地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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翌朝……


蔵に入り何かを探す輝三。物を退かしていると、陰に隠れていた二つの木箱を見つけた。


自分の武器

外で素振りが終わったのか、木刀を地面に突き龍二と麗華は息切れをしていた。泰明は縁側に座り、阿修羅と共に眠っていた。

 

 

「泰明さん、寝てて大丈夫なのか?」

 

「いつも通りだよ?お昼ご飯食べた後の修行、いつも倒れてるもん」

 

「フーン……」

 

「……あ!輝三」

 

 

木箱を抱えた輝三が歩いてきた。縁側で寝ている泰明を見た輝三は、木箱を龍二と麗華に渡し壁に立て掛けていた竹刀を手に取り、泰明の元へと向かった。

 

 

「……麗華、あっち行ってようか」

 

「?何で?」

 

「いいから。な?」

 

 

麗華を連れ、龍二は手招きする美子の元へと行き、二人に続いて焔と渚も彼女の元へと行った。

 

 

麗華が縁側から上がろうとした時だった。

竹で何かを叩くような音が聞こえ、それと共に悲鳴が聞こえた。その声の方に向こうとした麗華だったが、龍二と里奈に止められた。

 

 

「何で?」

 

「見なくていい」

 

「お父さんが呼びに来るまで、ここでしばらく休憩ね」

 

「ほら、冷たいジュースあるわよ」

 

 

里奈に渡されたジュースを手に持ちながら、麗華は龍二の膝の上に座り彼と一緒に飲んだ。

 

 

「いいなぁ、麗華ちゃん。私もお兄ちゃん欲しかったなぁ」

 

「小さい頃よく言ってたわねぇ。お兄ちゃんが欲しいだ何て」

 

「だって、本当に欲しかったんだもん!友達は皆お兄ちゃんがいるのに、何で私にはいないんだろうって」

 

「その代わり、輝二君がいたでしょ」

 

「伯父さんじゃん」

 

「アンタと十二歳も離れてたじゃない」

 

「でもぉ」

 

「子供染みたわがまま言うんじゃない!!

 

アンタ、もう一児の母親なのよ!しっかりしてちょうだい!龍二君達を見なさい!!アンタと違って、しっかりしてるじゃない」

 

 

説教をする美子。龍二は渚が持ってきてくれたヘッドホンを麗華の耳に着け音楽を聴かせた。

 

 

「相変わらずだな、ここの親子は」

 

「今になって、親父達が俺にしてたことの意味が何となく分かる」

 

 

 

「龍二!麗華!

 

木箱持って来い!」

 

 

待つこと一時間……輝三の声が聞こえた龍二は、読んでいた参考書を置き、麗華と共に木箱を持って輝三の元へと行った。

 

輝三の元へ行くと、隣には自分の頭を軽く手で叩く泰明と阿修羅が立っていた。

 

 

「クソ親父……思いっ切り叩きやがって」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ!!何でもありません!!」

 

「そうか……

 

二人共、その木箱の蓋開けろ」

 

 

輝三に言われ、龍二と麗華はそれぞれ持っていた木箱の蓋を開けた。中には一枚の紙が収められていた。

 

 

「紙?」

 

「……あ、そっか。麗華は初めてだったな。

 

 

これは武器を式にしたものだ」

 

「武器?」

 

「ちょっと待ってろ」

 

 

龍二は懐から一枚の紙を取り出し、指を噛み血を出した。血が出た指で龍二は持っている紙に触れた。

 

紙は彼の血に反応し、煙を出しその中からボロボロの剣が出てきて、龍二はそれを手に掴んだ。

 

 

「剣?」

 

「ボロボロだな、その剣」

 

「っ……」

 

「仕方ねぇ事だ。輝二が死んでからまだ低い霊力で、強力な妖共と闘ってたんだ。剣だってボロボロになる」

 

「……」

 

「龍二には生前、俺等のお袋が使っていた剣を。麗華には親父が使っていた薙刀をやる」

 

「え……でも」

 

「その剣はいつか折れる。手放したくない気持ちは分かるが、戦闘中もし折れたりしたら、やられる」

 

「……」

 

「つーわけで、武器出せ。泰明、お前もだ」

 

「ヘーイ」

 

「私、出したこと……無い」

 

「龍二がさっきやった通りにやればいい。手に霊力を集めて、溜まった状態で指を噛んで血を出し、出た血を字が書いている面に着ける。

 

そしたら、そこから煙が出て来て中から薙刀が出る」

 

「……」

 

「泰明、見本で見せてやれ」

 

「ウーっす」

 

 

ポケットから一枚の紙を取り出し、龍二同様に指を噛み血を出しその指で泰明は持っている紙に触れた。紙は煙を出しその中から斧が出てきた。

 

 

「斧?」

 

「山男の象徴!」

「さっきみたいな感じだ。出してみろ」

 

「親父!!」

 

「龍二、少し麗華を見ててやれ。俺はこの馬鹿息子の相手をしなきゃいけなくなったんでな」

 

 

泰明と同じように紙から棍棒を取り出し、殺気立つオーラを纏いながら、輝三は泰明に攻撃した。悲鳴が響く中、龍二は麗華に指導した。

 

 

烏が鳴き、陽が沈み始めた頃。

 

輝三と闘っていた泰明は、バテつき地面に倒れていた。その隣に竃にやられたのか、阿修羅も一緒に倒れていた。

 

 

「ったく……ちょっと本気出すと、すぐバテやがって。

 

龍二、そっちはどうだ?」

 

 

地面に座り込む麗華の背中を擦っていた龍二は、輝三の方に顔を向けた。座り込んでいた麗華の指には、噛み跡があり血が固まっている箇所もあれば、血が流れている箇所があった。

 

 

「その様子だと、上手くいかなかったみてぇだな?」

 

「霊気を溜めるところまではいいんだけど、そこからがちょっと……」

 

「指を噛むと痛みで気が引いちまって、溜めた霊気が放出しちまうからな」

 

「……」

 

「今日の所は休んで、明日また」

「嫌だ」

 

 

息を切らして麗華はふらつきながら立ち上がった。

 

 

「出るまでやる」

 

「麗華……」

 

「お兄ちゃん、いいでしょ?」

 

「俺はいいけど……」

 

 

困った表情を浮かべながら龍二は、輝三の方を見た。彼は煙草に火を点け、煙を出ししばらく考え込んだ。

 

 

「輝三、いいでしょ?

 

体なら、全然平気だから……」

 

「……」

 

「輝三」

 

「龍二、見ててやれ。

 

無茶はすんじゃねぇぞ」

 

 

口に煙草を銜えながら、輝三は家の中へと入った。地面に倒れていた泰明と阿修羅を、竃と彼の妻らしき青い袴を着た女性が引き摺り家の中へと入れた。

 

 

麗華は指を噛み、血を出し霊気を溜めながら噛みに着けようとするが、指の痛みのせいか溜めた霊気がすぐになくなってしまう。

 

 

何度も同じ行為をやったせいで、麗華の指は噛み跡と血塗れになっていた。もう一度、指を噛もうとした時、龍二が慌ててその行為を止めた。

 

 

「もう止せ。また明日」

 

「……」

 

「二人共、今日はその辺にして」

 

「でもぉ……」

 

「止めとけ。修行はもう終わりだ。

 

里奈、麗華を風呂に入れてやれ。

龍二、話がある。ちょっと来い」

 

 

輝三に言われた里奈は、果穂を美子に渡し麗華の手を引き風呂へと向かった。

輝三に呼ばれた龍二は、自分の部屋へと連れて行った。

 

 

「話って?」

 

「麗華の事だが、少し無茶し過ぎだな……」

 

「……」

 

「武器出せればいいが、その後だな……

 

前に見せたな?技を」

 

「神の力を借りて、技を出すってやつだろ?憶えてる」

 

「その技を使うには、相当な体力を消費する。今の状態でやってると……いつか体にガタが来る」

 

「……じゃあ、修行は」

 

「武器出したら、逆戻りして体力作りだ。

 

 

お前がいる間は、お前と同じ容量でやる」

 

「……」

 

 

話が終わり龍二は、部屋へと戻った。

 

 

「麗、辞めた方が」

 

「うるさい!

 

出来るまでやる」

 

 

風呂から上がった麗華は、龍二が風呂へ入ったのを見計らって、焔と森へと行き箱に入っていた紙を持ち、夕方やったことを繰り返した。

 

 

「麗、手から血が」

 

「大丈夫……まだいける」

 

 

霊気を手に溜め、指を噛み血のついた指で紙に触れた。その時、紙が反応したかのようにして煙を出し、中から薙刀が出て来た。

 

 

「……」

 

「で、出た」

 

「……やった」

 

 

その言葉を呟くと、麗華は気が抜けたかのようにその場に倒れた。倒れた彼女を焔は持ち上げ、輝三の家へと帰った。

 

 

部屋で眠る麗華。龍二はため息を付きながらも彼女が出した薙刀を見ながら、鼻で笑い麗華の頭を撫でた。

 

 

「全く、大した奴だよ……」

 

「丙か雛菊に、傷治させねぇのか?」

 

「いいよ……明日は寝かしとく。

 

今日使った霊気で、多分明日は一日中起きないだろ」

 

「……」

 

「もう寝るぞ」

 

 

そう言うと龍二は、電気を消し布団に入り眠りに入った。焔は先に眠っていた渚に寄り添う様にして隣に横になり眠りに入った。




「!!」


悪夢に魘され、大量の汗をかき麗華は飛び起きた。息を切らし痛む指を押さえながら、麗華は隣で寝ている龍二の布団に潜り込んだ。潜り込んできた彼女に気付いた龍二は、寝返りをして麗華の方に体を向けた。すると麗華は向いた彼に震えながらしがみついた。

しがみついてきた彼女の頭を撫でいると、安心したのか麗華は目を閉じ眠った。龍二は眠った彼女の寝顔を眺めながら、包帯を巻いた手に自分の手を置き眠りに入った。

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