ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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ご無沙汰しております(汗)。
前回の投稿から丸一年以上経っていますが、本作トーナメント編
ようやく完結の目処がつきましたので、再開したいと思います。


第27話 「迫りくる刻」

 

 

「延期だと? 冗談じゃねえ!」

 激しい怒声が店内に響きわたる。

 

「しかしリョウゴ君、君たちのガンプラは損傷が著しい。ここは修理に万全を期し、日を改めた方が……」

 ハルヒコはそこで言葉を区切ると、バトルシステムに視線を移す。

 

 リョウゴの阿修羅もツカサのHi-νガンダムHQも、常識的に考えればとてもガンプラバ

トルをできるような状態ではなかった。

 

「こんなモンは傷のうちにはいりゃあしねぇさ。なあ、頼むぜ。ここまで熱くなったんだ。そんなつまんねぇ理由で、俺たちのバトルに水を差さねぇでくれ!」

 ハルヒコの肩を掴み荒々しく揺さぶりながら、リョウゴは哀願するような口調になる。

 

「おう、ツカサ。おめぇも同じ考えだよな?」

 場の視線が自分に集中するのを感じ、ツカサの眉がわずかに寄る。

 

 

 ──今のお前では、リョウゴには勝てない──

 

 

 カーネルの言葉が、ツカサの脳裏に蘇る。

 

(カーネルさんの言葉を鵜呑みにするつもりはないけど、どうせ戦うなら戦意が高まっている今の方がぼくにとっても有利なはずだ。それに……)

 

 しばしの沈黙の後、ツカサは口を開く。

 

「ぼくも、リョウゴさんの意見に賛成です」

 ツカサの言葉を耳にするや、ハルヒコはあきらめたような表情を浮かべた。

 

「わかった。君たちが揃ってそう言うならば、二人の意見を尊重しよう……ただし条件が

ある」

 顔を見合わせ微笑むツカサとリョウゴだったが、ハルヒコの声音に視線を向ける。

 

「いまから一時間、各自のガンプラの応急処置の時間を設ける」

 ハルヒコはここまで話すと大きく息を吐いた。

 

「……むろん一時間やそこらで、これほどのダメージの完全修復など無理は承知の上だが、ね。何もしないよりはましだろう」

 

 苦笑するハルヒコは見つめていたツカサは、頭を小突かれ我に返った。

 

「猶予は一時間しかないんだ。いつまでぼけっとしてんだよ」

 コウタはそう言いながら素早くツカサの背後に回り込むと、車いすを押し始めた。

 

「ミサキ、お前も手伝ってくれ!」

「う、うん」

 ハルナはコウタの剣幕に飲まれたように言葉少なに頷くと、ツカサたちの後を追う。

 

「……で、お前はいつまでアホ面さげてそんなとこに突っ立てるつもりなんだ?」

 所在なさげにツカサたちを目で追っていたリョウゴは、ゆっくりと振り返る。

 腕を組んだアキトが、呆れたようにリョウゴを見ていた。

 

「あ?」

「「あ?」じゃねぇだろう。時間が無いのはお前も同じだろうが!」

 リョウゴは機嫌さを隠そうともせずまくしたてるアキトを不思議そうに眺めていた。

 

「俺は、このままでいいさ……」

「馬鹿か手前ぇは!」

 阿修羅を手に静かにつぶやくリョウゴに、アキトは怒りを包み隠そうともせず声を荒げる。

 

「そんなスクラップ同然のガンプラで何ができるっていうんだ? ガンプラバトルを舐めンじゃねぇ! お前の阿修羅は俺のクリムゾンミラージュを倒したガンプラなんだ。この先も勝ってもらわにゃあ、俺の立場がないんだよ!!」

 

 口汚くリョウゴを罵るアキト。だが胸の内では準決勝で自機がダメージを負うことも省みず身を挺して庇い、勝利のみを追い求めるあまり、自分が忘れていたガンプラバトルの楽しみを思い出させてくれたリョウゴのことを、口には出さないがアキトは見直していた。 

 

 だが、そんなアキトの心中を理解できないリョウゴは、顔を真っ赤にしながら一方的にまくしたてるアキトに怪訝そうな視線を向けるだけだった。

 

「あー、こんな馬鹿相手にしてるヒマはねぇ。いいから来い!」

「お、おい?」

 アキトはリョウゴの腕を乱暴に掴むと、強引の店内の隅にあるメンテナンス用の作業台の方に靴音高く歩き出す。

 

 

「一時間か……」

 人混みに消えていったツカサとリョウゴを目で追っていたハルヒコの背に、軋むようなカーネルの低い声が投げかけられる。

 

「できれば完全な状態で決勝戦を行いたかったんですが……」

「やむをえんさ、当事者であるツカサたちがそれを望んでいるんだからな。それに、極限状態に追い込まれた者のバトルが、つねにベストの状態で行われるバトルに劣るとは限らんしな」

「ええ、それは分かっています」

 諭すような口調で話しかけるカーネルに、ハルヒコは言葉少なに答えると、視線を元に戻した。

 

 

「コウタ、そっちの具合は?」

「おう、バラしたパーツの補修と接着はだいたい終わった」

「じゃあ、あとは破損した箇所を瞬着パテで……あっ、コウタ、硬化促進剤はあまり使わ

ないでよ?」

「分ーってるって!」

 思い出したように話しかけるツカサに、コウタは何をいまさらといわんばかりの顔をする。

 

「ねぇねぇ、アマノくん、どうして促進剤を使っちゃダメなの?」

ハルナがツカサの服の袖を遠慮しながら引っ張り、たずねてくる。

 

「ガンプラの修復に瞬着パテと促進剤を使うこと自体は問題ないさ。でもパテを盛った箇所に大量に促進剤を使うと急激に収縮して、クラックが発生してしまうんだ」

「???」

「つまりプラの表面にヒビが入るってこと」

 

 納得したように手を打ちならすハルナに、ツカサは内心苦笑するが、その視線と手の動きは一瞬たりともHQから離れることはなかった。

 

「ところでファンネルの方はどうするの?」

「修理の終わったもので、何とかやり繰りするしかないよ」

「でも……これだけ?」

 

 作業台の上に置かれた4基のT-ファンネルと1基のF-ファンネルを指さしながら、ハルナは暗い顔で尋ねてきた。

 

「無いよりマシさ。それよか肝心のファンネルのラックはどうすんだよ?」

 ツカサに代わりコウタは答え、HQの背中を見ながら顔をしかめる。

 カーネルとのバトルで自らを囮とし、ファンネルの攻撃を受けたHQの背部は無惨に溶け崩れていた。

 

「これを残った時間内に修理するのは無理だよ。とりあえずファンネルは、バトルが始まるときにHQの足下にでも置いておくよ」

 

「それって、ちょっとカッコ悪いね?」

「そうだね」

 その光景を思い浮かべながらつぶやくハルナに、ツカサは苦笑する。

 

 

 

「何ボケッとしてんだお前は? さっさと手を動かせ!」

 さっきから腕を組み作業台の前に座り込んだままのリョウゴに、業を煮やしたアキトは声を荒げる。

 

「おう、……で、何をすりゃあいいんだ?」

 真面目な顔で尋ねるリョウゴに、アキトの顎がカクンと落ちた。

 

「俺がやる、どけっ!!」

 アキトは不機嫌さを隠そうともせずリョウゴを席から退かすと、乱暴に椅子に腰掛けた。

 

 黙々と阿修羅の修理を続けていたアキトの手が止まる。

「……こいつは」

 

「おい、これはいったいどういうことなんだ?」

 アキトは鋭い視線を背後のリョウゴに向けた。アキトが手にした阿修羅は、アグリッサ型のイナクトがベースとなっているようだが、内部構造はまるで別物だった。

 機体各部のパーツの多くは二重構造になっており、その下にはクリアパーツが仕込ま

れていた。

 

「へ~、こんな風になってたのか?」

 アキトの肩越しにのぞき込んでいたリョウゴが、阿修羅を見るや感心したようにつぶやく。

 

「はぁ? これはお前が作ったんだろうが?」

コイツ(阿修羅)は、借りモンだよ」

 しれっと言い切るリョウゴに一瞬アキトは呆然とするが、すぐに何か思い立ったよう

な顔をする。

 

(確かに……こいつが前に使っていたガンプラの出来を考えれあり得ることか。しかし

この完成度の高さはどうだ。これは世界でも充分通用するレベルだぜ。これほど腕の

立つビルダーがこの街にいたのか?)

 

「そういや、あいつ、阿修羅はまだ未完成だとか言ってたな」

 

 未だ顔も分からないビルダーへの興味に没頭していたアキトは、ゆっくりと振り返った。頭の後ろで腕を組みながら自分を見下ろすリョウゴの視線と絡み合う。

 

「これで……未完成? おっと、いけねぇ」

 思わず手に力が入ってしまい。阿修羅のバックパックを不自然な角度で外してしまったアキトは、慌てて確認を始める。

 幸い破損の類はないようだが、アキトはスラスターを内蔵した大型のバックパックに隠れていたが、阿修羅本体の背部に円形の窪みがあることに気がついた。

 

「何だ、これは?」

 バックパックの取り付け部と背部の窪みはあきらかに形状が違っていた。

 

(阿修羅の本来のバックパックは、コイツじゃないってことなのか……)

 

 リョウゴの言った言葉の意味を、アキトは現実のものとして受け取っていた。

   

 

「時間です! これよりGBトーナメント決勝戦をはじめます。アマノ君、リョウゴ君バトルルームへ」

 

「ちっ、もう時間か、よけいな事に気を取られてちまったぜ!」

 試合再会を告げるハルヒコの声に、アキトは不機嫌そうに舌打ちをする。その肩に複数の指輪で飾りたてた無骨な手が置かれる。

 

「ンなこたねぇさ。これで十分だ。礼をいうぜアキト」

「リョウゴ……勝てよ、ゼッテーに!」

 

 アキトに背を向け歩きだしたリョウゴは、手にした阿修羅を高々と翳した。

 

 

「ふぅ」

「何とか間に合ったね」

 大きく息を吐くツカサを見ながら、ハルナも内心胸をなで下ろしていた。

 

「あくまで『必要最低限』、だけどな」

「仕方がないよ、それはリョウゴさんも同じだろうから」

 修理が完全に終わらなかったことに納得がいかないのか、眉間にしわを寄せるコウタ

をなぐさめるようにツカサは話しかける。

 

「コウタ、ミサキさん。ふたりともありがとう。じゃあ、行ってくるね」

 

「おう!」

「がんばってね、アマノくん!」

 

 

 ツカサは満面の笑みを浮かべると、コウタたちに背を向けると車いすを漕ぎはじめ、一足先にバトルルームへと消えていったリョウゴの後を追いはじめた。

 

 





次回予告

ツカサとリョウゴ、ついに始まる宿命の対決。
だが、リョウゴと阿修羅の圧倒的な力の前に、ツカサとHQはジリジリと追されてゆく。

次回「ガンダム ヘッドクォーター」

第28話「決勝戦」

窮地に追い込まれるツカサに、果たして勝機はあるのか?

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