人間が存在しなければ、問題も存在しないのだ。』
byヨシフ・スターリン
―竜船―
総排水量10000トンの豪華客船であるその船の艦橋、その根元にパーティー会場があった。
そしてそこには、ナイトレイドであるタツミが白いスーツに身を包み田舎から出てきた都会に慣れていない貴族の息子のような雰囲気を醸し出しつつその手に持つグラスの飲み物を飲んでいた。
先ほどブラートに気を抜くなと言われていたタツミは感づかれない程度に気を張っていたのだが、ふと会議の終わりにナジェンダが言った事を思い出した……。
―――
『あの皇帝・・狂王には気をつけろ、なんせ街一つ破壊した男だ……今回の件で何の対策を講じていない可能性が無いからな……。』
『でもよボス、その皇帝は竜船には乗り込んでないんだろ?
なんでそんなに気にするんだ?』
『……未確認情報だが皇帝はお忍びで乗り込むという情報が少しだが出回っている……革命軍本部はこの機に乗じ皇帝を狩ろうという計画がある……。』
ナジェンダの思いもよらぬ話にその場が驚愕する。
『でもさ、革命軍って大臣が標的なんだろ?なんで皇帝まで殺そうとするんだ?』
そうタツミが不思議そうに問う。
それもそのはず革命軍の創設理由が打倒大臣なのは貧しい民でも知る事実である、そして革命軍のリーダーは生粋の帝国主義者であり皇帝という存在に心酔していてまた国民の困窮に耐え兼ね打倒大臣を目的に組織を立ち上げていたのだ。
『革命軍本部はこの前起きた西方の街壊滅事件で皇帝自身も相当危険な人物と判断したんだ、なんでも“人民をないがしろにする皇帝など必要ないだろう”という事だった。
どうも革命軍本部もきな臭くなり始めてな……。』
西方の街壊滅事件とは西方異民族と秘密裏に貿易をしその富を革命軍に流していた街が皇帝の私兵軍団である武装親衛隊の持つグスタフ/ドーラ80㎝列車砲にて壊滅させられた事件である。
実は壊滅したという事実や何が使われたかと言う事実はすでに革命軍でも知られており、ナイトレイドも同様に知っていた。
『“人民”?なんだその言い方は?』
『最近革命軍本部で多数派になりつつある“コミュニズム”と言う思想をもった“コミュニスト”という連中が言っている言葉で国民という意味らしい。』
この国では民の呼び方は国民、臣民、帝国民、などの言い方が普通であるため“人民”という言い方に少しだけ引っ掛かりを覚えるのである。
そのためブラートが覚えた違和感はそれだったのである。
『“コミュニスト”ですか……。』
『彼らの思想は“人民の、人民による、人民ための政府”だそうだ……皇帝では無く国民中心の社会を作ろうという連中でな…………そいつらが今回の皇帝暗殺紛いの事を言い始めた・・何とか少数派がそれを退けたが、狂王と革命軍内で噂されるようになった現皇帝に対する不信は強い。』
そういってナジェンダは真剣でありどこか不安げに言う。
『まあとにかく皇帝がなんらかの行動を起こして来るはずだ・・最悪の場合戦闘になる……その時は。』
ナジェンダは一拍置いて言う。
『狩れ!!』
―――――
そう思い返していたタツミは思っていた。
「(俺は政治とか難しい事は解らねぇ・・正直ボスの言っていた意味が良くわからなかった。)」
タツミは手に持つまだ中身の入ったグラスを見ながら思う。
「(もし今の皇帝が本当に狂王って名前がふさわしいほどに狂った野郎なら、俺が斬る!)」
自然と考えと共に手に力が入り、グラスにヒビが入ってしまう。
「あ!やべ!どうしよう………ん?」
グラスにヒビが入った事に慌てたタツミは思わず声を上げてしまう……、しかしその時気付いた、何か音楽が聞こえていて周りの人間が次々に膝をついて倒れ気絶したりしている事に。
「っぐ!?・・と、取りあえず外に出ないと。」
此処にいては不味いと直感的に覚ったタツミは甲板に出る、するとそこでも笛の音は聞こえていた。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」
ふらふらと体の自由が効きづらくなっている事に一種の不安を覚えている所に悲鳴が聞こえた……。
「な!?なんだ!!」
タツミは慌てる、よく聞くと船のいたるところから聞こえてくるではないか……。
それは命乞いをする声、泣き叫ぶ声、絶叫を上げる声とさまざまに聞いて取れた…………。
「おいリヴァ!!どう言う事だアイツら!!ニャウが眠らせた奴等を無差別に殺しまわってるぞ!!」
「落ち着けダイダラ、皇帝が何らかの行動に出る事は予想していただろう?」
「そうは言ってもリヴァ!アイツら凄いスピードだよ!?」
すると今度は甲板に3人の人が現れた……。
その3人は甲板にいたタツミに驚くと巨大な斧を持っていた大男はそれを構える。
「っ!?」
「なんだ小僧!何でお前ニャウの笛聞いて起きてるんだよ!!眠って居りゃあ生かしといてやったものを!」
「てことは……てめえが偽物のナイトレイドか!」
「おっほ!そっちは本物さんかい!こりゃあいい!ほらよっ!」
と言うと大男・・ダイダラは剣をタツミに投げてよこしたのだ。
「なんのつもりだ?」
「俺はさ、戦って経験値が欲しいんだよ!最強になるために!・・かかってきな!!」
そういうダイダラに隣にいたリヴァとニャウが呆れたように溜息を吐く。
「ダイダラ!今それどころじゃ無いじゃん!武装SSが来てヤバイ事になってるじゃん!」
「さっさと終わらせろ!皇帝の手下がすぐそこまで来ているぞ!」
しかし呆れる声のよりも焦りが色濃く声にでていた。
何かに追われているようにも見えた。
「タツミ!大丈夫か!」
「!!アニキ!ああ、俺は無事だ!」
すると今度はブラートが飛んでタツミの前に現れる。
「おいおい!また別のが来たな?アイツもナイトレイドか?」
「!?あの男、まさか!」
もはや何が何だかわからなくなってきたと思うので整理すると。
始めに笛の音から逃れるため直感的に甲板にタツミが出る。
次に慌てたように三獣士が現れる。
その後ブラートがタツミの前に飛んで現れる。
……ということである。
「ん?おめえやけに元気だな?無気力化の演奏は船全体に響いてたはずだが?」
ふと思ったであろう疑問をぶつけるダイダラ。
そしてそれにブラートはキリっと真剣な顔をする。
「そういう演奏だったのか、だったら効かないはずだぜ。」
「ああ?」
そういうブラートの体には炎がめらめらと燃えるのが幻視できた。
「俺の体に流れる熱い血はよ!他人に静められるもんじゃねえんだよ!!」
「ッ!?こいつ・・おもしれえ奴だ!体えぐって痛みで洗脳に対抗しやがったか。」
決め顔で言うブラートからは覇気すらも感じられた……。
「ナイトレイドのブラートだ、ハンサムって呼んでもいいぜ?」
「エスデス様の僕、三獣士ダイダラだ。」
そう名乗りあうとブラートは。
「タツミ、お前は俺の戦い方をしっかり目に焼き付けとけ!」
「・・アニキ。」
そういったのを確認するとブラートはニッと笑い手を甲板につけ……。
「イィンクルシィオオオオオオ!!!!!」
そしてブラートはインクルシオを纏う。
「こいつはたっぷり経験値持ってそうだぜえ!!」
ダイダラは突っ込み、リバとニャウが襲いかかろうとするが……、ブラートは上に飛びニャウに膝蹴りを入れるとその反動を利用してリヴァに蹴りを入れる。
―そしてそれの速さに唖然として一瞬動きが止まったダイダラを手に持つ槍で真っ二つにした……。
「タツミ・・これが前に言った、周囲に気を配るって奴だぜ。」
タツミにそういうブラート、一方タツミは唖然としてしまっている。
頭ではないが起こったかは理解できる、だがそれが理解できる故に唖然としまっているのだ……。
「おお~!凄い!ねぇ今のすごくありません陛下!!」
「ああそうだな、獅子の様に勇ましいことだな。」
そんな所に声が響く。
「たしかあの男が“百人切りのブラート”だったか?」
そしてその声は幼い物で場にまったく似合わず。
「っ!!まさか!」
「そ、そのまさかだ。」
その場では会いたくない人物だった。
「皇帝!?」
リバがそう叫び、ニャウがしまったという顔をする。
そしてブラートやタツミも驚きを隠せないでいた。
「これはこれは、三獣士じゃないか……いや、今ので二獣士になったのかな?」
クククと笑う皇帝にリバは冷や汗を隠せないでいた。
そしてその間に再び上がり始めた悲鳴……。
先ほど三銃士は何かから逃げるように甲板にでてきていたのを覚えているだろうか?
ブラートと三銃士の戦闘のインパクトのせいで薄れていたが、原作においてタツミと出くわしたのはダイダラのみ、その後ブラートとダイダラの戦闘開始時にリヴァとニャウが現れている。
―しかしこの世界では三獣士は揃て現れた・・すでに誰かの手により改編されている証拠であり、何を隠そうその改編を起こしたのが竜船の艦橋部から三獣士、ナイトレイドを見下ろす【狂気の皇帝】“ヴィクター・ロマノフ”その人である。
「揃いもそろって驚いた顔をするなぁ……まあいい、セバスチャン!大尉!フィニ!目標は三獣士!及びナイトレイド!スネークは余の護衛……。」
唖然としている甲板上の四人に構う事無く言う皇帝・・そしてその命令は……。
「そして命令は一つ、
「
1人の燕尾服を着た
「……(コク」
背が高い軍服を着た男が甲板に降り立つと甲板の木の板がバキィ!!と音を立て砕ける。
「イエス!マイロード!!」
まだ高校生位の金髪の少年が元気よく返事をし、巨大な鋏をもって甲板の一か所を切り裂いて甲板の下から現れる。
「『了解した』ってワイルドが言ってる。」
体に蛇をまきつけた銀髪の男は蛇の言葉のように言う。(実際そうなのかは不明。)
―こうして、強制参加、撤退不可の帝具持ちだらけの戦闘が始まった。
「主の命ですので貴方方を倒させていただきます。」
そういってセバスチャンはリヴァの前に立つとその手に付けていた白手袋を口で噛んで外す。
そこには悪魔の契約のような紋様が浮かんでいた。
“
そしてリヴァは気づいたように呟く。
「もしかして貴様!エスデス様と同じ形式の!!」
リヴァが気付いたのは自身の主、エスデス将軍の帝具“魔神顕現【デモンズエキス】”と同じ形式で使用することのできる者だと言う確信だった。
「お気づきになられましたか?確かに私の帝具はエスデス将軍と同じ形式で“自身の体に取り込む”ものでございます。」
エスデス将軍の帝具は危険種の血から作られており、飲むことでその力を得る事が出来るものだ……セバスチャンの帝具“
「ああ、少し喋りすぎましたね……では始めるといたしましょうか?」
「できれば・・御免願いたいが……無理だろうな。」
「はい、さっさと捕まっていただきます。」
そう言ってセバスチャンは眼にも止まらぬ速さで接近すると影を纏わせた右手を振るう。
リヴァは紙一重で躱すも掠った所の服が斬れ、切れ端がジュッっと音を立てて朽ちる……。
それに戦慄する暇をも与えないと言わんばかりにセバスチャンは蹴りを繰り出すとそれもまた目にもとまらぬ速さであったがリバは腕を交差させて防ぐが勢いを殺せず吹き飛ばされる。
「喰らえ!!」
リヴァは帝具を発動させ、川に流れる水を操作し無数の水龍を作り出しランダムにセバスチャンを襲わせる。
―彼の帝具“水龍憑依ブラックマリン”は水生危険種の水を操る器官をもとに作られている水を操る帝具である。
しかし無から水を生成する事は出来ないのが唯一の欠点である。
「………(フッ」
「(ゾクッ!」
何か来る!そうリヴァの中で本能が警鐘をならしていた。
通常なら回避するのはほぼ不可能なその水龍の攻撃が迫る中セバスチャンは笑みをこぼす。
……しかも只の笑みではない・・そしてその笑みの正体をリバは知っていた……。
―その笑みは自身の
水龍が迫る中、セバスチャンは右手を挙げるとそこにはリヴァの作った水龍を模した“黒い何か”であった。
そして数に至ってはリヴァのそれを軽く超えてしまっていた。
―リヴァは知らなかった……。
元帝国最強と知られるウォルターが唯一自身の後を任せられると言った執事であった事を……。
―リヴァは知らなかった……。
その男が純粋な危険種とのハーフという人外であった事を……。
「ロマノフ家の執事たる者 この程度のことが出来なくてどうします?」
―そう言った時の顔もまたドSな顔であったのは違いなかった。
リヴァの操る水龍はセバスチャン操る黒い何かに数で圧倒的に負け、全ての水龍を潰されてしまう。
そしてリヴァの眼の前には迫りくる黒い水龍のような何かがあった……。
「(エスデス様・・任務を完遂できず申し訳ありません。)」
防御も、回避も間に合わないリヴァは己への死の恐怖を感じ主への謝罪を行うしかできなかった。
―三獣士、残り一人―
長くなるので一旦切ってⅡに続きます。