地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「うひょー!大炎上」
「これで良かったかもしれないな。
あいつの研究資料は全て、塵となり風に乗って消える……その方が、危険な妖怪をこの世に喚ばなくて済む。」
「そうだな……」
焼けるKの家を背に焔は先へ行き、その後を渚がついて行った。
後ろをついていた渚が、突如スピードを上げ焔を追い越していった。彼女に乗っていた真二は歓声を上げながら楽しんでいた。
「ヤッホー!!早い早ーい!」
「真二ぃ!!す、すす、スピードを落とせぇ!!」
真二とは裏腹にぬ~べ~は悲鳴を上げていた。そんな二人を見て龍二は呆れため息を吐いた。
すると、前に座っていた麗華が自分に凭り掛かってきた。彼女の顔を覗き込むと、いつの間にか寝息を立て眠っていた。そんな麗華の頭を撫で龍二は渚達の後を追い掛けていった。
翌日……
悪夢で目を覚ます焔……周りをキョロキョロと見回し、ここは麗華の部屋だと気付くと落ち着きを戻した。
(……そうか。
帰ってきたのか……?)
ふと自身の胴体に目を向けると、麗華が気持ち良さそうに眠っていた。眠る彼女を見た焔は、甘えるように顔を近付け擦り寄り、自身の尾を体に乗せ丸くなり再び眠りに入った。
それから数時間後……
縁側で丙と雛菊から治療を受ける麗華とぬ~べ。昨晩帰ってきたはいいが、渚のスピードに龍二達の家に着き彼女の背から気を失ったかのように転げ落ちた。
彼を見て、龍二は仕方なく家に泊めることにした。
「はい、治ったよ」
丙の治療を終えると、麗華は彼女に礼を言いながら袖に腕を通した。雛菊から治療を受けていたぬ~べ~は、傷の痛みからか悲鳴を上げながら、彼女の治療を受けていた。
「ひ、雛菊……もう少し優しく」
「何か言ったか?」
手に雷を起こしながら、雛菊はぬ~べ~を睨んだ。ぬ~べ~はそれ以上何も言わず大人しく治療を受けた。
「いや~、昨日のは楽しかったぁ!」
「何が楽しいだ!!俺は死ぬかと思ったぞ!!」
「そうか?俺は気持ち良かったけどなぁ」
「ま、普段から空飛んでねぇ奴に、いきなりあのスピードはキツいか」
「お前等二人は!教師をからかうな!」
「あれくらいのスピードでヘタレるなんて、情けない教師」
麗華は、ヤレヤレと言わんばかりに手を上げて首を振った。ぬ~べはそんな彼女を叩こうと構えたが、傍にいた緋音と真二が慌てて抑えた。
彼等を見て龍二と麗華は、思わず噴き出した。そんな二人を傍で見ていた焔と渚はどこか安心しきったような表情で、彼等を眺めた。
しばらくして、ぬ~べ~は麗華の家を出て行った。彼を見送る麗華と龍二……
「変わった大人だよな。あいつ」
「麗華と龍二に、関わろうなんて大人いなかったもんね。今まで」
「あいつは、他の奴とは違うんだろ。
さぁて、久しぶりに本殿掃除するか。真二、緋音、お前等二人にも手伝って貰うからな」
「え~!!」
「え~!!」
「文句言わない!!」
文句を言う二人に云いながら、龍二は本殿へと行った。彼の後を真二と緋音は文句を言いながら、追い掛けていった。彼等を見た麗華は、肩に乗っているシガンの頭を撫で、後をついて行った。
夕方……
蜩が鳴き騒ぐ音に気付いた麗華は持たされていたゴミ袋をゴミ置き場に置き、空を見上げた。
(もう、そんな時間か……)
「麗華ぁ!!」
その声の方に顔を向けると、郷子達を連れたぬ~べ~がやってくるのが見えた。
「鵺野……アンタ達、どうしたんだ?」
「花火しようと思って!」
「花火?」
「さっきそこのお店でくじ引きしてさ!そしたら広が二等の花火セットを当てたの!」
「へ~、やるじゃん」
「そんで、麗華の家で花火やろうって話になったわけでさ!いいだろ?」
「大人のぬ~べ~もついてくれるって言うしさ!」
「ねぇ!やろうよ!」
「私は別に構わないけど……本殿の掃除終わって」
「お!花火じゃん!」
後ろからゴミ袋を持った真二が、麗華肩に腕を乗せながら広が手に持っている花火を見て、嬉しそうな声を出した。
「真二兄さん」
「丁度やりたかった所なんだ。俺ん家にも確か部活合宿で余ってるのがあるから、掃除終わったら持ってくる。
そんで、皆でやろうぜ!」
「本当ですか?!」
「兄さん!」
「いいじゃねぇか!
お祝いだ、御祝い」
小さい声で真二はそう言った。
「お祝って……」
「二人が帰ってきたお祝いだ。
つーことで、麗華来れ頼むわ!俺家帰って、花火取ってくるから!」
「え?!に、兄さん?!」
ゴミ袋を麗華に渡すと、真二はもうダッシュで家へと帰って行った。
「ハァ……勝手なんだから。
掃除が終わったら、兄貴に頼んでみるよ」
「本当?!」
「だから、いったん家に帰って。許可得たら電話するから」
「うん!」
嬉しそうに返事をすると、手を振りながら郷子達は去って行った。
境内へ入ると、そこを掃く緋音が見えた。
「あ!麗華ちゃん!……って、真二は?」
「兄さんなら、さっき花火取りに家に帰った」
「花火?」
「夜、お祝いに皆でやろうだってさ。
兄貴は?」
「龍二なら、母屋にいるよ!この際だから、いらない物も整理しちゃうって」
「そう……分かった」
緋音にそう言うと、麗華は母屋へと戻った。母屋へ行き音のする仏間へ行くと、押し入れから物が出されその中に、龍二が何かを懐かしそうに見ていた。
「何見てるの?」
「あぁ、麗華か。
いや何、アルバム見つけてな。見てたんだよ」
アルバムを覗き見しながら、麗華は龍二の隣に座った。
輝二と優華とまだ幼い龍二、そして渚と迦楼羅と弥都波が写った写真がビッシリ貼られていた。
「俺がガキの頃の写真だ。
ほら、こっからお袋の腹デカくなってるだろ」
次のページへ進むと、大きいお腹を抱えた優華の写真が多くなっていた。優華だけではない……弥都波のお腹も大きくなっていた。
「……ねぇ」
「?」
「母さんと弥都波……何で死んだんだっけ」
「……」
「時々、母さんの事思い出すと……同じ光景が見るの。
血塗れで倒れてる母さんと、母さんみて泣き喚いてる私と母さんに呼びかける兄貴と母さんを治す丙の姿が見えるんだ……」
「……あれは、不運な事故だった。
お前には関係ないよ」
無理に笑いながら、龍二は麗華の頭を撫でた。アルバムを閉じ出していた荷物を元の押し入れの中へと戻し押し入れから見つけたいらなくなった物を手に持ち、外へ出た。
夜……
花火をやる広達……
「お!ついたついた!」
「花火お化けだぞぉ!」
両手に花火を持った広はそう言いながら、克也とまことと一緒に境内ではしゃいだ。
「全く、男子は~」
「あれくらいの元気が、丁度いいんだ!
な!龍二」
「俺に振るな」
「またまたぁ!何賺してんだよ!
あれか?麗華の前だからか?」
「お前に麗華を、呼び捨てで良いなんて許し出してねぇぞ!!」
手に持っていた花火で、龍二は真二に向けて火花を放った。真二はそれから逃げるようにして花火を持って走り出し、その後を龍二は追い掛けていった。
「あれじゃ立野達とやってることと、変わんないじゃん」
「相変わらずだなぁ、二人とも」
持っている花火に目をやり、麗華は火花を眺めた。すると隣にいた緋音がクスクスと笑い出した。
「何笑ってんの?」
「何か、懐かしいなぁって思って。
覚えてる?毎年夏休みに入ると、こうやって麗華ちゃん達の家に遊びに来て、花火やったなぁって」
「……」
「あの頃の麗華ちゃん、確か火が怖くて花火出来なくってね。やってる龍二の後ろから覗くようにして、見てたっけ」
「どうでもいいこと思い出すなよ……」
「なぁんだ、麗華にもかわいい時期あったんだぁ」
「花火でその口焼くぞ」
「怖~い」
「……よかった」
「え?」
「郷子、何がよかったの?」
「だって麗華、ここ二、三日全然元気なかったじゃない。
それで学校二日も休んで……少し心配だったけど、何か元気になったみたいで、よかったなぁって思って」
「あ~、それで……ねぇ麗華。何で二日も休んだの?家の用事だって訊いたけど」
「親戚から呼び出し食らって、それで行ってたんだ」
「そうだったんだ」
「それはそうと……焔。アンタ三日前いなかったみたいだけど、どこに行ってたの?」
「そうよ!大事ない麗華を独り置いて!
おかげで麗華、その日スッゴイ不機嫌だったのよ!」
「美樹!」
「細川!」
「あ~……あの日か。
姉者と一緒に、散歩行ってたんだ。すぐに帰るつもりがその地にいる妖怪に助け求められて……それやってたら帰りが遅くなっちまって……」
困ったように言い訳をする焔を、麗華は面白可笑しく眺めた。
焔の隣にいた氷鸞は、深くため息を吐きヤレヤレと云わんばかりに首を振った。
「全く、主を置いて散歩など……呆れて物が言えません」
「何だと?」
「主の傍から離れぬのが、我々の役目なのではないのですか?」
「阿呆鳥が、偉そうな口訊くんじゃねぇ」
「阿呆でも、馬鹿犬よりはマシです」
「あぁ!!もう一回言ってみろ!!」
「何度でも言いますよ?馬鹿犬」
「黙れ阿呆鳥!!相手してやる!!」
「臨むところです!」
「よ、止さぬか!二人とも!!」
「うるせぇ!!止めるな!!
この阿呆鳥を、一発殴らせろ!!」
「雷光、雷術」
「し、承知。
雷術雷柱!」
雷光の放った雷は二人に当たり、二人は体から煙を上げ地面に倒れた。
倒れた彼等を見て、郷子と美樹は苦笑いした。
楽しい時間が過ぎ、持ってきた花火は全て燃え尽きた。
「あ~あ、もう終わりか」
「もっとやりたかったのだ」
「それじゃあ麗華、私達帰るね」
「あぁ」
「また月曜日ね!」
「ちゃんと来いよ!」
階段を駆け下りていく郷子達を見送る麗華に、ぬ~べ~は話し掛けた。
「また困った事があったら、いつでも相談してくれ」
「気が向いたらね」
「ぬ~べ~!!早くー!!」
郷子に呼ばれ、ぬ~べ~は返事をしながら階段を駆け下りようとした時だった。
「アリガトウ」
「アリガトウ」
微かにだが、ハッキリとその言葉が聞こえた。後ろを振り返るぬ~べ~。しかしそこには、麗華達の姿はなかった。
(あいつ等……)
笑みを溢し、ぬ~べ~は急いで郷子達の元へと行った。
郷子達が帰った後、真二が持っていた線香花火を、四人はやった。線香花火の明かりを眺めながら、龍二と真二、緋音は昔のことを思い出した。
今と同じように、皆で線香花火をやった思い出……火が怖くて花火が出来ない幼い麗華を抱え、三人の線香花火を眺める優華。競争だと言いながら自分の線香花火を見る真二と龍二……彼等を面白可笑しく見る緋音。
しばらくして、四人が持っていた線香花火の玉はほぼ同時に地面へと落ち消えた。
「これで終わりか……
さてと、帰るか」
「帰るのか?」
「あぁ。やらなきゃいけねぇことあるし。
緋音、帰るぞ」
「ハーイ」
緋音を連れて、真二は龍二達に手を振って帰って行った。二人を見送ると、龍二は麗華と共に家の中へと入った。
昼下がりの午後……
優しく吹く風が、縁側に吊している風鈴を鳴らした。
仏間で、気持ち良さそうに眠る龍二と麗華……その近くで眠る二人を眺める渚と焔、そして丙。
「二人は、いくつになっても変わらないな」
「そうだな……」
「お主等がいない間、龍も麗も不安そうな顔を浮かべて二日間過ごしていた。
特に麗は、龍の傍から離れようとしなかった」
「……らしいな」
「この先、如何なる時でも二人をしっかり守りな。渚、焔」
「言われずとも」
「命に代えて、守り抜いてやるよ……
龍と麗には、もう俺等しかいないんだからな……家族が」
人から狼の姿へとなった焔と渚は、眠る二人に寄り添うようにして体を丸め、目を瞑り静かに眠った。
そんな彼等を見た丙は微笑みながら、手に持っていた煙管を口に銜え空を眺めた。