地獄先生と陰陽師少女 作:花札
案の定、麗華はその日学校へは来なかった。ぬ~べ~は風邪をひいて休んだと生徒に言い、そのまま授業を始めた。
そして、放課後……
広と郷子は、皆が帰った後、教室でぬ~べ~の話を聞いた。
「実はな、麗華の通っていた以前の学校で麗華は問題児だったそうだ。」
「問題児?」
「学校へ滅多に来なくてな、稀に来ても麗華はクラスじゃ、いじめのターゲットにされていて、来るたびにいじめにあっていて、これが原因で来なかったのかもしれないが、ハッキリした事も分からず、当時の担任も麗華にはひどく手を焼いていた」
「ちょっと待って、いじめと先生やクラスメートを信頼しない事と何が関係あるの?」
「……あるかどうかは分からぬが、転校するきっかけを作ったその日、麗華はクラスの男子全員と先生に全治一ヶ月の大怪我をさせたらしい」
「全治一ヶ月の」
「大怪我を?」
「そうだ。
原因は、クラスの女子の体操着が無くなったらしくて、そこへ麗華が来てクラスの男子が寄って集って麗華を犯人扱いしたんだ」
「そんな……」
「そんな騒動のところへ、担任が入ってきて慌てて喧嘩を止めて事情を聴いたんだ。クラスメートから。
ところが、事情を聴いて事が収まるかと思った……いや、麗華はそう思っていたんだ。
その当時、麗華の担任は麗華の事やクラスのいじめの問題を抱えて、ストレスが溜まっていてな半分鬱状態になっていたんだ。
その状態で、しかも男子たちが麗華を犯人扱いしていて、担任は男子の言い分を正しいと判断し犯人にしたんだ。証拠もないうえで……」
「ひ、酷い……」
「それに逆上して、怒りを覚えた麗華は……
騒ぎに気付いた他の先生方が麗華のクラスへ行ったら、教室は滅茶苦茶になり、隅で女子たちが怯え泣いていて、周りには傷だらけになった男子たちと先生が倒れていて、その中心に髪を乱した麗華が、息を切らして立っていたそうだ」
「麗華……」
「かわいそう……」
「その後、家族の人に連れられて、麗華はここへ引っ越してきたそうだ。
だが、まだ学校へ行ける状態じゃなかったから、転校を一年延ばしたそうだがな」
「そうだったの……」
「このことは、ほかの奴らには誰にも言うなよ」
「うん、分かった」
「絶対言わねぇよ!」
「さっ、もう帰れ」
「うん!じゃあな!先生」
「また明日!ぬ~べ~」
「あぁ!車に気を付けるんだぞ!」
「はーい!」
駆け出て行く広たちを見送ったぬ~べ~は、教室に鍵を閉め職員室へ行き仕事をし始めた。
学校を出て、商店街を歩いていた郷子と広……
ふと前を見ると、コンビニから何かを買ったのか袋を持って出てくる麗華の姿がいた。郷子と広は、電信柱に隠れた。
「あれ、麗華よね?」
「あぁ。なんでこんなところに…」
「隠れてないで、出てきたらどうだ?」
まるで郷子達が隠れているのを知っているかのような口調で、麗華は後ろを振り向き電信柱を見ながら郷子達に話しかけた。郷子は広と顔を見合わせながら、電信柱から姿を現した。
「あ、あのさ」
「以前学校で起きたこと、鵺野から聞いたんでしょ?」
「え?」
「どうして、それを」
「さぁ、どうしてでしょ?」
「……」
「で?聴いたご感想は?」
腕を組みながら、麗華は郷子達に問いかけた。郷子達は顔を見合わせ下を向いたまま、返す言葉もなかった。そんな二人に麗華は鼻で笑った。
「やっぱりね……
『麗華は、悲惨な過去がある。だから教師やクラスメートを信用できないんだ』って、思った?」
「そ、それは…」
「お前の事情なのかもしれねぇけど、何で以前の学校に行かなかったんだ?」
「……」
「もし、学校に行ってればあんな問題起きなかったんじゃねぇのか?」
「……
行かなかった理由ねぇ……
最初は行ってたよ」
「じゃあ、何で」
「嫌になったのよ。学校が」
「え?」
「昔から、喘息持ちと体が弱くてね。体育の時間はいつも見学。
そんな私を見てた女子がいつしか私を嫌い、さらに勉強ができるのを妬み今度は男子が私を嫌い、挙句の果てにはいじめが起こりじまい……
何度も先生に助けを求めたけど、先生は一向に動いてくれない。しかも、いじめの現場を目撃したにも関わらず、誰も咎めもしないし、注意もしてくれない……」
「そんな……」
「自分の身を守るには、学校へ行かないのが先決。
だから、学校へは行かなかった。
行くのは、たまにだけ。それに月に一回か二回、多くて三回……それ以外は全く行かなかった」
「それでよく、お母さんが許したわね……」
「母さんね……
何にも言わなかったな、そんなこと」
「それ、本当に母ちゃんかよ……」
「?」
「子供が普通そんなことになってたら、訳を聞くはずだ!それに学校にも押し掛けるはずだ!」
「本当の母親ならね?」
「え?」
「お母さんいないの?麗華」
「……
小学校に上がる前に死んだ。
その後は親戚の家に引き取られてね。まぁそこにいた従兄だけが唯一の味方だったかな?」
「そうだったの……
ごめん」
「……
この話はこれで終わり。
気分が向いたら、また学校へ来るから」
「待てよ!」
帰ろうとした麗華の手を、広は握り引き留めた。麗華はそんな広を睨みつけたが、広はそれに怯まず話した。
「母ちゃんが死んでんなら、俺も一緒だ!だけど俺はこうやって学校に行ってる!
お前のその行動、単なる逃げてるだけじゃねぇのか?」
「!!
フザケタこと言わないでよ!!」
広の手を振り払い、麗華はすごい剣幕で広を睨んだ。広は手を引きそんな麗華を少し怯えた目で見つめた。
「麗華……」
「アンタに何が分かるのよ!私の何が分かるのよ!
生れ付き、喘息持ちで体が弱いだけで嫌われて、挙句の果てには犯人でもないのに、クラスで起きた事は全部私のせいにされて!
あの時の事件だってそう!私を犯人にしたいが為にやったことだったのよ!」
「あの事件?」
「転校のきっかけを作った、あの体操着が紛失した事件のこと?」
「そうよ!
あの事件は、一部を除いたクラス全員で行った芝居だったのよ!」
「な、何でそんなことが分かるんだ?」
「一人だけ、私の味方をしてくれた子がいたのよ。
転校して引っ越した後、そいつから手紙が来てね、あの日のことを全部話してくれたよ」
「担任の先生や校長先生に言えばよかったじゃない!そんなひどい事するなんて……」
「無理だよ。いくら言ったって相手にされないことは痛いほど知ってるから」
「麗華……」
後ろを振り返り、麗華はその場から駆け出して去ってしまった。そんな後姿の麗華を、留めることのできなかった郷子と広は、居た堪れない気持ちでいっぱいで、しばらくその場に立っていた。