地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「麗華!龍二!」
ぬ~べ~に続いて、真二達が駆け付けてきた。
「間に合ってよかった……麗華、怪我はないか?」
「私は大丈夫だけど……兄貴が」
「龍二、しっかりしろ!」
真二の声に龍二はふら付きながら彼の肩を借りて立ち上がった。
「緋音?……それに、真二」
「大丈夫か?」
「鵺野……何で」
「お前等の様子が気になってきたんだ……それより、これはどういう事だ。
何で、焔と渚があいつに」
「知らねぇ……」
「話は後!
龍二、渚さんと焔。攻撃するけど良いか?」
「構わねぇ」
「許可得た!」
制服の上着のポケットから、リップクリームの筒を取り出した。
「出て来い!管狐!」
筒から数匹の黒い管狐が姿を現した。管狐は牙を剥き出しにしながら、雄叫びを上げ焔達を睨んだ。
「こいつは……管狐?!しかも、かなり高い霊力」
「以前にも言っただろ?俺はイタコの家系だって。」
「この能力…いずなにも見習ってもらいたい」
真二が指を鳴らすと、その音に従うかのようにして管狐は渚と焔に攻撃した。
二匹は管狐に向かって、攻撃をしたが管狐はその攻撃を誘導するかのようにして動き回り、渚の攻撃を焔に焔の攻撃を渚に当てた……その時だった。
「り……龍……」
「?!」
小さな声、だが確実に聞こえた。渚が自分の名を呼んだ声を……
「渚?」
彼女の名を呼ぶが、渚はまた理性を無くしたかのようにして遠吠えし、管狐目掛けて水を放った。管狐は避ける事が出来ず、攻撃に当たり真二が持っている筒の中へと戻った。
「どんなに増えても、今の僕に勝ち目は無いよ」
不敵な笑みをK……彼は焔の傍へと寄り、焔の頬を撫でた。
「焔から離れろ!!」
「何怒ってるんだ?
ああ!そうか……自分の右腕を撫でられるのが嫌なんだろ?そうなんだろ?」
「……」
「クックックック……
いいねぇ……その顔。まだまだ、復讐をさせてもらうよ?」
そう言い残すと、Kは焔に乗り渚と共に、その場を去った。後を追い掛けようとしたが、飛んでいく二人の背を眺める事しかできなかった。
家の中へと入った麗華達……緋音は麗華の腕に出来た擦り傷を手当てし、龍二の火傷をぬ~べ~と真二が、そして氷鸞と雷光を丙が手当てした。
「これで良し!」
「ありがとう、緋音姉さん」
「いいのよ。龍二の方もそろそろ終わるわ」
「うん……」
手当てされた傷を撫でながら、麗華は思い詰めた様な表情を浮かべた。すると隣の襖が開き、中から真二達が出てきた。
「真二」
「龍二の奴は大丈夫だ。今寝てるけど、時期に目が覚めるだろ」
「そう……良かった」
「ねぇ……真二兄さん達はともかく、何で鵺野が」
「夕方龍二が学校に来て、渚と焔の事を話してくれて。
少し気になって様子を見に行こうとしたら、二人に会ってな」
「俺等の学校に、こいつが知らせに来たんだ」
そう言いながら、真二はバックのチャックを開けた。すると中からシガンが飛び出て行き、麗華に駆け寄り肩へと登り頬を舐めた。
「シガン!」
「こいつが緋音のキーホルダーを銜えて行っちまったから、取り返そうと思って追い掛けてたら、先公に会ったんだ」
「どうりで、見掛けなかったわけだ」
「……麗華」
真剣な顔でぬ~べ~は、麗華の前に座り話し掛けた。麗華はシガンを肩から降ろし彼を睨む様にして、目を向けた。
「俺の質問に答えてくれ……焔と渚に、一体何があったんだ?」
「……」
何も答えない麗華……ふと見ると、彼女の手は強く握り締められ震えていた。
「先公……いきなりその質問は」
「知らない」
「?」
「……今まで、逆らったことなんてなかった。
攻撃したこともなかった……」
「……」
「あいつ等は操られてるんだ」
隣から、龍二は羽織を肩にかけた状態で出てきた。同時に丙に治療を受けていた氷鸞達も居間へと入ってきた。麗華は二人に礼を言うと紙へと戻した。
「龍二、どういう事だ?」
「真二が渚を攻撃した時、アイツは俺の名を呼んだんだ。
苦しそうにな」
「それじゃあ」
「さっきも言った通り、渚も焔もあの男に操られてる」
「……ねぇ」
「?」
「あのKって何者なの?
『僕は……あの牢獄の中、君達二人を忘れることは決してなかった。』って……」
「……お前は覚えてなくて無理はない」
「え……」
「八年前、突如アイツはこの神社へ来た。
何でも、妖怪や幽霊に関係の大学の教授で、是非俺等と一緒に暮らしてる妖怪達を調査したいと言い出してな」
「見えていたのか?そいつは」
「あぁ。狼姿になってた渚と焔を、普通に大狼の研究をさせてくれって言ってきたこともあったからな。
だけど、余りにも怪しい奴だったから、お袋が断ったんだ。
それが誤りだった……」
「?」
「……生血」
「え?」
「生血?」
「古い言い伝えで、妖怪を呼ぶには生血が必要だって……そいつが言ってた。
そしたら……翌日から、大学生が突然失踪して」
「失踪……まさか!」
「そのまさかだ……
アイツは、自分の教え子をを自分の研究室へと呼びそして、そこで血を抜き溜まった量になると、それを家へ持ってきた。
その行為に気味悪がったお袋はすぐに警察に連絡した。そしたらどっこい、アイツの研究室から何十体もの血を抜かれた死体が出てくるわ出て来るわ……その後教授は速攻で逮捕されて、牢獄の中……のはずなんだけど、恐らく最近出所したんだろ」
「じゃあ、その男があの焔と渚を操っているというのか?」
「おそらくな……話は終わりだ。
とっとと帰ってくれ」
「龍二。俺は」
「他人は首突っ込まないで!」
怒鳴りながら、麗華は立ち上がりぬ~べ~を睨んだ。
「鎌鬼の時もそうだったけど、私達の問題に首を突っ込まないで」
「俺は担任としてお前を」
「担任だから、何だって言うの?!」
「麗華ちゃん……」
「担任だから何?親みたいな事してくれるわけ?
学校の外出れば、赤の他人でしょ」
「……」
振り返り麗華は外へと飛び出した。その後をシガンと緋音が追い掛けていった。
「他人か……
確かにそうだな。所詮、俺は麗華の担任……あいつのことを全て知ってるわけじゃない……」
「仕方ねぇよ……あれは」
その場に腰を下ろし、龍二はため息を付きながらぼそりと言った。
「龍二?」
「鵺野、悪いけど今回ばかりは手を引いてくれ。
それから、麗華はしばらく休ませる」
ぬ~べ~が何かを言おうとした時、真二は彼の肩を掴み首を横に振った。
真二に連れられ、ぬ~べ~は家を出た。玄関先で真二は引き戸に凭り掛かり腕を組み立った。
「龍二も麗華も、別にアンタのことを嫌ってないと思う」
「?」
「あの二人は、人に頼るっ言葉を知らないんだ。
あいつ等、親を早くに亡くしたから、誰に頼ればいいかが分からねぇんだ。人に頼れば、余計な心配を掛ける……
そう思って辿り着いたのが、妖怪達だったんだ。
中でも、焔と渚さん……龍二達にとっては、二人は親みたいな存在なんだ。いつも傍にいて、困ればすぐに助けてくれる……
特に焔は、麗華の事一番わかってると思う。自分にだって父親がいなかったから、アイツの寂しい気持ちが分かってたかもしれない……父親がいない寂しい気持ちを」
「……」
「だからあいつ等、傍にいた親がいなくなって不安なんだと思う。特に麗華は……
俺、あいつ等と付き合い長いから、何となく分かるんだ。あいつ等の気持ちが。
何度か家に遊びに来た時、いつもそばに二人がいたんだ。必ずって程……」
「……そうか」
それ以上は聞かず真二に背を向け、ぬ~べ~は帰って行った。
森の中……
湧き水の近くで膝を抱え座る麗華。心配そうに傍にいたシガンは鳴き声を上げながら、ウロウロしていた。すると茂みの中から、ショウと瞬火が現れた。瞬火は彼女の傍へと寄り膝に前足を掛け頬を舐めた。
舐められた感触に、麗華は顔を上げショウ達の方に顔を向け、舐めてきた瞬火を抱き上げ撫でた。そんな彼女の姿を見たショウとシガンは寄り添うようにして、傍に座った。
瞬火を撫でながら、麗華は思い出した。
幼い頃、龍二も母・優華もいない昼間……
一人縁側で絵を描いていた。すると、焔が麗華に笑いかけながら持っていたボールを投げ、境内を指差した。嬉しそうにして、麗華はボールを持ったまま立ち上がり、焔の手を引っ張って、表へと飛び出た。
遊び疲れ、縁側でウトウトしていると彼は、狼の姿へとなり自身の胴に麗華の頭を乗せさせた。麗華は気持ち良さそうに、体に顔を埋め眠りに入った。そんな彼女の体の上に焔は自身の尾を乗せ共に寝た。
自分が寂しい時、必ず焔は傍にいた。どんな事が起こっても決して、自分から離れたことはなかった。だから、どんな困難でも乗り越えられた。
(……焔)
「見~つけた」
その声の方に目を向けると、携帯用懐中電灯を手に持った緋音がいた。
「捜したよぉ?
さ、お家帰ろ!」
「……」
「ほら、行こう!」
「……」
「麗華ちゃん……」
すると茂みが揺れ、そこから懐中電灯を手に持った龍二と真二が現れた。
「龍二、真二」
「緋音、悪いけど先に帰って晩ご飯の準備しててくれないか?」
「え?」
「俺も手伝うから!
ほら、行くぞ!」
「あぁ、ちょっと!!」
もたもたする緋音の手を引っ張り、真二は龍二にウインクすると先に家へと帰っていった。
二人っきりになった龍二と麗華……
麗華に抱かれていた瞬火は、彼女から降り待っていたショウと共に茂みの中へと消えた。
「気になる場所があるんだ。
明日、そこに行こうと思ってる」
「それって……どこにあるの?」
「こっから、バスに一時間乗って、少し歩いたところに奴の家があるらしいんだ。もしかしたら、出所してそこに隠れ住んでいるかもしれないしな」
「じゃあ、そこへ行けば焔も渚も」
「可能性は高い。
行くか?」
「行く!」
「よし!そうと決まれば、さっさと家帰るぞ」
嬉しそうに頷き、立ち上がった麗華は龍二に抱き着いた。抱き着いてきた彼女を撫でながら、龍二は一緒に家へと帰って行った。
廃屋……
地下に倒れる渚と焔……
「こんな首輪ごときに操られるなんて……」
「龍と麗に攻撃することになるなんて……」
「麗……
あいつ、俺がいねぇと」
「焔、それは龍も一緒よ。
あの二人は、私達がいないと……」
“ガチャン”
扉が開く音……そして、リモコンを持って入ってくる白衣を着たKの姿。
「クックックック……
どうだい?主を傷つける気分は」
「テメェ……」
「まだまだ手伝ってもらうよ?
逆らうなら、二人の命は無いからね」
「……」
不気味な笑い声が、廃屋中に響き渡った。