地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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これは、まだ優華が生きていた頃の話……


出会い

境内で焔と一緒に、ボール遊びをする麗華……

母・優華は仕事で龍二は学校で、家には誰もいなく幼い麗華は、丙と焔と一緒に留守番をしていた。

 

元々は保育園へ通う予定だったが、発作を起こしてしまいそれが傷となり保育園を辞めた。それからは、丙と焔、森に住む青と白や動物が、幼い麗華の遊び相手であった。

 

 

焔が投げたボールを取ろうとした麗華だが、手が滑りボールは麗華の手元から離れ、鳥居を抜け階段の下へと転がっていった。

 

 

「取ってくる!」

 

「麗!

 

丙!ちょっと境内の外出る!」

 

 

狼の姿になり、階段を降りて行く麗華の後を追い駆けた。追い駆けていた麗華は、急に足を止め何かを見ていた。焔は人の姿へと変わり、彼女が見ている方を見た。

 

落ちてきたボールを、手にする若い頃の輝三……輝三の後ろには、山男のような格好をした竈が立っていた。

 

 

「何か用か?」

 

「な~に、様子見に来ただけだ」

 

「様子?誰のだ」

 

「お前等二人のだ」

 

「……」

 

 

近付く輝三……焔は狼の姿になり、唸り声を上げながら攻撃態勢を取った。それを見た竈も同じく狼の姿になり、焔を睨んだ。

 

 

「止せ竈……

 

無理もない。俺等が最後に会ったのは、こいつ等がまだ生まれて間もない頃だ」

 

 

竈は人の姿へと変わり、ため息を吐き先行く輝三の後をついて行った。麗華の隣に立つと輝三は手に持っていたボールを、彼女に渡した。渡されたボールと輝三を交互に見ながら、キョトンとしていた。

 

 

階段を登り境内へ入った輝三に気付いた丙は、縁側へと出て来た。

 

 

「輝三!

 

久しぶりじゃないか!」

 

 

丙は嬉しそうな声を出しながら、縁側に腰を下ろした。輝三は丙の隣へと腰を下ろした。警戒するようにして、焔は狼姿のまま輝三と竈を見た。麗華はボールを地面に置き、輝三の近くにいる竈をチラチラと見ていた。

 

 

「相変わらず元気そうだな、丙」

 

「どうしたんだ?こんな時間に。

 

優も龍も、出かけておるぞ」

 

「帰ってくるまで、待たせて貰う。

 

しっかし驚いたぜ。あの赤ん坊がこんなデカくなっているとは、思わなかったぜ」

 

「お主がここへ来たのは、麗と焔がまだ赤ん坊の時だぞ?

 

三年も経てば、大きくなるもんさ」

 

「そりゃそうだな」

 

 

その時、茂みの中から黒猫が姿を現し、そして人の姿へと変わった。

 

 

「ショウ!」

 

 

ショウの姿を見た麗華は、嬉しそうな声で彼に飛び付いた。

 

 

「あれ?オメェ確か、龍輝(リュウキ)のガキの」

 

「輝三だ。お前も相変わらずだな」

 

「おかげさまでな」

 

「ショウ、こいつ等誰?」

 

「輝の旦那の兄貴だよ」

 

「父さんのお兄ちゃん?」

 

 

不思議そうに麗華は、輝三を見た。すると麗華は、ショウから離れ、地面に転がっていたボールを手にし輝三に投げ渡した。投げてきたボールを、輝三は瞬時受け止め彼女を見た。麗華は素早くショウの後ろへと隠れ、覗くように彼の様子を伺った。

 

 

「珍しいね。麗がアンタみたいな見知らぬ奴に懐くなんて」

 

「懐いてんのかよ……これで」

 

「普段なら、お前みたいな野郎が来たら、すぐ隠れるか一言も喋らねぇよ」

 

「ガキの頃の輝二とそっくりだな」

 

 

ボールを持ち、口に銜えていた煙草の火を消し、輝三は立ち上がった。ショウの後ろに隠れていた麗華は、近付いてくる輝三を見上げていると、彼は麗華に向かってボールを軽く投げた。ボールを受け止めた麗華は、境内へ出る輝三の後を嬉しそうに追い掛けていった。

彼女の姿を見た丙達は、少々驚くも少し安心したような顔で眺めた。

 

 

しばらくして、学校へ行っていた龍二が帰ってきた。

 

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

「ただいま麗華……って、輝三?!」

 

「よう龍二、デカくなったな」

 

「どうしたんだよ?!

 

つか、よく麗華に懐かれたな」

 

「父さんのお兄ちゃんでしょ?だから麗華の父さん!」

 

「全然違ぇぞ、麗華」

 

「違うの?」

 

「いいじゃねぇか。そう思うならそれで。

 

時期に分かる時がくる」

 

「いやそうだけど……」

 

「お兄ちゃんも遊ぼ!」

 

「そうだな……

 

よし、森行くか!」

 

「うん!」

 

「輝三も一緒に行こうぜ!

 

母さんどうせ、夕方か夜までは帰ってこないから」

 

「久しぶりに、森探検するか」

 

「決まりだ!麗華、行くぞ!」

 

 

鞄を縁側へ投げ捨てると、龍二は森の方へと行った。彼等の後を焔達は追い駆けて行き、丙は縁側に腰掛けながら見送った。

 

森を歩く龍二達……麗華は焔とショウと一緒に、二人の前を歩いていた。

 

 

「じゃあ、しばらくいるんだ」

 

「あぁ。久しぶりに休暇が取れてな……妻は学生時代の友人達と旅行に行っちまってるし、ガキ二人は家出てるし……」

 

「そんで、何も用もないから俺達の所に来たって訳か」

 

「そういう事だ」

 

 

「お兄ちゃん!青と白が来た!」

 

 

その声に前方を見ると、そこには青と白がいた。

 

 

「ようお前等、元気だったか」

 

「お前、龍輝の」

 

「輝三だ」

 

「お兄ちゃん、ショウも言ってたけど……

 

龍輝って、誰?」

 

「さぁ……俺も訊いた事ねぇな。

 

輝三、龍輝って誰だ?」

 

「俺等の親父で、お前等の爺だ」

 

「へぇ……初めて聞いた。そんな話」

 

「何だ、優華の奴から訊いてねぇのか?」

 

「祖父ちゃんや祖母ちゃんの事、何も聞かされてねぇもん……なぁ麗華」

 

「うん」

 

「優華の奴、相変わらずだな」

 

「お兄ちゃん、お花見に行きたい」

 

「分かった。青、先に麗華を連れてってくれ」

 

「分かった……」

 

 

青に抱かれ、麗華は焔とショウと共に森の奥へと行った。龍二と輝三は白に連れられ、ゆっくりと青達が向かった場所へと行った。

 

 

奥へと着くと、目の前には大きな藤の木が生えていた。その木を麗華は見上げていた。

 

 

「デッカーい」

 

「おぉ、まだあったのか。この木」

 

「え?いつ頃からあるんだ?この木」

 

「俺が物心ついた頃には、もうあったぜ。

 

親父がガキの頃にもあったって言ってたな」

 

「そんな昔から?!」

 

「登る!」

 

 

そう言うと、麗華は木の枝を使い登ろうと足を掛けた。その瞬間、輝三に持ち上げられその行為を阻止された。

 

 

「危ねぇから止めろ。怪我したら洒落になんねぇぞ」

 

「え~……登りたい!」

 

「駄目だ!母さんに怒られるぞ」

 

「ほら、龍二もこう言ってんだ。もう少しデカくなってからな」

 

「ブ~」

 

「膨れるなって!」

 

「だって、何でもかんでもダメダメ言うんだもん!」

 

「当たり前だ!まだ小せぇんだから」

 

「いじわる!」

 

 

輝三の腕から降りた麗華は、青達と共にどこかへ行ってしまった。

 

 

「麗華!

 

ったく……」

 

「元気だなぁ……」

 

「外見だけだよ……

 

体弱いし、喘息持ちだ」

 

「?」

 

「それで保育園、行けなくなったんだから」

 

 

夕方……

 

森から戻ってきた輝三達……一緒にいたショウは猫の姿へとなり彼等と歩いていた。ふと家の方を見ると母・優華と弥都波が買い物袋を持って帰ってきた。

 

 

「あ!母さんだ!母さーん!!」

 

 

走り出す麗華……彼女の後を龍二と焔は追い駆けた。すると石にでも躓いたのか、走っていた麗華は滑り転んだ。

 

 

「麗華!」

「麗!」

 

 

転んだ麗華の元へと追い着いた龍二と焔は、転んだ彼女を慌てて起こした。それと共に、優華達が駆け付けた。

 

 

「大丈夫か?!」

 

「走るからよ、もう!」

 

「どっか痛い所あるか?」

 

 

麗華の服の土を払いながら、龍二は質問した。すると麗華の頬から血が出て来た。

 

 

「血が出てるぞ!」

 

「さっきので切ったのね……全く。

 

ほら、早く家に入りましょ。龍二、麗華を連れて先に中に入ってて」

 

「分かった。麗華行くぞ」

 

「うん」

 

 

龍二に手を引かれ、麗華達は先を歩いて行った。二人の背中を眺めながら、優華は隣にいる輝三に話し掛けた。

 

 

「何しに来たんです?義兄さん」

 

「焔と麗華の様子見だ。休暇が取れてな」

 

「そういう休暇は、普通家族に使うもんじゃないんですか?弟の家族なんかのために使って……美子姉さん、悲しみますよ」

 

「美子は学生時代の友人達と旅行に行ってる。ガキ二人はもう大学生で一人暮らしだし……家にいてもつまんねぇから、こっちで焔と麗華の様子でも見ようかと思って」

 

「それで来た……

 

それにしても、よく麗華に懐かれたわね」

 

「丙も言ってたが、そんなに人見知りなのか」

 

「そうねぇ……」

「母さーん!!輝三!!早くぅ!!」

 

 

玄関前で、大声を出す麗華……優華は話の続きは中でと言いながら、輝三と一緒に家へと向かった。

 

 

陽が沈み、辺りが暗くなり虫の音が響きだした夜……

 

夕飯を終えた龍二と麗華は、縁側でシャボン玉を吹きそのシャボン玉を、輝三は酒を飲みながら眺めていた。

夕飯の後片付けを終えた優華は、居間でリンゴの皮を剥いていた。

 

 

「静かだな……」

 

「いつもこうだぜ。

 

普段ならこの時間帯に母さん、仕事でいないし」

 

「じゃあ夕飯はいつもどうしてんだ?」

 

「俺が作ってる」

 

「お兄ちゃんのご飯、美味しいよ!」

 

「優華、お前」

 

「大丈夫。龍二、私に似てしっかりしてるし、何かあれば丙と渚が助けてくれるし」

 

「あのなぁ」

 

「リンゴ剥けたわよ」

 

 

リンゴが盛った皿を、優華は縁側へと持って行った。シャボン玉の用器を置き、龍二と麗華はリンゴを手に取り食べた。麗華は手に取ったリンゴを持ったまま、輝三の膝に座った。

 

 

「すっかり懐かれましたね」

 

「怖ぇ顔なのに」

 

「ほっとけ」

 

 

しばらくして、龍二は自分の部屋へと行き、麗華は輝三の膝の上で眠っていた。

 

 

「寝ちまったよ……」

 

「本当に懐かれましたね。

 

私と龍二以外の人には、滅多に懐かないのに……」

 

「ガキの頃の輝二にそっくりだ。

 

あいつも、ガキの頃は見知らぬ奴が来ると懐こうともしなかった」

 

「フフ……輝二らしい」

 

 

笑う優華……輝三は酒をお猪口に注ぎながら話した。

 

 

「優華、一つ訊いていいか?」

 

「何です?」

 

「……何で麗華を、保育園に行かせないんだ?」

 

「……」

 

「こいつの歳なら、もう通えるはずだ。

 

何か、理由でもあるのか?行かせられない」

 

「……行かせましたよ。

 

けど、駄目だったんです」

 

「?」

 

「この子を預けたんです……けどその日、突然発作を起こして病院に送られたんです……

 

運ばれたあの子は、胸を押さえて苦しそうに息をして……その上、生まれ持ってた喘息が出てそれで咽を切って、血を出して……

 

 

幸い、命に別状はなかったんですが……一ヶ月近く入院することになって……」

 

「それでか……」

 

「えぇ……ついこないだ、退院したばかりなんですよ……

 

元気な姿見てると、ホッとして」

 

「ガキは元気が一番だからな」

 

「義兄さんがしばらくいてくれるなら、当分の間は麗華と龍二の面倒頼もうかしら」

 

「おいおい、俺は世話係で来たんじゃ」

 

「いいじゃないですか。そんなに懐かれてるんですから、大丈夫ですよ」




皆が寝静まった夜中……電話が鳴った。鳴った電話に出た優華は、着替えながら受け答えし電話を切ると、起きてきた龍二に後のことをお願いし、優華は弥都波と共に家を出て行った。
目が覚めた輝三は、優華が出て行った同時に起き、玄関へと行きあくびをする龍二に話し掛けた。


「優華の奴、仕事か?」

「病院から呼び出しがあって……多分夕方までまた帰ってこないよ……ファ~」

「大変だなぁ……(体壊さなきゃいいが)」


あくびをしながら、龍二は自分の部屋へと行き、輝三も自身が泊まっている部屋へと戻り眠りに着いた。

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