地獄先生と陰陽師少女 作:花札
夏休みという事もあり、彼女は一日中龍二と一緒に過ごしていた。
誘い
龍二の脚に頭を乗せ昼寝をする麗華。龍二は彼女の頭を撫でながら、受験勉強をしていた。
その時、玄関の戸が開く音が聞こえた。寝ていた麗華は音に反応するかのようにして起き上がり、自分の部屋へと逃げ込んだ。
「麗華!」
部屋へ行った麗華にため息を付きながら、龍二は玄関へ行った。玄関へ行くと、そこには見覚えのある背中だった。
「……輝三?」
「久し振りだな、龍二」
「……」
「?おい、麗華の奴どうした」
「!……へ、部屋に逃げ込んじまって」
「……」
「輝三だって事、教えてくるから居間で待っててくれ」
龍二は廊下を走っていき、部屋へと向かった。居間に行くと、置かれていた机の上には教科書と参考書が広げられその中に、字で埋め尽くされたノートが置かれていた。
「そっか……龍二の奴、もう受験生か」
そこへ、麗華を連れてやって来た龍二。麗華は彼の後ろに隠れ、ずっと服の裾を握っていた。
「ほら、輝三だろ?大丈夫だって」
「……」
麗華は顔を上げ輝三を見た。だが彼と目が合った途端目を反らし、龍二に抱き着き怯えだした。
「……島から帰ってきてから、その状態か?」
「あぁ。緋音や真二が来てもこの状態で……それに片時も俺から離れないし」
「……」
ふと思い出す幼い麗華の記憶。時々しか行けなかったが、自分が来ると一目散に駆け寄り飛び付いてきた。
麗華は焔と縁側に座り、居間にいる二人の話を聞いた。
「そういや、今日は何で来たんだ?」
「お前等二人に少しばかし、話が合ってきたんだ」
「話?」
「二人に、修行を就ける。無論俺の元で」
「?!」
「輝二と優華が死んだ今、お前等二人は自分で自分の身を守らなきゃいけねぇ……家の家系には、代々親が子供に一族伝統の技を教える事になっている……優華の話じゃ、お前等二人は一応式神は教わったみてぇだし」
「まぁ、そうだけど」
「という事は、お前等はまだ技を教わってねぇって事だな」
「技って……」
「外に出ろ」
立ち上がり、輝三は外へ出た。それに続いて龍二と麗華も、一緒に外へ出た。
外に出た輝三は、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「大地の神告ぐ……汝の力、我に受け渡せ!」
その言葉に反応するかのように、紙が青く輝きだした。輝きだしたと同時に持っている紙から、水が溢れ出てきた。
「水?」
「これは大地に司っている、神々から力を借りて出している」
「神?」
「これを使えるようになれば、例え式神や焔達が動けなくなったり、自分達が人質に取られたとしても、反撃可能だ」
「……」
「龍二は受験が終わってからでいい。
麗華、お前は今からでも俺の元へ来て修行を開始させたい。
龍二は、部活や体育で体力もあるし筋力もあるから、後からでも技はすぐに会得できる。だが麗華は、その生まれ持った弱い体と喘息のせいで、まともに体を動かしてもないし筋トレもしてねぇから、技を会得するまでにはかなりの時間が掛かる」
「どれくらい掛かるんだ?」
「少なくとも一年は掛かる。どうせ麗華は、新学期が始まってもまともに行けねぇだろ?学校」
「……」
「……嫌だ」
小さい声でそう発しながら、麗華は龍二の後ろに隠れた。
「麗華……」
「どうせ……どうせまた……余所者扱いして、私を……化け物扱いして……」
「……」
震えた声で麗華は言った。輝三は麗華の傍へ行き彼女の前に座り込み話し出した。
「余所者扱いも化け物扱いもしない……俺の家だ。美子や里奈、泰明がいる」
「え?二人とも、帰って来てんのか?」
「夏休みだからな。里帰りだ。
里奈はガキ連れて着てるし」
「……」
「どうだ?」
「……嫌だ」
「麗華……」
龍二から離れ、麗華は家の中へと入り部屋へと逃げ込んだ。
「……輝三、ごめん」
「相当嫌な思いをして、島で暮らしてたのか……」
「島に住む龍実の話じゃ、一緒に暮らしてた祖母や島の人達やクラスメイトから、酷いいじめを受けてたらしくて……それで、堪忍袋の緒が切れてクラスメイト全員に怪我負わせたんです。全治一ヶ月の」
「全治一ヶ月!?アイツのどこにそんな力が?!」
「お、俺だって分かんねぇよ!焔が言うにはそうみてぇだし……」
「……」
自分の部屋で、ベッドに座り込み頭から布団を被り膝を抱える麗華。蘇る記憶は全て島で起きた出来事……何もやっていないのに、犯人扱いをされその上化け物扱いされた、辛い思い。
(嫌だ……あんな思いするのは、もう嫌だ)
その時、部屋の戸が開き外から龍二が入ってきた。龍二は戸を静かに閉め、ベッドの上で膝を抱え怯えている麗華の隣に座り抱き寄せ、頭を撫でながら優しく話した。
「麗華……大事な話だから、ちゃんと聞いてくれ」
「……」
「この先、どうなるかは分からない……この童守町には、お前も知っての通り、妖怪が集まりやすい場所だ。もしもの時、俺が学校の行事で家に帰れない日だってある」
「その時は、焔や丙、それに青や白が」
「焔達だけじゃ、対処しきれない妖怪もいる。そん時、もしお前が人質に取られれば、尚更だ。
麗華」
「……」
「今回、預けるのはお前を強くさせたいからだ。今のままじゃ、いつか妖怪にその隙だらけの心を乗っ取られる時がくる。妖怪は人の弱い心を着いてくる」
「……けど」
「お盆に入ったら、俺もそっちに行く……それに受験が終わったら、新学期が始まるまでの間、ずっといる。
輝三がそれでも良いって言ってくれた」
「……」
「強くなるのは、お前だけじゃない」
「?」
「焔も渚も強くなる。それにお前が島で式にしてきた雷光や俺の雛菊だって……
今が強くなる時期なんだ……」
「……
明日まで待ってて……答え出すから」
「あぁ」
夜……
部屋から出て、森の湧き水近くで麗華は狼姿の焔に凭り掛かり、傍で座る馬姿の雷光の顔を撫でながら、昼間の答えをどう出すか迷っていた。
『今回、預けるのはお前を強くさせたいからだ』
「……焔」
「?」
「焔は、どうやって強くなったの?」
「……そうだなぁ。
守りたいものがあったから……かな」
「守りたいもの?」
「人も妖怪も動物も、全員誰かを守りたい気持ちがあれば、そのために強くなりたいって思うモンさ」
「……」
「某も昔はそうでした。
島に住む者達を守りたく、日々修行していました……しかし、それは無駄に終わりましたが」
「……無駄じゃないよ。
今は私がいるじゃん」
「……そうですね」
「で、どうすんだ?麗……今回は」
「……このままじゃいけないことは、自分でもよく分かってる。
けど、やっぱり怖い。余所行って、また化け物扱いされるのが……」
「……麗殿」
怯えたようにして震え、麗華は焔に抱き着き顔を埋めた。
そんな彼女に、雷光は顔を擦り寄せた。
「麗殿、今回は焔だけでなく某も着いています……
大丈夫です」
「……雷光」
「俺も今回は大丈夫だと思う。
輝三と竃がいるから、何かあればすぐ二人に話せばいいし」
ふと思い出す輝三の姿。
幼い頃、父親が居なかった自分は輝三が父親のように思えた。そしてそれは焔も同じだった。輝三の白狼・竃は焔にとって麗華同様に父親のように思えた。
顔を上げた麗華は、擦り寄せていた雷光の顔を撫でた。
「……焔、雷光」
「俺はずっとお前と一緒だ。死ぬまで」
「某もです。麗殿」
二匹の顔を撫でながら、麗華は立ち上がりそして意を決意したかのような表情を浮かべた。