倉庫   作:ぞだう

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速報に投げたものの加筆修正版。


R
裸で重なる一時(速水奏)


「プロデューサーさん」

「……ん?」

「お風呂、私も失礼するわね」

 

 プロデューサーさんの家の中。今日初めて足を踏み入れたその中の浴室へ、今日二度目となる入室を果たす。

 扉を開いた正面には備え付けのシャワー。その右横へと設えられた湯船の中へ身体を浸からせているプロデューサーさんへ……突然入ってきた私に驚いて、あるいは小さなタオル一枚で下を隠しているだけの私の姿に戸惑って、そうして声も出せずにいるプロデューサーさんへ視線を送りながら歩を進めて中へ。

 

「……って、奏……!?」

「しーっ。……ほーら、そんなに大声出したらご近所さんに迷惑じゃない」

 

 入って、それから後ろ手に扉を閉じる。

 すっかり昂ってしまってきっと赤い顔、緊張で上手く緩められない表情をなんとか微笑みの形へ装わせながら「将来は私のご近所さんにもなるのかもしれないんだから……ふふ、なんてね」なんて、そんな台詞を口にして。

 隠しきれてはいない。どこかに表れてしまっているはず。……でもそれでも、叶う限り誤魔化して。この胸の高鳴りも、荒くなってしまいそうになる呼吸も、なんとか隠して余裕を繕って。そうして、そうしながらプロデューサーさんと向かい合う。

 

「なんで、奏……風呂ならさっきもう入って……」

「ええ、いただいたわ。……でも私ったらうっかりしてて、湯船に浸かるのを忘れていたのよ。シャワーしか浴びていないの」

「いや、だとしたら……だとしても、今じゃ」

「今じゃ駄目なのかしら」

「駄目でしょ!」

「あら残念。……でもやめないわ。だって、貴方と一緒に入ることが私の望みなんだもの」

 

 長引いたレッスン。長引いた仕事。お互い予定が長引いて遅くなって、更にその後とりとめもない会話を重ねたおかげで深い夜へまで至って。だから一緒に帰ることになった私たち。どしゃ降りの雨の中、持ってきたはずの傘を忘れた私はプロデューサーさんの横へ寄り添うようにして歩いて。そうしてここ、このプロデューサーさんの家まで辿り着いた。

 本当はタクシーでも使えばよかったのだろうけど。……プロデューサーさんも、そうするようにしつこく言葉を重ねてきたのだけれど。……でも強情でずるい私は折れず、わざと雨の中へと躍り出て「ほら、担当アイドルに風邪を引かせるつもりなの」なんて言ったりして、そうして散々困らせた末ここまで来た。

 偶然、けれど必然。いつかこんな偶然が重なることがあったなら、そのときは絶対に自分の願いを叶えてみせる。そう思っていた私に訪れた偶然を、それまで思っていた通り私は叶えた。

 プロデューサーさんと二人きり。他のどんな誰の邪魔も入らない。二人だけの世界。

 

「それにしても」

「……?」

「言わないのね、プロデューサーさん。胸を隠せ、とかそういうこと。……ふふ、そんなこと言えない。言いたくないくらいに見惚れてくれているのかしら」

 

 タオルを持っていないほうの手で持ち上げてみせる。この浴室へ入る前、脱衣場の鏡で何度も何度も確認した身体。汚いところはない、シャワーを浴びてほどよく火照った……内から溢れ出る興奮を隠しきれず、つんと立ち上がって主張してしまっている以外は完璧に装えている身体。その胸を、プロデューサーさんへと見せつけるようにして持ち上げる。

 目の前の私の姿から注がれる衝撃にまた声を出せなくなるプロデューサーさん。……きっと声を出せない理由の内のいくらかには、見惚れてくれているというそれもあるはず。現に顔はだんだんと赤色へ染まり出して、何より湯の中のそれが主張を強めている。

 

「お邪魔するわね」

 

 言って入る。

 受けた衝撃に混乱してプロデューサーさんが言葉を紡げないでいる内に事をどんどん先へ先へと。

 

「っ!」

「……ふふ」

 

 湯船へ入る前、浴槽の縁を跨ぐときにわざとゆっくり見せつけながら。身体を半分回して左足から入る。プロデューサーさんへは背を……後ろを向けた形。当然後ろはタオルで隠されてもいない、そのままの裸なわけで。きっとプロデューサーさんにははっきり鮮明にいろいろと見えたはず。その証拠に、後ろからは息を呑むような絶句するようなそんな声。

 

(…………あぁ)

 

 きっと濡れている。さっきまで浴びていたシャワーのせい、上がってから溢れてきた汗のせい、そして何より強く熱く興奮して漏れ出てきてしまっているもののせいで濡れているそこ。プロデューサーさんに見てもらいたいとずっと思っていた、プロデューサーさんに見てもらうためにずっと整え続けてきたそこ。それを見られて、思わず心が高く跳ねる。

 わざとゆっくり……見せつけるため、そして興奮に震えて上手くいつも通りに身体を動かせないのを誤魔化すためにゆっくりと……プロデューサーさんの目の前をそうして通る。

 

「……あら、プロデューサーさん」

「……何」

「それ、開いてくれない? そこを閉じられたら私が入れないじゃない」

 

 湯へと身体を沈める直前、何にも覆われていない下腹部をプロデューサーさんの目の前へと突き出したままの体勢で止まって言う。

 

「それ、って……」

「それよ。ほら、そんな体育座りなんてしてたら私が貴方に乗れないじゃない」

 

 とんとん。湯から顔を出したプロデューサーさんの膝を叩いて示す。

 それを開いて。そうして私を受け止めて。そんなふうに想いを込めながらとんとん、と。

 

「いや、乗るってそれは……」

「……」

「今そんな体勢になられるとその、困るというか」

「……プロデューサーさん」

「……ん?」

「女にいつまでもこんな格好をさせておくつもり? 貴方も大概変態なのかしら」

 

 流石に私も恥ずかしいのだけれど。と付け加えつつ、ぐいと突き出した腰を左右に振る。

 顔から火が出てしまいそうなほど、ほんの少し気を緩めれば意識を手放してしまいそうなほど恥ずかしい。苦しいくらいに吐息が熱くて、張り裂けてしまいそうなくらい胸がドキドキ高鳴ってしまう。

 けれどそれを見せないよう。叶えられる限り隠して装って、精一杯の虚勢を張って余裕ぶりな態度を作る。

 

「あっ……」

「……ふふ。はぁい、ありがとう。お邪魔するわね」

 

 込み上げてくる恥ずかしさや照れを耐えて強行した私のその行動にプロデューサーさんも動揺したらしい。足を閉じる力がふっと弱まって、開こうとする私の手の動きを抵抗なく受け入れてくれた。

 受け入れられて、開かれたそこ。もう一度閉じてしまう前に私はそこへ腰を下ろす。気持ちを逸らせて少し水飛沫を上げてしまいながらもそこへ下りて、そうしてしっかりと嵌まり込む。

 

「……ああ、プロデューサーさん」

「……何、かな」

「えっち」

 

 月並みな台詞。けれどいつか必ず言いたいと願っていた台詞。それを、願っていた通りの相手へ紡いで送る。

 身体を座らせる私の下、そこへあるのを感じる。

 どくん、どくん、と脈打っているのが分かる。びく、びく、と震えているのが伝わってくる。ぐっ、ぐっ、と焼けたように熱く硬いそれが私を押し上げ叩いてくるのが感じられる。

 プロデューサーさんを感じる。私に興奮してくれている……どうしようもなく昂って、どうにもならないくらい欲情して……そんな、私と同じになってくれているプロデューサーさんを感じる。

 感じて、そして嬉しくなる。大好きで恋しくて何よりも愛おしく想う相手が、こうして自分を意識してくれている。そのことにたまらなく嬉しくなって……そして、幸せな心地になる。

 

「っ……!」

「なーんて。いいのよ。むしろここまでしたのに何も反応してくれないほうがずっと嫌だもの。……ふふ、私もしっかりプロデューサーさんの対象なんだって確かめられて嬉しいくらい」

 

 決してずれて離れてはしまわないよう、座った位置は固めつつ。背を胸へともたれかけ、それまで行き場を失ってゆらゆらと泳いでいた腕を捕まえてそれに抱かれる。

 上に乗った私をプロデューサーさんが後ろから抱きしめている。そんな体勢。

 

「んっ、もう……プロデューサーさん、息荒すぎよ」

 

 私の肩へ乗るようにしているプロデューサーさんの顔。そこから注がれる吐息……熱くて、荒くて、濡れていて。そんな、興奮を隠せずにいる吐息を耳元へ感じて、思わずぶるりと身震いしてしまう。

 ぞくぞくとするような感覚。痺れのような震えのような、そんな感覚が耳から広がり全身へ伝わって。鼓動が跳ねる。お腹の奥がずんと揺れる。余裕を装った言葉を吐きながら、けれど自分も吐息を荒くしてしまう。

 

「……かなで…………」

 

 引き寄せて、むりやりに私を抱きしめるような形にしていたプロデューサーさんの腕。それをまた少し動かして、水面へ……湯に浮いて、湯船と外とのちょうど境界を漂っていた私の胸へと導く。

 導いて触れさせて、そうして留める。水面を揺らしてしまいそうなほど高く強く鼓動を刻むそこへ、その鼓動も何もかもを感じられるほど強く深く。むにゅり、と形を変えてしまうほどに押し付ける。

 

(…………あは、ぁ)

 

 心臓が飛び出てしまいそう。頭が沸騰してしまいそう。自分が自分でなくなってしまいそう。

 そんな感覚。これまでにも何度か感じたことのあるそれ……ライブで、撮影で。アイドルとして何度か感じたそれを……けれどそのどんな時よりも更にもっと強く激しいそれを感じて、一瞬意識を手放しそうになる。

 なんとか抑えた。どうにか耐えた。……でもあまりにも感じてしまって、幸せすぎて、それまで装えていた表情や振る舞いが装えなくなってしまう。向かい合っていないから気付かれてはいないけれど……きっと今、見せられない顔をしている。緩んで蕩けた、そんな顔。

 

(本当、こんな)

(こんな感覚を覚えさせられて……そんなの私、もうどうしようもないじゃない)

(イケない人。本当に悪い人)

 

 おかしくなってしまいそう、とそう思ってしまうほどのこんな想いを感じさせるプロデューサーさん。今まさに後ろへ添っているその人、きっと顔を赤くしながら半ば混濁した意識で呆けて固まってしまっているのだろうその人を頭の中でも思い浮かべて、そうしてそれへ言葉をぶつける。

 

「……そういえば、ねぇ、プロデューサーさん」

 

 思えば今までのこれ。こんなどうしようもないほどの感覚。これを私へ感じさせてきたのは、全部プロデューサーさんだった。ライブの時、誰よりも瞳を輝かせて喜びながら私を抱きしめてくれた。撮影の時、どんな小さな一瞬も逃さずにまっすぐ私のすべてを見ていてくれた。私にこんな感覚を与えてくれるのは、プロデューサーさんだった。

 プロデューサーさんはたくさんをくれた。こんな感覚も。数えきれないくらいの初めても。私が叶えたいと願う未来の望みも。

 それを思って、そして改めて実感する。

 やっぱりプロデューサーさんは私の唯一の人。私の初めての人で、私の最後までの人。

 それを強く心の中で確かめて。だからふと言葉を投げ掛けてみた。

 

「プロデューサーさんって初めてなのかしら。もう女は知っているの?」

 

 自分にとっての初めての人。初めてはこの人でないと嫌だ、と願う相手。そのプロデューサーさんが、果たしてどちらなのか。

 初めてなのか、そうでないのか。……これまでずっと一緒に過ごしてきて、その答えがどちらなのかはほとんど私にとって明白ではあるのだけれど。

 それでも聞いてみた。察するのではなくて、言葉でちゃんと聞いてみたかったから。

 

「……それは……そんなの」

「ないのかしら」

「ない、というか」

「……あるの?」

「いや、まあ……こう……ない、けども……」

 

 言いにくそうに淀みつつ、でも最後まで聞かせてもらえた。

 望んでた答え。知ってはいたけれど、それでも確かな肯定か欲しかった答え。

 

「ふふ。……まあ、そうよね。プロデューサーさんったら、もういっそ面白くなるくらいに女の人に慣れていないんだもの」

 

 分かっていたこと。けれど聞けて嬉しくて。だから「普段私がからかった時も、楽しい反応してくれるしね」なんて言葉を加えつつ、胸を昂らせたまま撫で下ろして微笑む声を口に出す。

 

「…………それは」

 

 すると、不意にぎゅうっと。

 私を抱く腕の力が強くなる。それまでそっと触れ合う程度だった肩の上の顔が押し付いてくる。混乱と戸惑いの中へ意識を置かれてぼんやりとぼやけていたプロデューサーさんの声の調子が、はっきりと芯を持つ。

 私へ注がれるプロデューサーさんが、不意にとても強くなる。

 

「…………それは?」

「……」

「それは、なんなのかしら」

 

 言葉を止めてしまうプロデューサーさんへ続きを促す。

 なんなのだろう、という疑問。もしかしたら、という期待。二つを混ぜ合わせた想いを込めて、続く言葉を求めて願う。

 

「……奏だから」

「……私、だから……?」

「そう。……奏だから意識した。奏だからあんなになった。それは、他の人にも慣れているわけじゃないけど……それでもあんなになったりしない。からかわれてああなるのは、奏だから。……だから、なんだよ」

 

 耳元で囁かれる言葉。

 言葉を紡ぐ度に胸の鼓動が早鐘を打つのが分かる。プロデューサーさんも、そして私も。熱くなる。苦しいくらいに昂って、どうしようもなく濡れてしまう。

 もしかしたら、と思っていた言葉。それを少しも違わず……むしろ越えてさえきてくれたそれを受けて、心が自然と沸き立ってしまう。

 

「……そうなの」

「だから」

「……?」

「だから、やめてくれ」

 

 プロデューサーさんから、拒絶の言葉。

 深く深く押し付いて。強く強く抱きしめて。そんな身体の状態とは真逆の言葉。それが耳元へ注がれる。

 

「やめて。……どうして?」

「……このままだと、きっと奏を不幸にする」

「不幸?」

「ああ」

「……そう」

 

 震えも昂りも何もかも、重なった肌を通して伝わってくるすべては私を求めてくれている。それなのに送られる言葉はすべて逆。

 私が欲しくて仕方ないはずなのに私を遠ざけようとする。

 それを、そんなプロデューサーさんを感じて。だから私は動いて示す。

 

「!」

「ねぇ、不幸って何? プロデューサーさんが私を求めることが、私にとっての不幸なの?」

 

 胸へと押し付けたまま、そこからは何もせずに任せていた手を上から握る。鷲掴ませて、揉みしだかせる。

 それまで触れさせているだけだったそれ……硬く立ち上がって絶え間なく震えるそれへ、湯の中にありながらねっとりと熱く濡れきった私のそこを宛がって擦りつく。

 

「……大丈夫、入れないわ。そんなことするわけない。私の初めては貴方から奪ってもらうって、そう決めているもの」

 

 むにゅむにゅ、と形を変える胸。

 擦れる度にどんどん濡れて、たまらなく甘い痺れに染められていくそこ。

 身体を、心をそうして昂らせながら続きを。

 

「ねぇ、駄目なのかしら。私がそれを望んでいても。私が貴方と結ばれたいと、そう願っていても」

 

 言いながら顔を横へ。

 上半身を軽く捻って横を向く。そしてじいっと、目の前のプロデューサーさんの瞳へ視線を注ぐ。

 

「いいのよ、プロデューサーさん。貴方と結ばれることは私にとって不幸なんかじゃない。私にとって貴方は、他のどんな誰よりも望む人なんだから」

 

 私のそれに何か返そうと言葉を探して小さく動くプロデューサーさんの唇。それを塞ぐ。私の唇で、ほんの一瞬触れ合うだけのキスを落とす。

 

「ファーストキス。……ふふ、あげちゃったし貰っちゃった」

 

 言って、また。

 もう一度キス。ちゅ、とわざと高くリップ音を響かせながら重ねてまた口付ける。

 

「……ほら、これで分かったでしょう? 正真正銘の初めて。二度はない、人生でたった一度きりのキス。それもこうして貴方に捧げられる。ずっとそうしたいと願っていたこれを叶えられて、こんなにも胸が高鳴ってる。嘘なんかじゃない。大好きなのよ、貴方のことが」

 

 どくん。私の下で強く跳ねる。

 初めてのキスに何もかも……頭の回転も心の整理も身体の反応も、その何もかもが追い付かずに固まってしまっていたプロデューサーさんがようやく私に追い付いた。

 ファーストキスを奪われて、その上捧げられまでした。いつも冗談の風を装ってしか送られない私の告白、それを飾らずまっすぐに送られて。受け止めたそれの大きさと量に動けずいたプロデューサーさんが、やっとそれを受け入れて。理解して、意識して。……そうして、まず何よりも先にそこが跳ねた。

 

「っ、あっ……」

 

 もうとっくに膨れきっていたはずのそこが、けれどそれまでよりも更に大きく更に硬く膨れ上がる。

 爆ぜるように震えて立ち上がったそこになぞられて……重ねていた私のそこ、プロデューサーさんを望んでまだ他の何にも犯されていない綺麗なままのそこ。ほとんど刺激を受けてもいないのにもうすっかりと敏感になってしまっているそこをなぞられて、不意に熱く硬いプロデューサーさんのそれに擦り上げられて、たまらず口から声が漏れた。

 

「ん……もう、言葉よりも何よりもまず先にそこで返事をするなんて……プロデューサーさんの、ケダモノ」

 

 何を言葉にすればいいのか纏まらないのだろう。胸の高鳴りと吐息の荒さを増すばかりで返事のできないプロデューサーさんを確かめながら、私はゆっくりと身体を持ち上げる。

 プロデューサーさんの上へ座らせていた身体を立ち上がらせて、それからぐるりと反対へ。それまで背を向けていたプロデューサーさんの方へと身体の正面を向け直して、そうしてまた座らせる。

 対面座位。確かそんな名称だったはず。互いに向き合い重なり合う形。プロデューサーさんの上へ身体を乗せて、首へ腕を回して、互いにじっと見つめ合って……そんな、たまらなくなってしまいそうな体勢。

 

「これは……」

「プロデューサーさん」

「……? ……っ、うっ、奏……!?」

「…………ああ……これが、プロデューサーさんの……」

 

 触れた。

 プロデューサーさんの瞳……正面に向かい合った私の顔。湯船に浮いて漂う私の胸。透明な湯の中に見える私の秘所。……この体勢になったことで何にも遮られず晒された私のそんないろいろ、それらを慌てて戸惑うようにしながらも見ずにはいられないプロデューサーさんの揺れる瞳、それをまっすぐ見つめながら。

 湯の中のそれ。太く大きく勃ち上がったプロデューサーさんのそれに触れた。首へ回していないもう片方の手で、そっと、優しく包み込むように手のひらの中へ握り込む。

 

「……凄い…………」

 

 口をついて出たのはそんな言葉。触れて、握って、そんな言葉しか出せなかった。

 これ以上ないくらいに強く強く張り詰めたそれ。これまでに触れてきたどんなものよりも堅く感じるそれが、でも同時に柔らかくも感じられて。手の中で握る度、その度に柔く沈み込んで弾力のある感触を返されて。

 ビク、ビク、と何度も高く脈打つそれ。触れた手のひらを通して、浮き出た血管の一つ一つを感じる。握ったその感触や脳裏に浮かぶ想像の姿はたまらなくグロテスクなそれなのに、なのに何故だか嫌悪感は抱かない。抱けなくて、むしろ愛おしいとさえ感じられてしまう。

 ほんの数秒。触れて、握った、たったそれだけ。それだけなのに……けれどそのそれだけに感じさせられたものがあまりに多くて大きくて。だからそんな、凄い、だなんて言葉しか出せなかった。

 

「奏……そん、な……」

 

 余裕のない声。潤んだ瞳を浮かべて荒い呼吸を繰り返すプロデューサーさんが、そう私へ声を漏らす。

 ただ触れただけ。触れて、そして軽く握っただけ。べつに大したことをしたわけじゃない。プロデューサーさんも健康な男性なのだから、自慰の経験なんて数えきれないほどあるだろう。きっとそのときにするよりもずっとずっと些細な刺激。取るに足らない、なんでもないようなことのはず。それなのに目の前のプロデューサーさんはそんな、もう余裕の最後の一欠片さえ手放してしまいそうな声を私へ出した。

 

「そんな声を出して……プロデューサーさんのここ、凄い反応よ? びくんびくん、って……跳ねて、震えて……今にも爆発してしまいそう……」

「っ、あ……」

「それともプロデューサーさん。……本当にもう、達してしまいそうなのかしら……?」

 

 こんな些細な刺激でこんなにも感じてくれている。それはきっと、私を意識してくれているから。私を見て、私を聞いて、私に触れられているから。それを悟って確信して、だから思わず嬉しくなって……もっと気持ちよくなってほしい。もっと私で感じてほしい。そんなふうに思って、だから手を動かした。

 しっかりと手の中へ握りしめたまま、ゆっくりと上下にしごく。そして同時に親指は先端へ。湯船の中にあっても分かってしまうほど、どろどろとした先走りの汁を吐き出し続けている先端の部分を親指の腹で撫でて擦る。

 

(ああ……たまらない……嬉しくて可愛くて……愛おしくてたまらない……)

 

 一度上下に動く度、くにくに、と先端を弄る度、その度に確かな反応を返してくれる。それが無性に嬉しくて、快感に蕩けてしまいそうな表情が可愛くて、私に感じてくれている大好きな人が愛おしくなって……どんどん私もたまらなくなる。

 揺れる湯の波にしか触れられていないはずの秘所が、なのに自分でするときよりも痺れてしまう。荒くなるのを止められない呼吸、うるさいくらいに高鳴る胸、そのどちらもがこれまで経験したどんなときよりも苦しくなって……なのに嫌じゃない。辛くはなくてむしろ心地いい。

 たまらなくなってしまう。お腹の奥がずん、と疼いて。目の前の人の男を意識しながら、自分の女をどうしようもなく自覚する。

 

「……プロデューサーさん」

 

 ぐい、と顔を前へ。

 プロデューサーさんの正面を過ぎて少し奥、赤く濡れた耳元へ唇を寄せて添える。

 動かす手はそのまま。胸を強く押し付けて、漏れる息は隠さず吐きかけるようにしながら囁きを送る。

 

「いいわよ。イって」

「や、それは」

「ここまで感じておきながら何を言ってるの? ……いいのよ、我慢なんてしなくても」

「っ……」

「ほら……私にされて、私で感じて……? 私を孕ませるつもりで出してほしいの……おちんちん、気持ちよくなってちょうだい……?」

 

 吐息混じりの濡れた声。熱く焼けたそれを耳へ送れば、プロデューサーさんがぶるりと震える。

 その震えに私も震える。痛いくらいに立ち上がった胸の先が擦られて。それまで行き場なく漂っていた腕に抱き締められて、その強張った様子を背中でいっぱいに感じられて。そうして思わず昂って、たまらなく震えてしまう。

 

「……プロデューサーさん」

 

 どくん、と手の中のそれが一際大きく震えて跳ねた。

 きっと限界、なんだと思う。話で聞いた。本で読んだ。実際経験するのはこれが初めてだけど……傍に感じる余裕のない吐息、途切れ途切れに「かなで……かなで……」と漏れる声、きっともう出てしまう。

 初めての射精。私が導く初めての絶頂。私とプロデューサーさんとの初めて。それがきっともうすぐ叶う。

 大好きな人との初めては良いものにしたい。そう思った。だから。

 

「大好きよ。愛してるわ……」

 

 キス。

 耳元へ寄せていた唇を、無防備に晒されたプロデューサーさんの唇へ。重ねて、それから強く押し付ける。

 前にしたキスよりも濃く深く、今度は更にその先も。抵抗なく私を受け入れるその合間へ舌を差す。熱く焼けた口の中へ舌を伸ばして差し入れて、中で震えるプロデューサーさんのそれと絡ませる。

 

「んっ……ん、ぅっ……!」

 

 びゅる、びゅるるっ。

 ねちゅ、にちゃ、と粘っこい唾液の絡む音を響かせながらのキス。

 愛の告白を送られながら抱き締められて、押し付かれ、そしてこんなキスをされて。そうしてついに、プロデューサーさんが達して果てた。

 はっ、はっ、と息が荒い。一瞬息ができなくなって、一度吸って吐く度にまた詰まってできなくなって。そんな途切れ途切れの荒い息。

 出口へ押し付きながらそこを塞いでいた私の親指、それを弾き飛ばしてしまうような勢いで溢れ出た精液がまだ止まることなく出続ける。びゅく、びゅく、と脈打つ度、白濁色の粘つく液が透明な湯を汚す。

 

「あ、ぁ……はぁ……っ」

 

 見れば、射精の余韻に呆然とした愛しい人の無防備な顔。私との間に架かった唾液の糸も気にしていられないくらい余裕のない、きっとこれまで私以外のどんな誰にも見せたことのないだろう顔。

 だらしなく蕩けていて、普段の凛々しいそれとはまるで違っていて、でもそれがたまらなく愛おしい。私にそれを許してくれること、私がそれを引き出せたこと、それがとても嬉しくて。だからまた胸がキュンと跳ねてしまう。

 

「……こんなにたくさん……プロデューサーさん、ちゃんと気持ちよくなってくれたのね」

「ん、奏……」

「ふふ、まだ満足はできていないようだけど」

 

 水面に漂う白く濁った塊、それを手に乗せて持ち上げる。あんまり濃くて多いものだから分かれもせず、たぷたぷ重みを感じさせながら揺れるそれ。見せつけるようにしてそれを示す。

 湯と混じりながらも粘つく感触を失わないそれ。手の上から伝わるその感触と、どうしようもなく漂ってきて感じられる独特の饐えた匂い、それに私も興奮が収まらない。

 話に聞いていた通り良い匂いだとは思わない。積極的に感じたいとは思わないし、むしろ避けたいとすら思ってしまう。なのに何故か……無性に性を刺激される。私の中の女の部分をこれ以上ないくらい揺さぶられる。現に今、一番奥の大事な部分が疼いてしまって仕方ない。

 

「こんなに濃いのを出しておいて、まだそんなに大きいまま。……ほんと、プロデューサーさんってば変態なのね」

 

 ふふ、と微笑みながら言葉を送る。

 余裕なんて私もほとんど無いけれど。それでも余裕なふりをして、そっとまた湯の中のそれに手を添える。

 湯に洗われ続けていながら、なのにまだネトネト、と粘った感触を纏ったそれ。私のそれと同じ……精液と愛液の違いはあるけれど、溢れて止まらない液で同じように塗られたそれをもう一度手の中へ握り直して、それからそっと口を開く。

 

「我慢、できないわよね? もっともっと出さないと……今みたいなのじゃない、もっと別の、もっと気持ちいい場所で出さないと……収まらない、でしょう?」

「……奏、それは……」

「いいのよ。無理な我慢なんてしなくていいの。私も貴方にしてほしい。貴方に初めてを貰ってほしいんだもの」

 

 だから、と一旦間を置いて。

 言葉を切った間に一度キス。今度は軽く触れるだけ。ちゅう、と音を鳴らす甘いキス。

 それを交わして、それから数秒まっすぐ一途に見つめ合って……そしてそうっと、胸の奥から込み上げる想いのすべてを尽くして言葉の続きを。

 

「私は好き。貴方のことが大好きなのよ。だから来て。私を犯して。私を愛して。……愛してるわ、プロデューサーさん」


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