地獄先生と陰陽師少女 作:花札
目を覚ます龍二……
「朝か……?」
隣を見ると、布団が畳まれ麗華の姿がなかった。それどころか、焔とシガンの姿もなくなっていた。
(どこ行ったんだ?)
「お姉ちゃん、待ってぇ!!」
大空の声が聞こえ、龍二は立ち上がり窓を開き外を見た。
外には、手提げ鞄を持った麗華が玄関から出て行くのが見え、彼女を慌てて追いかけてきた大空が、飛び出してきた。
「これから、海だとさ」
「え?」
声の方に振り向くと、部屋に大あくびをして龍実が入ってきた。
「海?」
「昨日、広君達と約束してたみたいでな。」
「約束?」
「今日、一緒に海で遊ぼうって言われたみたいだぜ。
麗華からの伝言で、資料に書いてあった場所に行くのと、携帯用の吸引器持ったんで、ご心配なくだとさ」
「別に、仕事やらなくてもいいのに……」
「いいじゃねぇか。
アイツ、そっち行ってから随分と明るくなったな」
「あいつ等のおかげだよ」
「あいつ等って、広君達?」
「あぁ。
おかげさまで、不登校が直ったわ」
「そりゃあ、よかったな」
「なぁ龍実、今日暇か?」
「部活もないし、別に暇っちゃ暇だけど」
「なら、今日付き合え」
「良いのか?俺が」
「構わない。
ついでに島を案内してほしいしな」
「なるほどぉ……麗華にして貰おうかと思ってたけど、出掛けちまったから俺に頼んだってことか」
「そこまで知ってんなら、手伝ってくれよ」
「ヒヒ!いいよ。
アンタ達と一緒にいると、楽しいし」
「そりゃあどうも」
海へ来た麗華と大空……
海には、既に郷子達が泳いで遊んでいた。
「あ!麗華ぁ!!」
麗華に気付いた郷子は彼女に手を振りながら、呼び叫んだ。浜へ着き服を脱いだ麗華は、近くの釣り場から海へと飛び込んだ。その様子を見ていた広達は、泳いで近付いた。
「スゲェな!!麗華!
お前、あんな所から飛んだのか?!」
「ここに住んでた頃は、いつもこっから飛び込んでた(正確には、突き落とされてたけどね)」
「す、凄いのだ……」
「大空ぁ!早く飛び込んどいでぇ!」
「わ、分かってるもん!!」
そういうが、大空はなかなか飛び込むことができずにいた。飛び込もうとすると、足が竦み飛ぶことができなかった。
「あいつ、また怖がってるなぁ」
「なぁなぁ!俺達も、あそこから飛び込まねぇか?」
「いいな!それ!」
「え~!!怖いのだ!!」
「まことは怖がりだなぁ!
大空と一緒じゃねぇか?」
「だってぇ……」
「じゃあ栗田は、未だに母親と一緒に寝てるってことか?」
「お!言えてる!」
「そ、そんなことないのだ!!もういい!!僕も飛び込むのだ!!」
広達に言われ、まことは浜へ上がり釣り場へと行った。彼の後を広達はついて行き、釣り場から海を見下ろした。
「うへ~!スゲェな!」
「お姉ちゃん、僕やっぱり怖い」
「怖がってどうすんのよ!男だろ?」
「でもぉ……」
「大空、この俺達の華麗な飛込みを見ろ!」
そう叫ぶと広は一番に、釣り場から飛び込んだ。広に続いて郷子、美樹が飛び、怖がっていたまことは克也に押され飛び込み、その次に克也も飛び込んだ。
「ウッヒョ~!!気っ持ちいい~!!」
「大空君も、飛び込んでみなよぉ!!とっても気持ちいわよぉ!!」
「臆病のまことも飛び込めたんだぁ!!お前だって飛び込めるよぉ!!」
「ウ……」
「……ハァ。
先に行ってるよ」
「あ、お姉」
“バシャ―ン”
先に飛び込んでしまった麗華……
「ほらぁ!!大空も早く来なってぇ!!」
「大丈夫だからさぁ!!」
「怖いのは初めの内だけなのだぁ!!」
「溺れたら、すぐ助けてやっからぁ!!」
「う~……」
ブツブツ文句を言いながら、大空は意を決意して飛び込んだ。飛び込んだ衝撃で、水飛沫が広達い掛かり、掛かった広達は笑い出した。上がってきた大空を、麗華は抱き支えた。
「良くやったなぁ、大空!」
「カッコよかったわよ!大空君!」
「本当!?お姉ちゃん、僕カッコよかった?!」
「ハイハイ、カッコよかったよ」
「麗華、ちゃんと褒めてやれよ!」
「そうよ!相手は小さな子供よ!」
「ンなこと言われたって……」
「わーい!褒めて貰えたぁ!」
「へ?」
「お姉ちゃん、昔からこういう感じだよ!
だから、さっきの言葉はちゃんとした褒め言葉なんだ!」
「ちゃんと褒められるようにならねぇとな!」
「そうそう!じゃないと、子供出来た時いいお母さんになれないわよ?麗華」
「っるっさい!」
「コラぁ!!お前等ぁ!!」
その怒鳴り声に、顔を向けるとぬ~べ~が凄い形相で泳ぎながら、広達の所へと近付いてきていた。
「げ!!ぬ~べ~だ!!」
「に、逃げるぞ!」
逃げていく広達……麗華は大空を背中へと移動させた。
「(いるいる)
大空、思いっきり息を吸って止めろ」
「うん!」
「吸ってぇ!」
「ハァァァ」
「止めて!」
大空が止めたのを合図に、麗華は海へと潜った。すると深い場所にいた二つの光る目が、彼女を追い手の様なものを伸ばし二人を飛ばした。
泳いでいた広達は、浜へと上がり息を切らしながら、仰向けに寝っ転がった。
「つ、疲れたぁ」
「お疲れだなぁ。お前等」
「!?麗華?!」
いつの間にか到着していた麗華と大空……大空はついた広達の元へと駆け寄りしゃがみ込んだ。
「遅かったね?お兄ちゃん達」
「な、何で?さっき一番後ろにいたじゃねぇか?」
「ちょっと知り合いにあってね。そいつにここまで届けてもらったんだ」
「し、知り合いって……」
「ねぇねぇ、二つ結びしたお姉ちゃんは泳げないの?」
「へ?
い、いや…その」
「そうなのよ!
五年生にもなって、未だに金槌なのよ!郷子お姉ちゃん」
「美樹!」
「じゃあ麗華お姉ちゃんに教えて貰えばいいよ!」
「大空!」
「僕が泳げるようになったの、お姉ちゃんのおかげだし!ね!お姉ちゃん!」
「知らん!」
「麗華、顔赤いわよ?」
「っ…」
「じゃあここにいる間、郷子お前教えて貰えよ!」
「そうしよっかな?」
「覚悟しといた方が良いよ?
お姉ちゃん、スッゴイ厳しいから!」
「……やっぱ、止めよう」
「やめとけやめとけ。
絶対ついていけないから」
「お前等……」
「?!」
海から上がってくる、ぬ~べ~……広達は、体をビクらせ恐る恐る彼の方を見た。
「せ、先生」
「お前等……さっき、何して遊んでた?」
「飛び込み遊び」
「何を平然とした態度で!!
一歩間違えたら、死んでたかもしれんのだぞ!?」
「いや、大丈夫だし」
「何?」
「住んでた頃、あそこから普通に飛び込んでたし」
「うん。僕も飛び込んでるし……
ここの島の子供達、皆飛び込んでるから全然平気だよ!」
「そ、そうなの?」
「あ~あ、せっかくの楽しい時間が、ぶち壊されたわぁ!」
「ウ……」
「どうしてくれんだよ、ぬ~べ~」
「そ、そんなこと言われても……!」
突然とぬ~べ~は目つきを変え、辺りを警戒するかのように見回した。その行為に疑問に思った麗華は、すぐに彼の行為を理解した。近くに強い妖気を感じた……だが、その妖気は覚えがあり、あまり警戒しなかった。
「どうしたのだ?先生」
「凄い妖気が……こっちに来るぞ!」
「?!」
海の方を向くと、飛沫を上げながら物凄いスピードで広達を通り過ぎた。通り過ぎ、すぐに振り向くと麗華の上に跨る上半身裸の男がいた。
「よう、女。
またこの俺に会いに来たのか?」
「邪魔じゃい!!」
跨っていた男を蹴り飛ばした。男は鼻から血を流しながら、広達の方へと倒れ込んでしまった。麗華は焔が加えて持ってきた半袖の上着を羽織り、男を睨んだ。男は起き上り、体に着いた砂を払いながら彼女を見た。
「何だよ?せっかく、この俺が慰めに来てやったのに」
「何が慰めるだ!いちいち来んな!気色悪い」
「そいう言い方ないじゃねぇか?
さて、今度こそお前のその唇…ンゴングウ!!」
麗華の顎を手で上げ、自分の唇を近づけようとした男の口を、焔は人の姿へとなり手で鷲掴みにした。
「誰の唇を奪うって、ああ!!」
「何だよ。人の邪魔すんなよ!
俺は、女とキスをしようとしてるまでさ」
「他の女とやれ!」
「嫌なこった!ここの女は好かねぇんだよ!」
「知ったことか!!」
言い合う焔と男……
麗華は大空の耳を塞ぎながら、郷子達の元へと移動した。
「ねぇ麗華、あれ妖怪なの?」
「そうだよ。
鮫の妖怪で、名前は鮫牙(コウガ)。昔怪我してた所を助けたんだけど……
どうにもこうにも、『お前の唇を奪うまでは、ずっと傍を離れない』とか言ってさ」
「く、唇って……」
「さぁ、女。
この俺の唇で」
「さっさと海に戻れ!!」
腕を掴み、鮫牙を海に向かって背負い投げをした。鮫牙は海に入り、鮫の姿へと変わり、海の中へと消えて行った。
「あ~らら、海に帰っちゃった」
「こうでもしないと、しつこいんだよ」
「そんな感じしたもんねぇ」
「なぁ、そろそろ昼飯にしねぇか?
腹減ってきちまった」
「俺も」
「僕も」
「じゃあ、宿に戻ってお昼食べようか!
麗華と大空君はどうする?」
「その辺にある店で、適当に買って食うからいいよ」
「そうなの?」
「何だ?家に帰らねぇのか?」
「調べなきゃいけないことがあるから、それ調べながら食うんだ。
食べ終わった頃に、また戻ってくるから」
「じゃあ、その時にまた」
「あぁ。大空、行くぞ」
「うん!」
浮き輪を手に持ち、大空は先行く麗華に追いつくと手を繋ぎ一緒に歩いていった。
数時間後……
お昼を食べ、再び海へと来た広達……泳ぎ騒いでいた時だった。
どこからか広達目掛けて石が投げられてきた。飛んできた石は、まことの近くで落ちそれを見た広は、石が投げられた方を向いた。
石を手の上で投げる自分たちくらいの四人の男女の子供達……
「何だよ!いきなり石投げやがって!」
「危ないじゃない!」
「当たったらどうするの!?」
「知らないわよ!そんなこと!
余所者が、いったい誰の許可を得て、この海に入ってんのよ!」
「海は皆のものでしょ!!」
「うるさいわね!!
余所者はさっさと上がって、帰りなさいよ!!」
「誰が上がるか!!」
「従わないなら、こうよ!!
大輔」
大輔と名乗る男は、持っていた石を広達目掛けて投げてきた。石は広の近くで落ち、キレた広は克也と共に海から上がり、石を投げてきた大輔と名乗る男の元へと駆け寄り怒鳴った。
「てめぇ等、よくも投げやがって!!」
「怪我したくなければ、余所者は早く出て行きなさいよ」
「何だと!!」
「何よ!!やるっていうの!!」
「ちょっと、止めようよ!」
「うるさいわね!!七海は黙ってなさい!!
余所者が来ると、ロクなことがないでしょ!!」
「でもぉ……」
四人が揉め合っているところへ、広達に元に麗華が戻ってきた。広達の後ろで、心配そうに見ている郷子と美紀に、麗華は質問した。
「どうかしたの?」
「島の子達が、いきなり石投げて着て」
「石?」
「そんでキレた広達が、今揉め合ってるのよ……」
言い合う広達と黒いサイドテールの女の子……
女の子の隣にいた大輔が、ふと郷子達の後ろにいる麗華に気付き顔を上げて見つめた。その視線に気付いた麗華は、大輔の顔を見た。その瞬間、二人の顔が強張り互いを見つめ合いながら固まってしまった。
彼の様子に気付いた広と言い合ってた女の子は、彼が見ている方を向いた。二人に釣られて七海ともう一人の男の子もその方に向いた。
「……え?」
「う、嘘……」
「あ、あんた……」
彼等の様子が気になった広達は、一斉に後ろにいる麗華を見た。彼女も彼等と同様に強張った顔で彼等を見つめていた。
「麗華、どうしたんだ?」
「どうしたの?麗華」
「麗華?」
「お姉ちゃん?」
「神崎……」
黙り込んでいた大輔が、口を開きその名を言った。波の音と共に、潮風が全員の髪を靡かせた。
大輔の髪が靡き、前髪で隠されていた額が露わになり、そこには大きな傷跡があった。