地獄先生と陰陽師少女 作:花札
そんな中、学校ではある噂が流れていた。その噂を休み時間、お喋りの美樹はクラスの皆に話していた。
「犬鳳凰(イヌホウオウ)?」
美樹が言い放った名前をクラスの一人が繰り返した。
ここ最近、頻繁にゴミ置き場や空き家、公園の草花が燃える事件が続いていた。その事件の原因が妖怪の仕業だと美樹はクラスに話していた。
「何だ?犬鳳凰って?」
「愛媛に伝わる怪鳥よ!
狐火と同じ炎を口から吐き出す妖怪なの!」
「最近起きてる火事が、その妖怪の仕業なの?」
「そうよ。
現に目撃者がいるんだから」
「いるの?!」
「えぇ。
消防署に通報したOLさんが云ってたのよ!帰り道にゴミ置き場から飛び立つ影と同時に、火が上がったんだって!」
「へぇ……」
「美樹、それ本当なの?」
「本当よ!昨日話してるの聞いたんだもん!
あ!これとは別の話なんだけど……
昨日の帰り道、麗華見かけたわよ」
「え?!」
「嘘?!」
「だって神崎さん、風邪拗らせて休んでるんでしょ?」
「そうなのよ。
私も、目を疑ったわ。それに、なんかお兄さん連れてたのよねぇ……」
「お兄さん?」
「うん。
何か、平安時代の人が着るような服着て、白い髪生やして頭に赤いバンダナ巻いてた男の人」
「何それ……」
「本当に、お兄さんなのか?」
「ただの変人じゃないの?」
「言えてる」
“キ―ンコーンカーンコーン……キ―ンコーンカーンコーン”
休み時間が終わるチャイムが鳴り響き、それと同時にぬ~べ~が教室へ入ってきた。ぬ~べ~が入ってきたことに気付いた生徒たちは皆、自分の席へ戻り三時間目の教科書を机から出した。
(麗華ねぇ……
そういえば、郷子も広も麗華の話になると、ちょっと顔を曇らせるわねぇ……
怪しい。
今日の帰り道、何隠してるんだか暴こう)
そう思いながら、美樹は三時間目の授業を受けた。
放課後―――――
「ねぇねぇ!お二人さーん!」
二人で帰る郷子と広を、美樹は呼び止め二人の前に立った。
「何?美樹」
「今日さ、お二人さんに聞きたいことがあるのよ!
麗華のことについて」
麗華の名前を美樹が言い放った途端、広と郷子は顔を曇らせて下を向き美樹から目線を逸らした。その異様な行動を見逃さなかった美樹は、郷子の顔を覗き込むように見ながら質問した。
「どうしたのぉ?郷子ぉ?
何か隠してるのぉ?」
「べ、別に隠してないわよ」
「ふぅ~ん……
広は?」
「お、俺も何も……」
「な、何よ!
何が聞きたいのよ!」
「別にぃ~。
アンタたち二人が麗華のことになると顔色を変えるから、何か彼女のことについて知ってるんじゃないのかなぁって」
「!!」
「その顔!やっぱり、何か隠してるんでしょ?」
「か、隠してるわけないじゃん!!
広、帰るよ!」
広の手を引いて、郷子は美樹の横切って二人は帰っていった。そんな二人の後ろ姿を見た美樹は、諦めずに二人の後をついて行った。
二人を尾行する美樹……
しばらく尾行していると、二人の前にガムを噛む麗華が現れた。美樹は慌てて近くにあったポストの陰に隠れ覗き見た。
(こんなところで、麗華に会うなんて……美樹ちゃんってばチョーラッキー!)
「いい加減に付き纏うの止めてくれない?」
自分自身の運に感激していた美樹は、麗華の声に耳を傾け、見つからぬようにポストから顔を覗かせ見た。
「だったらいい加減、学校に来たらどうなんだ?」
「また、その話?
一週間も、同じこと言われると、だんだん腹立つんだけど?」
「じゃあ、来ればいいじゃねぇか?」
「そうよ。
そうすれば、私たちだってもう付き纏わないわ!」
「だから言ってるでしょ?
行く気はない!気分が乗ったら行くって!」
「気分で学校に行こうとすんな!毎日来い!」
「あのねぇ……
ハァ……
話にならない。そこのポストの陰に隠れている奴持って、とっとと帰ってちょうだい」
「?ポスト?」
麗華の言った言葉に疑問を持った広と郷子は顔を見合わせて、ポストの所へ駆け寄った。そこには引き攣った笑顔を浮かべ、やってきた二人に手を挙げて挨拶をする美樹がいた。
「美樹?!」
「ど、どうも」
「な、何でアンタがここに?!」
「だって、麗華のこと心配だったし……
それに、アンタ達の様子が気になったものでして」
「?!」
「?!」
「やっぱり、何か隠してるわねぇ?
麗華について」
「そ、それは……」
「何隠してるんのよ?」
「ったく……
私は帰るよ」
「あぁ!待ちなさいよ!」
立ち去ろうとする麗華の前に、美樹は声を上げながら前に立った。麗華は迷惑そうな顔を浮かべながら、噛んでいたガムを膨らませ、パチンと割りまた噛みながら美樹を睨んだ。
「何?」
「(うわっ!怖ぁ)
風拗らせて休んでるって、嘘だったのね!ズル休みじゃない!!」
「人の事何も知らないで、勝手なことばかり言わないで!!」
「何よ!!その言い方!!
ちょっと、広、郷子!
アンタ達、この事知ってたの?」
「えっと……」
「それは……」
「顔の様子からして、全部知ってたみたいね?
これはいいネタになるわ。『風邪を拗らせて休んでいた神崎麗華は、単なるズル休みでした』ってね?」
「ちょっと、美樹!!酷過ぎるわ!!」
「何が酷過ぎるのよ?
事実を伝えるだけじゃない?クラスのみんなに」
「伝えるって……
麗華は好きで学校休んでるんじゃないのよ!!」
「じゃあ何で来ないのよ?
納得のいく理由を話して貰おうじゃない?」
言いながら美樹は、麗華に顔を近付けさせて、覗き込むように話した。麗華はそんな美樹を睨みながら溜め息を吐き、そして美樹の耳元へ顔を持っていき口を開いた。
「今夜、気を付けな?」
「え?」
「じゃあね」
忠告するかのように、麗華は美樹に囁くとそのまま路地裏へと姿を消した。ハッと我に返った美樹は麗華の後を追いかけて、路地裏を見るとそこにいるはずの麗華の姿が無くなっていた。
「な、何なの?あの子……」
「美樹」
心配そうな声で、郷子は美樹に話しかけてきた。美樹はそんな郷子に顔を向け怯えた顔を浮かべながら、郷子達に質問した。
「れ、麗華って……何者なの?」
「それは……」
「私、何かされるの?!ねぇ?」
「分からないわ……」
「嫌よ!!嫌よ!!
私、そんなの信じないから!!」
泣き叫びながら、美樹はその場を立ち去った。郷子と広はそんな美樹に声を掛けようと手を伸ばしたが、怯え逃げて行く美樹の後ろ姿を引き留めることができなかった。