地獄先生と陰陽師少女 作:花札
氷鸞から降りると、そこへぬ~べ~と龍二が通りかかった。
「コラぁ!!お前等!!」
「説教してる場合じゃないわよ!!ぬ~べ~!!」
「どうしたんだ?氷鸞何かに乗って」
「大変なんだよ!!
久留美の奴から、妖怪が現れたんだ!!」
「その妖怪と神崎さんが、戦っているんです!!」
「?!」
「渚!!」
「分かっている!!」
「氷鸞、案内しろ!
鵺野は、町長達の所へ行ってろ!麗華を連れて、俺もすぐに行く!」
「無茶はするなよ!龍二!」
渚に飛び乗り、氷鸞と共に空を飛んで行った龍二に叫びながらぬ~べ~は三人を見送った。
見送ると、ぬ~べ~は大輔が背負っている久留美を受け取り、広達を連れ急いで町長の家へと向かった。
“ドン”
「がはっ!」
木に身体を叩き付けられた麗華は、蹲り痛みを堪えた。傍では傷だらけになった焔は体に出来ている傷の箇所を押えながら彼女の元へと駆け寄ってきた。
(どうしよう……敵わない……)
薙刀を松葉杖代わりに使いながら、立ち上がり荒い息を整えた。目の前にいる敵は、恐らくまだ半分も力を出し切ってはいない……
「どうした?もう終わりか?」
「……んなわけ…ないでしょ……」
薙刀を握り締め、敵目掛けて振り下ろした。敵は片手の爪でその攻撃を受け止め、もう片方の爪で麗華の腹を斬った。力を緩め、腹を抱えて膝を着いた彼女の隙を狙い、敵は薙刀を受け止めていた手で投げ飛ばした。
飛ばされた麗華を、焔は先回りし彼女を受け止めた。
「麗、大丈夫か!?」
「な、何とか…悪い、焔」
「礼には及ばねぇ」
「やはり弱者か」
「?!」
「大口叩いといて、結局妖怪の手を借りないと、何もできないわけか……
哀れな女だな、貴様は」
「うるさい!!
妖怪の手を借りずとも、こっちは式神はいなくとも自分一人で戦えるよう、厳しいあの地獄のような修行をやり抜いたんだよ!!」
ポーチから一枚の紙を取り出した。
「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」
その言葉に反応するかのように、紙が青く輝きだした。輝きだしたと同時に持っている紙から、水が溢れ出てきた。
「いでよ!海神!」
水は麗華の手を覆うと、槍のような形へとなりその槍を麗華は敵に向かって突いた。敵の体を貫いた水の槍は、一瞬に消え弾いた水に驚き、後ろへと下がり即座に薙刀を構えた。
「己ぇ!!
何をしやがった?!!」
「陰陽師を甘く見るな!
例え式神が使えなくとも、こっちにはこの地に司る神々の力を借りて、勝負することができる!」
「クソ!!ナメた真似をしやがって!!」
怒りに満ちた目で麗華を睨む敵……だが彼女は先程使った技の影響か、息が荒くなり地面に膝を着いた。
「麗!」
「目眩がしただけ(やっぱり使うと、体にくる……)」
『お前は体が弱い……
技を使えば、体にくる……使う時は、十分注意しろ』
思い出す男の言葉……息を切らし、薙刀を強く握りしめながら、敵を睨んだ。
(ったく、何でこんな弱い体で生まれたんでしょうかね……)
「どうやら、一回が限界のようだな?それじゃ、こちらも攻撃させてもらおう」
「?!」
敵が攻撃の構えをした時だった……
「水術!水鉄砲!」
空から水鉄砲が敵目掛けて放たれてきた。敵はその攻撃を避け、後ろへと下がり空を見上げた。すると麗華達の傍に何者かが通り過ぎた。
敵はハッと何かを察したのか彼等の方に目を向けた。だがそこには二人の姿はなく、空から攻撃したと思われる影が、いつの間にか消えていた。
(逃げたか……まぁいい。
こっちにはまだ、やらなくてはならないことがあるのだからな……)
町長の家に着いた龍二は、麗華を担いで中へと入った。別室で丙の治療を受けている最中、龍二は広達と町の大人達が集まっている大広間へと入った。
「龍二君、一体この島で何が起きてるんだ?!!」
「……さぁな。
アンタ達に、どう説明していいかなんて分からねぇからな」
「っ……」
「大輔…だっけ?」
「あぁ……そうだけど」
「久留美っていう女は?」
「今、隣の部屋で寝てる。全然意識が戻らねぇんだ」
「そうか……」
「龍二」
立ち上がったぬ~べ~は、顔で合図を送り部屋の隅へと行き、龍二に小さい声で話し出した。
「さっき、七海達から話を聞いたんだが……
どういう事だ?さっきの事をあの人達に話さないっていうのは!」
「今回島で起きてることは、この島にいる奴等に原因がある」
「?!」
「龍二君」
後ろから聞こえた町長の声に、龍二は振り返り彼等を見た。町長は正座をし頭を下げ話した。
「頼む。この島で起きていることを、説明してくれ。
儂等は全てを、受け入れるつもりだ。
「……」
「頼む!」
「……」
「龍二、説明した方が」
「しても無駄」
別室から、丙の治療を受け終わり、体の所々に包帯を巻いた麗華は半袖の上着に腕を通しながらそう言った。
「麗華……」
「私は何回も忠告した。この島にいた時、霊力の強い妖怪達はいつかアンタ達を襲う……
だから、小島やこの島にある森、その他のあらゆる場所に入るなと言った。でもアンタ達はその忠告を聞こうともせず、その中に入っては怪我を負い、その起きた事々を全て私のせいにした」
「っ……」
「忠告を聞かなかった結果が、今だ……」
「だから、今お前達に助けを求めてるんじゃないのか?!」
「だから?だからって何?!!
私達は、こいつ等の道具じゃない!!
散々私を、化け物扱いして……島で起きる奇妙な事件は、いつも私のせいにされて……それが何。
まるで手の平を返したかのようにして、私達に頼って!!私がいなくなってからも、結局私の忠告を聞かずに、森や小島に行った。入る度に怪我を負い、挙句の果てには子供が神隠しにあって、自分達じゃどうしようもできなくなってしまった……だから私達を呼んだ。自分達が化け物と呼んでた私を!!」
「……い……いくら子供でも、言い過ぎだ!!」
「言い過ぎ?何がだ!!
この島にいる間、私はアンタ達に怪我を負わせないために、自分の身体を犠牲にしてまで守っていたつもりだ!!アンタ達の行いに怒り狂う妖怪達に、その怒りを私の身体にぶつけさせ、アンタ達に危害を加えさせない様にしていた!!
それなのに、アンタ達はいつもいつも……」
言葉を切る麗華……下を向き誰とも目を合わせようとせず、外へと出て行った。その後をシガンは心配そうな鳴き声を上げながら追いかけて行った。
「……言われて当然だな」
「大輔…」
「だってそうだろ?
俺達は、たかがあいつが余所から来た者で余所者扱い、そして霊感があるっていう理由だけで、化け物扱い……
一人でいるだけで、悪者扱いされて……あの時の事件だって、結局神崎じゃなくて、俺達がイケなかったんだろ?
俺達男子が大怪我を負い、担任だった鈴村はその怪我が原因で、現場復帰が出来なくなって、学校を辞め教師を辞め、今じゃ精神科の病院で入院……
もし、あの時神崎をしっかり受け入れてさえいれば、今の状況を神崎は一刻も早く解決しようと思ったはずだ」
「大輔の言い分も、一理あるな」
「龍二」
「子供は全員、別室に移動しろ。こっからは、大人の話をする。」
「え~!!」
「俺達もその話、聞きてぇよぉ!」
「一応は関わってるんだぜ!俺達」
「子供が首を突っ込むな!
さっさと、別室へ行け!」
「は~い」
納得のいかないような声を出しながら、広達は部屋を出て行き別室へと行った。別室へ行く際、大輔はふと足を止め広達が目を離した隙を狙い、踵を返し外へ出て行った。
外へ出ると、湿った風が吹き荒れていた。海沿いの土手に座り、隣で座る馬の姿をしている雷光の頭を撫でながら、海を眺めている麗華がいた。大輔は彼女の元へ駆け寄った。
「きつかったかな……言い方」
「全然……
あれくらい、当然だと思うぜ」
「……ならいいけど。
何回も忠告して、聞かなかったのが今の結果だ。
ま、私には関係ないけどね」
「……何か、随分と変わったな。お前」
「え?」
「昔はあんな風に怒鳴ったり、怒ったこと一度もなかったじゃねぇか。
どんなこと言われたって、いつも人の事睨んで何も言わずに立ち去る……」
「……環境が変われば誰だって変るさ」
「それもそうだな」
湿った風が二人の髪を靡かせ、二人は灰色に染まっている海を眺めた。
そんな二人の様子を、広達は茂みから覗き眺めながら、小さい声で話していた。
「何々?!二人って、郷子と広みたいな関係なの?!」
「美樹!!」
「大輔の奴、また面倒な女を好きになったものだなぁ」
「克也!アンタね!」
「冗談!冗談だって!!」
「全くもう」
「星崎君のあんな姿、初めて見た」
「え?そうなの?」
「うん……
大輔君、あんまり私達と話したことなかったから……なんていうか、壁作ってるって感じだったし」
「壁ねぇ」
「何か、転校したての麗華みたい」
「美樹!」
もう一度二人を見る遙……その時、海の向こうから何か黒い影が走ってくるのが見えた。遙は立ち上がり、その黒い影を見つめた。
近づいて来る黒い影は、二人の間を通り過ぎ自分の元へと寄ってくるのが理解した遙は、恐怖に見舞われ震え出した。それ気付いた七海は、怯え震える遙を心配して呼び掛けた。
「どうしたの?遙」
「あ……あれ……」
「あれ?」
「黒い影……黒い影が!!こっちに……!!う、うわぁあ!!」
突然叫びだした遙は、後ろを振り返り走り出した。遙の叫び声に気付いた麗華と大輔は後ろを振り返り、走り去って行く遙の背中を見た。
「……?!麗殿!!某に乗ってください!!」
「え?……!!
あの影!!」
「まだ狙うっていうのか?!」
「星崎は、皆を家の中に!
私は渡部を追う!」
「いつからテメェの部下になったんだよ!」
「誰も部下なんて言ってないでしょ。
アンタは私にとって、初めて出来た人間の仲間だ」
「……」
雷光に乗りながら、麗華は大輔にそう言った。走り去って行く彼女を見ながら、彼は腰に手を当てながらため息を吐いた。
(そこ……『仲間』じゃなくて、『友達』だろうが……)
森の中を走る遙……息を切らし走りながら、後ろを振り返るとあの黒い影は未だに自分を追いかけて来ていた。
走っていると、土から盛り上がっていた木の根に足を躓かせ、地面に転んでしまった。ハッと体を起こし、後ろを振り返ると、黒い影は徐々にあの小島で観た蛇の妖怪の姿へと変わり、自分に近寄ってきた。
「こ…来ないでください!!」
「……」
「(誰か…助けて!!
か、神崎さん…助けて……神崎さん……)
神崎さん!!!助けてぇ!!」
「雷術雷球砲!」
雷の弾が妖怪の背後から飛んできて、妖怪の体に激突した。妖怪は背中から煙を上げその場に膝を着き後ろを振り返った。
「か…神崎さん!!」
雷光に乗る麗華は、膝を着いている妖怪を跳び越し、尻をついている遙を雷光に乗せた。雷光の体を軽く蹴り、それを合図に雷光は妖怪を飛び越え走って行った。背を向けた麗華に、妖怪は懐から小さい針を数本取り出し、雨のように投げ飛ばした。
針に気付いた麗華は、前に座る遙を守るようにして体で覆い彼を庇った。
「ぐっ!!」
「か、神崎さん!?」
「麗殿!?」
「私に構わず、走れ!!」
麗華の言葉に、雷光は素直に従いそのまま走り続けた。