地獄先生と陰陽師少女 作:花札
机を並べる美樹達……掃除道具をロッカーにしまう麗華と郷子……
「ふぅ~…やっと掃除終わった」
「早く帰ろう。私見たいテレビがあるの!」
「あぁ、待ってよ!美樹!」
先に歩き出した美樹を、広達は慌てて追いかけて行き、その後を郷子と麗華が続いた。
下駄箱へ着き、靴を履きかえようとした時、学校の中へ無数の野良猫達が入ってきた。
「な、何だ?!」
「ちょ、ちょっと郷子!こ、この猫達って」
「あ、朝の猫達?!」
「おい、見ろよ!」
広が指差す方向に、あの灰色の毛の化け猫が立っていた。
「うわぁああああ!!」
「焔!!」
麗華達の前に姿を現した焔は、狼の姿へとなり猫達に向かって牙を向けた。牙を向けた焔に怯えた野良猫達は、身を引き毛を逆立てながら威嚇した。
「まさか、ショウが」
「あいつに限って」
その時、化け猫の体に白衣観音経が絡み付き、動きを封じた。
「お前ら、無事か?!」
「ぬ、ぬ~べ~!!」
「ぬ~べ~!!」
「ぬ~べ~!!」
「ぬ~べ~!!」
「おのれぇ!!小賢しい人間がぁ!!」
「今のうちに、教室に戻れ!」
「分かった!」
郷子達が走り去って行くと同時に、化け猫の体に巻き付いていた白衣観音経が破かれ、前にいた麗華目掛けて、爪を立てて攻撃してきた。彼女を守ろうと、傍に立っていた焔は、口を開き火を放とうとした時だった。
一匹の黒猫が、化け猫に噛みつき攻撃した。化け猫は黒猫に手を伸ばし鷲掴みし投げ飛ばした。飛ばされた黒猫を、麗華は受け取った。
「焔、煙を吐け!!」
「了解!!」
煙を吐き、化け猫の目を晦ませた。その隙を狙い、ぬ~べ~は足が止まっていた郷子達の背中を押し後からついてくる麗華に声を掛けながら、教室へと向かった。
しばらくして、煙が無くなり化け猫は、辺りを見回しながら学校の中を彷徨い始めた。
教室へ逃げ込んだ、ぬ~べ~達……
壁下にある小さい戸から、シガンが出て行き廊下の見てその様子を焔に伝えていた。
「今のところ、安全みてぇだ」
「そうか」
「グルルルル」
喉を鳴らしながら、麗華の膝の上で眠る黒猫……体は傷だらけになっており、所々の傷口から血が出ていた。
「可哀想……」
「この黒猫、ショウなんだろ?
対した奴だよ。あの化け猫から麗華を助けるなんて」
「あぁ。
丙がいてくれたら、傷を回復させられるのに……」
心配そうな表情を浮かべながら、麗華はショウの頭を撫でた。するとショウは薄らと目を開き、自身の体に出来た傷を舐め始めた。
「ショウ……」
「あぁ、コラ!
舐めたら、余計酷くなるよ!」
「フウウウウ!!」
舐める行為を止めさせようと、郷子が手を差し延ばすと、ショウは威嚇の声を上げながら牙を向けた。
「こいつ、本当に麗華以外懐こうとしねぇな」
「ハハハ……」
「麗華」
「?」
「その猫、普通の猫じゃなさそうだな?」
「……
そうだけど」
「どういう事?ぬ~べ~」
「お前達、こいつの尻尾をよく見てみろ」
ぬ~べ~に言われ、四人はショウの尻尾を見た。その尻尾はよく見ると、三本の尾が重なっていたのだ。
「さ、さささ」
「三本?!!」
「ま、まさか、ショウって……」
「よ、妖怪?」
「ショウ、こいつ等は味方だ。
姿を見せても、大丈夫」
「……」
麗華の膝から降りたショウは、猫の姿から人の姿へと変わった。
焔と同じくらいの背に、青い着流しに萩の模様が着いた紫色の羽織を肩に羽織り、猫耳を立て黒い癖毛を生やした青年の姿へと、ショウは変わった。
「か……カッコいい!!」
「焔と同じくらいに、カッコいい!!キャー!!」
「何々?!麗華、妖怪の動物の人の姿って、皆イケメンなの?!」
「知らない」
「顔がイケメンで、そこに何気ない可愛さの猫耳が……
キャ―――!!!」
「誰か、この女共黙らせろ」
「ウォッホン!!」
ぬ~べ~の咳払いに、騒いでいた郷子と美紀は顔を赤くして黙り込んだ。
「鵺野が言った通り、こいつは妖怪。猫ショウって言うね」
「ね、猫ショウ?」
「猫又の上の猫の妖怪の事だ」
「へぇ……」
「けっ!!
こんな野郎共に、何でこの俺の姿を見せなきゃならねぇんだか」
「そう言うなって。アンタが妖怪だって、このバカ教師に見抜かれちまったんだからさ」
「誰がバカ教師だ!」
手を出そうとしたぬ~べ~の手を、ショウは容赦なく爪を立て引っ掻いた。
「あひぃ!!」
「コラ、ショウ」
「けっ!」
「全く……」
「ところで、あの猫又は何者なんだ?」
「そうそう、今朝私達を見るなり、いきなり襲いかかって」
「だとさ。
質問してるよ?ショウ」
「……」
黙り込みながら大あくびするショウに、麗華はため息を吐き手を上げながらぬ~べ~達に話し出した。
「見た通り、あれは猫又。
昔、飼い主に捨てられた哀れな雌猫」
「捨て猫?」
「そう。
ここ最近になって、妖力が高まり猫又となり、自分を捨てた女を襲い出したって訳さ」
「じゃあ、今朝私達を襲ったのって」
「紛れも無く、復讐するため」
「なるほど。女性なら誰でもいいって訳か。自分を捨てた人間と同じ性別なら……」
「じゃ、じゃあ、私と郷子と麗華は襲われるってこと?嘘ぉ!!まだ、死にたくな~い!!」
「姉御、この女童共黙らせていいか?」
「やめなさい。
うるさいのは、よ~く分かるから」
その時、麗華の肩に乗っていたシガンが、毛を逆立たせ威嚇の声を上げた。シガンに釣られるかのようにして、ショウも爪を立て攻撃態勢に入った。
「な、何?!」
「見つかったか…」
「嘘ぉ!!」
「騒ぐな!!
ショウ、アイツに勝ち目は?」
「分からねぇ……
仲間を庇って、この傷だ。今の状態じゃ、あいつ等を呼ぶこともできねぇ」
近付いて来る強力な霊力……郷子達の前に立つぬ~べ~は鬼の手を出し構え、ショウと焔は麗華を隠すようにして彼女の前に立った。
“バーン”
ドアが蹴破られ、中へ入ってくる灰色の化け猫……
「フフフ……見~つっけた」
「麗、どうする?」
「焔は指示するまで待機。もちろん鵺野も」
「だがこいつには……途轍もない、殺気が」
「いいから。
ショウ。自分の敵は自分で倒しな」
「姉御に言われずとも、そのつもりだ」
白い布を被った化け猫の姿は、人の姿へと変わった。猫耳を立て腰まで伸ばした灰色の髪に、白い麻の葉紋(アサノハモン)の柄の着物を着た女性へと姿を変えた。
(うへぇ……綺麗な女だなぁ)
「貴様は、殺したはず。
なぜ、今ここにいる!」
「うるせぇ!!
まだ、数十年しか生きてねぇ雌猫が、エラそうな口を訊くな!」
「黙れ!!
貴様に何が分かる!!あの子に……あの子に捨てられた私の気持ちが!!」
「だからって、人を襲う事ねぇだろ?!」
「襲わなければ、人間は何も分からん!!私達、猫の気持ちを……飼い猫から野良猫になった猫の気持ちを!!」
「俺だって野良猫だ!!
けど、ある男が子猫だった俺を助けてくれた。
だが、月日が流れてその男は俺が次に来た時は、もういなくなっていた。
寂しくて、寒くて、心が押し潰されそうだった……けど、その男のガキが、俺を拾い育ててくれた……
それからしばらくして、俺は妖怪猫ショウとなり、そしてガキにまたガキが出来た……けど、そのガキはあの男と同じよう俺の前から姿を消した……
俺はもう、ここに必要なくなったと思い、その地を離れた。
各地を回り、旅をしていくうちに……俺は、人が嫌いになった。薄汚い俺を見ては、石を投げつけ追い払おうとした……
地を離れてから何年か過ぎて、俺は再びその地へと帰ってきた。体中に傷を負ってな……
そのガキの住処であった森の中を彷徨ってたら、ガキに出会った。そのガキを俺は、意味もなく攻撃した。攻撃をしている間、そのガキは何も抵抗もしないし、反撃もしてこなかった。俺が攻撃を止めると、ガキは俺に近付き俺を抱き上げてくれた。
抱き上げられたガキの腕の中はどこか、初めて会ったあの男と同じ暖か味があった。
お前にもあっただろ?その暖か味が……」
「暖か味……」
何かを思い出そうとする化け猫……
「鵺野」
「?」
「あいつに、記憶を蘇らせてやれ。
復讐でしまわれている、アイツの大切な思い出を」
「あぁ」
ぬ~べ~は、化け猫の元へ吐息鬼の手を、彼女の頭の上へ乗せお経を唱えた。すると、彼女の頭から、記憶と思われる泡が次々に出てきた。
泡に映る記憶……どこかのお嬢様風の女の子に抱かれる、まだ子猫の彼女。彼女はとても幸せそうな表情で、鳴き声を上げながら女の子に擦り寄っていた。
だが、その女の子はいつの日か、自分を部屋へと入れてはくれず、やがて女の子の家族は自分を置いて、どこか遠くへ行ってしまった。
「おそらく、お前の飼い主の女の子は病気になってしまい、猫を飼えない体になったのだろう。
それを心配した女の子の両親が、お前を置いて遠くへ行ったのだろ。娘の治療のために」
「わ…私にも…あの暖か味を感じられた時が、有ったのか……」
「女童は、お前を捨てたくなかったと思うよ。
けど、親が勝手にしたことだと思う。多分、今頃は遠くでお前の幸せを願ってると思いよ。」
「……」
「見てみろよ。お前、こんなにも愛されてたんだぜ?」
「ウ……ウゥ……」
泣き出す化け猫……
記憶の泡は、化け猫の身体へと戻っていった。戻ったと共に、化け猫の体は光り、灰色の猫の姿へと戻った。ショウも彼女が戻ると自分も、猫の姿へと変え彼女により、頬を舐めた。
舐められると、雌猫は目を開け透き通った水色の目でショウを見て彼に擦り寄った。
「何か、ロマンチックぅ……」
「猫のカップルってか」
「羨ましいぃ」
「あ~りゃりゃ……あの雌猫、猫又から猫ショウになっちゃった」
麗華が見る、灰色の雌猫の尾は二本から三本へとなっていた。二匹の三本の尾は、一本一本絡み合い、二匹は顔を擦り寄らせた。
麗華の神社へとやって着た郷子達……
本殿の階段に腰掛け、ショウの手当てをする丙とその彼女の様子を観る麗華……
ショウを心配してやってきた、野良猫たちに餌を与える広達……
「はい、終わったよ」
丙の声に、ショウは起き上がり体を震えさせ麗華の膝の上へと乗り移った。ショウの元へやってきた灰色の猫も、彼女の膝の上へと乗りショウに擦り寄った。
「麗華の膝の上、猫でいっぱいね」
「ホントだぜ。どれ、灰色の猫俺に」
「フウウウウ!!」
「うわっ!」
「猫ショウって、麗華にしか懐かないのかしら?」
「知らない……なぁ」
二匹の猫を撫でながら、麗華は笑い掛けた。
「なぁ、麗華」
「?」
「ショウが言ってたガキって、誰の事か知ってるか?」
「え……そ、それは」
「そりゃあ、麗華だ」
着流しを着ながら、龍二は言った。
「兄貴」
「お前等、帰んなくていいのか?もう暗いぜ?」
「大丈夫です。親には友達の家で夕飯ごちそうになるって言っといたので!」
「あのねぇ……」
「それよりお兄さん、話の続き続き!」
「こいつがまだ、小学校上がる前の話さ。
昼間森に遊びに行ったきり、夜になっても戻って来なくてな……心配して、俺とお袋、丙達と一緒に探しに行こうと、表へ出たんだ。
だけど表へ出ると、猫に引っ掻かれた傷を体中に作って、猫を抱いて麗華は帰ってきたんだ」
「へぇ……」
「ま、その後母さんに、こっ酷く怒られたけどな」
「アハハハ……」
「それより麗華、飯だ。
お前達の分もあるぞ」
「本当?!」
「やったぁ!!」
「猫達の餌やり終わったら、さっさと家に入れよ?」
「はーい」
先にも家へ戻る龍二の後を、郷子達は嬉しそうな声を上げながらついて行った。そんな彼等を見ながら、麗華は膝の上にいる灰色の猫を撫でながら言った。
「あいつらは、良い奴等だな……」
「ミャーン」
「なぁ、瞬火(マタタビ)」
「ミャーン」
その名前が気に入ったのか、瞬火は嬉しそうな鳴き声を上げた。