地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「焔と雷光と一緒に、強くなる」
その答えを出した二日後、麗華は輝三と共に彼の住んでいる町へと向かった。
電車に乗り、窓から外を眺める麗華。輝三は新聞を読みながら外を眺めている彼女を気にしていた。
「……ねぇ輝三」
「?」
「何で輝三は、山桜神社を継がず他の所に行ったの?」
「……」
「輝一伯父さんの話じゃ、普通は長男が継ぐんでしょ?なのに……」
「輝二にあそこを離れさせたくなかったからだ」
「父さんに?」
「あぁ。
あそこに来る妖怪共は、皆輝二に会いたくて来ていた。今じゃお前目当てだがな」
「……」
「輝二の奴、お前くらいの頃は俺によく聞いたもんさ。
『何で兄さんが、継がないんだ』って」
「その時は、何て答えたの?私と同じ答え?」
「……いや。
妖怪共が、輝二を連れて行こうとしたら、頑として渡そうとしなかったんだ……だから輝二をあそこに残したんだ。
妖怪達のそんな姿見て、輝二も何で俺が継がなかったが、理解したみてぇだったし」
「……」
しばらくして、目的地の場所へ着いた二人は、電車を降り駅を出た。駅長と何かを話していた輝三の傍から離れた麗華は、狼姿になり着いてきていた焔に駆け寄り顔を撫でた。その近くに竃は降り立ち人の姿へなり、輝三の近くへ行った。
焔を撫でていた麗華は、ふと手を止め駅へ来た家族を見た。自分と同じくらいの女の子が父の手を引き、その後ろから弟を抱っこした母親が歩いていた。その光景が一瞬、自分達家族に重なって見えた。
父・輝二の手を引く自分と母・優華と一緒にくる龍二……
「麗華」
「!」
「待たせたな。行くぞ」
先を歩く輝三の後を、麗華は慌てて追い駆けていき、焔は空を飛んでいる竃の元へと行った。
道を歩く二人……
「何も無いね」
「それがいいんだよ。
自然豊富でいいじゃねぇか」
「島よりはマシか」
「……」
「ねぇ、輝三の家ってどこなの?」
「この道をまっすぐ進んで、山を少し登ったところにある」
「ふーん」
すると、前の方から自分と同じくらいの女の子達が話ながら歩いてくるのが見えた。女の子達は楽しそうにお喋りをしていたが、自分と目が合った途端ヒソヒソと何かを話をしながら遠離っていた。
「この辺りのガキは皆、ああいう感じだ。
小さい町だから、世間が狭いんだよ」
「町って……見た感じ村だけど」
「一応町だ。
俺の家に向かっているから、この辺りは森や田んぼしかねぇけど、駅でバス停あっただろ?あれに三十分乗れば、町に着く」
「へぇ」
真夏の暑い日差しが照らす道……ようやく山の麓につき、山を登った先に、鳥居が見えた。輝三と共にその鳥居を潜ると立派な本殿があり、その隣に二階建ての家があった。
「淒ぉ……」
「おーい!美子!帰ったぞ!
泰明!里奈、いるか!」
大声を発しながら、輝三は家の縁側から家の中を見た。
遅れて竃と焔は神社へと降りてきた。すると竃の元へと一匹の白狼が駆け寄ってきた。
「あれ?親父、帰ってたのか?」
山へ行ってたのか、工事現場の人のような格好をした男が、茸類が入った籠を持って山から下りてきた。麗華は焔の後ろへ隠れ覗き込むようにして彼を見た。
「泰明、里奈達はどうした」
「姉貴達なら、買い物行ってるけど……」
「そうか……」
「……親父、そのガキは?」
「輝二んとこのガキだ」
「え?輝二叔父さんの子供って確か、龍二君じゃ」
「妹だ。八年前に生まれた……って、輝二の葬儀の時に話しただろ」
「あぁ、すっかり忘れた」
「お前なぁ……」
「じゃあ、そこにいる白狼も迦楼羅のガキって事か?」
「そうだ」
「へぇ……よくもまぁ、こんな所に来たなぁ」
「しばらく預かることになった」
「ヘイヘーイ」
「荷物、部屋に入れるから手伝え」
「ウーっす」
首に巻いていたタオルで顔を拭きながら、泰明は輝三と共に持ってきていた荷物を部屋へと運んだ。麗華は人の姿になった焔の後ろに隠れながら、彼等の様子を伺っていた。
「お前、何に警戒してるんだ?」
焔の元へ、羽織を肩に羽織り頭に鉢巻をした男がいたずら笑みを浮かべながら、話し掛けてきた。
「……」
「へぇ、確かに迦楼羅さんの子供だな。目がよく似てる」
「その口、焼き落とすぞ」
「ふう!おっかねぇ!」
「……」
「お前の主は、貞子か?長ぇ髪下ろして、下向いて……
貞子の役出来るんじゃねぇか?」
「テメェ!!」
その時、焔の後ろに隠れていた麗華は、彼から離れ森の中へと逃げていった。
「麗!!」
彼女の後を慌てて焔は追い駆けていき、二人の背中を見ながら男は首をかしげた。すると竃は、男の頭を思いっ切り叩いた。
「痛って!!何すんだよ!!親父!!」
「何を挑発してるんだ!」
「してねぇよ!軽く挨拶した」
「あれのどこが挨拶だ!
焔はともかく、アイツの主は人から酷いいじめを受けて、心も体もズタズタなんだ」
「……」
森を駆けていく麗華は、どこかの川原へ出てきた。辺りを見回すと、そこに子供達が川で楽しそうに遊んでいた。
「……?」
ふと川の方を見ると、底の方に黒い影が見えた。
「……!
川から上がって!!早く!!」
麗華の怒鳴り声に、川で遊んでいた子達は何を言っているのか理解できなかったが、川に浸かっていた男の子が突然川の中へと引きずり込まれていった。
「健太!!」
「川から離れて!!早く!!」
麗華の言葉を理解した子達は、すぐに川から上がった。麗華は川へと飛び込み中で健太の脚に絡みついている悪霊の元へと泳ぎ、悪霊の手を取り健太の手を引き川へ上がった。上がると健太を川から離れさせ、札を取り出した。
「雷光!!風攻撃!」
煙から出て来た雷光は、風を起こし川から飛び出てきた悪霊を攻撃した。麗華は傍に落ちていた棒切れを手に取り、跳び上がり悪霊を退治した。
息を切らしながら、麗華は棒切れを捨て雷光を戻し森の中へと入っていった。健太を囲んでいた子達の内一人は立ち上がり、彼女の背中を見た。
「淒ぉい……誰だろ、あの子」
「輝三さんの親戚の人じゃないかな?
だって、あの馬って式神でしょ?だったら」
森を歩いていた麗華の元へ、狼姿の焔が降りてきた。すると麗華は焔の胴に顔を埋めた。濡れている彼女を見た焔は雷光の方を見て、雷光は彼に全てを説明した。
服が乾いた麗華は、雷光を戻し森を抜けた。境内に目を向けると、買い物袋を持った女性と乳母車から赤ん坊を抱える女性がいた。
「?誰だろ」
すると、赤ん坊を抱えた女性が麗華の元へと駆け寄ってきた。
「お父さーん!この子が、あの時の赤ちゃん?」
「あぁ!」
「へぇ、大きくなったわねぇ!」
「……えっと」
「あ!そっか……里奈よ!初めまして」
「……」
「それでこの子は私の子、果穂よ」
「……」
「それくらいにしとけ!早く家に入って母さんの手伝いしろ」
「ハーイ」
輝三に言われ、里奈は母親の元へと行った。
「昼食ったら、早速始めるぞ」
「……うん」
お昼ご飯を食べる輝三達。麗華は食べ終わり、縁側に座り風に揺られ響く風鈴の音を、焔と聞いていた。すると里奈の隣にいた果穂が、ハイハイをして麗華の隣へ来るなり、膝に手を着き顔を上げ抱っこを求めた。
「……(どうすれば……いいの?)」
「里奈、何とかしろ」
「お父さんが助ければ。初孫未だに抱いてないんだから」
「……」
「ほら果穂ちゃん、お祖母ちゃんの所に着なさい」
美子は果穂を抱き上げ、麗華の隣へ座った。美子に抱かれた果穂は、手を伸ばし麗華に近付こうとしていた。
「麗華ちゃんに抱っこして貰いたいのよ」
「え?」
「抱っこしてみる?」
果穂をしばらく見ていると、美子は果穂を麗華に差し出した。麗華は美子を見ながらおそるおそる抱っこした。果穂は嬉しいのか、キャッキャと言いながら麗華の長い髪を引っ張った。
「い、痛い!コラ、離せ!」
「果穂!お母さん、手伝って!」
慌てて里奈は、果穂の所へ行き手を離そうとした。彼女に続いて美子も反対の手を離そうとした。離した途端果穂は泣き出し、里奈に抱っこされそのまま別の部屋へ行ってしまった。
「大丈夫よ、麗華ちゃん」
「?」
「赤ちゃんって、ああいう生き物だから全然平気よ」
「……」
「麗華、着替えろ。そろそろ始めるぞ。
泰明、お前も一緒にやるぞ」
「はぁ?!何で!!」
「その弛んだ根性を叩き直してやっから、早く着替えて出ろ」
「何だよ!それ」
「とっとと出ろ!」
輝三は木刀を持って、表へと出た。麗華は用意された部屋へ行き持ってきていた服に着替えた。
「ったく、何で俺まで……」
「俺が仕事行ってる間、お前にアイツの修行見てて欲しいんだ」
「はぁ?!」
「お盆休みは何とか休み取れたが、ずっと付きっ切りは無理だ。それにお盆になれば、龍二も来る」
「待て待て!龍二君は確か、今年受験生じゃ」
「いいんだよ。あいつが行きてぇって言ってんだから。
それにそれを条件で、麗華の奴こっちに来たんだから」
「……」
煙草に火を点けながら、輝三はそう言った。泰明は困ったような表情を浮かべて頭をかき、隣にいる自分の白狼を見た。