地獄先生と陰陽師少女 作:花札
周りには彼女を囲う様にして、歩く猫達……
角を曲がると、暗い道に佇む一つの影……その暗闇に光る目は、彼女を襲いかかった。
「キャァアアア!!」
「猫の仕業?」
帰路を歩く郷子達……
今朝方、女性が体中に斬られた傷を負いながら、交番へ駈け込んでいったのだと……
女性が言うには、化け猫に襲われたと言うのだ。
「そうなのよ!
その女性が言うには、巨大な猫が二足方向で、立ってたんだって!しかも、普通の猫たちを従わせてるらしいよ!」
「何か、嘘くさぁ」
「本当なんだってば!!
丁度、現場近くよ!行きましょ!!」
「ちょっと、美樹!」
先行く美樹に呆れながら、郷子達は仕方なく彼女について行った。
現場へ着いた美樹達……
現場は、襲われた女性の血であろう跡が残っており、所々に猫の毛が残っていた。
「うわぁ……酷ぇなこれ」
「本当ね…」
すると、現場に置かれている段ボールから飛び出てきた一匹の黒猫……突然現れた黒猫に、驚いた郷子達は叫びながら互いに抱き合った。
しばらくして、現れた黒猫を見て、郷子達はホッとした。
「何だぁ、ただの猫じゃない」
「黒猫だなぁ。こいつ」
「見りゃあ分かるよ。
ほら、おいでおいで」
手を差し延ばす広……黒猫は広の伸ばしてきた手を警戒し、唸り声を上げながら、毛を逆立たせた。
「げ、こいつスゲェ警戒してるぞ?」
「広の事、嫌いなんじゃないか?」
「じゃあ克也はどうなんだよ!」
「俺か?俺は懐かれてるだろ!」
得意気に話す克也は、広に代わって手を差し伸べたが、黒猫は広と同様毛を逆立たせた。
「ありゃ?」
「何だよ、オメェだって一緒じゃないか!」
「う、うるせぇ!」
二人の隙を狙って、黒猫は走り出し塀へと昇り、郷子達を見下ろした。
「エラそうな奴だなぁ、こいつ」
「ニャーン」
「今日は家に来るのか?」
「へ?」
「ニャーン」
麗華の質問に答えるかのように鳴き声を発すると、どこかへ行ってしまった。
「あの黒猫、麗華が飼ってんの?」
「違うよ。
あいつ、時々家に仲間連れてきて、餌貰いに来るんだ」
「何だ?餌付けしてんのか?」
「何でそうなんのよ」
「じゃああの黒猫、名前あるの?」
「一応ね。
猫の大将だから、ショウって呼んでる」
「ショウかぁ……」
「麗華が名付ける名前って、単純だな」
「っるっさい!!」
郷子達と別れた麗華は、家の階段を上っていた。彼女に釣られてか、野良猫が次々に階段を上って行った。
登り切ると、境内に集まる無数の野良猫たち……
「随分と集まったなぁ……」
「いつも世話になるな。姉御」
いつの間にか隣に立つ、猫耳を立て黒い髪を生やした青年……
「ショウ」
麗華は隣に立つショウの頭を撫で、家の中へ入り着替え境内に集まる、猫達の元へ餌の乗った皿を置いた。猫達は一斉に食いついた。
「相変らず、私達以外の人間は、好かない様だね」
「当り前だ。
あんな事されて、今頃人を好きになれっかよ」
「そう言うなって」
本殿の階段に腰掛ける麗華は、少々困った表情を浮かべながら、人間姿になっているショウの顔を覗き込んだ。ショウは顔を顰めて、口に小枝を銜えながら腕を組み舌打ちした。
「ショウ、一つ聞いて良いか?」
「?」
「人が襲われたっていう現場……あそこで何かあったのか?」
「人を食らう化け猫だ……
最近になって、この地に現れてきた」
「そう……」
「けど、あいつ元は飼い猫だ。俺と一緒で」
「助けたい?」
「助けるさ」
「はいはい」
皿に盛られた餌を食いつく猫達の中で、弾け出されたのか一匹の子猫がシガンに釣られて、麗華とショウの元へと寄ってきた。
「あ~らら、弱肉強食ってか?」
「姉御、頼む」
「は~い。
おいで、アンタには別の物食わせてやるよ」
寄ってきた子猫を抱き上げる麗華に、シガンは彼女の肩に飛び乗った。
「そういや、姉御。
その鼠、どうしたんだ?」
「鼠じゃないよ。フェレット。
ちょっとした訳で、飼い始めたんだ」
「フゥ~ン……」
「アンタも飼ってあげようか?」
「俺は自由気ままに生きるのがいいんだ!」
顔を赤くしながら、ショウは叫んだ。そんなショウを、麗華は笑いながらからかった。
翌朝……
学校に向かう麗華……彼女を追うかのようにして、黒猫姿のショウが塀を歩いていた。
「麗華ぁ!おはようぉ!」
前を歩いていた麗華に、郷子は美樹と共に挨拶しながら走り寄ってきた。
「おはようぉ!麗華!」
「よぉ、お前等」
「今日は、しっかり起きたんだね!」
「兄貴が今日朝練だって言って、無理矢理叩き起こされたんだ」
「あぁ、それで」
「ニャーン」
「?」
鳴き声を発しながら、塀に登っていたショウは麗華の肩へと飛び降りた。彼女の肩に乗っていたシガンは、場所を奪われたと思い頭の上へと移動した。
「あ!昨日の黒猫!」
「本当に懐いてるわねぇ。麗華」
「でもシガンが、何か場所盗られたみたいにしょ気てるわよ?」
「ショウ、どうした?」
「フウウウウ!!」
「?……!」
威嚇するショウを見た麗華は、ふとショウが見ている方に目を向けた。そこにいたのは、白い布を頭から被った一人の者……
「あれ?あの人、いつからあそこに?」
「さぁ……?
ねぇ、やけにこの辺り野良猫多くない?」
美樹の言葉に、三人は道に目を向けた。三人を横切る多数の野良猫達……すると白い布を被った者が、彼女達に近付いてきた。
「な、何?」
「人……許さない!!」
白い布を取り、その姿を現した。灰色の毛に身を包み人間と同様に、二本足で立ち二本の尾を持った猫……
「な、何こいつぅ!?」
「二人は早く、学校に行って鵺野に知らせろ!!
雷光!」
ポーチから出した紙を投げ、麗華は雷光を出した。出てきた雷光は、刀を抜き構えた。
「こ、この者は?!」
「説明は後。風を起こして、この二人が逃げれる道を造れ!!」
「承知!
風術風神掌!!」
風を起こし、三人を囲っていた野良猫たちを、吹き飛ばした。その隙を狙い、麗華は今だと声を出し、彼女の声を合図に美樹と郷子は無我夢中で走りだした。
「許さない……許さない!許さない!!」
「何が許さないんだ?
人間か?」
「そうだ……
私を、塵の様に捨てて行ったあの女だ!!」
「女って……私狙われてる?」
「っ……」
「麗殿……
焔、風を起こし此奴の目を晦ませる!その隙に、麗殿を!」
「了解!麗、乗れ!」
「分かった……って、ショウ?!」
肩に乗っていたショウは、飛び降り人の姿へと変わった。ショウが降りると、麗華の頭に乗っていたシガンは、降り肩へと移動した。
「し、ショウ?」
「こいつの相手は、この俺だ。
姉御、早く逃げてください。
ニャ――――ゴ!!」
天に向かって呼び叫ぶショウ……その声に町中にいた野良猫達が、集まってきた。それを見た麗華は、雷光を紙に戻し焔に飛び乗り、一目散にその場を離れて行った。
「さぁて、こっからは猫又と猫ショウの戦いだ!!」
「貴様も同じ様な境遇を送っているのに、なぜそこまでして人間の味方をする!?」
「ちょっとした出来事があったんでな!
野郎ども、掛かれ!!」
「お前達、行けぇ!!」
両側の野良猫達は一斉に襲い掛かり、ショウと猫又も野良猫と共に戦い始めた。
学校へ着いた郷子達は、すぐさまぬ~べ~に先程の事を知らせた。彼女達の話を聞いたぬ~べ~は、麗華を助けに行こうと職員室を出て行った時、丁度そこへ麗華が着き、ぬ~べ~の元に向かって走って来ていた。
「麗華!無事だったのね!」
「ちょっとした助っ人が来て、そいつに任せた」
「助っ人?」
「あぁ。(ショウ……負けるなよ)」
「麗華が無事なら良かった。
あとは俺が何とかするから、お前達は早く教室へ行け」
「うん!
麗華、行こう!」
「あぁ!」
郷子達と共に、麗華は廊下を歩き教室へと向かっていった。
「アンタは、いい教師だよ」
ぬ~べ~の元へ姿を現した焔は、独り言のように呟き姿を再び消した。