「まゆは浮気性なんです」
「すぐに好きになる。すぐに恋をして、すぐに愛を抱いてしまう」
「すぐに心が移ろってしまう」
「それまでの好きを越えて、新しい好きを」
「それまでの恋を塗り重ねて、改めて恋を」
「それまでの愛を抱き締めながら、けれどその末、新しく改めた愛を」
「抱いてしまう」
「そんな、どうしようもない浮気性」
「浮気性なんです」
「まゆは、浮気性なんです」
「ええ、そうですよぉ」
「まゆが、です。貴方のまゆが、です」
「今この、ここにいる、貴方の隣のこのまゆが」
「浮気性なんです。まゆが、それこそどうしようもないくらいに」
「……うふふ」
「不思議そうなお顔ですね。きょとんと疑問に溢れた……そして少し、不安そうなお顔」
「うふふ。プロデューサーさんにそんな顔をさせてしまうのは申し訳ないのですけど……でも、少し、嬉しいです」
「それはつまり、まゆを信じてくれていたということ」
「まゆを一途だと。プロデューサーさんにまっすぐで、心移りなんてせずに一筋の想いを貫いているのだと、思ってくれていたんですよね」
「ちゃんとまゆを見て、ちゃんとまゆを感じて、ちゃあんとまゆの想いを受け止めてくれていたんですよね」
「嬉しいです」
「とても、とっても、嬉しいです」
「……でも」
「でも、ごめんなさい」
「本当のまゆはこうなんです」
「偽りのない、飾らない本当のまゆは、そんな浮気性な女なんです」
「嘘? いいえ、本当です」
「まゆが浮気性だというそのこと、それはどうしようもなく」
「……そして、これまでプロデューサーさん、貴方へ贈ってきた想いのすべてもまた、どうしようもなく」
「どうしようもなく、本当なんです」
「ええ、そうです」
「まゆはプロデューサーさんが大好き」
「だけど何度も、何回も、何重にも浮気をし続けてきた」
「それはどうしようもなく、同時に、本当なんです」
「……うふふ」
「また、きょとんとしたお顔。可愛いです」
「可愛くて、愛らしくて。……ああ、もう、また浮気をしてしまいそうになるほど愛おしい……」
「……ええ、はい。そうです、浮気です」
「これまで重ねてきた、数えきれないほどのそれらと同じように」
「一度や二度ではありません」
「十や百なんかでは足りません」
「千や万まで至っても及びません」
「それほど重ねてきた、繰り返してきた、浮気」
「それです。それをまた、今」
「……うふふ、ますます分からない、ってお顔です」
「べつに、何も難しいお話ではないんですよ?」
「まゆは嘘なんて吐けませんから、そのままの意味を、まっすぐ一緒に捉えてもらえればいいんです」
「そのまま。そのまま、です」
「まゆは浮気性で。数えきれないほど多くの浮気を繰り返してきた浮気者で」
「まゆはプロデューサーさんが大好きで。数えきれないほどたくさんの言葉を重ねて伝えてきた通り、好きで大好きで愛していて」
「それを、その二つを、そのままに受け取ってもらえればいいんです」
「……分かりましたか?」
「……」
「うふふ」
「ええ、そう、正解です」
「そしてそうと分かったら、いろいろと納得してもらえるんじゃないですか?」
「まゆが浮気性だ、ってこと」
「これまで何度も何度も、浮気をし続けてきたんだ、ってこと」
「納得して……認めて、もらえるんじゃないですか?」
「……うふふ、ありがとうございます」
「嬉しいです。まゆが浮気性だと、分かってもらえて」
「これまでまゆが贈ってきた想いのすべてを、ちゃんと受け止め覚えてくれていて」
「そんなお顔を……安心して、柔らかな、嬉しそうにはにかんだお顔を見せてくれて」
「ありがとうございます」
「そんなプロデューサーさんだから、まゆはこれまで浮気をし続けてこられました」
「そんなプロデューサーさんだから、まゆはこれからも浮気をし続けていくことができます」
「何度も、何度も、何度でも」
「プロデューサーさんのことを好きなまゆは、大好きなまゆは、愛しているまゆは」
「浮気を積み重ねていけます」
「それまで好きでいたプロデューサーさんよりも、新たなプロデューサーさんに」
「初めて見るプロデューサーさんに、改めて確かめたプロデューサーさんに、新しく鮮やかなその時その瞬間のプロデューサーさんに」
「浮気することができます」
「プロデューサーさん」
「何度でも何度でも何度でも……まゆは、プロデューサーさんに浮気します」
「浮気性なまゆは他に代えなんて効かないただ一人の貴方を愛しながら、けれどそのただ一人に浮気をし続けます」
「会う度に好きになる。想う度に恋をする。添う度に……こうして、プロデューサーさんと同じ空間の中へ添う度に、まゆはプロデューサーさんを愛してしまう」
「うふふ」
「プロデューサーさん」
「まゆはやっぱり、そんな浮気性なんです」
「どうしようもない浮気性なんです」
「……ん。不安に、なりましたか?」
「ふふ。大丈夫、大丈夫ですよぉ」
「まゆがプロデューサーさん以外に浮気なんてする訳がないじゃないですか」
「確かに目移りはします。惹かれて、虜になってはしまいます」
「けれどそれはプロデューサーさんへだけ。貴方へだけ、なんです」
「プロデューサーさんには節操がなくて、軽率なくらい簡単で、どうしようもなくだらしないまゆですけど」
「それは貴方へだけ、なんですから」
「……」
「うふふ」
「ええ。ええ、そうです」
「まゆが好きなのは貴方です」
「浮気性なまゆがふらふらと惹かれてしまう大好きな人は、揺らがず一途に愛している想い人は貴方です」
「貴方です」
「こうして隣へ添うのは」
「こうやって想いを尽くすのは」
「こんなふうに二人きりの車内で睦言を交わすのは」
「貴方だけです」
「貴方だけなんです」
「好き。大好き。そう思って感じるものはもちろんたくさんありますけど」
「男性として好き。赤い糸の繋がる唯一の人として大好き。まゆにとってのそれは、プロデューサーさん貴方だけ」
「まゆの恋の相手も貴方だけ」
「初恋の相手は貴方でした。二度目も、三度目も、それから先の恋もぜんぶぜんぶ」
「プロデューサーさんはまゆにとってかけがえのない初恋の相手で。他に替えの利かない十度目の、取り換えられない百度目の、変えることのできない千度目の……万度目の、億度目の、きっとそれよりももっと回数を重ねた果ての、数えきれないほどの恋の相手、そのすべてはプロデューサーさんという貴方ただ一人で」
「きっとまゆの恋は、愛は、プロデューサーさんだけなんです」
「うふふ」
「だから安心してください」
「貴方のまゆは、浮気性な貴方のまゆは、けれどだからこそずっと貴方の傍から離れません」
「一つのものには必ず終わりがあるのかもしれませんが、それなら一つではなく何度も何度もたくさんを積み重ねていけばいい」
「永遠は無くとも、そうして永遠を形作っていけばいい」
「そうやってまゆは、ずっとずうっとプロデューサーさんのことを想い続けます」
「好きで居続け、恋をし続け、愛し続けます」
「まゆは永遠唯一つの愛を約束できるほど強くはありません」
「けれどきっと、永遠唯一人への愛は約束してみせます」
「プロデューサーさん」
「貴方へ尽くす永遠の愛を、誓ってみせます」
「だから安心してください」
「まゆがプロデューサーさんから離れることはありません」
「寄って、添って、寄り添って」
「そしていつの日かきっと、貴方の隣へ立つ」
「恋人。お嫁さん。生涯を連れ添う伴侶。そんな、まゆの夢の中の理想の姿を叶えて」
「それで、そうなって、そして貴方と一緒に立つ」
「立って、歩いて、進んでいく」
「貴方と結ばれてみせますから」
「……うふ。ええ」
「分かっています。プロデューサーさんが応えてくれないことは」
「プロデューサーさんにはプロデューサーさんの夢があって、立場があって、愛があって」
「だからまゆの愛に応えてくれない」
「まだ、応えてくれないことは分かっています」
「でも構いません」
「まゆは妥協なんてしません。きっとそこへ至ってみせると、もう決めていますから」
「貴方の隣へは、他の誰よりも貴方のことを幸せにできる人が……誰よりも、貴方が愛おしく想える人が立たなければいけない」
「貴方が心から、嘘偽りなく、他のどんな何よりも望む人が立たなければいけない」
「まゆは、それを叶えてみせます」
「貴方の隣には貴方の愛する人が立ち、そしてその人と結ばれた貴方は他の誰と結ばれるよりも幸せになる」
「そんな未来を、貴方の幸せを、きっと叶えてみせる」
「そして」
「そしてきっと、そのかけがえのない唯一人に、まゆはなってみせる」
「たとえ今はまだそう在れないのだとしても」
「いつかきっとなってみせる」
「みせますから」
「貴方の夢へ着き、プロデューサーさんの立場へ届き、プロデューサーさんの愛へ至ってみせる」
「まゆが貴方を幸せにしてみせますから」
「――うふ」
「ええ。ええ、そうでしょう」
「いいんです。さっきも言った通り、まだ応えてもらえないのは分かっていますから」
「だからいいんです」
「そうして、哀しそうなお顔の貴方に謝られても」
「いいんです」
「だってまゆは、いつか叶えてみせると決めています。きっと叶うと信じていますから」
「だからいいんです」
「うふ。ええ、叶えてみせますとも」
「確かにまゆとプロデューサーさんの間には、難しいこともたくさんです」
「初恋は叶わない、なんて言葉もあります」
「簡単ではない、っていうそのことは分かっています」
「でも大丈夫」
「ちょっとやそっとの障害で諦めるつもりはありません」
「まゆは強い子です」
「貴方の幸せを諦めたりなんてしません」
「まゆは弱い子です」
「貴方の幸せを諦めることなんてできません」
「まゆは、プロデューサーさんという人に対して誰よりも強くて、誰よりも弱い子です。本気で、そう信じている子です」
「だから大丈夫。大丈夫です」
「それに」
「それに、うふ」
「初恋が叶わないのなら、次の恋を叶えればいいんです」
「二度目も叶わないなら三度目を。それでも叶わないなら四度目を」
「十度目を、百度目を、千度目を、万度目を、億度目を」
「叶えればいいんです」
「それなら、大丈夫でしょう?」
「だってまゆの初恋は貴方で。次も、その次も、その更に次も、まゆの恋する相手は貴方で。たった一人、貴方なんですから」
「だったらきっと大丈夫」
「貴方への恋が叶うその時まで――まゆは、それがたとえ那由多の果てまででも繰り返してみせますから」
「だからきっと大丈夫、大丈夫なんです」
「ええ」
「貴方と、結ばれてみせますから」
「――え?」
「あ、もう着いた、ですか?」
「あら本当、もう、寮の前まで」
「――うふふ、好きな相手と一緒の時間は早く過ぎてしまう、というのは本当ですね」
「ほんの一瞬のことのように感じるのに、もうこんな」
「……そうですね。明日もまた早いですし、わがままで引き留めてしまうわけにもいきませんから。今日はこれで失礼します」
「ふふ、今日もまゆを送ってくれて、ありがとうございました」
「ええ」
「はい。また明日、です」
「……」
「…………」
「………………プロデューサーさん」
「いいえ、降ります。――でも、そうする前に」
「はい、今日も、最後に」
「――うふふ、ありがとうございます」
「それじゃあプロデューサーさん、失礼します、ね……?」
「……」
「――……ん、うふ。――んっ」
「……」
「…………」
「………………ふ。――うふ、大きな背中……」
「温かくて、大きくて広くて、まゆのことを安心させてくれる大好きな背中……」
「うふふ。今日も、確認。まゆの愛を確認する、プロデューサーさんへ尽くす、背中へ注ぐ確認のキス、です」
「ふふ」
「――ん。と、ありがとうございました」
「ええ、もう大丈夫です。もうしっかり、確認できましたから」
「まゆの気持ち」
「プロデューサーさんを想うまゆの気持ち」
「いつかきっと一緒になる」
「いつかきっと、車を降りても別れず添えるようになる」
「同じ場所へ帰って、同じ空間で過ごして、同じ時間を過ごす」
「そんな未来を叶えてみせる、って」
「まゆの気持ちを、決意を、想いを確認できました」
「うふふ」
「ええ、ええ」
「明日もまた、まゆはきっと恋をする」
「浮気性なまゆはまた、きっと貴方に恋をします」
「――うふ。そうしてきっと、きっときっと、叶えてみせる」
「プロデューサーさん」
「まゆは、いつかきっと貴方を、誰よりも幸せにしてみせますからね」
「好きです」
「大好きです」
「愛しています」
「愛しい愛おしいまゆのプロデューサーさん」
「また明日」
「ええ、また明日」
「明日もまた、きっと、まゆを虜にしてくださいね?」