地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「麗!!」
「龍!!」
人の姿へと変わった渚と焔が、急いで二人を助けようと急降下した。落ちていくぬ~べ~を、雷光は何とかキャッチすると、人の姿へと変わり彼を抱えたまま麗華を助けにいった。
落ちていく麗華と大輔の手を、追いついた焔がようやく掴んだ。
「焔!」
「何とか間に合った……」
「焔!兄貴を追って!!」
「言われずとも!!氷鸞!こいつを頼む!!」
近くにいた人の姿へと変わっていた氷鸞に、大輔を渡すし焔は麗華を抱え落ちていく龍二を追い掛けるために急降下した。
渚が手を伸ばすが、龍二が伸ばす手に届かなかった。共に急降下してきた焔に抱えられた麗華は、焔の手を掴みながら伸ばす龍二の手を掴もうと、手を伸ばした……
だが、その手は届かず焔と渚は追い掛けるのを辞めた。それと共に、龍二は荒れる海へと落ちていった。
「兄貴ぃ!!」
「麗、無理だもう!!
一旦、島に行くぞ!」
「嫌だ!!兄貴が……兄貴が!!」
「嵐が収まったら、すぐに助けに行く!!だから今は島へ行くぞ!!
姉者、行くぞ」
「う……うん」
暴れる麗華を宥めながら、焔は渚と共に皆の所へと行き全員、彼と共に小島へと降りた。
“ボコボコ”
(水の中……)
暗い海の中……龍二は手を伸ばしたまま、底へゆっくりと沈んでいた。
(ハハハ……
俺、このまま死んじまうのかなぁ)
薄らと目を開き、海の上を見た。伸ばす手首には、勾玉のブレスレットが目に入った。
(親父……お袋……
もう駄目みてぇだ……)
沈んでいく龍二……瞑った目の裏に映る、麗華の姿……
(麗華……)
『お兄ちゃん!見てみて!
青と白がお花くれた!』
『お兄ちゃん!お帰り!』
『お兄ちゃん!花火が上がった!』
『お兄ちゃん!!』
蘇る幼き頃の記憶……人見知りで、自分達以外の人には、一言も喋らなかった……けど、甘えん坊で寂しがり屋だった……自分が学校から帰ってくると、一目散に抱き着いてきた。時には学校まで、焔と一緒に迎えに来た時もあった。
島から帰ってきた後も、その性格は変わっていなかった。
夏休みに入り、受験のために居間で勉強をしていると必ず、麗華は自分の近くで大人しく本を読みながら傍にいた……どこの部屋にいても、まるで引っ付き虫のように付いてくる……鬱陶しいとは、思わなかった。
(ずっと……傍にいるって約束したのに、守れなくてごめんな……)
次第に意識が薄くなり、海の中から見えた雲の隙間から現れた太陽の日差しを最後に、龍二は意識を無くした。
嵐が収まり、黒い雲が強風に吹かれ流れていく。晴れたのを確認すると、麗華は島の洞窟から飛び出し辺りを見回した。彼女に続いて、渚と焔も飛び出し麗華の傍へと駆け寄った。外は雷雨は収まったものの、今だに強風が吹いていた。
「龍……龍!!」
口に手をラッパのようにかざし、渚は呼び叫んだ。その声は島全体にやまびこの様に響き渡った。
「あの嵐だ……
運が良ければ、この島に流れ着いてるかもしれない」
「いや……絶対に龍二は、この島のどこかに辿り着いている。僕がまだ、元の姿に戻っていない」
「そうだな……
俺達も捜そう」
「うん」
ぬ~べと大輔と龍実、雷光と雛菊、氷鸞と鎌鬼はそれぞれ場所へと行き龍二を捜した。
「龍二ぃ!!」
「龍二さーん!!」
「龍二さーん!!」
「龍殿ぉ!!」
「龍!!」
「龍様ぁ!!」
「龍二ぃ!!」
「龍ぅ!!」
「龍ぅ!!」
龍二の名を呼び叫び捜すぬ~べ~達……
焔達と一緒にいた麗華は、入り江の方まで行き岩を飛び移りながら龍二を捜した。氷鸞達は森を抜け、反対の浜辺へと出て彼を捜したがいる気配がなかった。
「こんな時、空から捜せれば……」
「仕方が無い。さっきの戦いで妖力は、ほとんど使い果たしてしまったのだから……」
「……龍様」
「捜そう、氷鸞……」
「……はい」
一時間後―――――
入り江を捜す麗華……その後ろを、渚と焔はついて行きながら捜した。だがいくら捜しても、龍二の姿はどこにもなかった。
「どこにもいない……
まさか、龍は……もう」
「縁起でも無いこと言うな!!
龍は絶対生きてる!!お前の主だぞ!麗の兄者だぞ!!
簡単に死ぬわけねぇだろ!!」
渚の肩を掴み言い怒鳴る焔……すると、彼女の目から我慢していたのか涙がこぼれ落ちた。そして渚は焔に抱き着き、大声を上げて泣き出した。
そんな彼女の泣き声を、聞いていた麗華の目からも涙が出てきた。
「(何で……何でいないの?
どうして、いないの?出てきてよ……いつもみたいにひょっこり出て来て、いつもみたいに笑って私の頭撫でてよ……)
出て来てよ……兄貴……
兄貴ぃ!!」
島中に響く麗華の声……その時海から何かが浮き出てくる音が聞こえ皆その声の方を向いた。
「あれは?!」
海に浮かぶ三つの陰……その陰は岸へ向かおうと泳ぎだした。近付いてくる陰……
「丙だ……あれは丙だ!!」
「もう一つの陰は……鮫牙だ!!鮫牙の奴だ!!」
雛菊達と合流していた龍実は望遠鏡を取り出し覗き、雛菊と同じ方向を見ながらそう言った。
「それから………!!
あの二人、龍二さんと……龍二さんと一緒だ!!」
「?!」
「ほ、本当か?!」
「間違えねぇ!!」
龍実の答えを聞くと、雛菊と雷光は一目散に浜辺と向かい、その後を龍実は追い掛けていった。
海から出る丙達……その肩には意識の無い龍二が抱えられていた。岸へ上がると龍二を寝かせ、丙はすぐに治療に掛かった。彼等の元へ雛菊達が到着し、それに続いて鎌鬼達、そして麗華達が駆け付けた。
「鮫牙、何でお前が」
「海に落ちたのを見たから、急いで助けにいったんだよ……
生きてるかどうかは分からねぇ……長いこと、海の中にいたからな……」
治療する丙……麗華は龍二の傍へと行き座り込み、彼の手を握った。
「覚ましてよ……兄貴。」
「……」
何も答えない龍二……全ての治療を終えた丙は、龍二から離れすぐ後ろにいた雛菊の手を掴み、共に主か目覚めるのを待った。焔は渚と一緒に麗華の近くに寄った。
「……何で覚めないの?
皆、兄貴が目覚めるの待ってるよ?」
「……」
「ねぇ……何で覚めてくれないの……ねぇ……
ねぇ!!」
涙声になり、龍二の体を揺らす麗華……彼女の涙につられ、丙と雛菊は抱き合い泣き出した。氷鸞は笠のつばを掴み涙を見せぬように無き、雷光は後ろを振り返り泣き姿を見せぬようにした。龍実と大輔は涙を流し、顔を反らした。ぬ~べ~は目を閉じ、悔しそうな表情を浮かべながら、拳を握りしめた。
「目ぇ覚ましてよ……兄貴……
約束してくれたじゃん……ずっと傍にいるって……
握ってる手は離さないって………」
涙を流し、龍二の手を強く握りしめた。頬を伝い、麗華の涙は龍二の左手首に着けられている勾玉の上に落ちた。
「起きてよぉ……
お兄ちゃん……起きてよぉ」
手を強く握り、涙声で小さく言う麗華……そよ風が吹き、彼等の髪をなびかせた。
「……?」
握ってる手が微かに動いた。ハッとした麗華は、顔を上げ龍二を見た。
ゆっくりと、龍二の目が開いた。
「龍!!」
「龍!!」
「龍二さん!!」
「龍二さん!!」
「龍二!!」
「……丙……雛菊……それにお前等」
起き上がり、皆を見回す龍二……ふと、隣で自分の手を握る麗華を見た。
「麗華……」
「兄貴……」
麗華を見た龍二は、すぐに彼女を抱き締めた。その様子に喜んだ渚は焔に抱き着いた。焔は抱き着いてきた渚を受け止めながら喜びを分かち合った。
「お前の声……聞こえたぞ」
「うん」
抱き合う二人……龍実と大輔は、後ろを向きながら嬉し泣きをし、傍にいたぬ~べ~に向かって、雛菊は見せ物じゃないとでも言うようにして投げ飛ばした。
「な、何でぇ?」
「空気を読め。阿呆教師」
抱き合う二人……すると黒い雲の間から日差しが出て来て、太陽が顔を出した。
「……?!
鎌鬼!身体」
太陽に当たった鎌鬼の体が、光の粒となり消えかけていた。
「おや……時間が来たみたいだね」
「鎌鬼……」
「鎌鬼……」
麗華と龍二は立ち上がり、鎌鬼の元へと寄った。その様子に龍実達も、彼の元へと駆け寄った。
「龍二、麗華。
また危険になったら、助けに来るからね」
「うん」
「じゃあまた……いつでも、僕は君達の傍にいるからね」
光の粒は、空へと登り消えていった。鎌鬼がいた箇所には、黒い毛並みをしたフェレットのシガンが寝ていた。目を覚ましたシガンは、起き上がりすぐさま麗華の肩へと登り頬を舐めた。
「シガン……」
舐めてきたシガンを、麗華は頭を撫でた。
その時、海の方からエンジン音が聞こえてきた。海の方を見ると、一隻の船が島へと向かっていた。
「助けが来たんだ!」
「た、助かったぁ」
「これで全部終わったな……」
「うん……
すぐに帰る?」
「いや、焔たちの傷が治るまで、しばらくは島に留まるつもりだ」
「そう……」
「嫌じゃないみてぇだな?」
「まぁね……」
海を眺めるぬ~べ~達……龍実は鮫牙を見て、何かを決意したかのようにして、龍二に話しかけた。
「龍二さん……」
「?」
「その……
いる間でいいんで……
妖怪を式神にする方法を教えてください!」
「龍実」
「二人がいなくなった後、似たようなことが起きるかもしれない……
その時は、龍二さん達と同じ血を引いてる俺が、この島を守っていきたいんです。祖母ちゃんが以前守ってくれたように」
「……
いいぜ。
だが、手は抜かないからな。覚悟しとけ」
「よろしくお願いします」
「んで、式にする妖怪は決まってるのか?」
「はい!鮫牙の奴を」
自身の名前を呼ばれた鮫牙は、龍実に寄り自分を指差した。
「お、俺を?」
「あぁ!俺、お前が気に入った!!」
その言葉に、喜び鮫牙は飛び上がった。そんな彼等を見た麗華は自身の式神をである氷鸞と雷光を見た。彼女に連れられ、龍二も雛菊と丙を見た。二人に見られた氷鸞達は、獣の姿へと変わり甘える様にして寄り添った。丙は人の姿のまま、龍二に抱き着き甘えた。寄り添ってくる氷鸞達を二人は撫でてやった。
夜―――――
二階へ上がり、自分の部屋へ向かう龍実……ふと足を止め、龍二達の部屋へと行きソッと襖を開け覗いた。寝ている龍二の腕を枕にして眠る麗華と彼女を抱き寄せ眠る龍二……二人に寄り添うようにして、狼姿になって眠る焔と渚。
そんな二人の姿を見て、龍実はホッと息を吐き自分の部屋へ入り眠りに着いた。