地獄先生と陰陽師少女 作:花札
“ゴロゴロ”
雷が鳴り響く夜……
“ピシャーン”
巨大な音を出しながら、雷は一本の木に落ちた。
雷に打たれた木は、黒く焦げ煙を上げた。その時、木の幹から何かが出てきた。
(あぁ……ようやく出られた……)
出てきた者は、立ち上がった。それと同時に、雷が近くに落ち、雷の光で、その者は照らされた。
赤く光る目……
手に持つ巨大な鎌……
(待っていろ……輝二…
必ず、殺ってやる……君の子供を……)
土砂降りの雨……
学校の玄関で、傘を畳む生徒達……
5年3組で教卓の花の水を代える郷子……
窓の外を観る広と男子達はため息をついていた。
「はぁあ……良く降るよなぁ、雨」
「ホントだぜ。
雨のせいで、全然外で遊べやしない」
「この雨じゃ、来週の七夕祭りがやれないのだ!」
「大丈夫よ!
来週には晴れるわよ!絶対」
「だといいけどよぉ……」
広達を励ます郷子……
丁度そこへ、美紀と一緒麗華が教室へ入ってきた。美紀は何やら、ずっと話をしている様子だった。
「本当なのよ!
傷口が、まるで何かで斬られた様に、パックリ開いてて」
「だから、そんな事話されても、何も分かんないって」
「でも、傷口からじゃ、妖怪の仕業ってことも」
「ないない。
てか、何でもかんでも妖怪のせいにするな。祟られるぞ!」
「うぅ……」
「二人共、何の話してるの?」
「あ、郷子!おはよう!
ねぇねぇ、今朝のニュース観た?!ニュース!」
「今朝の?」
「それって、確か昨日の夜、路地裏で四人が殺害されたっていうニュースか?」
「そうそう!
さっきね、その現場にいた奥様方から聞いたんだけど、遺体の傷口がまるで刃物で斬られたかのように、ぱっくり開いてたんだって!しかも一ヶ所だけ!」
「い、一ヶ所だけ?!」
「その傷口が、致命傷になって死んだとされてるみたいだけど。
細川の奴、それが妖怪のせいじゃないかって、さっきからうるさくてうるさくて……
ゲホゲホゲホゲホ!!」
「どうしたの?風邪?」
「違うよ。
喘息だ。今朝から酷くて」
「大丈夫なの?
今日、休んだ方が良かったんじゃ」
「別にいいよ。一応吸入器持ってきてるから、何とかなる」
「なら、いいけど……
辛くなったら、すぐに言うんだよ?」
「はいはい……」
“キ―ンコーンカーンコーン……キ―ンコーンカーンコーン”
チャイムの音と共に、教室へ入ってきたぬ~べ~……
「コラ、お前等。早く席に着け!」
その場に立っていた郷子達は、慌てて席に着いた。出席を確認したぬ~べ~は、そのまま授業を始めた。
放課後……
帰り支度を終えた生徒達は、次々に教室を出ていき帰って行った。
玄関先で、空を見上げ愚痴を溢す広……
「ったく、本当嫌な雨だぜ!」
「もう、そう言わないの!」
「来週には晴れてくれよ?でなきゃ、お祭りが中止になっちまうんだからさ!」
「お祭り?」
傘を差し広達と帰る麗華は、広の言葉を繰り返し不思議そうに彼等を見た。
「来週七夕だろ?
それで商店街で、お祭りがあんだよ!」
「毎年やってただけど、去年は途中から雨が降って中止になって、翌日。一昨年はずっと雨が降っててお祭り事態が中止」
「そりゃあ、残念な事で」
「だから、今年は何としてでも、晴れてくれねぇと!」
「テルテル坊主でも、下げとけば?」
「毎年そうしてるさ!それなのによぉ、全然晴れてくれねぇし」
「ねぇ、麗華もお祭り行かない?」
「悪いけど、七夕の日家の用事があって行けないんだ」
「え?そうなの?」
「じゃあ、学校も休むのか?」
「あぁ」
「何々?!家の用事って!」
「何でもいいだろう?つーか、アンタに話してどうすんのよ」
「良いじゃない!お友達なんだし」
「お喋りインコと友達になった覚えはないけど?」
「あ~ん、麗華の意地悪ぅ!!」
「キャァアアア!!」
突然何処からか女性の悲鳴が聞こえ来た。すると、角から出てきた血塗れになったデカイ鎌を持ち黒いマントで全身を覆った一人の人物……
その人物と、鉢合わせてしまった広達……
「ま、まさか今朝のニュースで言ってた、さ、殺人鬼?」
「う、嘘……」
「と、とにかくに」
「輝二……」
「え?」
その人物は、その名前を囁き郷子の隣にいた麗華を見つめ、近付いてきた。その瞬間、傍にいた焔は差し延ばしてきたその人物の手を掴み抑えた。手を掴まれた者は、スッと焔の方を向き、不気味に微笑み声を出した。
「あぁ……君は白狼一族の子かい?」
「?!」
「焔、そいつの手を放せ!!
お前等、走れ!!」
麗華の指示通り、焔はその者の腕から手を放し走り出した彼女の後を追い、広達と共にその場から走り出し逃げた。
道を走りどこかの公園へ辿り着き、息を整えながらその場で立ち尽くしていた。
「な、何なのよ!?あの殺人鬼!」
「あいつ、麗華の事見て『輝二』って言ってたみたいだったけど……」
「知らない……大方、誰かと見間違えたんでしょ?
けど……ゲホゲホ……焔を見て、白狼一族の事を知ってたってことは、相当なオカルトマニアか、霊媒師の可能性が高い。ゲホゲホゲホ」
「麗、あいつ人間じゃねぇ」
「え?」
「腕掴んだ時、麗みたいな肌の温か味がなかった……それどころか、とんでもねぇ妖気を感じた」
「ゲホゲホゲホ!
妖怪の可能性か出たって訳か……」
「麗華、これからどうする?このまま家に帰ろうにも、まだアイツがうろついてかもしれないし……」
「一旦学校に戻ろう。ここからそう遠くない」
「そうね……」
「学校に行けば、ぬ~べ~がいるだろうし!」
「だったら、安全ね!」
「じゃあ決まりね!
麗華」
「ゲホゲホゲホゲホゲホ!!」
膝を着き口を手で塞ぎながら、咳き込む麗華……
「ちょっと麗華、大丈夫?!」
「だ、だい……ゲホゲホゲホゲホ!!」
「麗華!」
咳き込み、その場に蹲る麗華はポケットから、携帯用吸引器を取り出し吸った。数回ほど吸うと、麗華は息を整えながら体を起こした。
「大丈夫?」
「何とかね…ハァ…ハァ…」
「とにかく、行きましょう」
「う、うん。
麗華、立てる?」
郷子の手を掴みながら、麗華は立ち上がり転がっていた傘を手に取り、皆は学校へと戻っていった。
学校へ戻る麗華達を、あの黒いマントを覆った者は、木の上からから眺めていた。
(もっと、人間供を殺し力を取り戻して……
早く輝二の子供を殺したい……)