地獄先生と陰陽師少女 作:花札
入り江の海から突き出る岩を飛び移りながら、移動する郷子達……
ぬ~べ~の言いつけを守らず、郷子達は龍実から聞いた無人島へ向かっていた。
島に着いた郷子達……
「本当に誰も居ないわねぇ」
「そりゃあ無人島だからだろ」
「そ、そんな事より、僕達ぬ~べ~先生のいう事聞かなくていいのかな?」
「いいのいいの!まことはビビり過ぎだよ」
「そうそう、変な騒動のせいで、俺達の大事な夏休みの時間が潰されちゃ、堪ったもんじゃねぇよ」
「そうよ!」
「早く中に入って、探検しようぜ!」
「しようしよう!」
広を先頭に、郷子達は森の中へと入っていった。
「本当にあるの?ここに」
森の中で、祠を捜す麗華……
木陰に座りながら、傍で一緒に座る焔にほざいた。
「探して二時間……
暑さのせいで、頭がボーっとする」
「もっと奥にあるんじゃないのか?」
「フゥ……
もうひと頑張りか……?」
聞こえてくる声……その声に、手で扇いでいた帽子を頭に被り、麗華は立ち上がった。
「あれ?
麗華じゃねぇか!」
獣道から姿を現したのは、広達だった。彼等の登場に驚いていると、別の獣道からは大輔達が姿を現した。
「あれ?広君達」
「な、七海ちゃん!」
「大輔君、遙君?!」
「何でアンタ達が、ここにいんのよ」
「いやぁ、暇で暇でさぁ!」
「ぬ~べ~は、町の事件の方に行ってるし…俺等無人島ってのちょっくら、探検しに行きたかったからな」
「そうそう!
この島着て、森の中に入ったは良いけど、どこから行けばいいのか分からなくなちゃって」
「知らないよ、そんなこと。
で、星崎達は何で?」
「そ、それは……」
「九条の奴が、ここに来いって」
「あのバカ……どうせ、また私をいじめる気なんでしょ。
悪いけど、こっちは今仕事中だから、九条のいじめには付き合ってられないんで」
「仕事中?何、小学五年生が大人みてぇな事言ってんだよ!麗華」
「あのねぇ!
こっちは、元々仕事でこの島に来てんだ!でなきゃ、こんな島来たりしない!」
「麗華、そういう事言うなよぉ!
七海ちゃん達だって、凄く反省してんだぜ?なぁ」
「二人が反省したって、島の大人達が反省しなきゃ、何も変わらない。
今起きてる事件だって、大人達から見りゃ私や兄貴、お前達が来たせいで起こってるって思ってるんだから」
「おいおい!事件は、俺達が来る前から起きてんだろ?!それで何で、俺達のせいなんだよ!」
「大人の都合って奴だ。
いつもそうさ。自分達の悪い状況になると、必ず誰かのせいにして……しかも余所から来た人のせいに…」
そっぽを向きながら、大輔はそう言った。
「星崎の言う通り。私だってこの島に居た頃、ここで起こる事件は、全部私のせいにされてたからね……
そんで、今ではまるで手の平を返したかのようにして、私達二人に助けを求めてさ。情けない大人達」
「ちょっと麗華!いくらなんでも、言い過ぎよ!」
「お前らしくないぞ!麗華!」
「そうなのだ!」
「どうしちゃったの?!この島着てから、何かおかしいよ?」
「どうもしない。
とにかく、お前達は帰れ。多分今日一日は、外から出るなって町長から言われる」
「麗華はどうすんだよ?」
「引き続き、祠の捜索」
「祠?何の?」
「そう言えば、以前祖母から聞いた事あります。
この島は昔、一匹の妖怪から襲われていたと。襲われている日々が続いたある日、天から一匹の黒い馬が舞い降
り、島にある『風』の力『雷』の力を使い、その妖怪に戦いを挑みました。
しかし力が足りず、負けそうになった時、島にいた巫女の血を引いた者が神の力を借りて、馬に鬼の角を生やしその妖怪を共に、封じたと」
「それ、本当?」
「はい。祖母から聞いたので、恐らく」
「……」
考え込む麗華……
遙が話した巫女の血を引いた者……その人物は、彼女の脳裏に一人しか思い浮かばなかった。
(まさか……けど、能力はないって)
「随分と、楽しいそうな話をしてるじゃない?」
その声に、麗華は後ろを振り返った。そこには茂みを掻き分け自分達に歩み寄ってくる、久留美の姿だった。
「七海、遅いじゃない。
四人を連れて、ここに来いって言ってから、もう何分経ってると思ってるの?」
「そ、それは……」
「まぁいいわ。ターゲットの神崎さんがここに、いるんだから良しとするわ」
久留美は麗華に近付くと、後ろに隠していた手をスウッと何かを出した。その何かを麗華はすぐに手で払い避け彼女から少し離れた。払い避けられた何かは、二人の間の地面に突き刺さった……それは、包丁だった。
「久留美!!いくらなんでも、やり過ぎよ!!それ!!」
「うるさいわね!!
余所者が出て行かないなら、ここで殺しちゃえばいいのよ!特に、あの女と同じ血を引くアンタにはね!」
「?!」
「く、九条さん?」
「何言ってるの?」
「あの女よ……
あの女さえいなければ、私は『俺は』……」
久留美から聞こえる別の声……その声に、焔は反応し攻撃体制に入り麗華の傍へと寄った。彼女を心配した七海は、近寄り肩を揺すった。
「久留美?!どうしたの?!」
「飯塚、九条から離れろ!」
「え?!」
「あの女さえいなければ……俺は!!」
久留美の体全体に、黒いオーラが纏い彼女の身体から、蛇の体に長い爪を持った手を生やした男の様な妖怪が姿を現した。久留美は力なくその場に倒れ、男は抜けたと同時に雄叫びを上げ、麗華達を睨んだ。
「まさか、貴様がまたこの地へ帰ってくるとはな!!」
「妖怪?
まさか、久留美に」
「道理で……道理で、九条が変わった訳だ」
「変わった……!」
思い出す、久留美と過ごした日々……小さい頃から一緒だった七海達は、すぐに分かった。久留美は言い方はきつく、気の強い女の子ではあったが、決して誰かを傷つけるようなことをしなかったこと……
だが、それはある日……突然と変わった。まるで何かに憑りつかれたかのようにして。
「久留美に……妖怪……」
「ま…まさか、今までの事って全部……この妖怪が?」
「私を追い出したいが為に、久留美の体を借りたってか……」
そう言いながら、麗華はポーチから一枚の紙を取り出し、指を噛み血を出した。血が出た指で彼女は持っている紙に触れた。
紙から出てきた薙刀を手に掴み、そして構えた。
「何だぁ?貴様、この俺と戦おうとでもいうのか?」
「その通り。
どうせ、今起きてる神隠しは、全部アンタの仕業なんでしょ?」
「あぁ、ガキ共か。あれは俺の完全復活のために贄だ」
「贄?贄ってなんだ?」
「生贄のこと。
つまり、この場にいる全員、こいつの餌だ!」
「嘘ぉ!!」
「ど、どど、どうするのだぁ!!」
「騒ぐな!!うるさい!!」
「麗、どうする?」
「無論こいつの相手だ」
そう言いながら、ポーチからもう一枚の紙を取り出し投げた。紙は煙を放ち中から人の姿をした氷鸞が姿を現した。
「氷鸞、アンタは立野達を連れて、兄貴達の所へ。私は焔と共に、こいつの相手をする」
「しかし、この妖気は」
「いいから行け」
「承知。
行きますよ、皆さん」
「行きますって…」
「麗華は?麗華は、どうするの?!」
「私がこいつの相手をする!
だから、お前等は兄貴達の所に行って、この事を伝えろ!」
「わ、分かった!」
「星崎、飯塚、渡部」
「?」
「この事、町長達には言うんじゃねぇぞ」
「え?」
「な、なぜです?!」
「言った所で、状況が変わるとでもいうのか?!
私は、散々あいつ等に忠告した。けどあいつ等は、それを尽くいつも破った。信じようともしなかった……」
「……」
「何も変わりやしない。
だから、あいつ等にはいう必要はない。後で兄貴と私で話す」
「……でも」
「分かった」
「?!」
「ほ、星崎君!?」
「神崎の言う通りだ。
お前等、行くぞ」
「……」
倒れている久留美を背負い、大輔は先を走っていく広達の後に着いた。互いの顔を見合わせた七海と遙は、麗華を心配しながらチラチラと、後ろを振り返りながらみんなの後を追いかけて行った。
「さぁて、これでようやく邪魔者はいなくなった」
「貴様と戦うのも悪くない。いいだろう、相手してやろう」
「そりゃあ、どうも」
「さぁ、来い!」
森を抜けた広達……
「え?!」
「な、何だ?!」
「ど…どうなってるの」
「嘘だろ……」
行きは雲一つない晴れ空だったのに、森から出てきた外は、雨雲に覆われ強い風が吹きだしていた。