本日3話目の更新です。
翌日の放課後。
一誠と、グレモリー眷属達は部室に集められていた。イリナたちは既に到着しており、リアスと朱乃と相対する形でソファーに座っていた。
彼女ら以外は部室の端で見守っているが、やはりあの聖剣と言われた布に巻かれた物体を危険とは感じれない。むしろ一誠にとって安全なものと感じれる。―――それは一誠が人間だからだろうが、悪魔にとっては危険極まりないものだろう。
「………木場」
「………」
この場での一番の問題は木場だ。
怨恨のある教会関係者であることに加え、聖剣を持っているという木場にとっての恰好の復讐相手だ。本人は無言で頷くが、大丈夫には見えない。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
「エクスカリバー?……いや、それよりも、そんな沢山あるものなの?」
思わず口にだしてしまった。
だが、ゲームなどでよく耳にする剣の名を聞けば疑問に思ってしまうのはしょうがないだろう。
「エクスカリバーは、大昔の大戦で折れたの」
イリナがこちらに顔を向け説明してくれる。
「それが今やこんな姿さ」
青髪の少女はドンと布が巻かれた聖剣を解き放つ。
現われたのは神々しいオーラを放つ大きな剣―――
「これが聖剣エクスカリバーさ。折れた破片を拾い集め、錬金術によってあらたな姿となったのさ。その時7本作られた内の一つがこれ『破壊の聖剣』」
そう言うと、エクスカリバーを再び布の中にしまう、よく見れば布に幾何学的な模様が書かれていることから、オーラが漏れないように封印しているようにも見える。
イリナも懐から紐のような何かを懐から取り出す。するとその紐は意思を持ったようにウネウネと動き出し、その形を一本の刀へと変形した。
「私の方は『擬態の聖剣』こんな風に形を自由自在に変えられるから持ち運びもすっごい楽なの。このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な能力を宿しているの」
「おい、イリナ。わざわざ能力まで教える必要はないだろ」
「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからって信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう?それに私は能力を知られたからって、ここの悪魔の皆達に後れをとるなんてないわ……まして―――」
イリナはジロリと一誠からやや離れた場所にいる一樹に向けられる。一樹はやや慄く様に
一誠も知らない因縁―――一体、この二人に何があったのだろうか。
そして木場も形容できない形相で、エクスカリバーとイリナ達を睨んでいた。
困ったように額を抑える一誠だが、自分が嘆息しても事態が解決しないのは分かっているので、とりあえず木場だけを諌めようとすると―――
「―――それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」
流石は部長、と微動だにせずに話を進めようとする彼女を内心称賛する一誠。
イリナも一樹を睨むのをやめ、リアスの方に向き直る。
イリナの様子に嘆息したゼノヴィアと呼ばれた少女は、リアスに視線を向ける。
「カトリック教会本部に残っていたのは私のを含めて二本だった。プロテスタントもともに二本。正教会にも二本、そして最後の一本は悪魔、堕天使、天使の三つ巴の戦争で行方不明になってしまった。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだって訳さ」
「私の縄張りは出来事が豊富ね。それでエクスカリバーを奪ったのは?」
リアスの問いにゼノヴィアが答える。
「奪ったのは『神を見張る者』だよ」
「堕天使に聖剣を奪われたの?失態どころではないわね、でも確かに奪うとしたら堕天使くらいね。私達悪魔は敵意は向けれど興味何て沸きもしないから」
「奪った連中も把握している。堕天使幹部のコカビエルだ」
コカビエルって……確か堕天使幹部の一人じゃないか!?
そんな奴が聖剣なんて盗んで一体何をするつもりなんだ?
「まさか、古の大戦から生き残っている存在とは……頭が痛いわね……それで、本題に入りましょう。貴方達からの要求は何?」
「要求ではなく、注文だな。私達と堕天使達のエクスカリバー争奪の戦いにこの町に巣食う悪魔が一切介入してこない事。―――つまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いに来た」
挑発とも取れるゼノヴィアの要求に、一時は激昂しそうになったリアスだが、三すくみの影響を与えぬようにする配慮と聞くと、やや怒気を収める。
一誠は、何故協力し合えないのかと考えていたが、悪魔・教会勢力らの間の溝は相当深いとイリナやゼノヴィアの悪魔に対する見識を聞いて嫌というほど痛感していた。
だが一誠としては気になる事があった。
「此処に来たのは二人だけなのか?」
「ええ、そうよイッセーくん」
仮にも伝説の存在から聖剣を奪取するのだ。
聖剣を持っているとはいえ二人だけなんて少なすぎるのではないだろうか。
「正教会からの派遣はないの?」
「奴らは今回、この話は保留した。仮に私とイリナが失敗した場合を想定して、最後に残った一本を死守するつもりなんだろう」
…………は?
「それじゃあ、たった二人だけで……?無謀すぎじゃないか?」
「イッセーの言う通り、二人だけで堕天使幹部から聖剣を奪還しようって言うの?死ぬつもり?」
「そうよ」
「私もイリナと、同意見だが……できるだけ死にたくはないな」
イリナとゼノヴィアの言葉にリアスが飽きれる一方、一誠は険しい表情で歯を噛み締めていた。
イリナは、自らの自己犠牲を信仰と言ってはいるが、一誠にはそれが理解できない。命を捨てるような覚悟を持って敬わなくてはいけないものかも分からない。
「教会は、エクスカリバーが全て堕天使に渡るくらいなら全て消滅してもいいと決定した。私達の役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことだ。その為なら、私達は死んでもいいのさ。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけだよ」
全く理解できない。
でも、確実に楽ではない戦いに赴くことは分かっている。加えて、そこに行くのは子供の頃の親友じゃないか。―――そんなの、そんなところにむざむざ送れる訳ないじゃない。
「部長―――」
「駄目よ」
「!?」
まるで一誠が何を言いたいか分かっているかのように、即座に却下するリアス。
不思議そうにイッセーを見るイリナとゼノヴィアの視線を受けながら、一誠は怯まず食い下がる。
「俺、見逃せないです」
「分かっているわ。それでも貴方だけを危険な目には合わせられないわ」
リアスの言いたい事は分かっている。
だが分かっているからこそ、ここで退くわけにはいかない。彼女に黙って協力することはできるだろう。――だが、それはリアスの信頼を裏切る事を意味する。その手段だけはあまり用いたくはない。
「闘えます」
「そう言う問題じゃないのイッセー。これは、ライザーの時みたいな簡単な問題じゃないのよ?」
「でも、俺は人間だから……動けない皆の代わりに……」
そうだ、教会側が悪魔の干渉を拒んでいるならば、悪魔ではない自分ならば、その制限に縛られず。問題なく彼女たちについていける。
「お願いします部長ッ。ここでやらなきゃ俺、一生後悔します」
「……イッセー……」
彼女はこの時、この場所でライザー眷属に対して、レーティングゲームへの参加の意思を示した時の彼を思い出す。―――絶対に譲らないという頑固で真っ直ぐな瞳。
彼は、強い―――この場の誰よりも。
だが精神的な部分で弱い所もある。しかしそれは彼が持つ優しさと臆病さによるものだろう。
でも彼の強さも弱さも全部合わせてこそ、兵藤一誠という不死鳥すらも撃ち砕いた一人の人間を形成する―――
「………はぁ、駄目って言っても後から自分に隠れて協力を申し出そうね」
「リアス・グレモリー?」
苦笑した彼女は一誠からイリナとゼノヴィアの方へ向き直る。
怪訝な表情を浮かべる二人に、リアスは
「条件があるわ」
「……条件とは?」
「エクスカリバーの奪取にこの子を連れて行きなさい。それが条件よ」
「なっ………!?」
イリナとゼノヴィアの瞳が大きく開かれる。
当然だろう、まさか腕の立ちそうな木場や小猫、朱乃ではなくよりによって、ただの人間にしか見えない一誠を連れて行くように条件づけるとは思わなかった。
一樹が悪魔になっていたことから兄弟の縁か何かでこの場に居合わせていると思った一誠がまさか同行してくるとは思わなかったイリナの動揺は計り知れないものだろう。
「足手纏いはいらないぞ?」
「この子をあまり舐めないでちょうだい。上級悪魔を相手取れる程度の実力は備わっているわ」
「……ほお」
興味深そうに一誠の顔を覗うゼノヴィア。
どうやら、一応は吞んでくれそうだが―――。イリナの方は複雑そうにジッと一誠の顔を覗っている。表情から察するに、友人だった一誠を危険な目に合わせたくはないように思える。
「兵藤、一誠だったな」
「あ、ああ」
「ついて来い。………連れて行っても構わないだろう?」
「ええ、その前に少し話をさせてちょうだい」
こくりと頷き、イリナと共に部室の外へと出ていくゼノヴィア。2人の姿が部室から消えた瞬間、緊張の意図が切れた様に深いため息を吐く一誠。
色々、綱渡りをした気がする。
木場の様子に気を使わなきゃいけないし、元気がない一樹と因縁があるイリナが何時、子供の頃のようにやんちゃしてしまうかハラハラだった。
「………聖剣、か」
木場には悪いが、自分も幼馴染の事は放っては置けない。
目を瞑り何かに耐えるように俯いている木場を横目に見ながら心の中で謝罪する。
そうえいば、リアスは自分に話があると言った気が――
「……イッセー、言いたいことが山ほどあるけど、まず、これだけは言わせてちょうだい。……貴方はもう少し自分を大事にしなさい」
「あ、あははは……」
ニコリとどこか迫力にある笑みを向けてくる彼女に、一誠は「やらかしてしまった……」と小さく呟きながら、心なしか紅色の髪をゆらゆらと揺らしている彼女に肩を落とすのだった。
イリナはイッセーとの過去のせいで、彼の前では人の悪口を言えません。
よって、アーシアを魔女と呼ぶイベントは回避され、それに合わせて行われる木場・イッセーとゼノヴィア・イリナとの戦闘はなくなりました。
そして、イッセーが正式にイリナとゼノヴィアに協力する形となりました。
次話もすぐさま更新致します。