地獄先生と陰陽師少女 作:花札
その日、小五の女の子がいなくなったと二人に伝えられた。麗華と龍二は、すぐに現場へと行き調査した。そこへ助っ人として、ぬ~べ~もやってきて三人は、その現場を隈なく調べた。
「全く妖気が感じられないな……」
「いなくなってから、そう時間経ってないはずなのに……」
「麗華、そっちはどうだ?」
「母親の話だと、昨日の夜帰ってきた橘の奴、何かに追われたって怯えた様子で家に逃げ込んできたんだって」
「またかよ……」
「どういう事だ?」
「この島でいなくなったのは、今回の橘を入れて、計五人。しかも全員小学五年生。
橘以外のいなくなった子達の親からの話だと、橘同様何かに追われたっていう証言がある。その翌日に姿を消した。」
「このままもし、五年の奴等が消えるとなれば、後五人ってところ」
「五人か……
そいつ等は、今後どう対応していくんだ?」
「するつもりはない。
ここの奴等は、妖怪だろうと幽霊だろうと、変な事件が起きれば全部、余所者のせいになる。
だから、ほっとく」
「おいおい……」
「調べは後、俺がやっとくから、お前アイツ等と遊んで来い」
「遊んで来いって……」
「広達なら、今日はこの島を探検しに行くって言ってたぞ」
「探検って……(?森……ヤバいぞ、あそこには)
焔!」
狼姿になっていた焔に乗り、麗華はすぐに森へと向かった。
島にある森を探検する広達……広達を案内する、七海と遙。
「しっかし、七海ちゃんと遙が俺等に島を案内するなんてな」
「いいのよ。昨日の事もあるし……」
「本当にごめんなさい。突然石投げちゃって……
僕と飯塚さんは別に神崎さんをいじめたくなかったんだ。普通に迎え入れたかったんです」
「確かに余所から来て、私達とは別の人って感じだったかもしれないけど……」
「だからって、いじめはよくありません!
けど……九条さんに逆らうと」
「九条って?」
「九条久留美。ほらあなた達に石投げてきた男の子に、命令を出してた女の子」
「あぁ!あのエッラそうな、女の子ね!私、ああいう子嫌いよ!」
(アンタが言うな)
「何で、その子に逆らえないのだ?」
「……九条さんの家って、この島じゃ凄いお金持ちなんだ」
「気に入らない人がいると、その人にお金渡して無理矢理島から追い出しちゃうの……だから、皆逆らう事が出来ないの」
「だから、あんなに威張ってたのか」
「止める勇気がなかった私達も悪いんだけど……久留美のいじめは、酷過ぎたのよ…やり過ぎよ」
「ねぇねぇ、麗華がこの島での出来事と、私達の学校に転校したのって、何か理由があるの?」
「美樹!そういう事、聴くもんじゃないよ!!」
「だってぇ、気になるじゃない。
いじめはあったにせよ、普通島を出る?」
「そ……それは」
「二年前だったかな……麗……いや、神崎さんがこの島を出てったの」
「皆やり過ぎたんです……」
「何があったの?」
「あの日……
神崎さん、たぶん耐えてた何かが切れたんだと思う。蹴ってきた男の子の脚を持ち上げて、投げ飛ばしたの」
「神崎さんを止めようと、僕達三人以外の皆が寄って集って抑えようとしたんだ……けど、神崎さんあり得ない力で自分に集ってた皆を投げ飛ばしたんだ。そのうちの一人が、廊下側の窓ガラスを割って、飛ばされたんだ。その子の元へ行った神崎さん、割れたガラスの破片でその子の腕を刺したんだ」
「ガラスで?」
「怖~い」
「持ってたガラスの破片で、男子達を皆斬り付けたんだ。担任の鈴村先生も……」
「僕も、被害に遭ってね……」
そう言いながら、遙は袖を捲った。腕には刃物で斬られた様な切り傷の跡がクッキリと残っていた。
「破片が無くなった後も、神崎さんは手を止めず、皆が気絶するくらいまで殴り続けたの。
その騒ぎに気付いた、当時二年生の担任だった芦川先生が、気を失ってる男子達と怯えてる私を含めた女子達、滅茶苦茶になった教師に駆け付けたの」
「その後、神崎さんの親族がやってきて、次の日にはこの島から出てったの……
僕等、謝ろうって手紙も書こうとしたんだけど……九条さんが……
九条さんが、書かなくていいって……
別に自分達が悪くないんだから、謝る必要はないって……」
「ひ、酷過ぎるよ……
麗華が、可哀想じゃない!」
「そうよ!!」
「神崎さん、そっち行ってから随分と友達が出来たみたいだね。
良かった」
「人の子……またか」
「?」
森中に響く声……広達は足を止め、辺りを見回した。
「さっき、声聞こえなかった?」
「そうよね」
「許さぬ……許さぬ!!」
茂みから出てきた、蛇の体を持った髪を長く伸ばす女……胴から伸びている手は鋭い爪が伸びていた。
「で、出たぁ!!」
「逃げろ!!早く!!」
走り出す広達……彼等を妖怪は、後を追いかけて行った。
森の中を掛けながら、追いかけてくる妖怪から逃げる広達……その時、七海は木の根に足を躓かせ、転んでしまった。
「七海ちゃん!!」
「待てぇ!!人の子ぉ!!」
「嫌ぁあああ!!」
「水術渦潮の舞!」
七海に襲い掛かろうとした妖怪の真横から、渦を巻いた水が妖怪に当たった。妖怪は水に当たった勢いで、茂みの中へと飛ばされてしまった。
「貴方方、御怪我は?!」
「氷鸞!」
「大丈夫だ!」
「間に合った」
茂みから、焔に乗った麗華が遅れて駆け付けてきた。それと共に、茂みから飛ばされたあの妖怪が戻り、鋭い爪を構えた。
「やっぱり……」
「麗華、あの妖怪って」
「この森に住んでる、蛇の妖怪だ。
霊感がない飯塚と渡部にも見えるってことは、あの後随分と人が入ってその怒りが強くなったんだな……(あれほど、ここには人を入れるなって言ったのに……)」
「あの時の女か。
また人の子が入ったではないか!!ずっと見逃していたが、もう我慢の限界だ!!」
「はいはい!
相手になるから、その怒りを思いっ切りぶつけて来い!!
立野、この隙に早く逃げろ!!」
「わ、分かった!
七海ちゃん」
広の手を握り、立ち上がる七海……彼女と遙は、麗華の姿を見て固まっていた。
「あ……あれが、神崎さん……」
「神崎さん……あんなに、強かったんですか?」
「そうだよ。
麗華、あの力で俺達を何度も助けてくれたんだ!」
「神崎さんが……」
「さ、早く逃げるぞ!」
七海の手を引き、広は走り出し二人の後を、郷子達は追いかけ逃げて行った。
「さ~て、アイツ等がいなくなったことだし……
さぁ、その怒り私に思いっ切りぶつけてきな!!」
森から抜けた広達は、手に膝を置き息を切らした。息を切らしながら、七海と遙はふと森の方を振り返り眺めた。
「神崎さん……大丈夫かな」
「心配しなくても、大丈夫だよ!七海ちゃん!」
「でもぉ……」
「麗華ちゃん、ぬ~べ~先生と同じくらいスッゴイ強いのだ!だから、心配しなくてもいいのだ」
「ぬ~べ~?」
「誰ですか?」
「俺達の担任、鵺野鳴介。
左手に鬼の手を持つ、人呼んで『地獄先生ぬ~べ~』」
「じ…地獄先生?」
「鬼の手?」
「そうそう!鬼の手」
「何です?その、鬼の手っていうのは?」
「左手に、鬼が封じ込められてんだよ!」
「あり得ません!そんなこと!」
「え?」
「そんな、非科学的な事があるなんて……絶対あり得ません!!」
「でも、実際妖怪に会ったじゃない。私達」
「あれは……」
「何言ったって、無駄だよ。そいつ等には」
「?」
森から傷だらけになった麗華が、出てきて広達に話した。怪我を見た郷子は心配して、彼女の元へと駆け寄った。
「酷い怪我じゃない!」
「大丈夫だ、これくらい。
後で、丙に治してもらうから」
「さっきの妖怪は?」
「もう倒した。
ま、次に襲われても、助けには来ないから」
まるで二人に訴えるかのようにして、麗華は鋭い目付きで七海達を見ながら言った。
「おいおい、そんな肩っ苦しいこと言うなよ!
また助けてやりゃ、いいじゃねぇか!なぁ?」
「そうだよ!」
「嫌なこった。
私がどんなに、この森に入るなって言ったって、結局入ってる奴等がいたんだから。
ここに住む、悪い妖怪から皆を守ろうと、いつも忠告してた……でも、誰も聞き入れてくれなかった。
そして、変な事件が起きれば全部、私を犯人扱いして……」
「……」
「妖怪とか幽霊とか、その存在を信じない奴等なんか助けたって、どうせ私は悪者扱い」
「ちょっと麗華、言い過ぎよ!」
「……
この森には、もう入るな。一応言ったから、もし入って襲われてももう知らないよ」
焔に乗り、麗華は広達の前から立ち去った。
「麗華の奴……どうしちまったんだ」
「いけないのは、私達です……
この島の人達、麗華を邪魔者扱いしてましたから……」
「何が起きても、全部神崎さんのせいにされてて……いつしか、彼女は誰とも話さなくなりました」
「……」
「私……神崎さんに謝りたい……
昔みたいに、仲良くしたいよ」
「七海ちゃんって、麗華と」
「久留美にいじめられる前、最初の友達だったんです。私……
けど、いじめが始まってから……声を掛けることもできなくなって……それで」
「七海ちゃん……」
「だから、ちゃんと謝って仲直りして…昔みたいに、笑い合いたいんです」
思い出す、麗華と笑い合った日々……しかし、久留美のいじめが始まり、彼女は近付きにくい存在になってしまった。
小島へと来た麗華……
浜へ行くと、見覚えのある背中が見えた。その背中は、自分の存在に気付いたのか、振り返った。
「お前か……!
その怪我、また九条が」
「違う。さっき妖怪と戦ったから、それで」
「ならいいけど……」
不意に麗華は、振り返った者の額にかかっている髪の毛を手で上げ、額に出来ていた大きな斬り傷跡を見た。
「やっぱり……残っちゃったか……」
「別に気にしてねぇよ。
あれだけの罰を受けてたんだ……怒りが頂点に上がったんだろ」
「……ごめん」
「謝る必要ねぇよ」
「……」
「……
なぁ」
「?」
「……切っちまったのか?」
「え?」
「髪……
あんなに長かったのに」
「邪魔になったから。
長かった方が、よかった?」
「別に。
短い方が、似合ってる」
「どうも……
ねぇ、まだ見えてるの?」
「まぁな……
家にいても、邪魔者扱いされてるから……」
「何で?あの時は」
「俺の母ちゃん、子供産んだんだよ。二人な。
世間でいう、異母妹弟ってやつだよ。それで、本当の母ちゃんの子である俺を、邪魔者扱いさ。
父ちゃんは、仕事の関係でずっと単身赴任中だし」
「大変だね……その上、九条でしょ」
「そうだよ……
あん時、久しぶりにお前見て、ビックリした。まさか帰ってくるなんて」
「島から依頼が来てね。それで行く羽目になったんだ」
「だよな。
でなきゃ、ここに二度と来ねぇもんな」
「その通り」
「……
話変わるけどさ、今起きてる事件ってやっぱり妖怪の仕業だよな?」
「強いて言うなら、そうだね。
でも、ちょっと奇妙なんだよね」
「何がだ?」
「行方不明になってる子、全員アンタと私と同じ学年の人達……何か共通点でもあるのかな」
「共通点……
俺と飯塚、渡部を抜いて、全員がお前をいじめてた」
「嫌な事、思い出させないでよ」
「悪い……」
「もう……
まぁ、それは一理あるかもね」
そう言いながら、麗華はバックから取り出していた紙を見直した。
海沿いを歩きながら、七海と遙に自分達の事を話す広達……
「二十人もいるの?!広君たちのクラスって」
「賑やかですねぇ」
「遙君たちのクラスは、どれくらいの人数なの?」
「うちは学年ごとに、一クラスしかなくて……それに人数も、二桁いくかいかないか位しかいないんだ。
ちなみに僕達のクラスは、十人です」
「少っくねぇなぁ。
学校、ガラガラじゃねぇか」
「だから、校舎凄い小さいよ。
木造二階建ての校舎。体育館は新しいけどね」
「へぇ……
?
おい、あれ」
「?」
広が何かに気付いたのか、釣り場の方を指さした。その方向に皆が目を向けると、そこには誰かと話す麗華がいた。
「あれって、麗華じゃない」
「誰と話してんだろ?」
広は目を凝らして見ると、麗華と話していた相手は昨日、自分達に石を投げてきた大輔と名乗る男だった。それを分かった広は、駆け出し彼に飛び掛かった。大輔は広に押された勢いで、海へと降り広も彼と共に海へ落ちて行った。
麗華は急いで、浜へと走っていった。彼女のを追いかけるように、郷子達も浜へと向かった。
浜から、広と大輔が息を切らしながら這い上がってきた。郷子達は広に駆け寄り、七海と遙は大輔の元へと駆け寄った。広は克也の手を借り立ち上がり、大輔の元へと殴りかかった。殴りかかってきた広の拳を、彼は間一髪受け止めた。
「何だよ、いきなり」
「昨日投げた石のお返しと、麗華をずっといじめてた」
「星崎は、関係ない!!」
郷子達の傍にいた麗華は、そう広に言った。広は呆気な顔で彼女の方を振り向いた。
「どういう事だよ?
だって、昔こいつもお前のこと」
「星崎は何もやってない!!九条に命令されたって、絶対従わなかった。だから、そいつは関係ない!」
「やってないって……」
「そう言えば星崎君、いつも『面倒くさい』や『だるい』って言って、九条山の命令聞き流してましたよね」
「あんなクソ女の命令なんか、聴きたくもない。クソ女には、神崎は外でいじめてるって伝えといた。
俺の事を、唯一理解してくれてる友達を、いじめられるかってんだ」
「友達?」
「立野と稲葉には話しただろ。
あの事件の真相を、手紙で教えてくれた子……その子が、星崎なんだよ」
「?!」
聞かされた真実……広は、狼狽えた様子で麗華と大輔の顔を交互に見た。その様子に、大輔は麗華の顔を一瞬見て、そして意を決意したかのようにして話し出した。
「神崎と同じ、俺にも霊感があり、そして見える」
「え?」
「正直、神崎がいじめられてる時、まるで俺がいじめにあってるみたいで、見るのが辛かった。家にいたって、本当の母親じゃない母親から、いつも打たれるわ怒鳴られるで辛いのに、学校に行ってまで唯一の理解者だった神崎のいじめの激しさを見て苦しかった」
「星崎君……」
「あの時、暴れてた神崎の顔は、怒りと悲しさで満ちてた。俺には分かったんだ。
神崎の中で押さえてたものが一気に噴き出してきたんだって。今まで耐えてたものが、一気に……だから、あんなことになっちまったんだ」
「……」
「そういう事だったんだぁ」