地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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洞窟に残った鎌鬼達……


「そういや……お前等、何者だ?」


大輔は鎌鬼と氷鸞を交互に観ながら、質問した。氷鸞は笠のつばを少し上げ、笑みを浮かべながら口を開いた。


「私は氷鸞……麗様の式神です」

「僕は鎌田陽輝(カマタハルキ)。

童守町で霊力探偵をやっているんだ。麗華と龍二とは古い知り合いなんだよ」

「へぇ……」



“ジャリ”


「フ~……やっと着いたぁ」


洞窟に森で迷っていた広達が、ようやく辿り着き入ってきた。


「よぉ!お前等!」

「大輔ぇ!!

アンタ、よくもこの私をぉ!!」

「九条、顔怖ぇ…」

「……?!

か…かか……鎌鬼ぃ!?」


鎌鬼の姿を見た広達は、一斉に身を引いた。


「な、なな、何で鎌鬼が?!!」

「あの時、麗華が倒したんじゃなかったっけ?!」

「……君達、何か勘違いしていないかい?」

「へ?」

「僕はこの通り、以前とは服装が違うだろ?それに、僕の魂はずっと、麗華が飼っているフェレットのシガンの中にあったんだ」

「じゃあ、なんで今いるのよ!!」

「……氷鸞…だっけ?君、説明していただけませんか?あの子達に分かりやすく」

「……分かりました。

今現在、鎌鬼は私達の味方です。この世界にの言葉で表すなら、シガンに『奇跡』が起こり死んだ鎌鬼が復活したのです……麗様を守りたいという思いが強くなってね」

「麗華を?」

「僕のせいで、家族を失った……だから、その罪滅ぼしさ。理解したかい?」

「……怪しい」

「どうすれば、信じてくれるのかなぁ……」

「……

この男、一応俺の事助けてくれたぜ?」

「へ?そうなの?」

「あぁ。神崎もな」


“ドーン”


「キャア!!」


雷がどこかに落ち、激しい音が洞窟に鳴り響いた。雷に驚いた郷子達女子は、それぞれの男に抱き着いた。


「だ…抱き着くな!!」

「な、何よぉ!!べ、別にアンタに抱き着きたくて、抱き着いたんじゃないんだからね!!」

「知るか!!ンなもん!!」


言い争う久留美と大輔の様子を見た美樹は、ニヤ着いた顔で七海に近付き話した。


「何々?大輔君、麗華じゃなくて久留美が本命?」

「さ…さぁ」

「あの~……騒いでないで、早くこの子達起こすの手伝って?」


鎌鬼の声に、広達は顔を赤くして黙り込み、そのまま寝ている子達の元へと行った。


妖怪と人間

小島へと降り立つ渚……彼女の後に続いて、焔、雷光が降り立った。着地すると共に、背に乗っていた龍二達は降り武器を持ち、雷光の後ろからついて来ていた蟒蛇に目を向けた。

 

 

「ほぉ……ここが貴様等の墓場か?」

 

「それはこっちのセリフ……ここは、アンタの墓場だ」

 

「クックック……

 

それじゃあ……この姿ではなく、真の姿で貴様等と闘おうではないか」

 

「真の……」

 

「姿?」

 

「……麗華、後方」

 

 

後ろにいた龍二に言われた通り、麗華は武器を持ち焔と共に後ろへ下がった。

蟒蛇は手から水球を出し、それを空に向かって投げ放った。すると雲に覆われていた空から、一滴の雫が麗華の頭に当たった。

 

 

「!………雨?」

 

 

次々に雫が落ち、やがて雨が降り出した。雨を降らす雲を見上げていた麗華は、ふと蟒蛇の方に顔を向けた。蟒蛇は空を見上げ笑みを溢していた。雨に濡れた体は見る見るうちに巨大化していき、彼の顔も変形していった。

 

 

「す…凄い妖力」

 

「蟒蛇は……いったい何者なんだ」

 

「人の負を糧とする妖怪だ……

 

人の恨みや嫉み、悔しさ、怒りを餌にしている」

 

「伊佐那美命と同じ奴ってこと?」

 

「そういう事です」

 

「待て……その神は確か、古事記に出て来るこの日本の地を最初に創ったと言われている神。だが死に黄泉へと送られ、そこで闇の神になったはずじゃ」

 

「話だとそうだけど……仮にもし、その一部……黄泉にいた妖怪が、この地に現れていたら?」

 

「……!」

 

「雷光と蟒蛇は、まさにその一部……」

 

「元は一つ……だがある日、二つに分かれた」

 

「それが、雷光と蟒蛇……」

 

 

完全な姿になった蟒蛇は、雄叫びを上げた。それと共に雨足が強くなり、嵐のように風が吹き荒れ雷が鳴った。

 

 

「さぁて……この俺様に、適うか?」

 

 

睨み合う龍二達と蟒蛇……先に飛び出したぬ~べ~は鬼の手を構え飛び上がり、蟒蛇の顔を斬った。だが効いていないのか、蟒蛇は手に備えていた爪で、彼を攻撃し吹き飛ばした。

 

 

「鵺野!!」

 

「あのバカ教師!!

 

丙、バカ教師を頼む!!」

 

 

紙を取り出し、丙を出すと龍二は、渚に飛び乗り蟒蛇に攻撃した。出された丙は、麗華と共に壁に激突したぬ~べ~の元へと駆け寄った。

 

 

「ほら、バカ!さっさと起きて、戦うよ!」

 

 

膝を着いているぬ~べ~を立たせた丙は、彼のに蹴りを入れ前に出した。彼は白衣観音経を取り出し、蟒蛇の動きを封じた。その隙を狙い、渚に乗っていた龍二は剣を構え蟒蛇を切り裂こうとした。

 

 

“キーン”

 

 

「!?」

 

「刃が通ってない!?」

 

 

降り下ろした剣は、蟒蛇の体を弾き龍二は弾かれた衝撃で、跳ね返され地面に転がり落ちた。

 

 

「兄貴!」

「龍!」

 

 

転がり落ちた龍二の元へ、丙は駆け寄り彼の体を起こし治療を始めた。

 

 

「渚は兄貴を!

 

焔と雷光は、奴の注意を引いて!!」

 

「承知!」

「承知!」

 

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」

 

 

ポーチから取り出した紙は、彼女の言葉に反応すると黄色く輝きだした。輝きだすと、紙から雷がバチバチと鳴り出した。

 

 

「いでよ!建御雷之男神(タケミカヅチ)!」

 

 

雷は麗華の手を覆い、その激しさを増した。その手で薙刀を掴むと、雷は薙刀を覆い纏い雷の刀を造り出した。その薙刀で彼女は口笛を拭いた。その口笛に従ったのか、蟒蛇に火を吐いていた焔は向きを変え麗華の方に近付いた。飛んできた焔に麗華は飛び乗り、隙がある蟒蛇の腕目掛けて薙刀を振り下ろした。

 

刃は見事に通り、その腕を切り落とした。蟒蛇は腕に走った激痛に、思わず叫び暴れ出した。白衣観音経を外したぬ~べ~は、素早く後ろへと引き鬼の手を構えた。

地面に降り立った焔は、心配げに麗華の方を見た。麗華は息を切らしながら、焔から降りたが足がふら付き倒れかけた。焔は彼女を慌てて鼻先で支えた。

 

 

「麗、大丈夫か?」

 

「何とか……

 

けど……使えて、多分あと一回」

 

「……」

 

「この尼ぁ!!

 

よくもこの俺の腕をぉ!!」

 

「悔しいなら、さっさと掛かってくれば」

 

 

麗華の挑発に乗った蟒蛇は、口から無数の毒針を吐き出した。その針を麗華は薙刀を使いながら、全てを避けて行った。その動きは、まるで風に乗って舞う花弁の様……全ての針を避けた麗華は、舞の終めの様に地面で薙刀の柄を鳴らし蟒蛇を睨んだ。

 

 

「さすが、巫女だな……

 

それじゃあ……これはどうだ!!」

 

 

蟒蛇は麗華に向かって口から液体を吐き出した。麗華はその液体を、素早く避け別の場所へと移動した。その姿を見た蟒蛇は笑みを溢した。

 

 

「掛かったな?」

 

「?……!!」

 

 

地面に足が着くと共に、麗華の足首に無数の蛇が巻き付いてきた。それと共に地面から蛇があふれ出してきて、麗華の周りを囲い一つの檻を作り上げた。

 

 

「悪いが、貴様には大人しくしててもらう」

 

「アンタ……どこまで意地汚いの」

 

「さぁな……クックック。

 

さてと……言葉通り、大人しくしててもらうぜ」

 

「は?それって」

 

 

何かを言い掛けた時、蟒蛇の口から吐き出された針が、麗華の首に刺さった。その瞬間、麗華は力が抜けたかの様にその場に座り込みそのまま倒れてしまった。

 

 

「な……何…した……の?」

 

「毒だ。しばらくは動けまい」

 

「麗華!!」

 

 

檻の中で倒れている彼女に気付いた龍二は、すぐに檻へと駆け寄り中にいる麗華を見た。彼女は寄ってきた龍二に目を向けながら、何とか体を起こし格子となっている柱に手を掛けようと触れた。その瞬間、格子の形を作っている蛇に噛まれかけ慌てて手を引いた。

 

 

「麗華……」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

息を切らし、苦しそうな顔を浮かべる麗華……そんな彼女を見た龍二は、触れられない自身の手を見た。

 

 

「どうだ?大事な者に、触れられない悔しさは」

 

 

檻の中で苦しむ麗華……龍二の目に一瞬、その姿が幼い頃の姿を映した。自分が無力なばかりに麗華は、自分達から離れたこの島へと着た。

 

 

「……

 

大地の神告ぐ」

 

「?」

(兄貴?)

 

「汝の力、我に受け渡せ……

 

その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」

 

 

小さい声で呟きながら、上着のポケットから一枚の紙を取り出し、蟒蛇の方を向いた。そして彼を睨むと大声を出した。

 

 

「いでよ!!建御雷之男神(タケミカヅチ)!!」

 

 

その声に反応し、紙は麗華と同様に稲妻を放ち、龍二の手を雷で覆った。その手で剣の柄を握ると、麗華同様に雷は剣を覆い雷剣を造り出した。それを持ち龍二は、蟒蛇の背後へと周り彼の尾を切り裂いた。

 

 

「クソッ!!

 

兄妹揃って、よくもこの俺様の体を!!」

 

「ざまぁみろ」

 

「だが、勝ち誇ってるのも今のうちだ」

 

 

ふと疑問に思ったが、その疑問は蟒蛇の姿を見て瞬時に解決した。麗華に斬られた腕の箇所から、そして先程自分が斬った尻尾から新たな腕と尻尾が生えてきた。代わりに切られた腕と尻尾は、無数の蛇の群れになり崩れ落ち、そのまま渚達に寄って攻撃してきた。

 

 

「悪いな……

 

俺には、再生能力があるもんでな」

 

「そ…そんな」

 

 

渚と焔は空へと飛び上がり、焔は口から炎を吹き攻撃していった。渚は人の姿へとなり装備していた槍で蛇達を攻撃した。

 

 

「鬼の主!!貴様のその左手で、そこにいる巫覡を殺せ!!」

 

「?!」

 

「さもなくば、この巫女がどうなることか……」

 

 

蟒蛇が指を鳴らすと、格子の形を作っていた蛇の一部から、数匹の蛇が麗華向かって寄ってきた。麗華は持っていた薙刀を杖代わりに使いながら立ち上がり、ふらつく足で息を切らしながら、自分に寄ってくる蛇を薙刀を振り回し防いだ。

 

 

「麗華!!」

 

「さて、あれがいつまで続くか……

 

言っとくが、あの蛇たちには俺と同様、猛毒を持っている。噛まれたら一瞬であの世行きだ」

 

「蟒蛇!!お前は、麗華に何かされたのか?!」

 

「いや、何もされていない。寧ろ感謝している……

 

この俺を解放してもらったからな」

 

「じゃあ、なぜ」

 

「あの巫女を思い出すからだ……

 

この俺を封じ込めたあの忌まわしい女を」

 

「……」

 

「そもそも、元の発端は貴様等人間だ。俺達に散々危害を加えながら、いざ自分達が危険な目に陥った時、突然手の平を変えたかのように態度を変え、俺達に頼み込んでくる始末だ。

 

そして、俺達が危害を止めなければまた危害を加える……

 

そこにいる鬼驎も同じだ」

 

 

自信が放った蛇の群れを、切り裂いていく人の姿となった雷光の姿を見ながら蟒蛇は言った。

 

 

「………確かに、お前達は酷い仕打ちを受けたかもしれない………

 

だが、その人間が変わろうとしていたらどうする」

 

「人は変わりはしない………

 

 

さぁ、早くその巫覡を殺せ!!」

 

 

尻尾を地面に叩き付け、威嚇する蟒蛇……その振動で、麗華は体勢を崩し檻の中で倒れた。彼女の倒れる音に気づいた龍二は、麗華の方に顔を向け駆け寄ろうとしたが、近寄れないことを思い出し足を止めた。

そして意を決意したかのようにして、踵を返しぬ~べ~の元へと行った。

 

 

「龍二……俺には」

 

「鵺野……」

 

「……!!?」


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