地獄先生と陰陽師少女 作:花札
ベットの上で苦しむ一人の女性……その女性の身体には、人の顔に似たデキモノが覆い尽くしていた。
そんな女性を見るぬ~べ~に、両親は必死に彼に助けを求めていた。
「金ならいくらでも出す!
助けてくれ!娘には、何が憑いているんだ?!!」
「人面祖だ……
こいつは、幽体に融合している。だから手術で切り取っても、すぐに再生する。
こいつを治すには、幽体を出して悪霊を切り離すしかない。
南無大慈大悲救苦救難広大霊感!」
お経を唱えると、ベットの上で苦しんでいる娘の身体から、もう一人の娘が現れた。もう一人の娘にも、あの人面祖が取り憑いていた。
「見ろ……まるで幽体に、溶け込むかのようにくっ付いている……
切り離すぞ!」
鬼の手を出し、娘の幽体に憑いている人面祖を切り離した。だが隙を狙われ、切り離された人面祖は、ぬ~べ~の身体へと乗り移った。
「ぐああああ!!」
翌日……
「えー、今日は鵺野先生はお休みの為、代わりに学年の先生が交代で授業します」
教卓の前に立ち、律子先生は皆に説明した。
「先生、どうしたの?」
「さぁ……
連絡もないし、行方不明のようですよ」
「変よねぇ」
「ぬ~べ~が、理由もなく学校休むなんてなぁ」
「(まぁ、あの先生……
意外と信頼されてるのね。見直しちゃったわ)まぁまぁ、いくら教育熱心な先生でも一日くらいは」
「先生は今日みたいな、月末は給食だけで金欠だけで一日過ごすはずよ」
「そーよ!一日一回、律子先生のお尻を見ないと死ぬって言ってたわ!」
「電気代が嵩むから、宿直室で、テレビ見てクーラーにあたっているはずだよ!」
律子先生の思いとは裏腹に、生徒達はぬ~べ~の事を心配せずにいた。そんな生徒達を見た律子先生は、思わず肩を落としてしまった。
しかし次の日も、その次の日も、ぬ~べ~は来なかった。
そして、次の日……
克也の妹・愛美と友達二人が、花の水を代えに旧校舎へ行った。
水道で、誰かが顔を洗っていた。
「誰かしら?」
「この辺は、準備室や置物で、滅多に人来ないのにねぇ」
顔を洗っていた者は、三人に気付いたのか手を止め顔を上げた。
“パリ―ン”
その者の顔を見て、花瓶を持っていた子は思わず落してしまった。
顔は、化け物の様な顔をしていた。
「キャァアアア!!」
三人は、悲鳴を上げながらその場から逃げ出し、五年三組のクラスへと行った。
「何だって、旧校舎の三階に妖怪?!」
泣きながら、愛美は兄・克也に訴えてきた。
「そうなの!オペラ座の怪人みたいなの!」
「お兄ちゃん、早くぬ~べ~先生に言って、退治してもらって!」
「そ、それは」
「よし、すぐ行こう!」
克也が答える前に、広はそう答え教室に残っていた郷子達を見た。
「い、いいの?ぬ~べ~に知らせた方が」
「バカ!そのぬ~べ~がいないんじゃないか!
代わりに俺達が調べるしかない!
麗華、頼む!一緒に来てくれ!」
「ったく、勝手なんだから……
いいよ」
「サンキュー!」
「愛美は帰ってろ。後はお兄ちゃん達に任せて!」
愛美にそう言うと、広達は教室を出て行き、旧校舎の三階へと向かった。
現場である、流し場に着いた広達……
「あの流し場だ」
「何も居ないじゃないか……」
「奥の方に、隠れてるだけかもよ?」
「え?」
「ほら」
奥の方に耳を澄ますと、何かの呻き声が聞こえてきた。
「な、何だ?あの呻き声……」
恐る恐る、声の方へと向かうとある一室に辿り着いた。そこは『社会科資料室』と書かれた看板が架けられた教物置部屋だった。広達はソッとその部屋のドアを開けた。中には椅子に腰かけ、机に膝を着き苦しむ一つの影……広には、その人影に見覚えがあり、恐る恐るその名を呼んだ。
「ぬ~べ~?」
「お前達!?」
(妖気?まさか)
「教室に帰れ!俺に近付くな!」
「なーに言ってんだよ!散々人に心配掛けといて。
どうしたんだよ、先生!いい歳こいて、登校拒否か?麗華じゃあるまいし」
「余計なこと言うな!」
ぬ~べ~を見ながら、広は部屋の隅に在ったスイッチを押し電気を点けた。
「見るな!!」
明かりが点き、ぬ~べ~の姿が見えた。その姿は左半分が、人面祖に覆われていた。
「いやあああああ!!」
「ぬ~べ~!!」
「こ、これって……」
「除霊に失敗した……取り憑かれている」
「見りゃあ分かる」
「何とか……自力で除霊しようとしてみたんだが……
こいつは、俺の幽体に融合してしまっていてな……鬼の手を使わなければ、切り離せないんだ」
「こいつ、見た所鵺野の左半身を支配してるようだし、そのせいで鬼の手が使えなくなってる」
「麗華の……言う通りだ」
「そ、そんなぁ……」
「それじゃ、絶対に除霊できないじゃん」
「どうするのよ!ぬ~べ~!」
「ハハ……
何とか、自分の霊力で追い払うさ……何日かかるか分からんが」
「俺達に、何かできることはないのか?」
「ハハハ……じゃあ、給食を頼む。体力を付けなきゃ」
ぬ~べ~の頼み通り、広達は部屋へ残りの給食を持っていき、部屋の外で中の様子を伺った。
給食を貪るぬ~べ~……
すると手にしていた食べかけのパンを落とし、苦しみだした。
(駄目だ……右半身も侵され始めた……
神経が麻痺して、体が言う事を聞かない!!
おまけに、無理に経文で除霊しようとすると、激痛を!)
抑えようと、お経を唱えるぬ~べ~だが、体に激しい痛みが走り、床に転がり倒れた。
(本当に……今回ばかりは、お手上げだ……
フ…フフ…ミイラ取りがミイラになるか……ちきしょう……参ったぜ)
弱り切った目で、ぬ~べ~はまるで助けを求めるかのようにして、部屋を除く広達の後ろにいる麗華を見た。麗華は目を逸らし、そっぽを向いた。
校庭で、遊具に腰掛ける広達……
「ぬ~べ~……もしかしたら、助からないんじゃ……」
「そ、そうよ。
ねぇ、あの顔絶望してたわ。私達の前じゃ強がってたけど」
「よくもそんな酷いこと、言えたものね!!散々助けて貰っといて!!」
「あ、アタシだって、どうしていいか分からないわよ!!」
「鬼の手……鬼の手の様に、霊を切り裂くことができるものがあれば……」
「おいおい、そんなもんあるわけねぇだろ?」
ふさぎ込む広達……そんな広達を見た麗華は、ため息を吐きながら口を開いた。
「助ける方法なら、一つだけある」
「え?」
「ほ、本当?麗華」
「霊夢魚のこと覚えてる?」
「あぁ」
「その時、卵を産み付けられた焔に使った技あったでしょ。あれを使う」
「?!!」
「そ、そんなことしたら、ぬ~べ~が」
「アンタ達は死ぬ確率は高い。けど鵺野だったら、鬼の霊力があるから少しは死ぬ確率が低くなる」
「じゃあ、ぬ~べ~を」
「助けることはできる」
「そうと分かれば、さっそくぬ~べ~の所に行くぞ!」
喜びながら、先行く広達の姿を観る麗華の顔は、どこかホッとしたかのようだった。
「変わったな?麗」
「別に……気紛れで、動いてるだけ」
「あっそ」
「それより、手伝ってよ」
「了解」
再び部屋へとやってきた広達……
「お、お前等……」
「アンタが除霊出来ないんなら、私がそいつを除霊する」
「?!!
駄目だ!!危険過ぎる!!」
「そんな事、分かってるよ!!
けど、先生を助けられる方法があんなら、俺達は助けたいんだ!」
「そうよ!今まで、いつも助けて貰ってきたんだもん!!」
「今度は俺達が助ける番だぜ!」
「恩を売りっぱなしで、死のうたってそうはさせないんだから!!」
「だそうです」
「お前等……」
「ま、こっちにも色々恩はあるし。
で、どうするの?」
「……
麗華、頼む」
「了解」
「俺が、幽体離脱する……その時に」
「幽体離脱した後、雷光の雷をアンタの体内に流す。かなりの激痛が走るけど……」
「構わない」
「分かった……
雷光!」
ポーチから既に取り出していた札を投げ、雷光を出した。雷光を出した後、ポーチから一枚の紙を取り出し、指を噛み血を出した。血が出た指で麗華は持っている紙に触れた。
紙は麗華の血に反応し、煙を出しその中から薙刀が出てきて、麗華はそれを手に掴んだ。
その間に、ぬ~べ~はお経を唱え幽体離脱をした。その幽体を、雷光は麗華の指示に従い、雷を放った。
「グアアアアア!!!」
体に走る激痛に苦しみ叫ぶぬ~べ~……
麗華は、薙刀を振り上げぬ~べ~の幽体に着いた人面祖を切り落とした。切り落とした人面祖は、広達に襲い掛かろうと、突進してきたが、麗華はその攻撃を見逃すことなく、薙刀を振り払い人面祖を切り裂き倒した。
「やったぞ!」
「雷光、戻って。ご苦労さん」
幽体に放っていた雷を辞めた雷光は、紙に戻り麗華の元へと戻っていった。元の体に戻ったぬ~べ~に、広達は歓声の声を上げながら、抱き着いて行った。
「今回ばかりは、お前達の名案で助かった。ありがとう!」
「でも、この案考えたの、麗華なんだよ!」
「え?麗華が?」
前にいる麗華にぬ~べ~は目を向けた。麗華は頬を赤くし恥かしそうにして、そっぽを向いてしまった。
「(あいつ……)
麗華、ありがとう!」
「別に……気紛れでやっただけだ!」
「何照れてんのよ!麗華」
「照れてなんかない!!」
「またまたぁ!」
「けど、鬼の手がなくとも、俺達には麗華がいりゃいいかもな!」
「お!それ、言えてるかも!」
「私、気紛れで動くから。例えアンタ達が助けを求めても、助けてやんないから」
「意地悪!」
「ハハハ!
よーし、じゃあ今日は思い切って皆に」
「わあぁ!鰻でも奢ってくれるのかぁ!」
「いや……ラーメンをな」
「やっぱ、そういうところ、ぬ~べ~ね」
「っ……」
「鵺野、支払いはいつでもいいからな」
「な、何の事だ?麗華君」
「除霊代に、妖怪退治代として、二万貰うよ?」
「小学生が、商売をするんじゃない!!」
「じゃあ、千円以下でいいから」
「そういう問題じゃ~ない!!」