地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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「おい、輝。

こいつ、俺達が確か、封印したんじゃなかったのか?」


輝二の隣にいた狼・迦楼羅は、口を開きながら輝二の方を観た。


「そうなんだけど……

どうやら、封印が解かれちゃったみたいだね」

「呑気に言ってる場合か!!

お前のガキ共も、俺のガキ共、更には関係ない人間がボロボロにやられてんだぞ!!」

「そう怒鳴るなって…

俺だって何が起きてんのか、分からないんだからさぁ……」

「ったく……」


そんなやり取りを見ていた麗華の元に、龍二と焔が駆け寄り彼女を立ち上がらせた。


「龍二、麗華とあの人を連れて、先に建物の中へ入ってなさい」

「分かったけど……親父はどうすんだ?」

「何、こいつの目を晦ませてから、校舎に入るさ」

「……」

「早く行け」

「あ、あぁ」

「焔、渚。

オメェ等、しっかり自分の主を守れ。いいな」

「分かってるわよ!!」
「分かってるよ!!」


人の姿へとなった焔は、麗華を抱え先に校舎の中へと入った。同じく人の姿へとなった渚はぬ~べ~を引き摺り、龍二と共に中へと入っていった。


あの世からの助っ人、そして再会

皆が中へと入ったのを確認した輝二は、体を動かしながら鎌鬼の方を向いた。

 

 

鎌鬼は鎌を回しながら、口を開いた。

 

 

「おかしいな……

 

君達は確か、僕を封印したと同時に死んだじゃなかったのかい?」

 

「お前が封印した時、ちょっとした術式を組ませてもらった」

 

「術式?それは、どんなのだい?」

 

「お前が復活し、もしあの時妻のお腹にいた子供を、狙うようなことがあった時……魂だけが、この世に復活することができるようにしといたのさ」

 

「へぇ……そりゃあ凄いねぇ」

 

「お前が復活するのを願いたくはなかったが……

 

ま、成長した息子と顔を見れなかった娘が見れたことで、お前には少し感謝しているよ」

 

「そうかい……そりゃあよかった」

 

「輝!!オメェな!!敵に感謝してどうすんだ!!」

 

「正直に言ったまでさ。

 

自分の子供の成長が見れたんだぜ?父親としては嬉しいだろ」

 

「あのなぁ……時と場合を」

「迦楼羅だって、嬉しいんじゃないのか?

 

あの時小さかった渚やまだ腹にいた焔が、立派に育った姿を見てさ」

 

「ま、まぁ……お前の言い分は一理あるけど……」

 

「素直じゃないんだから」

 

「オメェに言われたくない」

 

「楽しい話をしているところ、悪いんだけど……

 

君達二人には、今ここでいなくなってもらうよ?」

 

 

輝二に向かって、鎌を振り下ろす鎌鬼……

 

その鎌を、輝二は手に持っていた槍で振り払い、その隙を狙い迦楼羅は火を放った。火にあたった鎌鬼は、顔を押えながら地面に倒れ体に点いた火を消そうと、転がった。その隙を狙い、迦楼羅は人の姿へと変わり輝二と共に校舎の中へと入っていった。

 

 

 

 

校舎の中へと入った二人は、明かりが点いていた保健室へと入った。中では、怪我をしたぬ~べ~を手当てする郷子達、龍二と麗華を手当てする雛菊と丙がいた。

 

 

「な、何故輝が?!!あ、あの時死んだんじゃ……」

 

 

輝二の姿に驚く丙に対し、龍二はまだ手当も終わっていないのにも関わらず、立ち上がり見た。彼は雛菊に手当てをしてもらっている、麗華のもとへと行き顔を見つめた。

 

しばらく見つめると、輝二は鼻で笑うと麗華の頭を雑に撫で、龍二の方を見た。

 

 

「説明しろ、親父。どういう事だ?

 

状況がさっぱり分からん」

 

「ざっくり、説明するとだな。

 

十年前、お前と一緒に鎌鬼を神木に封印しただろ?」

 

「あぁ」

 

「その時、もし鎌鬼が何だかの原因で封印が解かれ麗華を殺そうとした時……

 

俺と迦楼羅の魂が復活できるようにしといたんだ。

 

 

けど、まさか本当に鎌鬼が復活し、麗華を殺しにいくとは思いもしなかったけどね……」

 

 

龍二と話す輝二を見ながら、郷子達は麗華の傍へとより小声で質問した。

 

 

「ねぇねぇ、あれが麗華のお父さんなの?」

 

「一応……そうらしい(何であん時、『父さん』なんて呼んだんだろ……会ったことないはずなのに)」

 

「何か、若干麗華に似てるね」

 

「どこが……つか、私に似てるんじゃなくて、私が似てるんでしょ?」

 

「そうそう!」

 

「娘のピンチに駆け付けて来るとは……

 

いい父親じゃない!」

 

「はいはい……」

 

「何、照れてんのよ!」

 

「て、照れてなんてない!!

 

変なこと言うな!!」

 

「またまたぁ!顔真っ赤だよ?」

 

 

郷子達と騒ぐ麗華を見る輝二……そんな彼に、ぬ~べ~は寄り話し掛けた。話し掛けてきたぬ~べ~を不思議そうに見ながら、輝二は龍二に質問した。

 

 

「龍二、この人誰だ」

 

「鵺野…何だっけ?」

 

「っ……

 

鵺野鳴介。麗華の担任です」

 

「担任でしたか。

 

ではこちらも改めて。

 

 

神崎輝二。もと警視庁の警部を勤めさせてもらっており、山桜神社の先代の神主、そして龍二と麗華の父親です」

 

「話は全て、龍二君から聞いています」

 

「何だ、お前が自分達の事を話すとはな」

 

「ストーカーみてぇに、しつこかったから話してやったんだ」

 

(ンの野郎……)

 

「ハハハ……」

 

 

苦笑いする輝二……

 

 

 

「楽しく話しているところ悪いが、時間がねぇぞ」

 

 

皆が話しているところへ、迦楼羅は輝二に寄りながら全員に聞こえるように言った。その言葉に不安に思ったのか、郷子達の顔が少し暗くなってしまった。

 

 

「ちょっと、迦楼羅。

 

空気読もう」

 

「オメェが呑気過ぎんだろ!!

 

少しは、自分の立場を考えろ!!」

 

「そう怒鳴らなくても」

 

「輝!!」

 

「分かった分かった。

 

コイツ等に説明すればいいんだろ?説明すれば」

 

「何だよ説明って。

 

何か作でもあんのか?」

 

「一応ね。

 

龍二、弓の札は持ってきたか?」

 

「あぁ、麗華が持ってる」

 

「そうか……」

 

「何なの?一体」

 

「サクッと言っちゃうけど、鎌鬼は封印しない」

 

「え?!」

 

「代わりに、鎌鬼の魂事この世から消す」

 

「消すって……そんなことできるのか?」

 

「麗華が持っている弓と矢……矢には、魂を消す役目があるんだ」

 

「待って……兄貴、さっきこれで鎌鬼を……」

 

「あ……」

 

「と言っても、その矢に書かれている文字がちゃんと発動するのは、ある行いをしなきゃならない。しなきゃ、ただの矢だ」

 

「行い?」

 

「まず、三人で結界を張りそこに鎌鬼を誘き寄せる。

 

この学校には、運よく結界が張っているから、おそらく鎌鬼は学校から出ずにこの校舎に入って、麗華を捜しているだろうね」

 

「じ、じゃあ鎌鬼は」

 

「この校舎に」

 

「てことは、いずれこの保健室にも」

 

「大丈夫だ。

 

この保健室だけは、鎌鬼の目だけに俺らが映らない様に結界が張っている」

 

「何だぁ」

 

「安心したぁ」

 

「話の続きをするよ。

 

結界を張り、鎌鬼の動きを封じたところで……麗華、お前が矢を放つんだ」

 

「私が」

 

「そうだ。

 

俺と龍二、鵺野先生で結界を張る。

 

 

龍二、今ここにいる丙を除く式神は皆、お前達の式神か?」

 

 

保健室にいた雛菊と丙、氷鸞と雷光を見ながら、輝二は龍二に質問した。

 

 

「あぁ。

 

 

赤い髪を生やした奴と、水色の髪を生やした奴は、麗華の式。

 

そんで、あの茶色い髪を簪でまとめたのが、俺の式だ」

 

「そうか……(そこまで、成長したのか)」

 

「なぁ、龍二」

 

 

肩を叩き、ぬ~べ~は輝二に聞こえぬ様にして、龍二の耳元で小さい声で話しかけた。

 

 

「丙は、お前の親父さんの式神なのか?」

 

「あぁ。

 

俺がガキの頃に、捕まえてきた妖怪だ。ある村で、村人がいつも森に入ると、必ず迷わせて困らせてたっていうんで、親父が引き取って式にしたんだ」

 

「へぇ……」

 

「けど亡くなった後は、森へ返そうにも何か可哀想になっちまって、俺が引き取ったんだ」

 

「そうだったのか」

 

「話を続けるが、いいか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「結界を張っている間、お前達に是非とも手伝って欲しいんだ」

 

「手伝い?」

 

「何でもやるぜ!麗華の為なら」

 

「どうも。

 

氷鸞と雷光と共に、この校舎の中で鎌鬼と鬼ごっこをしててほしいんだ」

 

「鬼ごっこ?」

 

 

郷子達を見ながら、輝二は皆に頼んできた。その話を聞いたぬ~べ~はすぐに輝二のもとへ行き抗議した。

 

 

「待ってください!

 

こいつ等は、俺の生徒です!いくらなんでも、危険過ぎます!」

 

「まぁ、先生。

 

話を最後まで聞いてください」

 

「……」

 

 

どこか得意げな顔で、輝二はぬ~べ~を見ながら言った。ぬ~べ~は何か言い返そうとしたが、それを飲み込み言うのを止めた。

 

 

「さて、話の続きだ。

 

 

二手に分かれてもらい、鎌鬼を少しの間、校庭から遠ざけてほしい。準備が出来たら、迦楼羅達が知らせてくれる。

 

 

できるか?」

 

「はい!」

「はい!」

「はい!」

「はい!」

 

「よし!いい返事だ」

 

「その作戦、本当に上手くいくんですか?」

 

「今の鎌鬼は、霊力が無くなりかけている。そんなところに、魂を持った生身の人間が出てきてみなさい。忽ち食いつく」

 

「確かに、そうだが」

 

「いくらなんでも、危険すぎじゃ……氷鸞や雷光にだって限界はある!」

 

「だから、四人にはこのミサンガを着けてもらう。

 

さっき、龍二と丙に作ってもらったお守りだ」

 

(おかげで、手がぼろぼろだ)

 

 

四つのミサンガを、輝二は郷子達に手渡した。その間麗華は氷鸞と雷光のもとへと駆け寄った。

 

 

「限界はあるかもしれないけど、アンタ達しっかり稲葉達を守り抜きな」

 

「承知」

「承知」

 

「本当に大丈夫かぁ?」

 

「某達は、麗殿の式ですぞ!」

 

「雷光の言う通り。我々は麗様に一生お守り続けると、契約したではありませんか!」

 

「そうだけど……」

 

「大丈夫だ、麗。

 

雷光はともかく、氷鸞はこの俺がいる限り死なねぇだろ?」

 

「フン…麗様を残して、あの世になど行けるか。

 

このバカ犬に、任せるとなればどれだけ心配か……」

 

「んだと!!」

 

「やめろ!!ここで喧嘩は!」

 

 

麗華に止められた二人は、身を引きそっぽを向いた。そんな二人に、麗華は飽きれてため息を吐いた。

 

 

「それじゃ、さっそく作戦開始と行こうか?」

 

「はい!」

「はい!」

「はい!」

「はい!」

 

「先生は、先に校庭へ出ていてください」

 

「分かりました」

 

「雛菊、お前ついて行ってやれ」

 

「えぇ!こ、この変態にか」

 

「誰が変態だ!!」

 

「いいから、早くついてけ」

 

「ウゥ……行くぞ、変態」

 

「変体言うな!」

 

「アハハハは!ぬ~べ~らしいや」

 

「広!」

 

「いいじゃない!いつも律子先生の事、エロそうな目で見てるじゃない!」

 

「お、俺はそんな目で」

 

 

騒ぎながら保健室を出ていく郷子達を、麗華達は静かに見送った。




保健室に残った、麗華と焔、龍二と渚、丙、そして輝二と迦楼羅……

郷子達がいなくなったと同時に、丙は輝二に抱き着いた。


「何故だ……なぜ、あの時童も一緒に行かせてくれなかったんだ!?輝二!!」

「お前には、幼い龍二やまだ優華のお腹の中にいた麗華を守っていってほしかったんだ……」

「だからって……」

「お前には辛い思いをさせたと思う……もちろん、龍二にもだ」


麗華の隣に立っていた彼を見て、抱き着いていた丙を放した。そして輝二は龍二の前に立ち彼の頭に手を置き撫でた。


「デカくなったな、龍二……

最期に会った時は、まだあんなに小さかったのにな」

「……」

「お前に全部を任せて済まなかったな」

「……」


下を向く龍二の目から、ポタポタと涙が出てきた。そんな彼を見た輝二は、何か言おうとした時、自分の腹部を軽く何かにぶつかった感覚があり、気になり下を見た。震える拳で、自分の腹を着く龍二の握られた拳……


「……バカ親父」

「……

済まなかった……」


腕で涙を拭きながら、龍二は顔を上げ輝二に向かって笑った。そんな彼の頭を撫でる様にして下ろすと、隣にいた麗華の方を向き、屈み彼女と目線を合わせた。


「……」

「……

やっぱ、俺に似てるな。」

「っ……」

「麗華、だったな」

「……う、うん」

「ごめんな。

お前が生まれてくる前に、死んじまって……」

「……


!」


黙り込む麗華を、輝二は静かに抱き締めた。麗華はずっと溜めこんでいたものを、吐き出すかのようにして震えながら輝二に抱き返し、涙を流しながら言った。


「会いたかった……ずっと……ずっと……


父さんに」

「俺もだ……生まれてくるお前をどうしても、守ってやりたくて……」

「父さん……父さん!」

「麗華!」


抱き合う二人……すると輝二は麗華を抱きながら、傍にいた龍二を抱き寄せた。龍二は止めたはずの涙をまた流し、輝二の服を掴みながら泣き崩れた。




そんな光景を見る、焔と渚……


「麗のあんな顔……初めて見た」

「アンタも、あんな顔になるんじゃないの?」

「は?どういう意味だよ、姉…!」


後ろから、自分の頭に手を置き雑に撫でる迦楼羅……


「父上!」


迦楼羅の姿を見た渚は、彼に飛び付いた。迦楼羅は飛び付いてきた彼女を受け止め、頭を撫でてやると焔を抱き寄せながら、頭を撫でた。すると焔の目から、自然と涙が流れ出てきて、焔はその涙を止めようと、腕で拭くが一向に止まらなかった。


「大きくなったな、焔……」

「?!」

「その赤い目は、俺譲りだな」

「……」


迦楼羅の言葉を聞くと、焔の目から出ていた涙は、さらに勢いを増し、焔は拭くのを止め代わりに、迦楼羅に抱き着いた。




そんな家族の光景を、丙は涙を流しながらしばらく眺めた。

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