地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「……
本当なのか?麗華……」
「……
この童守町は、私達の領域……
この町に住んでいる者は、何があっても私達が悪い妖怪から守る……」
そう言いながら麗華は、白髪の青年を見つめた。青年は何かを察してか、姿を変えたのか身体から煙を放った。煙の中からあの晩に見た白い毛並の大狼が姿を現した。
「こいつ、あの時の……」
「名は焔(ホムラ)。私に仕えている白狼一族の火を得意とする狼」
「白狼一族?」
「妖怪化した狼の群れ。私達の家系に仕えてからざっと三百年経つかな」
「……
麗華」
「誤ったり、説教したりするのは後。
先にアイツをやるよ?」
言いながら麗華は、座り込んでいるぬ~べ~に手を差し伸べた。ぬ~べ~は麗華の差し伸べてきた手と顔を交互に見た。
「言っとくけど、まだアンタを信頼しているわけじゃない。今回はアンタの力がどれくらいなものかを見るだけのもの」
その言葉を聞いて納得したのか、ぬ~べ~は麗華の手を握りそして立ち上がった。すると空に上がっていた犬鳳凰は地面へ降りてきて、美樹を放り投げた。
「小癪な人間め。こいつを食う前に、まずお前等を焼いて食うことにしよう」
「俺の生徒には、指一本触れさせはしない!!
南無大慈大悲救苦救難広大霊感……
我が左手に封じられし鬼よ。今こそその力を示せ!!」
左手に嵌めてい黒い手袋を外し、鬼の手を出したぬ~べ~。その手を見た氷鸞は、錫杖を構え麗華の前に立った。
「構えなくていいよ、氷鸞」
「しかし、あれは……鬼なのでは?」
「当たってるけど、大丈夫。あの鬼は、アイツの手で封じられているもの……
それに、何か訳有りの封印されてるみたいだしね?」
「そうですか……」
「もう大丈夫だから、戻りな」
「しかし、私の役目は貴女様をお守りすること……」
「氷鸞安心しろ。あとは俺がこいつを守る」
「……分かりました。
焔、麗様を頼んだぞ」
「命に代えて」
焔の答えを聞くと、氷鸞は一枚の紙に戻り麗華の手元へと戻った。紙を取った麗華は、ポーチにしまいぬ~べ~の方へ顔を向けた。
鬼の手を構えたぬ~べ~に怯えているのか、犬鳳凰は少し後ろへ引き、口から火を放った。その火をぬ~べ~は何とか避けたが、火が放たれた方には、広と郷子がいた。
「焔!!」
麗華の声に、焔は口から炎を吐き出し、犬鳳凰の攻撃を打ち消した。犬鳳凰はその攻撃に驚き動揺している様子で、その様子を見たぬ~べ~は鬼の手を振り下ろし犬鳳凰を消し去った。
犬鳳凰が消えたと共に、公園に放たれて燃えていた火も消え公園は何事もなかったかのようになっていた。
「……倒した」
「うっ……」
電信柱に寄りかかって眠っていた美樹が目を覚ましたのか、顔を上げ眠い目を手で擦りながら立ち上がった。
「あれぇ?ここは?
私どうしてこんな所に……」
「美樹!!」
「美樹!!」
立ち上がった美樹に、広と郷子が飛びついた。美樹は訳が分からず二人を交互に見ながら、戸惑っている様子だった。そんな光景を見ながらぬ~べ~は鬼の手をしまい麗華の方を見た。麗華の傍にいた焔はいつの間にか人間の姿になり、麗華と一緒にぬ~べ~を見つめていた。
「どうやら、アンタは他の教師とは違うみたいだね?」
「麗華……」
「あぁ!!麗華!!」
二人に抱きつかれていた美樹が、麗華を見るなり大声を上げながら、指を指し麗華に顔を近付けさせて話し出した。
「アンタのせいで、この美樹ちゃんが大変な目にあったのよ!!どうしてくれるのよ!?」
「だから言ったでしょ?今夜は気をつけなって」
「あんな言い方されて、「はい、そうですか」って信じるわけないでしょうが!!」
「……(面倒くさい女だなぁ…)」
「まぁいいわ。明日、皆に教えてあげるんだから。
「風邪を拗らせて休んでいる神崎麗華は、単なるズル休みでした」ってね」
「ちょっと、美樹!!だからそれは」
「悪いけど、風邪を拗らせていたのは事実だし……
それに私、明日から学校に行くつもりだから」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
麗華の言葉に、その場にいたぬ~べ~達は皆耳を疑った。その様子を見ていた焔は、キョトンとした顔を浮かべていたが、何かを思い出したのか鼻で笑いながら腕を組み麗華を見た。
「麗華?」
「今、何て……」
「だから、明日から学校に行くつもりだ」
「ほ、本当?!」
「朝起きれればな。それに…」
「やったぁ!!」
話している最中に、嬉しさからか郷子が麗華に飛びつき泣きながら喜び叫んだ。麗華はそんな郷子を引き離そうとするが、郷子は離すまいと思いっ切り抱きしめた。
「ちょっと、稲葉!!痛い!!」
「麗華が明日から来る!麗華が!」
「おい美樹、どうすんだ?さっきのこと。
クラスの奴らにでも、話すのか?麗華はああ言っているけど…」
「もちろん、言うわよ」
「……」
「神崎麗華は、風邪が治り今日から登校しまーす!!ってね!」
広にウインクをしながら、美樹はそう答えた。美樹の答えに広はほっと胸を下ろし安心した。そんな光景をぬ~べは電信柱に寄りかかり麗華を見る焔に、話しかけながら近づいた。
「まさか、本当にこの俺が郷子達を命懸けで守るかを、試したのか?麗華は」
「さぁな……」
「何だ?お前は、麗華の使い妖怪じゃないのか?」
「誰が使い妖怪だ!
俺は麗と生まれた時からずっと一緒なんだ!俺は麗の右腕だ。そんじゃそこらの使い妖怪でも何でもねぇ」
「つまり、麗華はお前の主か」
「まぁ、そうなるな…」
「焔と云ったな…」
「?」
「麗華が起こした前の学校での事件……その後はどうなったか分かるか?」
「……」
「生まれた時からいっしょであれば、以前の学校にいたころも一緒のはずだよな?」
「……
悪いが、アンタに教える義理はねぇ」
「……」
「それに、麗はまだアンタを完全に信頼してるわけじゃねぇ。もちろんアイツ等も……」
「じゃあなんで、学校へ行くと…」
「そんなもん、自分で考えろ」
「焔、帰るよ」
麗華の呼ばれる声に反応した焔は彼女に駆け寄った。麗華は郷子達に手を軽く振りながら、家へと帰って行った。
麗華を見送った後、ぬ~べは郷子達を各自の家へ送りその後自分も家へと帰って行った。
その翌日、麗華は眠い目を擦りながら学校へ登校した。登校中に郷子と広に出会い、二人に誘導されながら教室へと入った。教室ではすでに美樹が、麗華が今日来ると話しており、教室へ入ってきた麗華を見た皆は、彼女を待ってましたとでもいう様に周りを囲った。
そんな様子を窓の外に生えている木から焔が、眺め安心したように笑みを浮かべた。