地獄先生と陰陽師少女 作:花札
“パーン”
薙刀と棍棒がぶつかり合う音が境内に響いた。輝三が振るう棍棒を麗華は、薙刀を使い華麗にジャンプをし避け薙刀を振り落とした。輝三は素早く避け棍棒で突き攻撃した。麗華は突かれた勢いで、後ろへと滑り飛ばされた。
「上出来だ……麗華」
「ハァ……ハァ……」
息を切らしながら、麗華は地面に座り込んだ。
「体力はもうちょっと必要か……」
「……」
「輝三、もう一回!」
「いいだろ」
「輝三!」
棍棒を構えた時、美子が電話の子機を持って輝三を呼んだ。輝三は棍棒を戻し、美子の所へと行き子機を手に取り部屋の奥へ入った。
「どうしたんだろ……」
「仕事だろ。親父の奴ああ見えて、結構仲間から頼られてるからな」
「へぇ……」
電話をする輝三の背中が、龍二には一瞬輝二に見えた。幼い頃、輝二は仕事が忙しく一緒にいられるのが限られていた。だが休みの日は、必ず一緒に遊んでくれた。
(……親父)
「ねぇ、父さんも輝三と同じ仕事してたの?」
「え?
……してたよ。ベテランの刑事で、いつもバリバリ働いてたっけ」
「フーン……」
夕方……
修行が終わった龍二達は縁側に座り、里奈が持ってきた水を飲んだ。
「ふー……生き返るぅ」
「泰明、明日から二日間、こいつ等の修行任せる」
「え?親父は?」
「急用が入って、二日間帰れなくなった。
修行は泰明に任せる。最終日には泰明、前から言ってた通り、龍二と麗華と闘って貰うからな」
「へ、ヘーイ……」
「美子、悪いが後は頼んだ」
「分かりました」
「もう行くの?」
「すぐに来いってさ」
「あらま」
「じゃあな」
「行ってらっしゃーい」
狼姿になった竈に乗り、輝三は仕事へ行った。
「わぁ、スゴォ」
竃に見取れている麗華を見ていた焔に、阿修羅は肘で体を突っついた。そんな彼に焔は頭突きを喰らわせ、狼姿になり麗華に擦り寄った。擦り寄ってきた焔に、麗華は首をかしげながら彼の頭を撫でた。
「お前もどうだ?渚」
「……いい」
頬を赤くして、渚は断った。そんな彼女の頭に龍二は手を置き、雑に撫でてやった。
「龍!」
「俺が撫でたかったんだ。いいだろう?」
「……」
顔を更に赤くして、渚は龍二に背中を向けた。
夕飯を終え風呂から上がった麗華は、縁側に座り風鈴の音を聞いていた。傍にいた焔は口を開けあくびをし、顔を麗華の膝に乗せた。顔を乗せてきた焔の顔を麗華は撫でてやった。
すると結っていた髪を引っ張られる感覚を感じ、後ろを振り向くと自分の髪を掴んだ果穂がいた。同じように、焔の尾で遊ぶ果穂の白狼がいた。助けを求めようと居間に顔を向けるが、運悪く美子は風呂に入っており、里奈は夕飯の後片付け、泰明は自信の部屋へ行き、龍二は泊まっている部屋で勉強していた。
(……ど、どうしよう)
果穂は麗華の髪から手を離し、麗華の膝に手を着き抱っこを求めた。麗華は少し考えて仕方なく、果穂を自分の膝に置き抱っこした。
嬉しいのか、果穂は手を叩き歓声を上げた。同じようにして、焔は尻尾で果穂の白狼の相手をした。白狼は嬉しそうに焔の尻尾を追い駆け遊んだ。
“パシャン”
その時、シャッターを切る音が聞こえ、その方に顔を向けるとどこからか持ってきたカメラで龍二が、麗華達を撮っていた。
「!お兄ちゃん!!」
「いいじゃねぇか?赤ん坊なんざ、そう滅多に触れられるもんじゃねぇぜ」
「いいよ……あっちで似たような奴の面倒見てたし」
「?大空の事か?」
「……」
ブスくれた顔をしながら、麗華は頷いた。龍二は彼女の隣へ座り頭を撫でてやった。
「そんな顔すんな。赤ん坊の前だぞ?」
「……うん」
「あら果穂、麗華ちゃんに抱っこして貰ってたの?」
「里奈さん」
「えっと……か、かえ」
「いいわよ、そのままで」
「……」
「お風呂どうぞ」
「ハーイ。
と言うことだから、果穂。お風呂入るわよ」
麗華の服を掴み、果穂は離れまいとした。里奈はため息を付き果穂の脇を擽り手が緩んだ隙に、彼女を抱き上げた。
「スゲェ強引」
「こうしないと、中々離してくれないのよ」
今にも泣きそうな果穂を宥めながら、里奈は風呂へと行った。二人が居なくなると、麗華は隣に座っていた龍二の膝に座った。
「あら、今度は麗華ちゃんが赤ちゃんになっちゃったわね」
美子に言われながらも、麗華は龍二の膝で彼が持っていたデジタルカメラを取り、データを一緒に見た。
データには、緋音や真二の笑顔や、龍二が通っている学校の風景や、山桜神社の境内やショウ達が写っていた。
「……」
「皆、お前が強くなって帰ってくるの楽しみに待ってるよ」
「……うん」
「明後日には俺帰るけど……受験終わったら、また来るからな」
「……うん」
カメラを下げ、麗華は龍二の服を掴んだ。掴んできた彼女の頭を龍二は撫でながら話を続けた。
「お前は強くなったよ……
帰ってきた頃は、夏風邪ばかり引いて体力無かったのに……今じゃ喘息の発作が少なくなって、風邪引かなくなったし。何より輝三とやり合えるようになったじゃねぇか」
「……」
しばらくして、龍二は転た寝仕始めた麗華を抱き、部屋へと戻った。焔は眠った果穂の白狼を美子の白狼に渡し、渚と共に龍二達の部屋へ行った。
輝三がいない二日間、麗華と龍二はより一層修行に励んだ。そして夏休み最終日……
薙刀を構える麗華と剣を握る龍二。向には斧を握った泰明がおり、二人の真ん中には煙草を口に銜えた輝三が立っていた。
「そんじゃ、前から言った通り対戦して貰う。
龍二と麗華の相手は泰明。渚と焔の相手は阿修羅だ」
「待て待て!何で二対一なんだよ!」
「お前等の力なら、普通に余裕だろ」
「あのなぁ……」
「龍二、麗華。力抜かず思いっ切りやっていいからな」
「親父ぃ!!」
「戦闘始め!!」
「オイィ!!」
輝三の掛け声と共に先に責めてきたのは、龍二だった。剣を振り下ろしたが泰明は斧でその攻撃を受け止め防いだ。龍二に気を取られている隙を狙い、後ろに回っていた麗華は薙刀を振り回し泰明に攻撃した。その攻撃を泰明は、斧で防いでいた龍二の剣から離し、素早く跳び上がり二人から離れた。
離れた場所に着地した泰明の元へ、麗華は素早く行き薙刀を振り下ろした。泰明は間一髪避け、体を麗華の方に向け斧を振り下ろした。振り下ろした斧を、麗華は薙刀で振り払い避け柄の部分で、泰明のみぞを突いた。
みぞを突かれた泰明は、胸を押さえ後ろへ引いた。
(何だよ……二人とも、めっちゃ強くなりやがってる)
泰明の元へ焔達と闘っていた阿修羅が駆け寄ってきた。
「泰明、こっちの二人も相当強くなってる」
「何か、手を抜かない方が良さそうだな」
立ち上がった泰明は、素早く二人に向かって斧を投げつけた。二人は素早く避け右に麗華、左に龍二と回り同時に武器を振り下ろした。泰明は慌てて式神を出し、龍二の剣を泰明が防ぎ、麗華の薙刀を泰明の式神・武曲が防いだ。
「式神ありかよ?!」
「あぁ、いいぜ」
「先に言え!!麗華!」
「雷光!」
武曲から離れた麗華は、雷光を出した。しかし雷光の姿は馬ではなく、黒い侍風の着物を纏い、赤い髪を耳下で一つに結った青年の姿になっていた。
「……え?
雷光?」
「アイツ、人の姿になれたのか……」
「馬の姿では闘いにくいと思いまして、それで……」
「……」
「やはり、ダメでしょうか」
「いや、全然……(黒い馬だったのに、何で髪の色赤なんだろ……)」
「麗ぃ!」
その声が聞こえ、後ろを振り向くと同時に何かが飛び乗ってきた。
「会いたかったぞ麗!」
「ひ、雛菊……苦しい」
「コラ雛菊!抱き着く前に闘え!」
「良いではないか」
「よくねぇ!!」
戯れてる中、武曲は刀を握り二人に攻撃してきた。その攻撃を、雷光が素早く刀を抜き受け止めた。その光景を見た雛菊は狐の姿へと変わり、焔と共に火を吐いた。その火を援護するかのようにして、雷光は風を起こし風は火を巻き込み炎の風の様に勢いを増し泰明達に攻撃した。
泰明は阿修羅に跳び乗り、阿修羅は泰明が乗ったのを確認すると、素早く空を飛び彼等の攻撃を避けた。
「フー……危ねぇ」
「流石泰明さん……強い。
渚、水攻撃」
「了解」
「焔!」
麗華の呼び声に、焔が駆け寄ると麗華は薙刀を握ったまま焔に跳び乗り空へ飛び、焔から飛び上がり阿修羅に乗る泰明目掛けて薙刀を振り下ろした。
阿修羅に指示を出そうとした泰明だったが、目の前には渚が放った水が迫っていた。
「げ……」
「嘘だろ……」
“パーン”
当たる寸前、輝三が間一髪麗華の攻撃を受け止めた。同時に渚の攻撃を、竃の妻が受け止め消し去った。
「……輝三?何……!!」
受け止められた麗華は勢いのまま、下へ落下した。落下していく麗華を雷光が慌てて受け止め、地面へ下ろした。
「麗殿、お怪我は?!」
「大丈夫……何とか」
龍二が駆け付けると共に、竃に乗った輝三が降り続いて阿修羅に乗った泰明も降りてきた。
「……二人の勝ちだ」
「え?」
「嘘……」
「麗華の判断力と瞬微力……そして龍二のテクニックと守備力……
そして、式神達と白狼達の使い方は上出来だ」
「……」
「龍二は、受験が終わり次第また修行を着ける。
麗華、お前は龍二が帰った後は、体力作りと筋トレそして、組み手の特訓だ。
泰明、約束通りお前は一年休学だからな」
「ハイィ……(俺の人生が)」
倒れヘタレる泰明を見て、輝三は鼻で笑った。ポカンと立っていた麗華を龍二は抱き上げ喜びを分け合った。笑っていた麗華だったが、次第に目から涙が流れ龍二に抱き着き泣き出した。
「……麗華」
「……」
「また来るし……楽しみにしてるからな。
お前が強くなるの」
「……うん……うん」
お昼過ぎ……駅へ来た輝三達。だが、そこには麗華の姿はなかった。
「お世話になりました」
「受験、頑張れよ!」
「泰明さんも、色々頑張ってくださいよ?」
「うっ……」
「里奈さん、麗華の勉強の方お願いします」
「任せといて!」
「くれぐれも無茶させるんじゃねぇぞ、輝三」
「そのつもりだ」
「……麗華の奴、来なかったんですね」
「お昼ご飯食べて、龍二君が荷造りしてる最中に、どっか行っちゃって」
お昼ご飯を食べていた頃、麗華は先に食べ終わるとどこかへ行ってしまった。
(……麗華)
その時、電車のベルが鳴り響き龍二は慌てて乗り込んだ。しばらくして汽笛の音と共に、電車は発車した。発車した電車を、麗華は離れた場所からペンダントを見ながら見送った。
「良かったのか?見送りしなくて」
「……見送ったら、また泣いちゃうから」
「そうか……」
「……」
ペンダントを握り締め、麗華は走り去っていく電車をいつまでも見送った。