地獄先生と陰陽師少女 作:花札
中へ入ると、ロビーではぬ~べ~達が座っていた。
「鵺野」
「?
龍二」
彼の声に、顔を上げたぬ~べ~は立ち上がり向いた。
「何があったんだ?」
「……」
「?焔は?」
「渚と一緒に、先に家に帰した。傷が傷だったんでな……」
「……」
「……クッ!!」」
黙り込むぬ~べ~に、龍二は彼の胸元を掴み怒鳴った。
「何があったんだって、聞いてんだよクソ先公が!」
「お、お兄さん落ち着いて!!」
「ガキは黙ってろ!!」
「!!」
龍二の突然の変貌に、郷子達は怯えそれ以上止める事が出来なかった。龍二は鋭い目つきで、ぬ~べ~を睨みながら、胸元をさらに強く掴んだ。
「病院で、騒ぐな!」
その時、診察室から出てきた医者が、手に持っていたカルテで龍二の頭に軽く叩いた。龍二はぬ~べ~の胸元から手を放し、叩かれた個所を撫でながら後ろを振り返った。
「し、茂さん……」
「大声聞こえてきたから、もしやと思ったけど……
あのねぇ、兄である君がしっかりしないでどうすんの?不良みたいに大声出して脅しちゃって」
「アンタも、元不良だろうが!!」
「まぁ、そうだけど。
とりあえず、君は麗華ちゃんの所へ行きな」
「麗華……!
アイツ無事なんですか?!」
「一応、薬を投与して今は落ち着いている。
診察室で、横になって貰ってるから、早く行ってあげな」
茂と名乗る医者に背中を押された龍二は、背中を撫でながら看護師に釣られて、診察室へと入っていった。
「いやぁ、相変わらずだなぁ……龍二君」
「あの、先生。あなたは二人とはどういった」
「二人の担当医…とでも言っておこうかな。
昔からの付き合いでね、この態度なんだ。すみませんね」
「い、いえ…」
「麗華、大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。
さっきも言ったけど、薬を投与して今は落ち着いている。
あとは俺達に任せて、先生は生徒さん達を送っててあげてください」
「……分かりました。
お前達、ひとまず帰ろう」
「でも…」
「心配いらないよ。もう大丈夫だからさ」
茂の言葉に渋々頷き、郷子達は納得がいかないままぬ~べ~に連れられて、病院を出て行った。
雨が降る帰り道を歩くぬ~べ~達……
「さっきのお兄さん、何か人が変わったみたいだったな」
「うん……ちょっと、怖かった…」
「え?麗華の兄貴って、さっきと性格違うのか?」
「そっか、克也は会うの初めてだったもんな。
麗華のお兄さん、普段というかいつもは妹思いのすっげぇ優しい人なんだ」
以前観たことのある、龍二が麗華に頭を撫でる姿を思い浮かべながら、広は克也に話した。
「まだ三回しか会ったことないけど、あんなに怒ったのって初めて見たから……」
「へぇ……」
美樹と克也を家に送ったぬ~べ~は、郷子達としばらく黙った状態で歩いていた。すると郷子は歩く足を止め、ぬ~べ~を呼び止めた。
「ねぇ、ぬ~べ~」
「?」
「あの黒マントの男が言ってた事で、気になるのがあるんだけど……」
「気になる事?」
「何か……麗華と焔を見て、『輝二』、『迦楼羅』って呼んでたの」
「?!」
その名前を聞いたぬ~べ~の顔色は、見る見る内に変わった。その様子を観た郷子と広は互いを見合い、彼に声を掛けた。
「ぬ~べ~、どうしたんだ?」
「……」
「ぬ~べ~?」
「いや、そんなはずは……」
「何?何か知ってるの?」
「迦楼羅は分からんが、輝二っていう人なら知っている」
「え?」
「だ、誰なの?!」
「十年前、今と同じ事が、この童森町で起きていた」
「今と同じって、あの通り魔事件?」
「そうだ。
男女、年齢問わずにして、一日十人近くを殺して行っていた殺人鬼がいた……
だが、ある日を境にして、その殺人鬼は消えてしまった」
「ある日って?」
「七月七日だ」
「?!」
「殺人鬼がいなくなったと共に、ある警官も亡くなった。
世間は、その人が殺人鬼を殺し、その罪で自害したという風に知らされている。だが、その真実を知る者は、誰一人としていない……」
「まさか、その輝二って人が、その警官なの?」
「そうだ。
当時の新聞に、デカデカと載っていたからな。俺はよく覚えている」
「……」
「さ、行くぞ。
それから、こんなこと誰かに話さないように。分かったな」
二人に釘を刺すように言うと、ぬ~べ~は先を歩き出した。そんな彼を郷子達は慌てて追いかけて行った。
二人を家に送ったぬ~べ~は、一人になるとどこかへと向かった。
目的地へ着いたぬ~べ~……
そこは、麗華と龍二の家だった。静まり返った境内を歩きながら、奥にある家の戸を叩いた。
中から出てきたのは、着流しの上から羽織を肩に掛けた龍二だった。
「鵺野……」
「どうしても、麗華の様子が気になってな……」
「……上がりな」
背を向かせながら、龍二は奥へと入っていった。ぬ~べ~は戸を閉め中へと入り、龍二の後に続いた。
客間へと案内されたぬ~べ~……その向かいに龍二は座り口を開いた。
「麗華は今、部屋で寝ている」
「そうか……」
「で?何が聞きたい?」
まるで、自分の考えを見抜かれたかのように言われたぬ~べ~は、思わず驚いたを浮かべた。
「その顔からして、図星だな」
「……
お前達の傷(過去)に触れるようであれば、別に無理して話さなくてもいい……」
「『輝二』と『迦楼羅』」
「?!」
「焔から聞いた。
麗華と焔を見て、その男は確かにそう言ったんだろ?」
「あぁ……そうだ。
誰なんだ?その二人は」
「……
十年前に、死んだ俺達二人の父親と、焔と渚の父親だ」
ぬ~べ~が、家へやってきた頃……
暗い部屋で目を覚まし、ベットの上で蹲り勾玉を観る麗華……
あの時、突然と光り自分達を守ってくれた……
(……母さん)
勾玉を握り締め、麗華は身を縮込ませ膝に顔を埋めた。