地獄先生と陰陽師少女 作:花札
とある廃屋……
蝋燭の炎を点し、薄暗い一室……壁に貼られた二枚の写真。
小学校の下校中、郷子達と楽しげに帰る麗華と、部活の休憩中なのか壁に凭れながら座り、友達と戯れる龍二の姿が写った写真が貼られていた。
「二人のせいで、僕は人生滅茶苦茶にされたんだ……
復讐は果たさせてもらう」
炎に照らされた部屋に置かれている机の上に、奇妙な機械が置いていた。
“ピピピピピピピピ”
目覚ましの音が部屋中に鳴り響き、ベットで寝ていた麗華は寝ぼけながら音を止めた。
「朝ぁ……
まだ眠い……?」
目を擦りながら、床で寝ている焔の方に顔を向けた。だがそこには、彼の姿は無かった。
「……焔?」
ベットから起き、部屋を見回し彼を捜したがどこにもおらず、麗華はドアを開け廊下を覗く様にして顔を出した。
「焔ぁ?焔ぁ!」
「……」
廊下を歩きながら、彼を呼んだ……だが、彼はどこにもなく居間の襖を開け中を見たが、やはり彼の姿はどこにもなかった。
「麗華!渚の奴……って、焔は?」
「今朝から居ないの……って、渚も?」
「あぁ。寝床見たら物家の空で……
珍しいよな……あいつ等がいないなんて」
「……」
「帰ってきたら、森ん中捜してみよう。今はとりあえず、学校だ」
「うん……」
学校へ着いた麗華……机の上で頬杖をして、窓の外を眺めていた。その様子を心配そうに、フードの中にいたシガンが声を上げながら、彼女を見た。その様子に、郷子達も多少気づき気になった郷子は、麗華の元へと寄り声を掛けた。
「麗華、どうしたの?」
「……へ?」
「いや……今日の麗華、何か変だから」
「……別に。関係ない」
そう言いながら、麗華は郷子を退いて、教室を出て行った。彼女を呼び止めることもせず、広達は去っていく彼女の背中をただただ見るしかなかった。
「どうしたのだ?今日の麗華ちゃん」
「今朝から、元気ないもんね」
「龍二さんと、喧嘩したんじゃねぇか?」
「あぁ!それ、あり得るかも!」
「……あれ?」
「いつもの、突込みがいない……」
「……あ!」
屋上へ着た麗華……給水タンクの上へと登り、辺りを見回した。
(……どこ行ったんだろ)
「キュウ……」
「大丈夫だよ、シガン。そんなに心配しなくても、焔も渚もどっかに行ってるだけだ。その内帰ってくる」
ポーチから紙を出し投げた。紙から出た煙の中から、人の姿をした氷鸞が出た。
「この辺りを飛んで、焔を捜してほしい」
「いなくなったのですか?」
「分かんない……今朝起きたら、いなかったから……
頼む」
「……分かりました」
笠のつばを持ち、氷鸞は飛んで行った。それを見届けながら、麗華は肩で心配そうな鳴き声を上げるシガンの頭を撫でた。
(大丈夫……すぐ帰ってくる)
『麗!』
(……焔)
放課後……
帰り支度をする麗華に、郷子は声を掛けた。
「ねぇ、麗華」
「?」
「焔は?」
「へ?」
「今日、焔いないのかなぁ…っと」
「……今朝から居ない」
「え?」
二人の話が聞こえた広達は、麗華の元へと寄り近くの机や椅子に座り、話を聞いた。
「何だ?家出か?」
「知らない。
朝起きたら、寝床にいなかった」
「どこ行っちゃったの?」
「知らない。今まで、黙って家を出たこともないし……」
「里帰りじゃね?」
「里帰りって……白狼一族の故郷は、もうこの地にはない。
あって、私達の本家だけだ。けど、滅多な事で本家に帰ることはない。あいつも……親はいないんだ」
「え?親いないのか?」
「前に言ったでしょ?焔の父さんは、私の父さんと一緒の日に死んだって。」
「あ……」
「じゃあ、お母さんは?」
「母さんは……死んだ」
「……」
「だから、あいつ等に帰る場所っつったら、私達の元しかない。
尤も、本家にもあるけど、私達を置いてはまず行こうとしない」
「……じゃあ、他に行く場所は?」
「分かんない。
悪いけど、もう帰るからいい?」
「あ…あぁ」
「じゃあね、麗華」
「じゃあな」
「また明日ね!」
「あぁ」
バックを肩にかけ、麗華は教室を出た。校庭に出た麗華は歩き校門へと向かった。ふと顔を上げると、校門前に龍二と真二達が立っているのが見えた。麗華は足を速め、校門へと向かった。
「兄貴」
「焔がいない今、お前を一人で帰らせるのは危険だと思ってな」
「本当、龍二は心配性だな」
「うるせぇ!つか、何でお前等まで来るんだよ!?」
「いいじゃねぇかぁ!俺等だって、麗華のこと心配だったし。なぁ?」
「真二…誰が、人の妹呼び捨てでいいって言った?」
「う~ん……」
「考えるな!!」
「まぁまぁ、いいじゃない!
今日は、龍二の家に泊まることになってるんだから!」
「誰が決めたんだよ?!」
「俺等二人で」
「何勝手に決めてんだよ!?」
「何よぉ……いいじゃない。私は麗華ちゃんの写真を撮りたいんだからぁ」
頬を膨らませながら、緋音は後ろから手を回し麗華を抱きながら言った。麗華と龍二は呆れ顔になって、ため息を吐いた。
「焔ぁ!焔ぁ!」
家へ帰ってくると、龍二達は早速森の中を探索始めた。森を捜し回るが、彼らの姿はどこにもなく、ただただ時間だけが過ぎて行った。
「渚ぁ!どこにいんだぁ!!」
「渚さーん!龍二が怖がるから、出てきてくださーい!」
「いらんことを言うな!!」
「焔ぁ!焔ぁ!」
「焔ちゃーん!焔ちゃーん」
茂みを掻き分け、捜す麗華……麗華から離れた場所で、シガンは鼻を動かしながら茂みの中を彷徨い捜した。
「(……あとは、氷鸞に任すしか)うわっ!!」
夕方……
森から出てきた龍二達……だが、そこには麗華姿がなかった。
「あれ?麗華の奴は」
「そういえば……緋音、麗華と一緒じゃ」
「え?真二と一緒じゃなかったの?」
「は?」
「……!!」
「龍二!!」
何かを察したのか、龍二は振り返り森の中へと入った。しばらく森を駆けて行くと近くの木の上から、何かが飛び降りてきた。
降りてきたのは、麗華を手に抱えた青だった。
「麗華!」
「母(カカ)、崖から落ちた。
傷あるけど、死んでない。」
「そうか……ありがとな」
「焔は?あいつ、傍にいない」
「……」
「渚も、傍にいない」
「……ちょっといないんだ。
大丈夫、すぐ帰ってくる!」
「……父(デデ)」
「じゃあな、青。ありがとな!」
気を失ってる麗華を背負い、龍二は森を歩いて行った。
歩いている最中、麗華は目を覚ました。
「兄貴?」
「気が付いたか?」
「あれ?何で?
さっき、崖から」
「青がお前を俺の所まで、連れて来てくれたんだ」
「……」
「あんまり、単独行動は控えろ。焔がいないんだから」
「……うん」
家に着き、居間で丙から治療を受ける麗華……
「痛っ!!」
「あ、すまん」
「それくらい、我慢しとけよ。
命助かって」
「レディーの裸を、何覗き見してるのよ!!」
襖に手を掛け下着姿になり、丙から治療を受けていた彼女を見ていた真二目掛けて、緋音が飛び蹴りを食らわせた。真二は見事にその蹴りを食らい、奥の方へと飛ばされた。
「全く、何覗き見してるのよ!」
(こ、怖ぇ……)
「け、蹴ることねぇだろ……」
「普通に覗くからでしょうが!!」
「人ん家で、何騒いでんだよ」
麗華の着替えを持ってきた龍二は、二人を見ながら呆れ顔をしていた。
「だってぇ、真二が麗華ちゃんの着替えを覗き見してたんだもん」
「たまたま襖開けたら、その光景だったんだ!
だいたい、小学生の裸見たって嬉しかねぇよ」
「緋音、麗華の着替え頼んだ」
「はーい」
緋音に着替えを渡した龍二は、拳を鳴らしながら真二に殴り掛かった。奥の方から聞こえる悲鳴に、麗華は呆れ顔をした。
「本当、まだ子供なんだから」
「龍もあいつも、何も変わらないな。
さ、終わったぞ」
丙の治療を終えた麗華は、緋音から着替えを受け取りそれに着替えた。着替え終えると同時に、風が吹き窓ガラスが振動し鳴り響いた。
「風が出て来たのかしら?
あら?麗華ちゃん?!」
風が止むと共に、麗華は部屋を出て行き、龍二にやられ伸びている真二を跨ぎ、家を飛び出した。
外へ出ると、鳥の姿をした氷鸞が帰ってきた。
「氷鸞!」
彼の名を呼びながら、麗華は氷鸞の元へと駆け寄った。氷鸞は人の姿へと変わり、駆け寄ってきた彼女の方を見た。飛び出ていった麗華を追い掛け、龍二達は外へと出て行き彼の元へと駆け寄った。
「焔達は、見つかったか?」
「いえ……何も手掛かりがありませんでした。申し訳ありません」
「……そう。
ありがとう。ご苦労様」
氷鸞に礼を言い、麗華は彼を戻した。落ち込んでいる麗華に龍二は寄り肩に手を置いた。
「麗華」
「……どこ行っちゃったんだろ。
焔も渚も」
「さぁな……
あいつ等のことだ。その内ひょっこり帰ってくる」
「……」
「さ!中に入って飯食おうぜ」
「……うん」
龍二に連れられ、麗華は家の中へと入った。
その日の夜……
“ガン…ガン”
とある廃屋の地下……
首と手首、足首に鎖を着けられ捕らわれている焔と渚。
二匹は懸命に、鎖を外そうとしていた。
「クソ!!外れねぇ!!」
「せめて、人の姿になれれば」
「無理だ……鎖に着いてるこの札のせいで、人になるどころか技も出せねぇ」
「情けないよ……
あんな催眠術に掛かるなんて」
「今頃、龍も麗も心配してるぞ」
“ガチャン”
突然鎖されていた扉が開いた。焔達はすぐに入ってくる者を睨み攻撃態勢に入った。
「そんな怖い顔をするな。
僕は何もしやしない」
「じゃあ何で、俺等をこんな所に閉じ込める」
「そうだなぁ……
強いて言うなら、君達二匹の主に復讐しようと思ってね」
「?!」
「どんな顔をするかなぁ……
君達二匹に、裏切られ攻撃したら」
「そんなことするか!!」
「そうよ!!私達は主の言うことしか訊かない!!」
「それはどうかな」
手に持っていた首輪を焔達に見せた。そして、懐からリモコンを取りだしボタンを押した。すると、焔達は体を動かすことができなくなり、それを狙ってか首輪を焔達の首に着けた。その瞬間、焔達の体に電撃が走り目を見開いた時赤く染まりそのまま気を失ったかのように、その場に倒れた。
「さぁて……復讐の時が来た!」