地獄先生と陰陽師少女 作:花札
その時、部屋の襖を開け七海達が入ってきた。
「七海ちゃん?!」
「大輔君!?それに、久留美ちゃん!」
「渡部が連れ去られた」
「?!」
「ぬ、ぬ~べ~は?!」
「麗華は?!それに、龍二さんは?!」
「三人は無事だって、さっき町長さん達が話してた……」
「よ、よかったぁ」
「これから、麗華達どうすんだろ……」
「おそらく、離島に乗り込むかもしれない」
「離島?何で?」
「言い伝えであるんだよ。
離島にはあの蛇野郎の住処があるっていう言い伝えが」
「じゃあ、麗華達は」
「そこへ行く可能性は高い」
「こうしちゃいられねぇ!!
俺達も助太刀に行くぞ!!」
「そうよ!!行きましょう!」
「怖がってる場合じゃないのだ!!」
「まことの言う通りだ!!
大輔、俺達を離島に連れて行ってくれ!!」
「……
東の小島に来い。俺等も後から行く」
「分かった。行くぞ!」
「うん!」
広の掛け声で、郷子達は宿を飛び出していった。
そんな彼等の背中を見る大輔と七海……
「麗華……本当にいいお友達ができたね……」
「うん……あんな人達に囲まれれば、麗華だって変るよ」
「だな……
俺達も行くぞ」
「うん!」
「うん!」
「ったく……何で頼りない教師を連れて行かなきゃいけないんだよ」
「お前等二人が戦うっていうのに、教師である俺が手伝わなくてどうすんだ!」
「教師の割には、役に立たないがな」
「丙の言う通りだ」
「ウゥ……」
丙と雛菊から治療を受ける龍二達に言いたい放題言われるぬ~べ~は、肩を縮めながら図星だというような顔を浮かべた。治療を終えると二人は服を着て、上着に腕を通し表へと出た。二人を待っていたかのように、狼姿となっている渚と焔は顔を上げ二人に駆け寄った。
渚達の頭を撫でていると、湿った風が吹き出した。その風に何かを感じ取ったのか、段差に腰を掛けていた鎌鬼は立ち上がり離島を見た。
「ゆっくりしている暇はないみたいだよ」
「……」
「雨が降る前に、奴を倒さないと」
「どういう事だ?」
「あいつ、水攻撃が効かなかったんだ……」
「渚の技がか?」
「うん……
水に強い妖怪は、雨の中が有利になる。河童と同じ様に」
「ヤバいじゃないか…それ」
「早く行こう。
さらわれた島の子供達にも、時間がない」
「あぁ」
丙と雛菊を戻した龍二は、渚に飛び乗り先に離島へ向かった。先行く龍二を見た鎌鬼は焔に飛び乗り、麗華は氷鸞にぬ~べ~を乗せると、鎌鬼の手を借り焔に飛び乗った。
「鵺野は氷鸞に乗ってついて着て!氷鸞、離島まで鵺野を頼んだぞ」
「承知」
「焔、行って!」
麗華の言葉に焔は離島へ向かった。彼の後を氷鸞は翼を広げ、後をついて行った。
三人が行ってしばらくした後、七海と久留美の母親が血相を掻いて町長の元へと駆け込んできた。
「九条さん?どうかされ」
「久留美は?!娘は今どこに!!」
「お、落ち着いてください!どう」
「七海を知りませんか?!
あの子、今朝から姿が見えないんです!!」
七海と久留美の母親が、町長の肩を掴みながら娘の行方を聞き出そうとしていた。その時宿の女将の美香が困ったような顔して町長の所へと入ってきた。
「大変です!!子供達が……子供達がいなくなりました!!」
「?!」
「どういう事です?!」
「麗華ちゃんのお友達が、部屋から消えていたんです!
担任の鵺野さんから、部屋から出すなと言われていたんですが……私が目を離した隙に」
その話を部屋の外から聞いていた龍実は、離島の方へ眼を向けながら浜辺へ行き、波際う所に足を運び離島を見た。
(まさかアイツ等……離島に行ったんじゃ)
「行きてぇのか?離島に」
声の方向に顔を向けると、海から男が一人上がってきて自分に近寄ってきた。龍実はその男に見覚えがあった。
「お前……確か」
「俺は鮫牙。
お前、あの島に行きてぇんだろ?」
「あぁ……麗華と龍二さんを助けてぇ!」
「なら、話は決まりだ!
俺に乗れ!」
そう叫びながら鮫牙は、海へと飛び込み鮫の姿へと変わり背びれを出し龍実を待った。龍実は海へと入り鮫牙の背びれを手に掴み、それを確認した鮫牙は離島へと一目散に向かった。
離島に着いた麗華達……
地面へと降り立った渚から飛び降りると、龍二はすぐに札を取りだし血を付け剣を出した。少しして焔と氷鸞も着地しぬ~べ~は、地面へ転げ落ちると、命拾いしたかのような表情で息を吸っていた。彼の姿に呆れながら、鎌鬼の手を借りながら焔から降りた麗華は札を取りだし血を付け、薙刀を出し彼の傍にいた氷鸞の顔を撫でながら、ぬ~べ~を見下ろした。
「大丈夫か?鵺野」
「し…死ぬかと思ったぁ」
「氷鸞、お前まさかいつものスピードで飛んできたんじゃ……」
「その様にしましたが、何か不都合な事でも?」
「鵺野は私じゃない。
あんなスピード出したら、普通に慣れてない奴はこうなる」
「ハァ……」
「も、もう乗りたくないぃ……」
「アハハハ……(帰りは、焔に乗せてくか)」
“ビュー”
突如吹き荒れる風……下ろしていた髪が靡き、風の方へ眼を向けた。太陽が出ていないせいか、森の中は夜のように暗く広がっていた。
「嫌な風……」
「だな……」
「鵺野、もう鬼の手を出せ。
麗華、氷鸞を戻せ。焔と渚はそのままの姿で。
戦闘になった際は、俺と麗華が前方で鵺野と鎌鬼は後方を。焔と渚は俺等の側方を」
指示を出す龍二に、驚いているのか口をポカンと開けるぬ~べ~……下ろしていた髪をまとめ上げた麗華は、ポカンと開いている彼の口を閉じるかのようにして、飛び上がり彼の頭を殴った。
「ン~~~~~!!」
舌を噛んだのか、ぬ~べ~は赤く腫れた舌を出しながら麗華を怒鳴りつけた。
「へいか!!いはま~!!!(麗華!!貴様ぁ!!!)」
「何言ってるか、全然分かんないんだけど……」
「ほのぉ!!(このぉ!!)」
「アンタがポカンとしてるからでしょうが。
いい?こっからの戦い方に、口出ししない様に。何があっても、自分のポジションから離れないこと。
離れれば、全員死ぬ」
「全員死ぬ」
手に指なしグローブを嵌めながら、龍二は麗華と同じ言葉を口にした。彼と同じ様にグローブのテープを締めると麗華は地面に突き刺していた薙刀を柄を掴み引き抜き、前に立っている龍二の隣に並ぶようにして立った。
そんな二人の背中を見るぬ~べ~……
(何て大きな背中なんだ……教師の俺を遥かに超えている、この兄妹。
お互いを信じ合い、自分の背中を任せる……)
「何言ってるんだい?二人共。
君達の命は、僕は奪えさせはしないよ」
鎌を担ぎ笑顔で、鎌鬼はそう言った。
「後、麗華にそんな怪我を負わせた妖怪は、この僕がスパッと切っちゃうから。ね?」
「鎌鬼、何か怖ぇぞ」
「そうかい?」
同じ頃、船から降りる広達……薄気味悪い森を眺めていると、どこからか湿った風が吹いた。
「何か…怖いのだ」
「ビビッてねぇで、さっさと行くぞ」
「こ、怖くないの?大輔君は」
「怖ぇさ。
けど、この島に連れ去られた渡部達の方が、もっと怖ぇに決まってる」
そう言いながら、大輔は持っていた袋から木刀を取り出した。彼に続いて七海と久留美も、自身が持っていた彼と同じ袋から竹刀を取り出した。
「え?」
「木刀?それに竹刀?」
「無いよりマシだ。
家にあったのを持ってきただけ」
「使えるの?」
「見縊らない方が良いよ?
大輔は、島一番の剣道達人よ」
「嘘?!」
「四段だっけ?」
「二段だ。盛るな」
「す、スゲェ……」
「ちなみに私と久留美は、まだ段取ってないんだ」
「でも、実力なら負けないんだからね」
“バシャ―ン”
突然海の方から、何かが落ちた様な音が聞こえ、海の方に目を向けた。そこには鮫牙と共に、海から上がってくる龍実がいた。
「龍実さん?!」
「テメェ等!!何島から出てんだ!!」
「!!」
「広君達はまだしも、大輔達三人は狙われの身なんだぞ!!」
「そんなの分かってる。だからここにいるんだろうが」
「テメェの剣道の実力は十分承知してる。けどな……
麗華達が相手をしようとしてるのは、妖怪なんだぞ!!霊力も妖怪に対抗できる武器も持ってねぇ奴が助けに行った所で、邪魔者扱いだ!!」
「武器なら竹刀と木刀が」
「そんなもん、妖怪にへし折られて使い物にならないのが落ちだ」
「じゃあ指銜えて見てろってことかよ!」
「その通り」
「嫌だね」
龍実の言葉を断ち切るようにして、大輔が口を開いた。
「神崎の奴は、五年前からずっと俺達を守ってきた。
今まで俺達が大怪我や死人が出なかったのは、全部アイツのおかげだ……
俺はあいつに恩返しをしたい……それだけだ」
「大人達は頼りにならない。だったら、私達が動いて麗華を助けるって決めたんです」
「麗華をずっといじめてた……例え妖怪のせいでも、私がやったことに間違いはない。
せめてもの罪滅ぼしに、私麗華を救いたいの!」
「お前等……」
「お、俺達だって!なぁ?!」
「お、おうよ!」
「私達は、地獄先生のクラスメイトよ!」
「妖怪だろうが幽霊だろうが、ドーンと来いってもんよ!」
胸を張り偉そうに美樹は言った。彼女に続いて、広達も胸を張った態度で頷いた。
「へぇ……いいこと言うじゃねぇか?なぁ?」
「あ、あぁ……」
広達を見る龍実……幼い頃の麗華を思い出した。
あの頃の彼女は誰にも心を開こうとはしなかった。自分にさえ完全に心を開いてはくれなかった……
だが、今の麗華には心を開いた友達がいる……しかも自分の目の前に……
嬉しさからか、龍実の目から自然と涙が流れ出てきた。出てきた涙を拭き取りながら、笑みを浮かべ広達を見た。
「お前等の気持ち、嬉しいよ……」
「龍実さん」
「行こう。麗華の所へ。
鮫牙だっけか?お前も一緒に来てくれ」
「お安い御用だ!」
「よっしゃあ!!皆行くぞぉ!」
「オー!!」
「オー!!」
「オー!!」
「オー!!」
「オー!!」
「オー!!」