地獄先生と陰陽師少女 作:花札
森の中を歩く麗華達……
奥へ行くと、天井の無い洞窟に着いた。警戒しながら中へ入ると、奥に連れ去られた子達が綺麗に揃え並べられていた。
「何これ」
「連れ去られた奴等だ……」
全員を見回す麗華と龍二……ぬ~べ~は霊水昌をかざしながら一人一人を見た。
「全員、眠らされているだけだ。
見たところ、目立った外傷はない」
「てことは、ここが蟒蛇の住処か?」
「おそらくな……微かだが、奴の妖気が残っている」
「それじゃあ、おかしいね。
住処の主がいないなんて……」
「どうせ、島のどこかにでも行ってるんじゃないの?」
「いや……恐らく違う理由だろ」
「え?」
「どういう事だ?鵺野」
「あの蛇の他に、違う妖気が残っている……」
「違う妖気?」
「……雷光だ」
「?!」
ボソッと焔はそう言った。焔の方を振り向いた麗華は、居た堪れない感情に締め付けられ胸の前で手を強く握りしめ、絞るようにして言葉を放った。
「まさか…雷光は」
「それはねぇ。
あの雷光だぜ?簡単に死ぬか」
“パチパチパチパチパチ”
奥から聞こえる拍手の音……
「素晴らしいぜ……見事に当たってやがる」
「オメェ……」
中から出てきたのは、遙達を浚った犯人……蟒蛇だった。爪には赤黒く乾いた血がべっとりと着いていた。
「雷光は?」
「あぁ……鬼驎なら、お前等の後ろにいるぜ」
「?!」
「ほ~ら、島の守り神のご登場だぜ?」
後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。振り返ると、馬の姿をした雷光が姿を現れた。
「雷光…」
「麗華、近付くのは待って」
「え?」
「君は誰だい?」
「……誰でもない……
我が名は『鬼驎』だ!!」
角に雷を溜め、溜めた雷を麗華向けて放った。傍にいた鎌鬼は彼女を抱き上げ、その攻撃を飛び避け龍二の元へと着地した。
「雷光!!」
「テメェ!!雷光に何やりやがった!!」
「な~に……少しばかり、記憶を弄ったんだよ。
お前達の記憶だけ、アイツの中から消したんだ」
「?!」
その言葉に、麗華は後ろを振り返り雷光を見た。彼の目は初めて出会った頃の目と同じ色をしていた。
「ら…雷光」
「我が名は鬼驎!!」
「雷光!!目を覚ませ!!
私が分からないの?!」
「雷術千鳥流し!!」
角に溜めた雷を、四方に放ち攻撃した。龍二とぬ~べ~は素早く避け、鎌鬼は麗華を抱きかかえ攻撃を避けて行った。焔と渚は雷光の背後に周り炎と水の攻撃をした。その攻撃を、雷光は素早く避け二人の方へ振り向き、雷を放った。
「グアッ!!」
「キャッ!!」
「焔!!」
「渚!!」
「クソ!!
どうすればいいんだ!!」
「戦うんだよ!!
鵺野と俺は蟒蛇を相手する!!麗華は鎌鬼と雷光を止めろ!!」
「分かった!」
「承知!」
「渚!!焔!!立てるか?!」
「無論だ!」
「無論よ!」
「二人は引き続き、俺らの援護にまわれ!!」
「承知!」
「了解!」
蟒蛇の方を睨む龍二と鵺野……蟒蛇は笑みを溢しながら、二人を睨んだ。
「三年前……あの女は突如やってきた。
クっクック……思い出すぜ。何せ昔この俺を封印した巫女と同じ、霊気を感じ取ったんでな。
まさかと思い、その辺にいた妖怪とあの女を戦わせた……そしたら、ものの見事に倒しやがった。こりゃまずいと思って、アイツをこの島から追い出すことにした……この島に二度と訪れたくない思いをさせてな。」
「全てはテメェのせいか……」
言いながら龍二は握っていた剣の束をさらに強く握り締めた。
学校に麗華の知らせを受け、早退し麗華の元へと駆け付けた龍二……その時の麗華は、去年の夏休みに観た時よりも、表情が暗くなり服の隙間から見える肌には、所々痣や傷が合った。
あの時の彼女の姿を思い出した龍二は、歯を食い縛り握られていた剣を構え、蟒蛇を睨み付けた。
「おぉ…怖い怖い。
その目付きだけは、兄妹一緒だな?」
「いちいち、ムカつく野郎だ……
鵺野!テメェは俺の後方を頼んだぞ!」
後ろにいるぬ~べ~に命令すると、龍二は剣を振りかざし蟒蛇目掛けて振り下ろした。振り下ろした剣を、蟒蛇は爪で受け止めた。受け止められた蟒蛇に、ぬ~べ~は鬼の手で攻撃した。
「鬼の主か?面白い……
やはり、あの女の心を二度と修復しないくらいに、壊しとけばよかったか」
「何だと?!」
「アイツの心を、完全に壊し二度と『人』として、生きられぬようにすればよかったな。そうなれば、貴様等は決してここに来ることはなかった」
「貴様、よくも!!」
「確かにそうだったかもな……」
「龍二?」
「俺だって……正直言って、ここに来たくなかった。
大事な妹を他人の手によって、壊されてさ……まだ小せぇんだぜ?小さかったんだぜ……俺とお袋以外に懐こうとしないで……人見知りで…甘えん坊でさ……けど…スゲェ優しくてさぁ……」
涙を流し話す龍二……ぬ~べ~は蟒蛇から離れ、龍二の方に顔を向けた。
「そんな大事な妹を……俺は手放して、他人に預けちまった……自分が、無力なばっかりに。
そしてあの日……お昼過ぎだったかな……
担任から呼び出された……妹がクラスメイトに怪我を負わせたって。担任もだぜ?怪我を負った奴等は皆、全治一カ月の大怪我……
一瞬、信じられなかった……妹は…そんなことする様な奴じゃなかった」
「龍二……」
「だから……島から依頼が届いた時……正直一瞬放棄しようかと思った。
けど、一緒に入ってた龍実達からの手紙で、行くことを決めた。あの婆さんが、麗華に謝りたいって……
手紙に、その一文だけ書いてあった……だから、ここへ連れてきた」
「そうだったのか……」
「クっクック……過去話は終わりか?
俺は復活し、この島の奴等を食らい島を住処とし、人間どもを復讐するつもりだった……あそこにいる鬼驎と共にな」
「雷光は、お前みたいな考えは持っていない!!」
「知ったことか!!俺達は散々人間から酷い仕打ちを受けてきた!!その人間 共に復讐して、何が悪い?
何なら、貴様の妹を殺してやってもいいんだぜ?先に……この島にいる住民より先にな!!」
その言葉を叫ぶと、蟒蛇は口から鋭く尖った柱を出し雷光と向き合っている麗華目掛けて投げ飛ばした。雷光の方を向いていた麗華は、龍二の声に気付き後ろを振り返ったが、柱はもう彼女の目の前まで迫っていた。
“パーン”
「!!」
目の前に迫っていた柱は、突如何者かが弾き返し壁に突き刺さった。壁に刺さった柱を見つめていた麗華は、自分の前に立っている者に目を向けた。
「ほ……星崎?」
「ギリギリか」
彼女の前に立っていたのは、木刀を握りしめ構える大輔だった。麗華は話し掛けようとしたが、その瞬間雷光が雷を放ち攻撃してきた。
「星崎!!右!!」
その声の指示通りに、大輔は右に避け自分も右へと避け、二人は雷光の方を睨みながら武器を構えた。
「何だ?この馬…」
「雷光……私の式神。
今はあの妖怪のせいで、操られてるけどね」
「マジかよ……」
「つか……何でアンタがここに?他の皆は」
「さぁな……何か嫌な直感が働いたんで、ここに駆け付けたから。多分、その辺の森で迷子」
「ハハハ……アンタらしい」
「どういう意味だ?それ」
「そのまんまの意味」
「ったく……助けてやったのに、礼も無かよ」
「……ありがとう」
小さい声でだがハッキリと言うと、麗華は頬を赤くしてソッポを向いた。そんな彼女を見た大輔は、鼻で笑った。
「てめぇ…相変わらずだな」
「それは、お互い様」
「だな」
「あの~……お二人さん。
話してないで、ちゃんと目の前にいる敵に集中しなさい」
後ろで二人を見ていた鎌鬼は、遠慮深そうにそう言った。二人は引き攣った顔を浮かべながら、武器を握りしめ構え雷光を見た。雷光は前足で土を蹴り飛ばしながら、角に雷を溜め攻撃をしようとしていた。
一方龍二達は、麗華の無事に安心した龍二とぬ~べ~はつかさず、蟒蛇に攻撃をしてきた。蟒蛇は攻撃を次々に避けて行き、二人目掛けて攻撃をし返してきた。
“ドーン”
二つの戦いの合図を送るかのように、天から雷が離島に落ち激しい音を鳴らした。
その頃、広達は……
「ここどこよぉ!!」
大輔が言った通り、森の中で迷子になっていた。龍実と鮫牙もいつの間にか逸れてしまい、残った広達は途方に暮れていた。
「もう!!何で大輔の奴、いきなり走り出したのよ!!」
「久留美、怖いよ」
「うるっさい!!こっちはいなくなった大輔にムカついてんのよ!!」
「龍実さんとも逸れちゃうし……」
「くそぉ……このままじゃあ、麗華達がヤバいぞ!」
「一旦、戻るか?」
「何言ってんの?!!ここで引き返したら、島にいる大人達に隔離されて二度とここへ来れなくなるわ!!今は引き返すわけにはいかないのよ!!」
「そ、そりゃあ分かってるけど(何か言い方がおかしい様な……)」
「あ~もう!!
どこなのよぉ!!ここはぁ!!」