ショt…幼い皇帝に憑依した。   作:サテライト

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     『暴力はむしろ道徳的なものである。
         というのは、それによって我々が48年かけてもできなかったことを、
                      わずか48時間でやってのけたのだから。』



                    by パスタの棟梁(ベーニート・ムッソリーニ)


ショタとタツミ

そこはとても薄暗い部屋であった。煉瓦作りの円形の巨大な部屋で唯一ある明りは私のいる場所よりも下から射す青い、いや蒼いと言うべき蒼の光だ。天井にまで光が届いておらず、部屋を薄気味悪くしている。だが同時にどこか神秘的な雰囲気すら感じる場所でもある。

 

「……この感覚はなんだ?」

 

私は体の奥底から……いやもっと深い所より来る不思議な高ぶりに気づいていた。

それは喜び、歓喜、狂喜と言える物。

 

「血が……騒ぐ。まるで始皇帝が余の奥底で歓喜しているようだ。」

 

それは血の、血統からくる歓喜。一族の悲願。始皇帝の……いやもっと以前に存在した、皇帝家一族の野望。すなわちそれは……。

 

「……余は此処で余の先祖達に誓おう。我ら皇帝家の悲願。大陸完全制覇の夢を!」

 

私は気の昂ぶるまま、目の前のそれに手を伸ばす。

かつて始皇帝によってつくられた48種の帝具、その一つがこの兵器。皇帝家の象徴にして、皇帝家の一族でしか扱う事の出来ない至高の帝具。始皇帝が使用してより使用者の居なかった帝具が今私の手に渡るのだ。

 

Sieg Heil!!(勝利万歳)

 

それに手を触れると私の体を光が包み込んだ。

今日この日より、私の……、いや皇帝家の野望は再始動を始めるだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都:南区“ナイトレイド帝都地下アジト”

 

そこには今、ナイトレイドで手配書の出回っていないレオーネ、ラバ、タツミがいた。

この中でタツミは竜船事件の際に何とかインクルシオと共に逃げおおせたが、顔を皇帝一派に見られている筈なのだ。だが、どう言う訳か手配書は出なかった。しかも公式な調査書によれば交戦したナイトレイドの人数は二人となってはいるが“両者とも死亡”したとされており、ブラートは身元が確認されているがもう片方は詳細不明としか公開されていなかった。

 

当初、ナジェンダを筆頭としたナイトレイドはわざと手配書を出さずにタツミをおびき出す罠ではないのか?と、疑いを持った。イエーガーズの結成等、時期的に出来過ぎている出来事が多かったため思考に拍車をかけたのだった。

 

しかし、ナイトレイドの予想は外れていた。彼らは一度、タツミを餌に皇帝派の武装親衛隊……特に帝具持ちが獲物として釣れるのではないか?と考え計画を立案し実行を行った。

だが結果は外れ、武装親衛隊や帝都警備隊にわざと見つかるようにタツミは行動していたが、両者ともタツミを見てもただの一般人としか見ていないようだったし、実際辺りをきょろきょろと見回していたタツミを道に迷っていると勘違いして親衛隊の一人が普通に話掛けたりしたが、その表情などは親切心の塊でとても演技だとは思えない者であった事もあり、本当に意味の解らない事になっていた。

 

結局、タツミの帝都外出禁止は一先ず見送り様子見をすることにしたのである。

 

結果として、こうしてラバの(表の)店である本屋の地下にある隠しアジトに来ているのだ……。

 

「それで、結局どうだなんだ?あれから。」

 

ラバは暖炉に背を持たれてソファーに座るタツミに聞く。内容は勿論手配されない事と依然行ったおびき出しからの様子だった。

 

「全くと言っていいほど変化無しだぜ。不気味なくらいだ。」

 

タツミは心底不思議だと言わんばかりに言う。

 

「だよな~。でも腹黒い皇帝派の考えてる事だ。きっとロクでもねえ事なんだろな。」

 

金髪でグラマラスな女性レオーネが呆れたと言わんばかりに言う。実際皇帝派のやる事は基本横やり、漁夫の利、情報操作による民心掌握とまっとうな正義を掲げ立ち上がったと思っている革命軍派からすると腹黒くあり尚且つ鬱陶しい物だ。

 

「でも、あの時俺が見た皇帝はすごく恐ろしく見えた……。今回の事も何か裏があるはずだ。」

 

「そうだな、警戒だけは怠るなよタツミ。」

 

「言われなくても分かってるよ、ラバ。」

 

「なら、いいけどな。」

 

その後、彼らは一旦解散となった。

本来ならばこの場にてラバがタツミにエスデス主催の武闘大会に出ないかと誘う事があったのだが、タツミが今目立つことが出来ない立場にある為そんな事できず。タツミは武闘大会に出場できなかった。

 

ちなみに武闘大会の目的は帝具使用者の選定なのだが、原作と違い大臣派の彼女の元に万物両断エクスタスは無い。だが皇帝がイェーガーズ結成の功と言って三獣士ダイダラの使用していたベルバーグの使用を許可した為原作通り開催される事になったが、タツミが現れなかったことで結局イェーガーズに新メンバーは増えなかった。よってナイトレイドのアジトも襲撃されないはずなのだが……。そこまではまだ誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘密の集会を終えたタツミは二人と別れナイトレイドの帝都地下アジトから出て大通りに入り、近道である裏路地に入る。すこし進んだところでタツミはある出来事に出くわす。

 

「おうおう、ガキが良い服着てんじゃねーかよ。」

 

「おじちゃんたちと来てくんな~い?お小遣いあげるからよ~。」

 

「………。」

 

“人攫い”最近ではゲシュタポによる文字通り“帝都警備隊大掃除”のおかげで治安が良くなっている帝都ではあるが、いまだに人を攫い売り飛ばそうとする輩は多い。特に目鼻立ち整った子供は高値で売れるし攫うのも容易であり、また家柄が良ければ身代金も要求できるとあって狙う犯罪者が多い。

 

普通であれば自分自身に火の子が飛ばぬように、知らぬふりをして見過ごすか警備隊へ通報する所なのだがタツミはもちろん違った。なぜなら彼には誰よりも強い正義感があるからである。

 

「おい!お前ら何やってんだよ!」

 

「ああ?なんだ小僧!邪魔する気か!!」

 

「ああそうだよ!その子供を離せ!」

 

片方の男は子供を腕をつかむと乱暴に引き寄せ、もう片方は腰からナイフを抜く。

 

「痛い眼見ない内にさっさと失せろ!」

 

そう男が怒鳴るがタツミは格闘術の構えを見せる。背中のインクルシオを抜かない。タツミ自身こんな奴等には素手で十分と思ったのだ。事実実力から言えば正しいと言えた。

 

結果は最初から解っていた。

 

「ッ!?てめえ!!」

 

男がナイフで切りかかって来る。男は武術でもやっていたのだろうか?そこそこの速さで振るってくるがタツミはそれを体の左側に受け流して飛び上がって男の顔面に膝蹴りを喰らわせる。

 

「ぐぎゃ!?」

 

男は汚い悲鳴を上げて地に倒れて気を失う。

 

「てめえ!ガキがどうなってもいいのか!!」

 

残ったもう一人の男は持っていたであろうナイフを右手で持ち左手で捕まえている少年の首元に持っていく。

タツミはその光景をみて躊躇する。

 

「ッ!?卑怯な!」

 

無理に助けに行けば最悪少年の首にナイフが刺さる、そうでなくても少年が怪我を負う事は確定してまう。

タツミは歯噛みして男を睨む。しかし次に怒こった事に唖然とすることになる。

 

「ん?ガキが動くんj…「黙れ下種が。」ああ?……!?」

 

少年はおもむろに男のナイフを持つ方の手を右手で掴むと左手で男の腹に思いきり肘鉄を喰らわせる。しかも男と少年の身長にはかなりの差があったためか、放たれた肘鉄は男の股間に直撃したのだ。

 

「っ!??!??!??」

 

しかしそれでは終わらなかった。少年は男の右手をひねりそのまま投げ飛ばしたのだ。綺麗な一本背負いで……。

 

「ぐはっ!????」

 

男は綺麗に頭から地面に落ちた。そして気絶した。

気絶する直前でも男は状況が良くつまめていなかった。まあ股間を強打された挙句投げられて頭を強打すれば考える間もなく気絶する事確実であるが……。

 

「久しぶりだな。助かったよ。」

 

「え?は?…………!?」

 

タツミは理解に時間がかかった。無理もない。助けようとした子供が自力で大の大人の男を伸してしまったのだから。同時に久しぶりと言われたが瞬時に何の事か解らなかったのだが。少年の顔を見てある記憶が蘇った事により思い出す。

その記憶とはあの事件。ブラートが死んだ、タツミにとって忌まわしき“竜船事件”の際。甲板上で自分たちを見下ろして、満面の笑みを狂気で染め上げていた幼い少年……。

 

「お……お前は!!」

 

“狂気の皇帝”と革命軍内で畏怖されるこの国の幼い皇帝……。

 

「元気そうでなりよりだな。」

 

“ヴィクター・ロマノフ”その人であった。




エスデス将軍がタツミへ惚れるフラグが圧し折れた!
今回はホントはもうちょっと長くなる予定だったけど、長過ぎね?と思い半分にすることにしました。多分続きは少しあとと思います。

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