兵藤物語   作:クロカタ

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第6話目です。


禁断の芽吹き 6

【大・大・大・大・大将軍ッ!!!!】

 

 

 

 その『種』の芽吹きはある二対の存在を震わせた。

 あまりにも小さく、強大すぎる目覚め。

 

 

 次元の狭間を遊泳する赤色の龍帝は、その飛行を一時停止し、遙か虚空を見据えた。

 

 無限を司る龍神は、存在するはずのない、力に対して戸惑いを抱く。

 

「……目覚めた?」

 

「うん?何が目覚めたんだい?オーフィス」

 

 偶然、彼女の近くに居た漢服を着た青年は、ある方向を見た彼女に突然の行動の意味を問う。

 

「………………禁断の果実」

 

「ははは、君でも冗談を言うんだな」

 

 乾いた声で笑う青年を無視し、『無限の龍神』ことオーフィスは無機質な瞳で日本がある方向を見据え、ボソリと一言呟く。

 

 

 

「……欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白銀の鎧を纏った戦士。マントをはためかせ、ジッとその場から動かない相手に対しバイザーは、目前の正体不明の敵に対して、不思議と何も感じなかった。

 これならば先ほどの重厚な鎧を纏った方がマシとさえ思えるほどだった。

 

『ケタケタケタケタケタケタ!!なんだ人間、その珍妙な格好は!!』

「………」

『そんな姿でこの私と張り合おうとでもいうのか!!』

 

 無言、一言も何も話さない相手に、お世辞にも沸点が高くない彼女は、うねり声を上げ前足を半歩踏み出すように音を立て威嚇する。

 

―――殺して、ばらして、食らってやる。

 

 下半身の四足で強く地面を蹴り、一誠目掛けて鋭い突進を仕掛け、目と鼻の先まで接近すると、前脚を一誠を踏みつぶすように振り降ろす。

 

『死ね!!』

 

 バゴンッと振り降ろされた足は地面に陥没、大きな亀裂を刻む。

 しかし踏みつぶした手応えがない。

 陥没した地面を見下ろし手応えがないと認識した刹那、彼女の下半身に当たる胴体部分に、強烈な打撃が直撃する。

 

『―――――グ、ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!』

 

 一瞬にしてバラバラになると見間違うほどの衝撃に巨体を暴れさせ、もだえ苦しむ。

 激痛の最中。訳が分からないまま視界を広げると、そこには『黄色いメイス』のような物を振り切った踏みつぶそうとした少年の姿。

 アレで殴られた、頭で理解することができたが体が動かすことができず、痛みに悶えるバイサー。そんな彼女など知った事かと言うように、一誠は右手に持った『黄色いメイス』も持ち上げゆっくりとバイザーの元に歩み寄る。

 

『ガぁ、ク……』

 

 認識が甘かった。そう理解した彼女は、美少女と言っても良い上半身を下半身と同じような醜悪な姿に変化させ、戦闘形態に移行し、敵が攻撃する前に一誠を仕留めにかかる。

 重い武器ならば挙動に隙が生じやすい、それならばそこを狙う重い武装に対しての対抗策を以て攻撃を両の手の槍による突撃を仕掛ける。

 

 対する一誠は、歩みを止め腕をだらんと力なく下げ、バイザーの突撃に対してあまりにも無防備な状態を構える。

 バイザーは無防備な構えを取る一誠に対し、醜悪な顔をさらに歪ませ、雄叫びを上げて一誠目掛けて槍を乱雑に振るいながら襲い掛かる。

 

『人間風情がァァァァァァァァ!!!』

「……」

 

 一誠とバイザーが接触した瞬間、両手の槍が柄から先が消える。

 手元から消えた自らの武器を呆然と見つめるバイサーの眼前には『橙色の刀』を振り切った少年の姿。

 

 何時の間に武器を変えた?否、何時の間に両の手の槍を切り裂いた?

 硬直しかけた思考が答えを出す前に、バイザーは我に返る。

 

『―――――ッッ!?』

「………」

 

 その疑問に一誠は答えるはずもなく。ただジッとバイザーを眺めている。

 

『舐めるなッ』

 

 彼の行動が舐めていると勘ぐった彼女は、尾の蛇を伸ばし、身動きもせずにバイザーを眺めているイッセーの死角から這い寄らせ襲わせる。

 

「………」

 

 死角からの攻撃に対して、一誠は事前に予期していたかのように、右手の橙色の刀を背後を振り向くと同時に振るい、牙を剥き襲い掛かってくる蛇の頭を切り落とす。

 死角を突いたはずにもかかわらず、防がれてしまったことに歯噛みするバイザーだが、一誠がこちらを振り向いた瞬間、一誠の手に持っている武装が変わっていることに気づく。

 

『―――――なァ!?』

 

 一誠は刀ではなく、弓と矢が一体化した機械的な形状の弓矢を手に持っていた。戦闘手段のすべてを破壊されたバイザーに対し、一誠は弓を左手に持ち替え、右手で弦を引くような動作で狙いを定め、淡い光を放つ光の矢を撃ち出した。

 弓矢から放たれた淡い色を纏った光の矢は、バイザーの片足に直撃し爆発する。

 

「ガッ……ア……ァ」

 

 光の攻撃とは一線を画した激痛にバイザーは声にならない悲鳴を上げる。

 

 それだけでは一誠の攻撃は終わらない。一誠の手にある弓が一瞬光り、『ランス』に変化する。瞬時にランスを逆手に持った一誠は、ランスを地面に突き刺す。

 

 瞬間、バイザーの足元から多数のバナナ状のエネルギーが彼女の体を突き刺すように出現し、彼女を縫い付け、固定させる。

 

「ナ……ッ!?」

 

 彼我の実力差は既に、天と地ほどの差がある事は明白だった。

 相手がどんな攻撃をしてくることさえ予想不可能。加えて、技量においては圧倒的に一誠が上回っていた。

 

「…………」

 

 拘束され身動きのできないバイザーを、無言で見上げる一誠。七色の仮面越しからでは彼の表情は覗えない。

 

「……ォ……ァ……ァ」

 

 ―――動くことを阻まれ、全身を貫かれる痛みの中で彼女は気付く。

 自分は目覚めさせてはいけない『何か』を目覚めさせてしまったという事を。

 

『ガッ……ァ……ァ……ァァ』

 

 死ぬのは怖くないと思っていた。今でもそう思っていると自信を持って彼女は言える。だがこれは違う。殺す気が感じられない相手に殺されるという事が、どれほどの恐怖だという事を……今、彼女は死の淵に立たされることで理解した。

 

 バイザーの悲痛な呻き声に一誠は、なんの反応を示さずに『橙色に彩られた大振りの銃』を掲げその銃にオレンジの模様が施された錠前を装填する。

 

【ロックッ・オォンッ!!】

 

 重みのある音声が発せられるとともに、大振りの銃を拘束されたバイザーに向ける。

 バイザーのようなレベルの悪魔に使うには異常なほどの虹色のエネルギーが銃口に集約されていく。

 銃口に集約される粒子は一つ一つが果物の形状をしており、圧倒的なエネルギー量が内包されている事は明らかだった。

 そんな魔力とも、天使や堕天使の使う光とも、一線を画す異様さが目立つ虹色のエネルギーは、一誠がトリガーを引くと同時に放たれる。

 

【オレンジチャージ!!】

 

 集約されたエネルギーは球状を保ち、虹色の軌跡を射線上に残しながらバイサーを飲み込み、紫電と果物のエフェクトを撒き散らし、周囲を明るく照らす。

 身を焼かれるような激痛と、身動きの取れない地獄がバイザーを包みこんだ。

 

『ガァァ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 遂にはバイザーごと爆発した。

 後には何も残ってはいない。一誠の放った一撃は塵の一つもなく完全に彼女を消滅させたのだ。

 

 バイザーが消滅したと同時に、一誠のバックルから【鍵】と【橙色の四角い錠前】が勝手にはずれる。

 すると変身が解かれ、私服を着た一誠が現れる。

 

「ハァ―――ッハァ――――ッ!!」

 

 息を荒げながら膝をついた彼は混乱していた。

 全く訳が分からなかったからだ、自分が何故あのように戦えるのか、そもそもあの姿はなんなのか。疑問が次々と湧いて、頭の整理ができない。

 

「なん、だよ……これ……」

 

 バックルを腰に巻いた瞬間、体が乗っ取られたように勝手に動き化け物を倒したのだ。化物を倒した記憶はある、だが一誠自身は何もしていない。

 

「……!?」

 

 息を整え顔を上げると、そこには自分を橙色の武将と、白銀の将軍に変身させた物体がふわふわと浮遊していた。

 とりあえず手に取ろうとすると、その二つは一誠の手の中をすり抜け、彼の体の中に入っていってしまった。

 

「………やっぱり、夢じゃなかったのかよ……―――――――うッ」

 

 目の前が一瞬真っ暗になる。

 瞬間、一誠は『思い出す』。何時ものおかしな記憶とは違う、封印された自分の数日前の記憶を―――

 

 天野夕麻の事、一樹の怪我の事、堕天使の事、神器の事、自分の記憶を操作したリアス・グレモリーの事を―――

 

「訳、分かんねえ……」

 

 混濁した思考を回転させ、記憶の整理をする。

 自分の記憶がリアスによって操作されていたのは分かった。一樹が生きている事から、彼女がちゃんと彼を救ってもらった事が分かる。入院している間、見舞いに来たのは自分の記憶が消えているかと言う事を確認してきたと考えられる。

 よって、リアス・グレモリーは、あの天野夕麻やさっきの化物みたいに敵じゃないと考えられる。

 

「……一樹には……無理だよなぁ」

 

 多分教えてくれないだろうなぁ、と心の中で自答しながら一誠は自分の体を見る。

 体に異常がないか確認しようとすると――――

 

「……?」

 

 バックルに先ほど四角い錠前があった場所に丸っこいオレンジ色の錠前は嵌められていた。

 恐る恐る、バックルを腰からはずし、オレンジ色の錠前を抜き取って見る。

 

「……これって……やっぱり、そう……だよな?このバックルも……」

 

 【鍵】と同じように横の部分を押したら錠の部分が開き、【オレンジ!】と音が鳴る。この錠前には一誠は見覚えがあった。一誠自身は見た事も触った事もない。だが、彼は頭痛により見る夢の中で『それ』を見た事があった。

 夢では、鋭い爪を持つ化け物と闘っていた青年が、この錠前、『ロックシード』とバックル、『戦極ドライバー』を用いて、鎧を被った戦士に変身していた。

 

「………オレンジ、ロックシード……」

 

 これを使えば、夢の中みたいに変身できるという事なのか?

 さっきの尋常じゃない力を持った姿に?

 

「これが、俺の力に……?」

 

 記憶の通りの手順で震える手で手に持った戦極ドライバーを腰に装着する。今度は操られる事なく、バックルからベルトが伸び、腰に巻かれる。

 

【オレンジッ!】

 

 音声が聞こえたと同時に一誠の頭上にオレンジ色の球が出現する。

 頭上に現れた球体にビビった一誠だが、そしてベルトの窪みにオレンジロックシードを嵌め、小刀で切る。

 すると、一誠の頭上から―――――――――――

 

「うおおおおおおお!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オレンジアームズッ!花道オンステージ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまっ!!」

 

「『ただいま!!』じゃないの!!こんな遅くまで何処ほっつき歩いたの!!もう夕飯さめちゃったからね!!」

 

「母さん……俺、変身できた………できた……やれた……」

 

「はぁ?バカ言ってないで風呂入ってきなさい!!」

 

 

 




しばらくは極とカチドキは使えません。
ぶっちゃけ強すぎるので……。

これで第一章は半分です。
残りの半分はできたら明日更新します。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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