地獄先生と陰陽師少女 作:花札
職員室にいたぬ~べ~に、先程起きたことを全て話した。ぬ~べ~は早速警察に通報し、郷子達を家まで送ることにした。
外へ出ると、雨は既に上がり黒い雲が、雷を鳴らしながら動いている様だった。
「雨、上がったのね」
「このまま、晴れてくれればいいのになぁ」
「ホントよねぇ」
「鵺野、悪いけど私は寄る所があるから、一人で帰るぞ」
「おい、今は危険じゃ」
「俺がついている。平気だ」
「し、しかしだな」
「じゃあな」
呼び止めるぬ~べ~の声を無視し、麗華は狼姿になった焔に跨り、空へと飛んで行ってしまった
「いいの?ぬ~べ~」
「たぶん大丈夫だろ。焔がいるし」
「……」
「さ、行くぞ。
お前等を安全に、自宅まで送らなきゃいけないんだからな!」
「頼りにしてるぜ!ぬ~べ~!」
どこかの学校へ着いた麗華……
校門の壁に寄りかかりながら、焔と一緒に誰かが出て来るのを待った。
待つこと三十分……
校門から出てきた龍二と渚……
「麗?それに、焔」
二人に気付いた渚は、名を呼ぶと焔の方へと近寄った。渚の声に、龍二も麗華の方へと寄った。
「どうした?麗華。
お前が、ここに来るなんて……何かあったか?」
「……」
「麗華?……!?」
突然龍二に抱き着く麗華……
龍二は驚き、抱き着いてきた彼女を見下ろした。抱き着いた麗華は次第に体を震えさせ、泣き出した。
「麗華……
焔、何があったんだ」
「それが……」
龍二は抱き着いた麗華を抱き上げ、狼姿になった渚の上に乗り、空を飛びながら焔の話を詳しく聞いた。
「その、黒マントが麗華に向かって『輝二』って呼んだのか?」
「あぁ。
それに、俺の事見て『白狼一族の子かい?』って聞いてきたんだ……」
(まさか)
「龍、もしかして」
「……」
「そいつから逃げ走ってて、そんで……」
「発作を起こしたって訳か……
こいつにとっちゃ、発作は一種のトラウマみたいなものだからな……」
「……」
「ひとまず、家に帰ろう。
麗華、恥じる事ねぇよ。お前の喘息は、生まれ持ってのものだ。仕方ねぇ」
慰めながら龍二は、麗華の頭を撫で優しく言った。彼女は何も答えず、ずっと龍二の服を掴み離れようとはしなかった。
夜になり皆が寝静まり返った頃……
外では雨が再び降り、雨の音と共に雷が鳴り響いていた。
ベットの上で、静かに眠る麗華……
ゲホゲホゲホ!
『先生!また神崎さんが咳してまーす』
『神崎さん!うるさい!』
違う……好きで出してるんじゃ
『アンタはいいよ、勉強出来んだから!』
『俺達は、できねぇんだよ!授業邪魔すんなら、早く教室から出て行けよ!!』
『出てけよ!!』
『邪魔なのよ!!』
『邪魔すんなら、もう学校に来んな!!』
好きで出してんじゃない!こんな体で、生まれたんじゃ……
『辛くなったら、すぐに言うんだよ?』
「!?」
目を覚ます麗華……
起き上り、額に掻いた汗を手で拭った。荒くなった息を整えながら、ふと床で寝ている焔の方を向いた。
静かに眠る焔……
ベットから降り眠る焔の胴に、麗華は頭を乗せ横になりそのまま眠ってしまった。その感触で焔は目を覚まし自分の胴を見た。
自分の動に頭を乗せ、寝息を立てて眠る主の姿……そんな姿が一瞬、幼い頃の姿と重なって見えた。
焔は自分の尾を彼女の上に乗せ、目を閉じそのまま眠りに入った。
翌朝……
朝食を食べながら、テレビを観る麗華……
《次のニュースです。
明け方、またしても童森町の商店街の路地裏にて、八人の遺体が見つかりました。
傷口は、先日と同様、まるで刃物の様なもので斬られた傷口になっているとのことです。
警察署では、十年前に捕まえられなかった殺人者が、再び蘇ったのかも知れないとのことです》
「十年前?」
「おーい、麗華。早く支度しねぇと、遅れっぞぉ」
制服を着ながら、龍二は座りテーブルに出されていた朝食を食べ始めた。いつの間にか朝食を食べ終えた麗華は、テレビを見ながら返した。
「それは兄貴でしょ?」
「ヒヒ!言えてる」
「笑い事じゃない」
「お前、大丈夫なのか?」
「何が?」
「昨日発作起こしたから、今日休むもんだと思ってたけど」
「別に。喘息如きで、休んでたらまたあいつ等にどやされるだけだからねぇ……
『何で来ないの?』だの、『明日は学校に来い』だのって……」
「余程居心地いいみてぇだな?」
「うるさい……
それから、昨日の事誰にも言わないでよ」
頬を赤くしながら、麗華は味噌汁を啜る龍二に行った。龍二は自慢げな顔を浮かべながら、器を下ろし答えた。
「気分が向かなきゃ、言わないようにしとくよ」
「意地悪」
「ほら、テレビ消せ。
学校行くぞ」
食器を流し台に置き、水に浸けた龍二はバックを持った麗華の背中を押しながら、家を出て行き学校へと行った。
龍二と別れ、焔と共に道を歩く麗華……
“グチャ”
「?」
肉が斬られる様な音が聞こえ、麗華はその音の方へ近付きそっと覗き見た。
そこにいたのは、昨日出会ったあの黒いマントを覆った人物……
その者はマントを頭から外し、何かを舐めている様子だった。
するとその者は、麗華の気配を感じ取ったのか、口にべっとり付いた赤黒い血を舌で舐め拭き、立ち上がり彼女の方を向きそして微笑んだ。その微笑とその物から放たれる只ならぬ殺気に、二人は固まりその場に立ち尽くしてしまった。
黒マントの者は、転がっていた死体を蹴り飛ばし一瞬のスピードで、二人の前に立つと傍にいた焔を殴り飛ばした。
「焔!!」
蹴り飛ばされた焔のもとへと駆け寄ろうとした時、その者に自分の腕を掴まれてしまい、止められてしまった。麗華は恐る恐るその者の方を振り返り、目を観た。
「!!」
赤く光る目……
黒く伸ばした髪……姿からして、元は人間であったが、死際に何かに対する強い念が今の姿へと変えてしまったのだろう……そう、麗華は思った。
麗華を見るその眼は、まるで探し物をやっと見つけた様な目をしていた。
「見つけたよ?輝二」
「え?」
「君の名は?」
「……」
「黙り込んでても、無駄だよ?
僕は、君が放つ霊気で輝二だってことが分かってんだから」
「……何で?」
「ん?」
「何で……父さんの事を?」
「……何でだろうね」
「……?」
「知りたいなら……君には……
消えてもらうよ?」
「!!」
手に持っていた鎌を振りかざす男……
「火術!!火炎玉!!」
男に向かって、火の玉を放つ焔……男は麗華から手を放し、その攻撃を避けた。焔は男が彼女から離れたのを隙に、自分の後ろへ隠し男を睨んだ。
後ろへ隠された麗華は、焔に出来ていた傷を見ながら戸惑い、彼の背を見た。
すると男は、焔の姿を観るなり、突然笑い出した。
「な、何が可笑しい!!」
「クックック……
君は、輝二と一緒にいた迦楼羅かい?」
「は?」
「何でお前が、父さんと迦楼羅の事を知ってんの?!」
「知りたければ……一緒に逝くといいよ」
「焔!避けて!!」
振り下ろしてきた鎌を、間一髪避けた焔は麗華を抱えその場から立ち去った。男は鎌を担ぎ持ち、去っていく麗華達の姿を観た。
(輝二……迦楼羅……
あれは、君達の子かい?)
路地裏で着地する焔……抱えていた麗華を下ろした。
「麗、怪我は?」
「ないよ。平気だ。
ありがとう」
「……」
「さっきの事、学校では話さないようにね」
「あ、あぁ……」
焔の返事を聞いた麗華は、裏から出ていきそこを通りかかった郷子達と共に学校へと向かった。