地獄先生と陰陽師少女 作:花札
校舎の上に立つ棒の先に鎌鬼は鎌を持って立っていた。彼は二人の気配に気付いたかのように、ゆっくりと振り向き、微笑んだ。
渚と焔から降りた龍二と麗華は、懐から一枚の紙を取り出し、自分達の血をそれぞれの紙に触れさせ薙刀と剣を取り出した。
「?
君達は、僕を倒そうとしているのかい?」
「これ以上、人を殺されちゃ困るんでね」
「アンタに殺られる前に、私がアンタを殺る」
「無意味な反抗だね……
でもいいよ。付き合ってあげる。」
目の色を変え、鎌鬼は棒の上から飛び降り、二人に向かって笑みを向けた。
「さぁ、始めよう……
この地が、君達二人の墓場となる」
“ドーン”
雷の合図と共に、二人は鎌鬼に薙刀と剣を振りがざし、同時に鎌鬼も二人に鎌を振りかざした。
黒い雲が広がる午後……
「凄かったよなぁ、今朝の学校」
学校へ行った広達だったが、校舎の屋上が滅茶苦茶になっており、学校は急遽休みとなった。休みになった広達は、学校へ忘れ物を取りに行こうと通学路を歩きながら、今朝の校舎の様子を話し合っていた。
「滅茶苦茶だったもんねぇ」
「誰がやったんだろうな?」
「そりゃあきっと、妖怪の仕業だぜ!」
「はいはい、いつものパターンね」
「全く、何で学校に忘れ物なんかするのよ!広は!」
「仕方ねぇだろ?持ち帰るの忘れてたんだから」
「あのねぇ!!」
「まぁまぁ!広が忘れ物してくれてたおかげで、今は立ち入り禁止の学校に忍び込めるんだから!良いじゃない!!」
喜ぶ美樹に、郷子は深くため息をついた。
“ガラガラ……ガラガラ”
アスファルトに何かを引きずる音が、後ろから聞こえてきた。
「?何の音だ」
気になり、広は後ろを振り返った。そこにいたのは、鎌を引き摺り傷だらけになった箇所を抑える、鎌鬼の姿だった。
「?!!」
「さ……殺…人鬼……」
広達に気付いたのか、鎌鬼はスっと顔を上げ彼らを観ると捜し物を見つけたかのような、微笑を向けた。
「やぁ…」
「ひっ…」
「君達は、麗華の友達かい?
なら嬉しいなぁ……
丁度、力を取り戻したかったところだったからね!!」
叫ぶと共に、鎌鬼は広達に鎌を振りかざしてきた。恐怖で動けなかった広達は、殺されると思い強く目を閉じた。
“キーン”
鉄と鉄がぶつかり合う音が響き、その音に郷子は恐る恐る目を開けた。
「龍二さん!!」
振り下ろしてきた鎌を剣で防ぐ龍二……
ズタズタに斬られた狩衣に破れた袖から見える傷だらけの腕……
「渚!!早くこいつ等を、学校の方へ!!」
「承知!!」
いつの間にかいた傷だらけになっていた狼姿の渚は、広達の返事も聞かず自分の背に乗せ、学校の方へと飛び立っていった。
「ようやく見つけたぜ。鎌鬼」
「鬼ごっこも、ここまでかな?」
「戦っている最中に逃げ出すとは、いい度胸じゃん……」
後ろから聞こえる声……
薙刀を手に持つ麗華の姿……
身に纏う水干は、左半分が破かれ見える肌には、痛々しい傷が幾つもあった。
「お揃いかい?」
「そうだね……
アンタを追いかけるだけで、どれだけ体力使ったか……」
「でも、君達には確か、致命傷を与えたはずだけど?」
「悪いなぁ。こっちには、回復担当の式神がいるもんでな」
「あぁ、なるほど。
そいつに、回復させて貰ったって訳か……」
「そういうこと」
二人は懐から札を取り出し、鎌鬼に投げつけた。札は稲妻を放ち鎌鬼を動けなくした。
「おや?動けなくなっちゃった……」
「アンタは、ここで」
「消えてもらう!麗華!!」
「承知済み!!」
印を結ぶ二人……二人の立つ場所から、地面から陣が光を放ちながら浮き出てきた。強力なのか、稲妻を放ち風を起こしながら、その陣は浮き出てきた。
(何だ?一体……)
「臨」
「兵」
「闘」
「者」
「皆」
二人が放つ言葉に、札から出ていた稲妻は徐々にその力を増し、鎌鬼を封じ込めようとしていた。二人の動かす口を交互に観た鎌鬼は、微笑みそして……
「君達は、僕の本当の力を知らないみたいだね……」
「?」
その言葉と共に、鎌鬼は札から出てきていた稲妻を振り解いた。解かれた光景を観た二人は驚きを隠せないでいた。驚いている二人を、鎌鬼は鎌を振り回した。
その瞬間、駆け付けた焔が素早く二人を背に乗せ、その場から逃げ出した。
そんな逃げ行く焔を観る鎌鬼……その目は、玩具で遊ぶ子供のように無邪気な光を放っていた。
その頃、学校へ逃げついていた広達……学校にいたぬ~べ~は彼等を校舎の中へと入れた。
しばらくした後、焔が傷だらけになった二人を乗せ、学校へ着いた。ぬ~べ~はすぐに二人を校舎へ入れ、保健室へと連れて行った。
二人を治療する、丙と雛菊……
「全く……
無茶ばかりしやがって」
「説教は、後にしてくれない?
こっちは死にかけなんだから……痛っ!」
「す、済まぬ!麗」
「学校の屋上を滅茶苦茶にして、挙句の果てにはそんな傷だらけになるまで、あの鎌鬼に戦っていたとはな…一言、俺に声をかけてさえくれれば、手伝ってやったのに」
「余計なことすんな。
これは俺達の問題だ。他人のアンタに口出す権利はねぇんだよ!」
「っ……」
「でも、学校で戦っていたなら、どうして鎌鬼はあんな所にいたの?」
「隙を狙って、アイツに結界を張って、封じ込めようとした……けど、動きを封じ込めようとした時、結界を破ってその場を逃げだしちゃって……」
「二手に分かれて、アイツを捜してたら……お前等がいたってわけさ」
「そういう事だったの……」
「これからどうするつもりだ?
また、再挑戦するのか?」
「そのつもりだ。
奴をこの学校に誘き出して、学校全体に結界を張る。そこで決着を付ける」
「なら、俺達も」
「命の保証、できないよ」
「?!」
「麗華を殺すまでは、奴はどんな事をするか分からねぇ。下手したら、お前等を殺して霊力を戻す、餌食になる可能性は高い」
「それでもいい!!」
「!?」
「友達が命の危機なのに、ただ指銜えて大人しくしてろ何てできるかよ!!」
「広の言う通りよ!!
麗華、手伝わせてよ!!私達、麗華の力になりたいの!!麗華を救いたいの!!」
「ま、麗華には貸があるし、私はそのお返しよ」
「お、俺だって、手伝うさ!!麗華は俺達、ぬ~べ~クラスの一員なんだからさ」
「麗華、お前にはこんなにもお前を助けたいという、仲間がいるんだぞ。
その仲間に、少しは甘えてはどうだ?」
呆気に取られていた麗華に、龍二は彼女の頭に手を乗せ雑に撫でた。麗華は撫でてきた彼の手の上に手を乗せながら振り向いた。
「ここは、いいところ見てぇだな。麗華」
「……」
記憶に蘇る、ぬ~べ~達と過ごした日々……
最初は嫌だった麗華だったが、次第にその気持ちは無くなり替わりに、無くてはならない感情へとなり、いつしか麗華にとって居心地のいい場所になっていた。
顔を下へ向かせた麗華は、深く息を吐くと顔を上げぬ~べ~達を見つめた。
「結界を張る。張る前にやらなきゃいけないことがある。
それを、手伝って」
そんな二人を見る焔と渚……
焔はどこか安心げな表情で、麗華を見ていた。
「安心してるの?焔」
「当り前だ。
こんな光景、以前の学校じゃありえなかった……
仲間か……」
焔の記憶に蘇る、幼い頃の麗華の姿……
いつも家に帰りたいと泣き喚ていた……いつしか、その顔から笑顔は無くなり無口になり、周りにいた人と係わろうとせず、当時そこにいた妖怪達としか話さなくなってしまった。
だが、今の麗華には、人間の友がしっかりいることを、焔の目には映っていた。