地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「どういう意味だ?」
「倒れる前に、黒い影に身体を突き抜かれた。
その時、見えたんだ……
どこかの祠の前で、泣きながら何かを訴えてた昔の自分の姿が」
「祠?
確か、この島にも」
「私がいつも行ってた小島と、もう一つの小島に古い祠がある。
そのどれかだと思うんだけど……」
「?どうした」
「二つとも、行ったことあるか覚えはあるんだけど……
そん時見えた祠、小島にある祠じゃないんだ」
「え?
ちょっと待て、じゃああれか?祠は他にもあるってことか?」
「だと思うんだけど……どうも、そん時の記憶が曖昧で」
「おいおい……
とりあえず、その情報をもとに明日、徹底的に島中探すぞ。その祠を。
もしかしたら、その祠に何かが封じられてて、お前が訴えたのをその何かが聞き入れて、それを利用して今に至るのかもな」
「そこに何が封印されてたの?」
「知らねぇよ。
つーか、お前その祠で、何言ったんだよ」
「……覚えてない」
「……はぁあ!?」
「だから、覚えてないって……
さっき言ったじゃん、記憶が曖昧だって」
「ったく……」
「ハハハ……」
「笑い事じゃねぇよ……」
「すんまんせん……」
翌朝……
龍二と共に、麗華はあの小島へと着ていた。森の奥には草や蔓が絡まった祠が一つ建てられていた。
「雷光を祭った社を建てた時に、一緒に建てられた祠だそうだ。
龍実兄さんの話じゃ、あの離島を中心に囲う様にして、三つの島が出来た。一つはこの島の反対方向にある小島と、もう一つはこの小島、そして龍実兄さん達が住んでる島」
「反対方向にある小島には?
行ったことあるのか?」
「あんまりない……」
「じゃあその島と、離島、そして龍実達が住んでる島の森の中を捜すか。
そのどれかの島に、多分もう一つ祠があるんだろ。何かが封印されていたもう一つのな」
「龍二さーん!!」
自分の名を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとかけてくる龍実の姿があった。
「龍実、どうしたんだ?」
「章義の奴、いなくなっちまったんだ!!」
「!?」
「嘘だろ!?だって、アイツの家には雛菊が」
「その雛菊なんだけど、何か石みたいに固まってんだ。章義の家の前で」
「はぁ?!」
「とにかく来てくれ!町長さんたち、大騒ぎしてんだ!!」
龍実に言われ、龍二と麗華は傍にいた焔と渚に乗り、龍実を渚に乗せた龍二が先に飛び、その後を焔が飛んで行った。
家に着いた龍二達は、玄関前で石になっている雛菊を見つけた。彼は丙を出し、彼女の治療をさせ麗華と共に家の中へと入った。
中では駐在さんと島の大人達、町長さんが集まっていた。大人達に囲まれ慰められている章義の母は、ずっと泣きっぱなしだった。
「龍二君!」
「町長さん。話は龍実から聞いてる」
「なら、さっそく部屋を見てくれ」
「部屋を?」
町長に案内され、二人は章義の部屋へと行った。部屋は爪で引っ掻かれた引っ掻き傷が、至る所にあり荒らされていた。
「これは……」
「こんなこと初めてだ。
今までいなくなった子達の、部屋は見たがこんなに荒らされてはいなかった。いや、それどころかまるで煙の様にして、いなくなっていたんだ」
「何ちゅう、荒らされようだ……」
壁に出来た傷痕に、麗華は触れ妖気を感じ取ろうとした。傷に触れた瞬間、フラッシュバックで何かが映った。
(あれ?……この傷痕……
どこだ……同じようなものを……どこかで……)
「鵺野?」
龍二の声に、振り返るとそこに走ってきたのか、息を切らしたぬ~べ~が立っていた。
「何で、アンタが」
「騒ぎを聞いてな。
それにこの家から、嫌な妖気を感じたんだ」
「だろうな……」
「それより、麗華を連れ出して大丈夫なのか?」
「いちいち、人の事まで口出しすんのやめてくれない?」
「あのなぁ!!」
「あ~もう!!
鵺野は黙ってろ!今回は、こいつがいなきゃ話にならねぇんだから」
「だが」
「そんなに心配なら、ついて来ればいいじゃない。
ま、焔には乗せないけどね」
「己~!!」
「まあまあ」
怒鳴ろうとしたぬ~べ~を、龍実は抑えた。彼に飽きれてため息を吐きながら、麗華は再び壁に出来た傷痕に触れた。
「フウウウウ」
肩に乗っていたシガンが、突然威嚇の声を上げながら攻撃態勢に入り出した。
「?シガン」
「麗華、どうかしたか?」
「いや、シガンが……」
「お前に関わってるのは、間違えないみたいだな。今回の犯人」
「え?」
「シガンは鎌鬼の生まれ変わり。
フェレットになっても、恐らく霊感は残ってんだろ」
「それは分かってるけど……」
「鎌鬼なら、親父と迦楼羅を殺してしまった罪滅ぼしとして、お前と俺を守ろうとすると思う」
「……」
その言葉に、麗華はシガンの方に目を向けた。シガンは彼の言葉通りだとでも言うかの様に、彼女の頬を舐めた。
しばらくして、麗華は家に居辛くなり、外で待たせている焔たちの元へと行った。気が付いたのか、雛菊は目を擦りながら、起き上がっていた。
「雛菊!」
「……麗!」
駆け寄ってきた麗華に、雛菊は立ち上がり抱き着いた。
「丙、痛い!痛い!」
「昨日の夜、凄く怖かったんだぞ!!」
「分かったから、分かったから……早く離れろ!!苦しいわ!!」
麗華に怒鳴られた雛菊は、悄気た顔で彼女から離れた。
「ったく……限度を知れよ」
「ウ~……」
「で?何が怖かったの?」
「昨日の夜、黒い影が現れて……そしたらその黒い影、形を変えて鋭い爪をもった蛇男になったんだ。
すぐに退治しようとしたら、その男に目を睨まれた瞬間、身動きが取れなくなって……」
「気が付いたら、丙達がいたと」
「その通りだ」
「見たところ、雛菊に目立った怪我もないし……」
「まじめに石になってなのか……
メデゥーサにでも、睨まれたか?」
「蛇男って言ってたぞ」
「分かってるよ!!それくらい」
「機嫌悪いな…麗」
「さっさと帰りたいわよ……こんなところ来たって、今起きてる事件を全部私のせいにされるんだから……」
「麗……」
「何でもかんでも、私のせいにして……
忠告したって、聞き入れてくれなくて……自分達が怪我をすれば、全部私がやったことにされて、犯人扱い……
(いなくなればいいのよ……皆……いなくなれば)」
『それが望みか』
「?!」
どこから聞こえた声……その声に、麗華は辺りを見回し声の主を捜した。
「麗、どうした?」
「……今、声が」
「声?」
「何も聞こえなかったぞ」
「気のせいかな……」
「麗?」
「麗華!」
龍二の声に麗華は振り返った。彼は章義を捜すと共にこの島にあるもう一つの祠も探すと伝え、丙と雛菊を戻し傍にいた渚に乗り飛んで行った。麗華は焔に乗り、小島へと向かった。
小島へ着いた麗華と焔……
「何か私、ここに来たことあるような気が……」
「俺は行ったのとねぇぜ。それよりさっさと祠見つけようぜ。
もしかしたら、二つあるんだろ?」
「多分……」
「じゃあ、早く探そうぜ」
「だね……
姿変えていいんだよ。ここ来てからあんまり人の姿になってないでしょ?」
「昨日なった。それにこっちの方が、ここにいる間は動き易い」
「シガンと同じく、鼬になってもいいんだよ?」
「っ……
うるせぇ!!」
「顔赤くなってるよ!」
先行く焔を追いかけながら、麗華は森の奥へと行った。
章義の家から出てきたぬ~べ~は、宿へ戻り部屋にいる広達にしばらくの間は外へ出るなと伝えると、必要な道具を持って宿を出て行った。
宿を出たぬ~べ~は、龍実の家の近くにある小島へと向かった。小島に付き森の中を歩きながら、霊水昌を通し回りを見ると、麗華の言う通り霊力の弱い小さな妖怪達がわんさかといた。
(この島は、本当に妖怪が多いな……
海といい島といい……そこらじゅう妖怪だらけだ)
『鵺野先生』
思い出す、麗華が転校してきた日、校長から言われたこと……
『今日君のクラスに転入する、神崎麗華さんの事だが』
『神崎が、何か?』
『以前の学校で、担任とクラスの男の子全員を、全治一か月の怪我を負わせた問題児なんだ』
『全治一カ月?!』
『そうだ。
まぁ、そのクラスにも問題があってな。クラスの一部が麗華をいじめていてな……それが原因だというんだが、実際の所は分からぬ。
鵺野先生、少々扱いにくい生徒かも知れませんが、彼女のケアと指導、お願いします』
『分かりました』
(家族から引き離され、この島へと着た……だが、島の人達更に学校の友達から、中傷的な言葉を浴びさせられた……
そうなれば、我慢も限界が来る……)
森の奥へと着くと、そこに古びた祠が一つ建っていた。祠の中を覗くと、中には水晶が一つ置かれており壁には馬と巫女が描かれた掛け軸が架けられていた
(この水晶は……それに、この絵)
「それは某の力を強めるものだ」
「?!」
その声に、後ろを振り返るとそこにいたのは、馬の姿をした雷光だった。
「ら…雷光。何でお前が」
「麗殿から、暇を貰ったのでな。久しぶりの故郷を見て回っていたのだ」
「故郷?
そうか……この島の神、鬼驎は雷光お前だったのか」
「いかにも。
『雷光』という名は、某が麗殿に仕える際、彼女から頂いた名です」
「そうだったのか……
雷光」
「?」
「この島には、たくさんの妖怪達が住んでいるようだが……全て、お前が引き寄せたのか?」
「……いえ。
この島には、某がまだこの島へ来る前、霊力の強い妖怪がいた。長い爪を武器に、島の住民を次々に喰らって行った。それを見たそなた達が言う『神』にその妖怪を封じ込めるよう頼まれ、この地へと降り立ちました。
その妖怪を倒す際、この島の巫女が私に強力な二つの力……『風』と『雷』の力を与えてくれたのです。そしてその妖怪は某の力と巫女の力により、この島に封印されました。巫女は死ぬ間際に、某が住処とする場所に社、そして三つの島にそれぞれ祠を建て、某を祭ってくれました」
「三つ?
確か、建てられたのは二つのはずじゃ」
「そのうちの一つは、その霊力の強い妖怪が封印されている……それに、その妖怪は既に復活しある者に憑りついています」
「?!」
「五年前、ある者がその祠へと行き、封印されていた札を外してしまった。その者は未だに自分が憑りつかれていることを分かってはいません……」
「何か、特徴はあるのか?」
「その者には……」
口を動かす雷光……
その話を聞いたぬ~べ~は、驚きの顔を隠せないでいた。
カーテンを閉め切り、薄暗い部屋に置かれている鏡を見る久留美……
(何で七海や遙、大輔は神崎さんに……
あんな化け物、早くいなくなればいいのよ……私にこんな傷、負わせたんだから……
一生消せない、傷を)
服を着る久留美……ランプの光で照らされ、鏡に映る彼女の背中……
その背中には、大きく三つの引っ掻き傷の痕があった。