地獄先生と陰陽師少女 作:花札
数日後……
“バシャーン”
釣り場から海へと飛び込む久留美達……彼女達に続いて、広達も一緒に飛び込んでいった。
「ウッヒョ―!気っ持ちいぃ!」
「ビビりじゃねぇことは確かみてぇだな?広」
「当ったり前ぇよ!」
「おいお前等!岸まで競争しようぜ!」
「おぉ!」
「やるのだぁ!」
「負けねぇぜ!」
「久留美!頼む!」
「全く、男子共は!」
一列に並ぶ広達……
「位置について……
よーい……ドン!!」
水を叩き合図を送ると同時に、広達は一斉に泳ぎだした。勢いに負け、まことと遥は置いていかれていた。
「す、凄いのだ!」
「とても僕等じゃ、適いませんよ……」
「だらしないわねぇ。まことも遥君も」
「そ、そんなこと言われても……」
「とにかく、岸に上がって男子達を待ちましょ」
「そうね」
久留美の意見に賛成し、彼女達は先に岸へと上がった。
浜辺では龍二に習う龍実と、泳げない郷子と大空、麗華が遊んでいた。
手に持った紙を投げる龍実……投げた紙から煙が上がり中から鮫牙が姿を現した。
「教え込んで、二日……
凄い上達だな」
「本当に、才能はあるみたいだね」
龍実の練習を見ていた麗華は、龍二の元へと行きながらそう言った。
「そうだな……って、何偉そうなこと言ってんだよお前は」
「私は小一の時には、もう式神は扱えてました」
「そうだけどなぁ……
龍実!今の調子だ」
「はい!」
「すげぇじゃねぇか!龍実!」
自分の事のように、喜ぶ鮫牙……そんな彼に釣られて龍実も、一緒に笑った。
「麗華ぁ!!」
自分の名を呼ぶ声が聞こえ、麗華はその方に振り返った。久留美が手を振りながら、七海と一緒に駆け寄ってきた。
「皆で、チーム組んでバレーボールやろう!もちろん、お兄さん達も!」
「面白そうだな!やるか!」
「やるからには、負けねぇぜ!」
「麗華もやろう!ね!」
「拒否権無いんでしょ?それ」
「もちろん!」
「ったく、勝手なんだから」
「そうと決まれば、麗華は私達のチーム!」
久留美に手を引かれ、麗華と七海は皆の所へと行った。そんな様子を見た龍二と龍実は、顔を合わせると安心したかのような笑みを溢して、三人の後を追い掛けた。
「何で、麗華がそっちのチームなのよぉ!」
久留美が分けたチームに納得のいかない美樹が文句を言ってきた。
「麗華は元、私達のクラスメイト!こっちのチームに入るのが当然!」
久留美は麗華の腕を組みながら、そう言った。すると彼女をフォローするかのように、章義が腰に手を当てながら口を開いた。
「いいじゃねぇか。どうせ、そっちには高校生の龍実さんや神崎の兄貴がいるんだから。なぁ?」
「そうだよ!体力的に、そっちの方が有利じゃん!」
「そ、それは」
「さぁさぁ、そうと決まればゲーム始めるわよ!遥達は、審判お願い!」
「はい!」
久留美に言われ、遥と奈美、慎也と真鈴、徹はコートから出た。残った者は皆、それぞれの位置へと着き、攻撃態勢に入った。
「じゃあ、いくよ!
レディー……GO!!」
手を振り下ろしたを合図に、先攻となっていた広チームの郷子がボールを投げた。飛んできたボールを前にいた章義が取り、浮いたボールを久留美が広チームのコートへと叩き入れた。
入ってきたボールを、克也が慌てて取り、上がったボールを龍二が思いっきり叩き入れた。
「嘘!!」
「やった!一点リード」
「するわけ、ねぇだろう!!」
その声と共に、龍二が入れたボールを麗華は難なく上げ、そのボールを大輔が容赦なく入れた。
呆気にとられ、ボールを取ることが出来ず久留美チームに一点入った。
「やった!」
「よっしゃー!」
「麗華!ナイス!」
「ナイスだ!神崎!」
喜び合う久留美達……
「れ、麗華の奴……スゲェ」
「龍二さんのサーブ、取っちまうなんて……」
「そんじゃ、力は抜かずに行くか……あっちがその気ならな」
戦闘目付きになり、いたずら笑みを浮かべながら龍二はそう言った。
数時間後……
パラソルの下、龍実の母が持ってきたスイカを頬張る広達……
「たくさんあるから、どんどん食べてね」
「ご馳走様でーす!」
「ったく、本気出しやがって、この男は」
「テメェが本気出すからだろうが」
「先にやったのはどっちよ」
「お互い様だろうが」
「兄妹喧嘩すんなよ!こんな所で」
「そうそう!ほら、スイカ食って機嫌直せよ!」
「龍二さんも、大人気ないですよ?小学生相手に」
「普通じゃねぇよ。この女は」
「それはそっちもでしょ……」
「飛んでボール蹴る奴に言われたくない」
「それはこっちのセリフ」
「やるっつうのか?」
「別に構わないけど?」
「止めんかい!」
「止めなさい!」
睨み合う二人の後ろから、姿を消していた焔達が現れ、二人の頭を叩いた。
「こんな所で、喧嘩してどうすんだよ」
「だってぇ……」
「全く、大人気ないわよ!龍」
「けどよぉ……」
叩かれた個所を撫でながら、言い訳をしようとする龍二と麗華……そんな彼らを見ていた久留美が堪えていたのか、突然吹き出し笑い出した。彼女に釣られて広達も笑い出し、釣られて大輔達も笑い出した。笑い声に気付いた二人は互いの顔を見合わせると、吹き出し笑い出した。
「ア~!おっかしい!」
「渚さんと焔って、二人の親みたい!」
「うるせぇ!」
「うるさい!」
「久しぶりに見たなぁ!お姉ちゃんの笑い顔!」
「へ?」
大空の言葉に、大輔達は笑うのを止め麗華の方を見た。笑ったせいか、目から出てきた涙を拭き取りながら麗華は彼等の方に目を向けた。
「……」
「な、何?」
「いや……」
「神崎って、笑うんだなぁって……」
「は?」
「そう言えば神崎さん……髪切っちゃったの?」
「え?」
「何々?どういう事?」
「昔の麗華、今の郷子ちゃんくらいの長さあったんだよ。髪」
「嘘ぉ!!」
「何で切っちゃったの?!もしや、失恋!?」
「ンなわけないでしょ!
邪魔になったからだ。それだけ」
「本当に~」
「本当だ。それ以上しつこいと、細川はお替りなしだ」
「あ~ん!麗華のいじわるぅ!」
広達と笑い合う麗華……そんな姿を、龍二は見ながらふと思い出した。
ある森で長い髪に手を掛け、持っていた小太刀で切ったあの日。息を切らしながら、目の前にいる敵を倒した……二人だけで。
「この調子なら、戻るんじゃない?」
「戻る?」
「麗の性格。
昔みたいにさ」
「あいつは何も変わってねぇよ……
人見知りで、甘えん坊で、寂しがり屋で……けど誰に対しても、優しい奴で。変わってねぇよ……
壁作ってるだけだよ。
けど、その壁を少しずつ、時間をかけて壊して行けばいいんだよ……もう、あんな顔が出せるようになったんだからな。」
腕を組み、渚に言う龍二……彼の目に映るのは、友達と笑い合う麗華の姿だった。
翌日……
麗華達を見送り船場に来た久留美達……
「もう帰っちまうのかよ」
「もっといればいいのに……」
「もともとは、この島の事件を解決するために来たんだ。遊びに来たわけじゃない」
「何偉そうなこと言ってんだよ」
「うるさいわね」
「来年の夏休み、またおいでよ!今度は遊びに!」
「考えとく」
「また広達連れて来いよ!」
「気分が向いたら」
「いいじゃない麗華!また皆で来ようよ!」
「そうそう!」
「お前等な…」
「大輔君!久留美ちゃんの事、しっかり見てやんなさいよ!」
美樹の言葉に、後ろにいた大輔と麗華の側にいた久留美に、七海達は一斉に目を向けた。二人は呆気な顔を浮かべながら顔を見合わせた。
「あらぁ?お二人さんって」
「そう言う関係だった?」
「な……・馬鹿な事言うな!!」
「そ、そうよ!!大体、何でこんな男私が!!」
「それはこっちのセリフだ!」
「久留美、顔赤いよ?」
「へ、へへ、変な事言うからでしょ?!」
「大輔、お幸せにな!」
「章義!テメェ!!」
顔を赤くして、章義の胸倉を掴んだ。章義はニヤ着いた表情で、彼をからかった。そんな二人の姿を見て、皆大笑いした。
〝ボ――――”
汽笛が鳴り、船が出発した。船の縁へと行き広達は追いかけて来る久留美達に手を振った。
「じゃあねぇ!麗華ぁ!皆ぁ!」
「また来いよぉ!」
「今度は友達として、待ってるからぁ!」
「ありがとうなぁ!!」
手を振る久留美達……広達が手を振る中、麗華は手を振らず追いかけて来る皆をただ見ながら思い出した。
島で過ごした二年半……あれ程島が嫌いだった……あれ程この島を憎んでた……
目に映る、久留美達の姿……ずっと見方をしてくれた大輔……いじめが始まる前まで、友達だった七海……
色々な気持ちがこみ上げ、目から涙を流し麗華は広達から少し離れて、手を振り返した。
ギリギリまで来ると、皆はそこで立ち止まり手を振り続けた。船が見えなくなり、振るのを止めると心地よい波風が吹いた。
「麗華……本当に来るかな」
「来るさ……今度は、笑って」
「そうだよね……だってもう、友達だもんね」
「うん……」
波に乗り動く船の上……広達は島で探検したこと見たことを話し合っていた。そんな話をぬ~べ~は少々キレながらも、笑いながら聞いていた。
縁に寄りかかり、空を見上げる麗華……
「何見てんだ?」
「見てない……考え事」
「考え事?」
「あのいじめ……私にも原因あったんじゃないかなぁって……」
「……」
「考えてみるとさぁ……あの時からもう、壁作ってたんだと思う。
それをアイツらは懸命に、壊そうとしてくれてた……でも、受け入れようとしなかった。
普通に受け入れていれば、あんな事なかったかもなぁ」
「そうかもな」
麗華の頭を撫でながら、龍二は笑みを溢した。ふと広達の方に目を向ける麗華……彼らは話し合っている中、ぬ~べ~に絡まれながら笑い合い楽しんでいた。
「あいつ等があきらめず、お前の壁を壊してくれたから、今のアイツらの気持ちが分かったんじゃねぇのか?」
「……そうかもね」
「麗華ぁ!こっち来て、一緒に遊ぼう!」
「お前等なぁ!!危ないところに行くなと、あれ程!!」
「いいじゃねぇか?馬鹿鵺野」
「そうそう」
「だから、『馬鹿』を付けるな!!」
「ンじゃ、鵺野」
「『ンじゃ、鵺野』じゃなくて!!先生を着けろ!!」
「却下!」
「俺も」
「お前等!!」
「生徒に振り回されてるな!先生!」
「一言余計だぁ!!」
からかい笑う広達……彼等に釣られて、麗華も一緒に笑った。