地獄先生と陰陽師少女 作:花札
二人は龍二達と渚達の父親だと、龍二はぬ~べ~に教えた。
龍二は予め用意しておいた、一枚の写真を出しぬ~べ~に見せた。それは麗華と同じ髪を生やし、スーツを着た男性とその後ろで、黒い忍服を着、白い髪を生やした男が写っている写真だった。
「これは……」
「スーツ姿の男が、俺達の親父神崎輝二。
親父の後ろにいるのが、渚達の親父、迦楼羅だ。
十年前だったよ……
アンタは覚えてるだろ?童森町で起きた通り魔事件」
「あぁ……」
「親父はその事件を担当していた警部だった。
犯人が、人間ではなく妖怪だってことに気付いた親父は、迦楼羅と一緒にその犯人を捜し回っていた。
そして、あの日……
親父はアイツと戦った。迦楼羅と式神、自分の武器を使って……
そして、アイツを神木に封印したと共に、親父は死んだ……」
「何故、そこまで知っている」
「……俺も、あの日その現場にいたからさ……
親父を助けたいがために、そこへ行き渚と剣を使ってな…けど、全く歯が立たなかった……
親父は俺を庇い、致命傷を負いながらアイツを封印し、死んだ……
その数時間後だった……
お袋が麗華を産んだのが」
「……」
「けど、昨日焔から話を聞いて、気になって封印されている神木に行ったんだ。
そしたら、雷に打たれて見事に真っ二つに割れて、木を閉めていた注連縄も切れていた」
「封印が解かれ、今の状況ってことか……」
「そういう事だ。
アイツがまだ十年前の続きをしているのであれば、おそらく麗華を狙ってくるだろうな……いや、もう襲われたか」
「待て……何で麗華何だ?その続きが」
「アイツは自分でターゲットを決め、そいつを殺すまで他の奴は殺さない妖怪だった。
十年前、アイツは親父の前で言ったんだ。『次殺すのは、生まれてくる君の子供だ』ってね。
今殺している人達は、たぶんアイツの霊力を戻すための生贄の様なもの……」
「それじゃあ、もし霊力を完全に戻したら」
「麗華を殺しに来るだろうね」
「……」
「これで満足したか?」
「あ、あぁ……」
「じゃあもう、帰ってくれ……」
「……」
「俺が正気の内に、さっさと帰れ!!」
「!!」
突然怒鳴り出した龍二に驚いたぬ~べ~は、慌てて家を出て行った。
出て行った後、頭を抱え息を吐く龍二……
(何苛立ってんだ……俺)
思い出す、あの日の出来事……
血塗れになった父・輝二を前にまだ幼かった龍二は、倒れている輝二の体に出来た傷口を抑え、必死になって血を止めていた。
『父さん!!父さん!!
駄目だよ!!死んじゃ!!』
『龍二……父さん、もう無理みたいだ……』
『そんな事無い!!すぐに、父さんの仲間が来るよ!だから…だから!』
涙目で必死に言う龍二……輝二はそんな彼の頭に、手を乗せ笑みを溢し言った。
『龍二……これからは、お前が母さんと生まれてくる赤ん坊を、守っていってくれ……
父さん……お前達とは一緒にいられないんだ……』
『そんなの嘘だ!!
父さんは、生きられるよ!!だから……』
『ごめんな……
お前達と一緒にいられなくて……』
その言葉を最期に、輝二は力なく龍二の頭から手を落とし、開いていた目をゆっくりと閉じ息を引き取った。彼と共に、傍で倒れていた狼姿の迦楼羅も、後を追うかのようにして、息を引き取った。
「兄貴?」
その声に、ハッと顔を上げ声の方へ振り向くと、そこには心配そうな表情で、自分を見つめる麗華の姿があった。
「兄貴、大丈夫?」
「あ…あぁ、大丈夫だ。
ちょっと、考えことしてたんだ。それより、お前大丈夫なのか?起きて」
「もう大丈夫。
それより、焔は?」
「渚と一緒だ。今はもう痛みが引いて、ぐっすり寝ている」
「なら……いいけど…」
「大丈夫だ。そんな心配しなくても」
心配する麗華の頭を龍二は雑に撫でた。麗華は雑にされた髪を整えながら、自分に目線を合わせるかのようにして屈んできた龍二の顔を見た。
「何なら、今日四人で寝るか?」
「……いい」
頬を赤くしながら、麗華は断った。
「じゃあもう終わりだ。
飯作ってあるから、食え。腹減っただろ?」
「別に減ってない」
「いいから食え。
じゃねぇと、薬飲めねぇだろうが。」
言いながら、龍二は麗華の背中を押し客間を出て行き居間へと向かった。
眠る焔を眺める渚……
傷口はふさがり、血の出し過ぎからか焔は寝息を立てながら静かに眠っていた。
『俺はもう死ぬ……』
龍二と同様、思い出すあの日の出来事……
白い毛並みを血で真っ赤に染めた父を前に、渚はただただ泣き崩れていた。
『泣くな渚……』
『だって…だってぇ……』
『お前は、生まれてくる龍の妹弟(キョウダイ)とお前の妹弟を守れ……』
『うん……うん』
『お前は本当に強い子だ、渚……』
笑みを溢した迦楼羅は、静かに目を閉じ息を引き取った。
思い出した渚は、膝を抱え蹲り顔を埋め泣いた。