地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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入り江のを歩く麗華……


海から飛び出ている岩を一つ一つ飛び越えながら、小さな島の浜へと着いた。

浜に着いた麗華は、辺りを見回しながら森の中へと入り、誰もいないことを確認すると、雷光を出した。


「ここは……」

「しばらく、ここにいることになったから、その間この島でも見回ってみれば?

久しぶりの故郷なんだし」

「し、しかし…それでは」

「お前一人いなくても、俺と氷鸞が麗の事を守ってやっから、羽を伸ばして来い」

「……」

「焔の言う通りだ。私なら大丈夫だ」

「……

では、お二人のお言葉に甘えて……」


姿を人の姿から、頭に角を生やし黒い馬の姿へとなった雷光は、二人に頭を下げその場から飛び立っていった。


「まさか、この島の神がお前の式神になってるなんて誰も知りもしねぇよなぁ」

「だろうね。

焔、稲葉達のところ行くよ」

「分かった」

「着いた後、兄貴のところ行って稲葉達の所にいるって言っといて」

「了解」


狼姿の焔に乗り、麗華は無人島を離れた。


居辛い場所

海へと来た郷子達……

 

 

郷子は広と一緒に浮き輪で海を泳ぎ、克也とまこと、美樹とぬ~べ~はビーチボールで楽しんでいた。

 

そんな光景を、浮き輪を持つ黒い肌をした小さい男の子が、何やら不思議そうに見ていた。その男の子に気付いた郷子は、気になり広と一緒に海から出て、その男の子の元へと駆け寄った。

 

 

「どうしたの?

 

迷子になっちゃったの?」

 

「……

 

お姉ちゃん達、もしかして都会の子?」

 

「え?

 

え、えぇそうだけど…」

 

「じゃあさ、麗華お姉ちゃん知ってる?」

 

「麗華お姉ちゃん?」

 

 

男の子の言葉を聞いた郷子は広と顔を合わせて、首を傾げ再び男の子の方に顔を向けた。

 

 

「なぁ、お前が言う麗華お姉ちゃんって、どんな奴なんだ?」

 

「えっとね!

 

優しくて、強くて、それにお化けと仲良しなんだ!」

 

「お化けと仲良し?」

 

「うん!

 

 

僕が見える怖いものと、すぐにお友達になってね、時々僕に紹介してくれるんだ!」

 

 

満面な笑みで、男の子は郷子達に説明した。郷子達の様子に疑問を感じたのか、バレーをしていたぬ~べ~達は二人の元へと駆け寄った。

 

 

「何々?!

 

どうしたの?」

 

「あぁ、美樹」

 

「誰なのだ?この子」

 

「そういえば、お前名前は?」

 

「僕、川島大空(カワシマソラ)!」

 

「川島?

 

ねぇ、お兄ちゃんの名前って、龍実って名前?」

 

「そうだよ!何で知ってんの?」

 

「さっき、その人に宿まで案内してもらったから!」

 

「じゃあやっぱり、お姉ちゃん達麗華お姉ちゃんの知り合いなの?!」

 

 

「やっぱり、ここか」

 

 

声に気付いた郷子達は、その方向に顔を向けた。焔から飛び降り、麗華は砂浜に着地した。

 

 

「あぁ!麗華」

「麗華お姉ちゃん!!」

 

 

大空は麗華を見るなり、大喜びで彼女に駆け寄り抱き着いた。麗華は大空を受け止めると、焔に何かを伝えた。焔は承知し、その場を飛び去っていった。

 

 

「あれ?焔は?」

 

「ちょっと用で。

 

しっかし、来て早々海で遊ぶとは体力があるねぇ」

 

「へへ!まあな!」

 

「ねぇねぇお姉ちゃん!

 

海で泳ごう!僕ね、凄く上手くなったんだよ!」

 

「麗華、その子って」

 

「あぁ。龍実兄さんの弟の大空だよ」

 

「やっぱり、そうだったんだ。

 

名前聴いて、さっきそいつから龍実さんのこと聞いたんだ」

 

「へぇ」

 

「私達を見るなり、『麗華お姉ちゃん知ってる?』って聞いてきたの」

 

「何で?」

 

「だって、お姉ちゃん一昨年の夏休み前…どっか行っちゃったじゃん……」

 

「……」

 

「だから、都会の人なら、お姉ちゃんのこと知ってると思って……それで」

「分かった分かった」

 

 

言い続けようとする大空を止めるかのようにして、麗華は彼の頭に手を置いた。

 

 

「しばらくは、大空の家で世話になるから、よろしくな」

 

「本当!?やったぁ!!」

 

「そうと決まれば、おい麗華」

 

「?」

 

「早速遊ぼうぜ!海で!」

 

「いや水着、家だし」

 

「いいじゃない!下着姿で」

「アホ!」

 

 

パラソルの下で、シートに腰を下ろし海で燥ぐ郷子達を、麗華は眺めていた。

 

そこへ、ぬ~べ~が近付いてきて、隣へ腰を下ろしながら話しかけてきた。

 

 

「小さい子供が、お前みたいな奴に懐くとはな」

 

「ほっとけ」

 

「そう言うなって。

 

龍実と大空は、お前達の従兄弟でいいのか?」

 

「従兄弟で合ってる。

 

龍実兄さんは、ここに住んでた頃凄い世話になったからね……たった一人の理解者だったから……」

 

「龍実から聞いたが、お前今とはえらい違いだったようだな?性格」

 

「まぁね。

 

ここの連中は、妖怪や幽霊を信じない連中でさ……私がいくら、妖怪がいるとか、そいつらがやろうとしてることを、事前に大人達に忠告しても、誰も耳を傾けようとしなかった。そして事件が起こると、いつも私のせいに。

 

 

だから、この島に住むなら無表情でいて誰とも話さないようにし、触れ合わないで過ごそうって思ったの」

 

「なるほどな」

 

「それが、今回の神隠し事件で、いきなり私と兄貴の力が必要だなんて言ってきて……都合が良すぎなんだよ」

 

「……」

 

「さっさと帰りたい。

 

ここは嫌いだ」

 

「だから、行きたくなかったのか……この島に」

 

「龍実兄さんや大空、私の事を可愛がってくれた人や、この島に住んでる妖怪達には会いたいとは思ってた……

 

でも、それ以外は……」

 

 

言葉を切らす麗華の目は、どこか悲しげな瞳をしているのを、ぬ~べ~は見逃さなかった。

 

 

 

 

夕方……

 

 

 

「あ~、楽しかった!」

 

 

パラソルを片付けながら、郷子達は浮き輪とビーチボールの空気を抜いていた。

 

 

「すっかり日が暮れちゃったねぇ」

 

「また明日、遊ぼうぜ!」

 

「そうだな!」

 

「麗華、明日は水着着て来いよ!」

 

「暇だったらな」

 

「え~、ダメダメ!

 

お姉ちゃん、明日皆と一緒に泳ごうよぉ!僕の泳ぎ見てよぉ!」

 

「あ~もう……分かったから、騒ぐな」

 

「本当?!約束だよ!」

 

「はいはい」

 

「じゃあ、麗華明日な!」

 

「あぁ!」

 

「またここに来るから!」

 

「分かった」

 

「じゃあね、大空君!」

 

「じゃあね!」

 

 

手を振りながら、皆はそれぞれの場所へと向かった。

 

 

家へと向かう麗華と大空……

 

途中から来た、焔に乗りながら大空は大はしゃぎしていた。

 

 

「わぁー!!高い高ーい!!」

 

「ほら、暴れるな!落ちるぞ?!」

 

「だって、この狼さん空飛べるなんて知らなかったんだもん!」

 

「お前はまだ小さかったから、乗せなかったんだ。

 

 

……!」

 

 

家に着く前に、向こうからやってくる人影……よく見ると、それは渚に乗った龍二と龍実だった。彼に気付いた麗華は、いったん地面へと着地し、飛び降り空を下ろした。麗華に合わせて、龍二達は目の前で着地し飛び降り彼女の元へとに駆け寄った。

 

 

「大空、先に家に帰ってな」

 

「え~!お姉ちゃんと一緒に行きたい!」

 

「いいから」

 

「大空!帰るぞ!

 

母ちゃんが心配してるぞ!」

 

「ほら、龍実兄さんが呼んでるよ?」

 

「……は~い」

 

 

大空は渋々、麗華から離れ龍実の元へと駆け寄った。龍実は大空を抱き上げ肩車をして、先に家の中へと入った。

 

 

二人を見送った龍二は、目を合わせようとしない麗華に近付いた。

 

 

「焔から聞いたよ。

 

お前、アイツ等の所にいたんだってな?」

 

「……悪い?」

 

「全然。

 

ほら、中に入ろうぜ」

 

「……入りたくない」

 

「夕飯食わなくてもいいから、中に入れ」

 

「……」

 

 

龍二の服の裾を握り、麗華は彼と共に家の中へと入っていった。

 

 

入った麗華は、誰とも顔を合わせようとせず、二階の自分達が泊まる部屋へと入ってしまった。そんな麗華を見た龍二は、ため息を吐きながら困った表情を浮かべた。そんな彼に龍実の母は近寄り小さい声で話した。

 

 

「後で、御夕飯持って行ってあげるわ」

 

「すいません…」

 

「いいのよ。あの子には、お母さんのわがままで辛い目に合ってるんだから……」

 

「……」

 

 

「ママぁ!早く、ご飯食べよぉ!」

 

「分かったわ!

 

龍二君、いただきましょ」

 

「はい……」

 

 

 

 

“ボーン……ボーン”

 

 

振り子時計が九時を知らせる音が、家中に響いた。龍実の祖母が眠ったのを見計らってか、麗華は二階から降りてきた。

 

 

「あら、麗華ちゃん」

 

 

自分の分の夕飯をお盆に乗せ、二階へ持っていこうとした龍実の母は、ホッとしたかのような顔で麗華を見た。

 

 

「夕飯、食べるでしょ?

 

 

お母さん、寝ちゃってるからここで食べなさい。」

 

「……」

 

「龍二君、今お風呂に入ってるし、龍実と大空は部屋にいるし……ね」

 

「……

 

 

いただきます」

 

 

 

龍実の母の言葉に甘え、麗華は居間で遅い夕飯を食べた。

 

 

しばらくして、龍二は風呂から上がり台所にいる龍実の母に麗華の夕飯を頼もうとしたが、流し台には既に麗華の夕飯と思われる食器が乾かされていた。

 

 

(あいつ……)

 

「あ、龍二君。上がったの?」

 

「あ、はい。すいません、麗華が迷惑かけて」

 

「いいのよ。それに、普通ああなるわよ。

 

ずっと酷いこと言われ続けて、ようやく離れたかと思ってたらまた来る羽目になっちゃったんだから」

 

「そう……ですよね」

 

 

泣きながら駄々を捏ねる幼い頃の麗華の姿を、龍二は思い出していた。

母・優華が死に二人でやり過ごそうという決意で、伯父と伯母に話を付けた時、龍実の祖母が妹を引き取ると言い出したのだ。あの時の自分ジャマダ、麗華をまともに育てることはできないと強く言われ、龍二は自分が高校受験が終わったらすぐに迎えに行くと、まだ幼かった麗華と約束をし、龍実の家に渡した。

 

 

(俺が、あの時もっと強く言っていてれば……)

 

 

階段を上りながら、その時の事を龍二は思い出した。部屋へ入り、麗華に風呂が開いたことを伝えると、麗華は着替えを持っていき下へと降りて行った。

 

 

 

 

数時間後……

 

 

(あいつ……遅いな?)

 

 

なかなか上がって来ない麗華が心配になり、龍二は見ていた資料をテーブルに置き渚と一緒に部屋を出て行った。すると、階段を上がってくる足音に気付いた龍二は、階段を覗くと寝てしまった大空を背負った麗華だった。

 

 

「麗華……」

 

「兄貴……どうしたの?」

 

「随分と長風呂だったな」

 

「違う。

 

上がった時に、大空がトイレで起きてきてたんだ。大空、一人じゃ怖くて行けないって言うから付き合って行ったら、散歩したいって言いだしたから、今まで散歩してたんだよ」

 

「何だ、そういう事か」

 

「大空?!」

 

 

宿題をしていたのか、シャーペンを持った龍実が、二人の声に気付き部屋から出てきた。龍実は麗華の背で眠っている大空を見て驚いている様子だった。

 

 

「トイレ行って、なかなか戻ってこないかと思ったら……悪かったな、麗華」

 

「別にいいよ。

 

丁度散歩したかったし……」

 

 

背負っている大空を、龍実に渡した麗華は先に部屋へ戻った。

 

 

「悪いな…あんな態度で」

 

「良いって。ここに居た頃も、あんな感じだったしな」

 

「……」

 

「じゃ、龍二さんお休みなさい」

 

「あぁ、お休み」

 

 

大空を抱え龍実は、部屋へと戻った。龍二は一息つくと、部屋へと戻った。部屋に入ると、先に入っていた麗華は、焔の胴に頭を乗せ眠っていた。

 

 

「眠っちまったのか」

 

「スー……スー……」

 

「疲れていたのだろう……

 

一緒になって、焔も寝ているし」

 

「だな……

 

俺達も寝るか……調べは、明日に回して」

 

 

資料をファイルにしまい、テーブルを片付けた龍二は、用意していた布団を敷き、掛布団を麗華にかけてやった。眠る麗華の頭を軽く撫で、龍二は部屋の明かりを消し寝床に入った。




「ゲホゲホ……」


咳き込む声……


「ゲホゲホゲホゲホ!!」

「!?」


麗華の咳き込む声に、慌てて飛び起き彼女の方を見た。咳をしながら、苦しむ麗華が起き上がり必死に止めようとしていた。


「麗華!」

「あ……兄ゲホゲホゲホゲホ!!」

「待ってろ!」


部屋の明かりを点け、鞄をあさり携帯用の吸引器を出した龍二は、倒れ込む麗華を腕で支えながら、彼女に吸引器を吸わせた。数回吸うと、麗華は荒くなった息を整えようと、深く息をして落ち着きを取り戻した。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か?」

「はぁ……はぁ……

ウ……うん」

「良かったぁ……」

「……ゴメン」


息を切らしながら、麗華は小さい声で龍二に謝った。


「何謝ってんだよ。

お前の喘息は」
「ごめん」


顔を下に向け、泣いてるのか体を震えさせながら、麗華は涙声でそう言った。


「……


泣くことねぇよ」

「だって……だって」

「いいから。もう寝ろ」


泣く麗華を抱き寄せ、龍二は慰めるかのように頭を撫でてやった。彼に撫でられ安心したのか、麗華は龍二の腕の中で、静かに眠ってしまった。眠ってしまった彼女を、強いていたもう一枚の布団に寝かせた。その隣に、焔は心配そうにして添い寝をした。

眠っている麗華の目に溜まっている、涙を拭き取り電気を消し龍二は再び眠りに入った。

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