は二人で遊ぶことが多くなった。
何時もはイッセー君が男の子を誘って、みんなで遊んでいるのに最近は誰も一緒に遊ぼうとしない。
「なんでだろう」と笑いながら首を傾げているイッセー君。
私は胸焼けにも似たもやもやとした感覚に苛まれた。
「おい!!」
ドンッと、幼稚園の運動場の角で誰かが、数人の子供に突き飛ばされていた。
イッセー君を探していた私は、気になって見に行ってみると、そこには服に泥で汚し困惑したように男の子たちを見るイッセーくん。
「おれ、知ってんだぞ!」
「な、なにを……?」
「おまえ、おれ達の悪口言ってただろ!!」
「え?そんなこといってねえ……」
男の子たちが言うには、イッセー君が悪口を言っていた誰からか聞かされたという。幸い、先生が仲裁に入ってくれて喧嘩には発展しなかったが、男の子たちにイッセーが悪口を言ったと伝えた子は先生しか知る事がなかった。
イッセー君は、男の子に謝りながらも落ち込んでいたが、心配するように見ていた私の方を見るとボールを拾いニッと笑った。
思えば、これが始まりだったのだ。
ここからダムが決壊するように、イッセー君の日常は壊れていくことになった。
『イッセー?嫌だよー』
『え?別に何もされてないよー?でも、嫌な子なんでしょ?』
『あの子と遊ぶのはやめた方がいいって』
『イリナちゃんもよしたほうがいいよ』
『アイツ、嫌な奴だよな。人のわるぐち言うらしーし』『イッセーと一緒にいたらバカになっちゃうよ』
『あははー!、お前らふーふかよー!』『いつも一人だよねー』『あいつキモイ』
『あんなやつだとは思わなかった』『イッセーって暗いよね』『何時もへらへらしててぶきみ』
『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』
――――ねえ、知ってる?僕の兄さんは。
私が、それに気づいたのは小学校に上がる2か月前だった。
もっと早く気付けたはずなのに……彼が何時も友達と一緒にいたはずの彼が、何時の間にか一人だったことに気付けたはずなのに、気付けなかった。
私の事なんか気にしなくていいのに、気遣わなくていいのに―――
彼は、私の前では笑っていた。
そして、アイツが私の前に現れた。
私に訳の分からない、質問をしてきた見知らぬ男の子が何人もの子供達と一緒に、イッセーくんと遊んでいる私の所へやってきた。
イッセー君の背後からやってくる彼らに、目を取られてしまったせいか、サッカーボールが私の後ろへ飛んで行く。
イッセー君が苦笑しながら、私の隣を横切り遠くに行ってしまったボールを取りに行く。ボールを取りに行ったイッセー君をくすくすと笑う子供達。先頭にいた男の子は、子供らしくない微笑を浮かべ私の方に歩み寄り―――
『ボク、一樹って言うんだ、一緒に遊ばない?』
途端に恐ろしくなった。
何がではなく、ただ純粋に訳の分からない悪寒が先走り、目の前のカズキと呼ばれた男の子を思い切り突き飛ばし、すぐさまイッセー君のいる方向に走り出した。
尋常じゃない。これほど怖いと思ったことはない。何が?と聞かれればまず最初に出るのが『目』。今まで見た事もないような目だった。怒ってるとも喜んでいるとも違う、強いて言うならば焦点が合っていない。
見ているようで、見ていない。まるでカメラやガラス越しから、動物園の動物を眺めるような眼。
それがたまらなく、怖かった。
―――名前は一樹と言った。
イッセー君の自慢の弟。
その名前を聞かなかったわけではない、幼稚園での人気者。
ただそれだけだと思っていた。
でも、今ので分かった。
イッセー君の周りが、ああなったのも、イッセー君に得も言われぬ罪を着せたのも、全部、アイツの仕業だったんだ。
何故、そんな事をする理由が分からない。―――いや、人を貶める理由を分かりたいとは思わない。
私は、ボールを取って来たであろうイッセー君の手を取り、そのまま私の家へ駆け込んだ。お父さんが、私の事を心配したように見るが、その時の私は混乱していたのだろう。
暫くは喋る事すらできなかった。
「イリナ?大丈夫か?」
その時、ようやく私はイッセー君の手を未だに掴んでいる事に気付いた。離そうと手を開こうとすると、何故か離そうとしない。
先程の出来事のせいか、意思と反して体が反応しないのだ。
途端に情けなくなった―――本当は、イッセー君がこうするべきなのに、なのに自分が頼ってしまっている。
「……ごめん、イッセーくん」
「え、何で謝るんだ?」
「ごめん……ごめん……なさい……っ」
困惑する彼を余所に、私は他に彼に言うべき言葉が見つからず、ずっと同じ謝罪の言葉を嗚咽を洩らしながら呟き続けたのだった。
数日後、海外に引っ越さなければいけない衝撃の事実をお父さんから聞いた。
(゚∀゚)キェェェェェェェイ!!!!(鬱憤を晴らすかのようにサイバー流で機皇帝を吸収するクロカタ)
(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャ!!!!(活路エグゾで鬱憤を晴らすクロカタ)
(゚∀゚)ウヒャヒャヒャヒャ!!!!(時戒神バーンで、サンダイオンをマジックシリンダーされ発狂するクロカタ)
……ふぅ、失礼。少し取り乱しました。TF6って面白いですよね(白目)
3年ぶりに新しいの出るらしいですが…・・。
いじめはやっぱり良くない。(『F』のイジメるのは別)
これが、一誠の起点であり、彼が心に抱える闇の原因ですね。
一樹も最初は、一誠には極力干渉してはいませんでしたが、イリナとの接触から、強行手段に移りました。
これで今日の更新は終わりです。
―――外伝が思いのほか反響があったので、合間合間に更新していきたいと思います。